2021年11月10日

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1. 経済動向と住宅市場

国内経済は、2021年に入り停滞が続いている。11/15に公表予定の2021年7-9月期の実質GDPは、前期比▲0.2%(前期比年率▲0.9%)と2四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される1。緊急事態宣言の長期化や半導体不足などの供給制約の影響で、民間消費と設備投資が減少した(図表-1)。

経済産業省によると、7-9 月期の鉱工業生産指数は前期比▲3.7%と5四半期ぶりの減産となった。 業種別には、自動車が前期比▲15.9%と減産幅が急拡大したほか、自動車産業の影響を受けやすい非鉄金属が前期比▲1.9%と2四半期連続の減産となった。国内需要が低迷する中でも、輸出の増加を背景に鉱工業生産は回復を続けてきたが、半導体の供給制約に伴う自動車生産の急速な落ち込みを主因として弱い動きとなっている2

ニッセイ基礎研究所は、9月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2021年度+3.1%、2022年度+2.0%を予想する(図表-2)3。実質GDP が消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019 年7-9 月期)に戻るのは2022年度末と予想するが、新型コロナウイルスに対する政策対応がこれまでと変わらなければ、経済の正常化はさらに遅れるリスクが高まる見通しである。
図表-1 鉱工業生産(前期比)/図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、価格上昇が続くなか販売状況はやや弱含んでいる。

2021年9月の新設住宅着工戸数は73,178戸(前年同月比+4.3%)と7カ月連続で増加し、7-9月累計では約22.5万戸(前年同期比+7.2%)となった(図表-3)。2019年同期比では▲3.7%となりコロナ禍前の水準を回復しつつある。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
一方で、2021年9月の首都圏のマンション新規発売戸数は2,311戸(前月同月比▲6.7%)、7-9月累計で6,203戸(前年同期比▲0.4%)と減少した(図表-4)。平均価格は6,584万円(前年同月比+13.3%)、m2単価は98.9万円(同+12.8%)となり3カ月連続で上昇、初月契約率は67.7%(前年同月比▲5.7%、前月比▲5.3%)となった。価格が上昇基調で推移するなか販売戸数は減少に転じた。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2021年9月の首都圏の中古マンション成約件数は3,176件(前年同月比▲4.6%)と3カ月連続で減少し、7-9月累計で8,793件(前年同期比▲7.8%)となった(図表-5)。平均価格は3,985万円(前年同月比+7.9%)と16ヶ月連続で上昇し、㎡単価も62.1万円(同+11.0%)と17カ月連続で上昇した。中古マンションの成約件数は、水準自体は高いものの、価格の上昇に実需が追い付かず成約件数が伸び悩むといった潮目の変化に留意したい。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
日本不動産研究所によると、2021年8月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は14カ月連続で上昇し、過去1年間の上昇率は+10.3%となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2. 地価動向

地価は回復傾向が強まるなか、一部の商業地では下落に転じた地区もみられる。国土交通省の「地価LOOKレポート(2021年第2四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「35」(前回28)、横ばいが「36」(45)、下落が「29」(27)となった。(図表-7)。同レポートでは、「住宅地ではマンション素地取得の動きが回復している地区が増加する一方で、商業地では新型コロナウイルス感染症の影響により店舗等の収益性が低下し下落している地区がある」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(10月1日時点)は前期比+1.7%(年間+5.3%上昇)となり5四半期連続でプラスとなった。「値上がり」地点の割合は40.2%(前回43.5%)、「値下がり」地点の割合は3.0%(前回0.0%)となった。堅調な住宅取得ニーズを背景に、住宅地価格は上昇基調で推移している(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向 

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2021年9月の東京都心5区の空室率は19カ月連続で上昇し6.43%(前月比+0.12%)に、平均募集賃料(月坪)は14カ月連続で下落し20,858円(前月比▲0.4%)となった。他の主要都市についても空室率は上昇基調にあるが(図表-9)、募集賃料は仙台と大阪を除いて前年比プラスを確保しており4、東京の下落率(▲8.2%)が最も大きくなっている。
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2021年第3四半期の東京都心部Aクラスビル成約賃料(月坪)は34,934円(前期比▲1.1%、前年同期比▲8.2%)、空室率は3.3%(前期比+1.4%)で2017年第2四半期以来の3%台となった。三幸エステートは、「新築ビルへ移転したテナントの二次空室が生じたことに加え、オフィス戦略の見直しに伴い生じた大口の募集床が後継テナントを確保できず、現空床となるケースがみられた」としている。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所は、東京都心部A クラスビルの賃料見通しを9月に改定した5。オフィス需要は力強さを欠き、空室率は緩やかな上昇が続く見通しである。成約賃料は、空室率の上昇を受けて下落基調で推移すると見込む。2020 年の賃料を100 とした場合、2021 年は「100」、2022年は「98」、2025 年は「92」への下落を予測する(図表-11)。
図表-11 東京都心部Aクラスビルの成約賃料見通し
 
4 2021年9月時点の募集賃料は、前年比で、札幌(+1.3%)・仙台(▲0.5%)・東京(▲8.2%)・横浜(+1.5%)・名古屋(+0.9%)・大阪・(▲1.1%)・福岡(+1.2%)となっている。
5 吉田資『「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2021 年9 月時点)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021年09月17日)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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オフィス空室率は上昇が継続。物流市場も需給がやや緩和。-不動産クォータリー・レビュー2021年第3四半期のレポート Topへ