2021年09月24日

中国経済:景気指標の総点検(2021年秋季号)-景気評価結果は0勝,9敗,1分で0点に転落!

三尾 幸吉郎

文字サイズ

1. 中国経済の概況

(図表-1)中国の国内総生産(GDP) 21年4-6月期の国内総生産(GDP)は実質で前年同期比7.9%増と、1-3月期の前年同期比18.3%増を大きく下回った。しかし、前期比(季節調整後)では1.3%増(年率5.3%増[推定1])と、1-3月期の前期比0.4%増(年率1.6%増[推定])から加速している(図表-1)。昨年来のコロナ禍で経済指標の動きが複雑化しているため、経済動向を的確に捉える上では、前年同期比と前期比の両者を総合的に見る必要性がこれまで以上に高い。
一方、21年1-8月期の消費者物価(CPI)は前年比0.6%上昇だった。原油高を背景に輸送用燃料が同11.9%上昇したものの、アフリカ豚熱(ASF)が沈静化したことを背景に豚肉が同25.7%下落して相殺されることとなった。食品・エネルギーを除くコア部分で見ても同0.6%上昇に留まり、21年の抑制目標(3%前後)を下回る水準で推移している(図表-2)。他方、工業生産者出荷価格(PPI)は前年比6.2%上昇となった。特に原材料が同12.3%上昇しており、企業利益を圧迫し始めている点には留意する必要がある。

なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しては2、7月に江蘇省(南京)から観光名所の張家界へと広がり、さらに北京でも確認されるに至って、8月の景気指標を大幅悪化させる主因となった。この市中感染の波はすでに収束したが、新たな市中感染の波が9月に入って福建省・黒龍江省を襲い、重症症例も増え始めている(図表-3)。世界でパンデミックが収まらない間は、いつ海外から中国に流入し市中感染を起こしてもおかしくない状況だ。そして、これから北京冬季オリンピックの開催(22年2月)に向けては、中国政府は小振りな市中感染の波に対しても、厳格な防疫管理体制で臨むと考えられるため、引き続き経済成長率を下押しする要因となりそうである。
(図表-2)中国の消費者物価(品目別)/(図表-3)COVID-19の現況
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
2 新型コロナウイルス感染症の経緯に関しては、「中国におけるコロナ禍との闘いを振り返って~今後の政策運営にどう影響するのか?」(ニッセイ基礎研レポート 2020-10-30)で詳細に分析している。

2. 景気10指標の点検

2. 景気10指標の点検

【供給面の3指標】
鉱工業生産(実質付加価値ベース)の推移を見ると(図表-4)、今年1-2月期には前年同期にコロナ禍で落ち込んだ反動で前年同期比35.1%増と極めて高い伸びを示したが、その後は反動増の効果が薄れるにつれて伸びが鈍化し、8月には同5.3%増まで減速した。他方、前年同期と比べた伸びは反動増の影響が強すぎるため前月比(季節調整後)も確認すると、21年上半期の平均値は前月比年率7.3%増(推定)だったが、7月は同3.7%増(推定)、8月は同3.8%増(推定)と、3%台に減速している。特に、半導体不足の影響が顕在化した自動車生産の落ち込みが目立ち、5月以降4ヵ月連続の前年割れで、8月の生産台数は173万台と前年同月比18.6%減に落ち込んだ(図表-5)。中国乗用車市場信息聯席会(CPCA)は、マレーシアでコロナ流行がピークアウトしたとして、10月には半導体不足が解消に向かうとしているが、コロナ禍のことだけに予断を許さない。
(図表-4)鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)中国の自動車生産
一方、PMIの動きを見ると、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)は、21年3月の51.9%を直近ピークに5ヵ月連続で低下し8月には50.1%となった。但し、予想指数がそれほど落ちてないことから9月には若干回復する可能性があるだろう(図表-6)。他方、非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)は、8月に47.5%と拡張収縮の境界(50%)を大きく下回った。予想指数も低下幅が大きいため先行き懸念は強いものの、コロナ流行が地域限定的なもの(福建省・黒龍江省だけ)に留まれば、急回復する可能性があると見ている(図表-7)。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI
【需要面の3指標】
個人消費の代表指標である小売売上高の推移を見ると(図表-8)、今年1-2月期には前年同期にコロナ禍で落ち込んだ反動で前年同期比33.8%増と極めて高い伸びを示したが、その後は反動増の効果が薄れるにつれて伸びが鈍化し、8月には同2.5%増まで減速している。他方、前月比(季節調整後)の伸びを見ると、21年上半期の平均値は前月比年率5.4%増(推定)だったが、7月には同2.3%減(推定)とマイナスに落ち込み、8月には同2.1%増(推定)とやや戻したものの低水準の伸びに留まった。また、中国恒大集団の経営不安で注目される不動産市場では、分譲住宅販売が前年割れに転じており、住宅関連消費(家電・家具など)にも暗雲が立ち込めている(図表-9)。
(図表-8)小売売上高の推移/(図表-9)分譲住宅の販売面積の推移
投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると(図表-10)、今年1-3月期には前年同期にコロナ禍で落ち込んだ反動で前年同期比25.6%増と極めて高い伸びを示したが、その後は反動増の効果が薄れて伸びが鈍化し、4-6月期には同5.3%増に減速、7-8月期には同1.9%減とマイナスに転じた。投資の内訳を見ると、製造業は直近7-8月期にも前年同期比5.5%増(推定)とプラスの伸びを維持しているが、不動産開発投資は同1.1%減(推定)とマイナスに転落、インフラ投資は同11.4%減(推定)と4-6月期の同5.9%減に続いてマイナスに落ち込んでいる。財政金融政策の縮小や不動産業に対する資金調達規制(三道紅線)が影響したものと見られる。

一方、輸出(ドルベース)の状況を見ると(図表-11)、今年1-2月期には反動増もあって前年同期比60.4%増と極めて高い伸びを示した。その後はやや伸びが鈍化したものの、8月も同25.6%増と高い伸びを維持している。巣ごもり関連品(PCや家電など)が好調を維持しているのに加えて、世界的にワクチン接種が進んだことで伝統的輸出品(衣類、靴、帽子など)も伸びている。
(図表-10)固定資産投資(除く農家の投資)/(図表-11)輸出(ドルベース)の推移
【その他の4指標と景気の総括】
以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)を加えた10指標に関して、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“×”、横ばいなら“-”として一覧表にしたのが図表-12である。
(図表-12)景気評価総括表(〇×表)
需要面3指標の推移を見ると、消費の代表指標である小売売上高は、コロナ感染が小振りながら断続的に見られたことで本格回復には至らず、足元では4ヵ月連続で“×”となっている。投資の代表指標である固定資産投資は、2月から4月にかけて“〇”になる場面も見られたが、足元では“×”が目立ってきた。また、パンデミックを追い風に昨年4月以降13ヵ月連続で“○”を記録した輸出も、足元では2ヵ月連続で“×”に転じている。供給面3指標の推移を見ると、鉱工業生産は3月以降6ヵ月連続で“×”、製造業PMIと非製造業PMIも6月以降3ヵ月連続で“×”と、悪化傾向が鮮明となっている。その他の景気指標を見ると、電力消費量と道路貨物輸送量は4月以降5ヵ月連続で“×”、工業生産者出荷価格は6月以降3ヵ月連続で“×”となっており悪化傾向が鮮明である。一方、通貨供給量(M2)は昨年7月以降“×”が目立っていたが、足元では7月に“〇”に転じるなど金融引き締めの在り方には変化の兆しがある。但し、社会融資総量が依然として減速していることから、金融緩和に転じたと判断するのは早計だろう(図表-13)。

なお、電力消費量は第2次産業・第3次産業ともに7月までは比較的堅調だったが、8月に大幅悪化した(図表-14)。また、貨物輸送量はコロナ前(2019年)のレベル近辺まで回復しているが、ヒトの動きを示す旅客輸送数の戻りは依然として鈍く、コロナ感染が再発した8月には一気に落ち込むこととなった(図表-15)。他方、工業生産者出荷価格が上昇傾向を強めている。その背景には原材料価格の高騰があり、今のところ消費財の上昇率は低位に留まっている(図表-16)。
(図表-13)通貨供給量(M2)と社会融資総量/(図表-14)電力消費量の推移
(図表-15)貨物輸送量と旅客輸送数/(図表-16)工業生産者出荷価格(PPI)

3. 景気インデックスは5%台に低下!

3. 景気インデックスは5%台に低下!

(図表-17)経済成長率と景気インデックス 最後に、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として選択し、実質成長率を推計した「景気インデックス」の推移を確認しておこう。中国にコロナ禍が襲来した昨年2月の「景気インデックス」は前年同月比12.8%減と大きく落ち込んだ。しかし、コロナ禍が峠を越えた4月には早くも同1.4%増とプラスに転じ、今年1月には前年同月に落ち込んだ反動もあって同21.7%増と高成長を記録した。そして、ここもとの景気悪化に加えて、コロナ禍の反動増が薄れてきたことから、7月は前年同月比5.9%増、8月は同5.2%増と低下してきている(図表-17)。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2021年09月24日「Weekly エコノミスト・レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【中国経済:景気指標の総点検(2021年秋季号)-景気評価結果は0勝,9敗,1分で0点に転落!】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

中国経済:景気指標の総点検(2021年秋季号)-景気評価結果は0勝,9敗,1分で0点に転落!のレポート Topへ