2021年10月20日

新型コロナワクチンを「接種したくない」と思っていた人が接種を決めた理由

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種意向等についての分析としては、2021年3月に実施した同第4回調査を使って、ワクチン接種意向が高いのは高年齢者や、持病、肥満がある人のほか、同居家族のリスクへの配慮や、収束後には外出の機会が増えると予想している人であることを確認した1。一方、すぐにはワクチンの接種を希望しない理由は、4つの因子「安全性への不安」「順番待ち・様子見」「面倒」「ワクチン不要」に集約できた2。7月に実施した同第5回調査による分析では、ワクチン接種意向は高まっていたが、副反応への不安が依然として強かったことを示した3

本稿では、第5回調査4(2021年7月5~7日実施)と第6回調査5(9月22~29日実施)の両方に回答をした2,347人のうち7月時点ではワクチンをすぐには接種を希望していなかったが、9月時点では接種をしていた、あるいは接種予約をしていた人の、7月時点におけるワクチンをすぐには接種したくなかった理由、7~9月における感染不安の変化、ワクチン接種(予約)理由を紹介し、今後のワクチン接種体制で考慮すべき点について考えたい。
 
1 村松容子「新型コロナワクチンをすぐにでも 接種したい人とは?~同居家族のリスクへの配慮や収束後の行動への期待」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2021年6月15日)
2 村松容子「新型コロナワクチンをすぐには接種しない人の理由と特徴~「安全性への不安」「順番待ち・様子見」「面倒」「ワクチン不要」」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2021年6月15日)
3 村松容子「ワクチン接種意向は高まったが、副反応への不安は依然として高い~効果を認めつつも接種を躊躇している人をどう後押しするか」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2021年7月20日)
4 20~74歳男女個人を対象とするインターネット調査。2021年7月5日~7日実施。有効回答数2,582。詳細は、「第5回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」 調査結果概要をご参照ください。
5 20~74歳男女個人を対象とするインターネット調査。2021年9月22日~29日実施。有効回答数2,579。詳細は、「第6回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」 調査結果概要をご参照ください。

2――7月から9月における接種状況・意向の変化 

2――7月から9月における接種状況・意向の変化~7月に「接種希望なし」の半数は9月にも「接種希望なし」」。4割は「予約・接種済」

7月調査と9月調査の両方を回答した2,347人について、両時点におけるワクチン接種状況・意向を図表1に示す。全体でみると、7月の調査時点では「すぐにでも接種したい」または「しばらく様子を見てから接種したい」(以下、「未予約・意向あり」とする。)が45.0%と最も高く半数近くを占めていた。以下、「二回目まで接種を完了している」「  一回目の接種は終えている」「     一回目の接種予約は完了し、接種日を待っている」(以下、「予約・接種済」とする。)は37.3%、「あまり接種したくない」または「絶対に接種したくない」(以下、「接種希望なし」とする。)は17.8%だった。

それからおよそ3か月後の9月の調査時点では、「予約・接種済」が81.5%であり、「未予約・意向あり」が7.8%、「接種希望なし」が10.8%と、接種が進んでいた。「まだ予約していないが、すぐにでも接種したい」は2.8%と、予約待ちである人は大幅に減少していた。接種意向のある人はおおむね予約まで終えたと考えられそうだ。

続いて、7月の接種状況・意向別の9月時点での接種状況・意向を図表2に示す6。全体でみると、7月時点で「未予約・意向あり」の8割以上が既に予約、または接種を済ませていた。「接種希望なし」だった人の半数近くが9月時点でも「接種希望なし」だったが、36.8%が9月時点で「予約・接種済」となっていた。

図表1と図表2を年代別にみると、60歳未満と60歳以上で差が大きい。60歳未満では7月の時点で「予約・接種済」だったのは2割強、「未予約・意向あり」が過半数を占めた。7月時点の意向別に9月の接種状況・意向をみると、「接種希望なし」の4割弱が「予約・接種済」となっていた。一方、60歳以上では、7月の時点で既に7割近くが「予約・接種済」だったが、7月の時点で「接種希望なし」だった人で9月に「予約・接種済」だったのは3割程度にとどまった。60歳以上では、7月の時点で希望すれば予約はできる状況にあった自治体が多かったことから、若い世代と比べて9月までに意向が変わった人が少なかったものと考えられる。
図表1 7月と9月時点におけるワクチン接種状況・意向
図表2 7月の接種状況・意向別 9月の接種状況・意向
以下では、(1)7月の時点で既に「予約・接種済」(以下、「予約・接種済(7~9月)とする。」、(2)7月には「接種希望なし」で9月時点で「予約・接種済」(以下、「希望なし→予約・接種済」とする。)、(3)9月の時点でも「接種希望なし」(以下、「希望なし(7~9月)」を比較する。
 
6 7月時点で「予約・接種済」は図示を省略した。

3――ワクチンをすぐには接種したくない理由(7月時点)

3――ワクチンをすぐには接種したくない理由(7月時点)~「希望しない→予約・接種済」で、“様子見・順番待ち”、「希望なし(7~9月)」で“安全性への不安”“ワクチン不要”

まず、7月時点におけるワクチンをすぐには接種したくない理由について、(2)「希望なし→予約・接種済」と(3)「希望なし(7~9月)」を比較する(図表3)。(3)は「副反応が心配だから」などの安全性への不安を理由とする人が多かったほか、「自分は感染しない、または重症化しないと思うから」「基本的な感染防止対策で十分だと思うから」などのワクチン不要と考える人の割合が高かったのに対して、(2)は「まだ予約券が届いていないから」「まだ家族や友人など身近な人が接触して問題がないことが確認できていないから」といった様子見・順番待ちをしている人が多かった。

このことから、ワクチン接種意向としては、「あまり/絶対に接種したくない」と回答しているという点では同様だったが、(2)「希望なし→予約・接種済」は、(3)「希望なし(7~9月)」と比べると、ワクチン接種をまったく検討していなかったわけではなく、周囲の接種の様子を見ていた人が多かったと考えられる。
図表3 ワクチンをすぐには接種したくない理由(7月時点)

4――感染による健康への影響に関する不安

4――感染による健康への影響に関する不安~「適切な治療が受けられない」不安の有無でちがい

次に、この3か月間の新型コロナウイルス感染による健康への影響に関する不安の変化を図表4に示す。「感染による健康状態の悪化」に関して、不安と感じている(5段階評価の「非常に不安」または「やや不安」)人の割合は、7月時点で既に差があり、(2)「希望しない→予約・接種済」が55.2%、(3)「希望なし(7~9月)」が43.8%と、(2)は(3)と比べて高かった。この割合は、9月には、順に59.1%、48.1%と、いずれも4ポイント程度上昇した。国内の感染状況と見比べると、7月の調査と9月の調査の間にこれまででもっとも感染者が多かった感染の第5波があったことから、感染の不安を改めて強く感じたものと考えられる。

つづいて「感染しても適切な治療が受けられない」に関して、不安と感じている人の割合は、7月時点で(2)「希望なし→予約・接種済」が42.2%、(3)「希望なし(7~9月)」が42.8%と、(2)と(3)に差はなかった。ところが、9月には、順に57.1%、45.2%であり、(2)が15ポイント上昇したのに対し、(3)は2.4ポイントの上昇にとどまり、(2)と(3)に差ができていた。この3か月間は、自宅療養中に死亡した事例や、救急搬送ができなかった事例が多く取り上げられ、重症化しても治療が受けられない懸念が広がった。図表3のとおり、(2)は(3)と比べると、「自分は重症化しない」と考えている割合は低く、治療ができない不安が特に高まったと考えられる。
図表4 不安を感じる割合の変化(「非常に不安」または「やや不安」)

5――ワクチンを接種した理由(9月)

5――ワクチンを接種した理由(9月)~「予約・接種済(7~9月)」で自分や周囲のリスク軽減と「打つものだと思っていた」。「希望なし→予約・接種済」では家族の勧めや不利益をこうむりそう、周囲の接種状況

最後に、ワクチンを接種した理由に関して、(1)「予約・接種済(7~9月)」と(2)「希望なし→予約・接種済」を比較した(図表5)。(1)は、自分の感染リスクや重症化・死亡リスクを下げること、周囲の感染リスクを下げること、国内の感染者数を減らすこと等、ワクチンの効用に期待をした積極的な理由が多かった。続いて「打つものだと思っていた」が3割を超えて高くなっていた。これは(2)には見られない傾向だった。また、「自分が打つことによって国内の感染者が減ると思うから」は、(1)では4番目に高かったが、(2)では「周囲の人が接種しているから」「家族に勧められたから」「ワクチン接種済み証明(ワクチンパスポート)を活用した行動緩和策において、不利益をこうむりそうだから」を下回る7番目に挙げられており、(1)で高いことが特徴だった。
図表5 ワクチンを接種した(予約した)理由
一方、(2)も、自分の感染リスクや重症化・死亡リスクを下げることの選択割合が高かったが、(1)と比べると、20ポイント以上の差があった。さらに、(1)と比べると、家族に勧められたこと、周囲の人が接種していることなど、周囲の人の影響を受けたと思われる回答が多かった。「職場や学校、友人・知人」「医療機関」で勧められた割合は、(1)と(2)で大きな差はなかったことから、家族の勧めが特に影響を及ぼしたようだ。また、「ワクチン接種済み証明を活用した行動緩和策において不利益をこうむりそうであること」が高く、7月移行の感染不安や、治療を受けられない不安の高まりに加えて、接種済み証明(ワクチンパスポート)の利活用の議論が具体化する中で接種を決めた人もいたようだった。

6――おわりに

6――おわりに

以上見てきたとおり、7月時点でワクチンを「あまり接種したくない」または「絶対に接種したくない」と回答していた人のおよそ半数が9月の時点でも接種希望がなく、4割弱が9月の時点では予約、または接種を済ませており、1割強が予約は済ませていないものの接種意向をもっていた。

(2)「希望なし→予約・接種済」を(1)「予約・接種済(7~9月)」や(3)「希望なし(7~9月)」を比較すると、(2)は、(3)と比べて、7月の時点で感染による健康状態の悪化に不安を感じる割合が高かったほか、9月の時点では、感染しても適切な治療が受けられない不安が大幅に上昇していた。7月の時点でワクチン接種希望がなかったものの、接種をまったく検討していなかったわけではなく、周囲の接種の様子を見ていた人が多かったと思われ、周囲の接種状況や、国内の感染状況、医療ひっ迫の状況等を踏まえて接種を検討したと推測できる。ワクチン接種理由は、ワクチンの効用に期待した回答も多かったが、(1)と比べると少なく、家族の勧めや周囲の人の接種状況、接種済み証明(ワクチンパスポート)の活用に関する議論を考慮して接種したなどの消極的な理由であった人も一定程度あるようだ。(1)との大きな違いとして、(1)は「(ワクチンを)打つものだと思っていた」が3割を超えていることがあげられる。「インフルエンザワクチン接種者の新型コロナワクチン接種意向7」でも触れたとおり、ワクチンで感染症を予防しようとする考えには個人差があると考えられた。

9月の調査で、「まだ予約していないが、すぐにでも接種したい」は2.8%にとどまり、接種意向のある人はおおむね予約を終えていると考えられそうだ。現在、接種意向がない人は、感染不安や適切な治療が受けられない不安、重症化する不安が相対的に低く、ワクチン接種に対する安全性への不安が高い人やワクチン不要との考えが多い。今後は、感染の再拡大や重症化リスクの高い変異株の出現、自分自身や同居家族が転職や持病の発症等によって感染や重症化リスクが高まったとき、副反応の頻度や程度が現在より低いワクチンが開発されたとき等に接種意向が生じる可能性があるため、必要な時に接種できる仕組みが必要だろう。
 
7 村松容子・岩﨑敬子「インフルエンザワクチン接種者の新型コロナワクチン接種意向」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2021年8月5日)
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2021年10月20日「基礎研レポート」)

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