2021年08月13日

住宅市場好調、オフィス空室率上昇。REIT指数は8カ月続伸-不動産クォータリー・レビュー2021年第2四半期

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1. 経済動向と住宅市場

国内景気は消費の低迷が長期化し停滞色が強まっている。

8/16公表予定の2021年4-6月期の実質GDPは、前期比+0.4%(前期比年率+1.5%)と2四半期ぶりのプラス成長になったと推計される1。緊急事態宣言の影響で民間消費が2四半期連続で減少したものの、設備投資と住宅投資が消費の落ち込みをカバーした。しかし、1-3月期の大幅マイナス成長の後としては低い伸びにとどまり、今年に入り景気の停滞が続いている。

経済産業省によると、4-6 月期の鉱工業生産指数は前期比+1.0%と4 四半期連続の増産となり、昨年4-6月期の落ち込み分をほぼ取り戻した(図表-1)。国内需要は個人消費を中心に低迷が続いているが、海外経済の回復を背景に輸出が好調を維持しコロナ前の水準を上回っていることが製造業の生産活動を支えている。

ニッセイ基礎研究所は、6月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2021年度+3.5%、2022年度+1.9%を予想する(図表-2)2。実質GDP が消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019 年7-9 月期)に戻るのは2023 年度と予想するが、感染拡大のたびに行動制限の強化を繰り返す政策対応が続けば、経済の正常化はさらに遅れる可能性が高い。
図表-1 鉱工業生産(前期比) /図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、需要の高まりを受けて在庫数が減少するなか、価格が上昇している。2021年6月の新設住宅着工戸数は76,312戸(前年同月比+7.3%)と4カ月連続で増加し、4-6月累計では約22.1万戸(前年同期比+8.1%)となった(図表-3)。2019年同期比で見ると▲5%となりコロナ禍前の水準を回復しつつある。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2021年6月の首都圏のマンション新規発売戸数は1,939戸(前月同月比+25.7%)と7カ月連続で増加し、4-6月累計では6,606戸(前年同期比+151.9%、2019年比+12.2%)となった(図表-4)。

6月の1戸当たり平均価格は6,211万円(前年同月比▲2.8%)、m2単価は94.2万円(▲2.8%)、初月契約率は72.5%(▲0.7%)とやや低下したものの好調を維持しており、販売在庫数は6,395戸(前月比▲394戸)と減少した。マンション発売戸数は昨年の落ち込みからの回復が継続している。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2021年6月の首都圏の中古マンション成約件数は3,262件(前年同月比+5.0%)と6カ月連続で増加し、4-6月累計では9,987件(前年同期比+55.4%、2019年比+3.2%)となり、調査開始以来の過去最高を更新した(図表-5)。中古マンションの成約件数は周辺部・東京都区部ともに増加する一方、新規登録件数が減少し在庫数が減少するなか品薄感が高まっている。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
日本不動産研究所によると、2021年5月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は11カ月連続で上昇し、過去1年間の上昇率は+8.0%となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2. 地価動向

地価は下落地区が減少し、上昇地区が増加している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2021年第1四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「28」、横ばいが「45」、下落が「27」となった。(図表-7)。同レポートでは、「住宅地ではマンション素地取得の動きが回復している地区が増加。商業地では法人投資家等による取引の動きが戻り、横ばい・上昇に転じた地区が見られる」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
一方、野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(7月1日時点)は前期比+1.8%(年間+3.9%上昇)となり4四半期連続でプラスとなった。「値上がり」地点の割合は43.5%(前回41.7%)、「値下がり」地点の割合は0.0%(前回1.2%)となった。在宅勤務の浸透により現在の居住環境の改善を図るといった新たな需要もあり、住宅地価格は上昇基調が続いている(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向 

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2021年6月の東京都心5区の空室率は16カ月連続で上昇し6.19%(前月比+0.29%)に、平均募集賃料(月坪)は11カ月連続で下落し21,160円(前月比▲0.4%)となった。空室率が6%を超えるのは2014年8月以来のことである。他の主要都市についても空室率は上昇基調にあるが(図表-9)、募集賃料は仙台と大阪を除いて前年比プラスを確保しており3、東京の下落率(▲7.5%)が最も大きくなっている。
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2021年第2四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は35,332円(前年同期比▲9.1%)、空室率は1.9%となった(図表-10)。三幸エステートは、「Aクラスビルは高い競争力を有することから、賃料の調整によりテナント誘致が進む事例も見られ、空室率の上昇ペースは鈍化している」としている4

また、日経不動産マーケット情報(2021年8月号)によると、「大規模ビルの成約水準(2021年6月末)は下落傾向が続いており、半年前比で、東京駅周辺では賃料の下限が5,000円下落し3.0万円~5.3万円に、大崎駅周辺では下限が1,000円、上限が2,000円下落し2.3万円~2.9万円になった」としている。
図表-9 主要都市のオフィス空室率
 
3 2021年6月時点の募集賃料は、前年比で、札幌(+1.8%)・仙台(▲0.0%)・東京(▲7.5%)・横浜(+1.8%)・名古屋(+0.6%)・大阪・(▲1.3%)・福岡(+1.3%)となっている。
4 三幸エステート「オフィスレント・インデックス2021年第2四半期」(2021年7月30日)
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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