2021年08月16日

QE速報:4-6月期の実質GDPは前期比0.3%(年率1.3%)-2四半期ぶりのプラス成長も、均してみれば停滞が続く

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●4-6月期は前期比年率1.3%と2四半期ぶりのプラス成長

本日(8/16)発表された2021年4-6月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比0.3%(前期比年率1.3%)と2四半期ぶりのプラス成長となった(当研究所予測7月30日:前期比0.4%、年率1.5%)。

外需寄与度が前期比▲0.3%(年率▲1.3%)と2四半期連続のマイナスとなったが、緊急事態宣言下でも民間消費(前期比0.8%)、住宅投資(同2.1%)、設備投資(同1.7%)の国内民間需要がいずれも増加し、外需の落ち込みをカバーした。公的固定資本形成は減少したが、ワクチン接種の進捗を反映し政府消費が前期比0.5%の増加となったため、公的需要も増加した。
 
名目GDPは前期比0.1%(前期比年率0.2%)と2四半期ぶりに増加したが、実質の伸びを下回った。GDPデフレーターは前期比▲0.3%(1-3月期:同▲0.1%)、前年比▲0.7%(1-3月期:同▲0.1%)であった。国内需要デフレーターは前期比0.1%の上昇となったが、国際商品市況高騰の影響で輸入デフレーターが前期比5.5%の高い伸びとなり、輸出デフレーターの伸び(前期比3.3%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し下げた。
 
なお、家計消費デフレーターの推計に用いられる「消費者物価指数」は、8/20の2021年7月分の公表時に2015年基準から2020年基準への切り替えが実施される。8/6に総務省統計局から公表された遡及結果では、2021年4~6月の前年比上昇率が大幅に下方改定された。本日公表された2021年4-6月期の1次速報は、旧基準の消費者物価指数を基に推計されているが、9/8公表予定の2次速報では新基準の指数が反映される。このため、2021年4-6月期のGDP2次速報では、消費デフレーターが下方修正されることにより実質民間消費の伸びが高まり、実質GDP成長率も上方修正されることが想定される1
需要項目別結果
 
1 あくまでも、消費者物価指数の基準改定による影響だけを考慮したものである。2021年4-6月期のGDP2次速報では、「法人企業統計」など、1次速報以降に公表された基礎統計の結果が反映されるため、必ずしも実質GDP成長率が上方修正されるとは限らない。
<需要項目別の動き>
民間消費は前期比0.8%と2四半期ぶりの増加となったが、1-3月期の落ち込み(同▲1.0%)を取り戻しておらず、均してみれば低迷が続いている。

実質家計消費の内訳を形態別にみると、食料品などの非耐久財(前期比▲0.6%)は減少したが、自動車、家電などの耐久財(同0.4%)、被服・履物、家具などの半耐久財(同1.9%)、交通、外食、旅行、宿泊などのサービス(同1.5%)が増加した。

雇用者報酬は名目・前年比1.9%(1-3月期:同▲0.4%)、実質・前年比2.5%(1-3月期:同▲0.1%)と、いずれも5四半期ぶりのプラスとなった。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年4-6月期に大きく落ち込んだ反動による部分が大きい。前期比では名目▲1.7%、実質▲1.4%のマイナスとなっており、雇用所得環境が大きく改善しているわけではない。
 
住宅投資は前期比2.1%と3四半期連続で増加した。新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2019年10月の消費税率引き上げ後に90万戸を割り込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2020年4-6月期以降は80万戸程度へと水準を大きく切り下げたが、足もとでは80万戸台後半まで持ち直している。先行きについては、木材価格の高騰(ウッドショック)が住宅投資の下押し要因となる可能性がある。
 
設備投資は前期比1.7%と2四半期ぶりに増加した。対面型サービス業を中心に非製造業は低迷が続いたが、緊急事態宣言下でも製造業の生産活動が堅調だったことから、製造業の機械投資が好調を持続したとみられる。先行きについては、対面型サービス業の建設投資が引き続き下押し要因となるものの、機械投資やデジタル関連投資が増加することから、設備投資全体としては持ち直しの動きが続くことが予想される。
 
政府消費は前期比0.5%と2四半期ぶりに増加した。医療機関の受診低迷が続いたものの、ワクチン接種の進捗が押し上げ要因となった。
 
公的固定資本形成は前期比▲1.5%と2四半期連続で減少した。災害復旧や国土強靭化関連工事の進捗を反映し、基調としては増加傾向が続いているが、2021年前半は執行の端境期になったとみられる。
 
外需寄与度は前期比▲0.3%(前期比年率▲1.3%)と2四半期連続のマイナスとなった。海外経済の回復を背景に財貨・サービスの輸出が前期比2.9%の増加となったが、国内の財需要の堅調やワクチン購入による押し上げから輸入が前期比5.1%と輸出の伸びを上回った。
20217-9月期も低迷が続く)
2021年4-6月期は2四半期ぶりのプラス成長となったが、1-3月期の落ち込み(前期比▲0.9%、年率▲3.7%)を取り戻していない。日本経済は2020年4-6月期に過去最大のマイナス成長となった後、2四半期連続で前期比年率二桁の高成長を記録したが、緊急事態宣言が再発令された2021年入り後は停滞が続いている。

2021年4-6月期の実質GDPの水準はコロナ前(2019年10-12月期)を▲1.5%下回っている。政府支出(政府消費、公的固定資本形成)はコロナ前を大きく上回っており、海外経済の回復を背景に財の輸出も増加しているが、民間消費などの国内民間需要、インバウンド需要の蒸発を主因としてサービスの輸出がコロナ前を大きく下回っている。また、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に、消費税率引き上げの影響で落ち込んでいた。直近のピークである2019年7-9月期と比較すると、2021年1-3月期の実質GDPは▲3.4%、民間消費は▲5.4%低い水準となっている。
コロナ前と比べた経済活動の水準
7-9月期も緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が実施されていることから、民間消費は低迷を続ける可能性が高い。一方、海外経済の回復を背景に輸出は堅調を維持し、緊急事態宣言の影響を受けにくくなっている住宅投資、設備投資も増加を続けるだろう。現時点では7-9月期の実質GDPは前期比年率0%台後半の伸びを予想しているが、経済活動の水準が低いことを踏まえれば緩やかな成長にとどまる。実質GDPの水準はコロナ後のピーク(2020年10-12月期)にも届かないだろう。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年08月16日「Weekly エコノミスト・レター」)

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