2021年07月30日

2021年4-6月期の実質GDP~前期比0.4%(年率1.5%)を予測~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●4-6月期は年率1.5%を予測~2四半期ぶりのプラス成長

2021年4-6月期の実質GDPは、前期比0.4%(前期比年率1.5%)と2四半期ぶりのプラス成長になったと推計される1

緊急事態宣言の影響で民間消費が前期比▲0.9%と2四半期連続の減少となったが、設備投資(前期比3.3%)、住宅投資(同4.5%)の高い伸びが消費の落ち込みをカバーし、民間需要が2四半期ぶりに増加した。公的固定資本形成は減少したが、ワクチン接種の進捗を反映し政府消費が前期比1.2%の高い伸びとなったため、公的需要も増加した。

海外経済の回復を背景に輸出が前期比2.2%の増加となったが、国内の財需要の堅調やワクチン購入による押し上げから輸入が前期比2.3%と輸出と同程度の伸びとなったため、外需は成長率に対してほぼニュートラルとなった。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が0.4%(うち民需0.2%、公需0.2%)、外需が▲0.0%と予測する。

名目GDPは前期比▲0.7%(前期比年率▲2.6%)と2四半期連続の減少となり、実質の伸びを大きく下回るだろう。GDPデフレーターは前期比▲1.0%(1-3月期:同▲0.3%)、前年比▲1.7%(1-3月期:同▲0.1%)と予測する。国際商品市況高騰の影響で輸入デフレーターが前期比8.5%の高い伸びとなり、輸出デフレーターの伸び(前期比3.3%)を大きく上回ったことがGDPデフレーターを押し下げた。
実質GDPと実質GDIの推移 なお、輸出入デフレーターの差によって生じる所得の実質額を表す交易利得(損失)は、2021年1-3月期の前期差▲4.3兆円に続き、4-6月期も同▲5.0兆円の大幅減少が予想される。交易条件の悪化に伴う海外への所得流出が拡大している。この結果、実質GDPに交易利得を加えた実質GDIは前期比▲0.6%(前期比年率▲2.3%)と2四半期連続のマイナスになることが予想される。
 
2021年4-6月期の実質GDPは2四半期ぶりのプラス成長が見込まれるが、緊急事態宣言の影響で民間消費の減少が続いたことを主因として、1-3月期の大幅マイナス成長の後としては低い伸びにとどまった。日本経済は2020年4-6月期に過去最大のマイナス成長となった後、2四半期連続で前期比年率二桁の高成長を記録したが、緊急事態宣言が再発令された2021年入り後は停滞が続いている。

当研究所では、緊急事態宣言の解除を前提として7-9月期は前期比年率5%程度の高成長を見込んでいたが、7/12から東京都で緊急事態宣言が発令されたこと(沖縄県は5/23~)、新型コロナウイルス陽性者数の増加を受けて緊急事態宣言の期間延長、対象地域の拡大が見込まれることから、消費の低迷はさらに長期化し、高成長が実現する可能性は大きく低下した。現時点では7-9月期は前期比年率1%程度のプラス成長を予想しているが、実質GDPの水準はコロナ後のピーク(2020年10-12月期)にも届かない。

海外経済の回復を背景に輸出が堅調を維持すること、住宅投資、設備投資など民間消費以外の需要項目は緊急事態宣言の影響を受けなくなっていることから、マイナス成長に陥る可能性は低いとみられるが、実質GDPがコロナ前(2019年10-12月期)の水準を回復するのは2022年入り後までずれ込む可能性が高い。新型コロナウイルス陽性者数が増加するたびに行動制限の強化を繰り返す限り、経済の正常化は実現しないだろう。
 
1 7/30までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。
 

主な需要項目の動向

●主な需要項目の動向

・民間消費~財、サービスともに弱い動き~
 民間消費は前期比▲0.9%と2四半期連続の減少を予測する。外食、旅行などのサービス消費の低迷が続いていることに加え、堅調に推移していた財消費も、緊急事態宣言に伴う休業、時短営業の影響などから弱い動きとなっている。
消費関連指標の推移 足もとの消費関連指標を確認すると、「商業動態統計」の実質小売業販売額指数(小売業販売額指数を消費者物価指数(財)で実質化)は、百貨店の休業、時短営業の影響などから弱めの動きとなっており、自動車販売台数も半導体不足による減産の影響から減少傾向となっている。

また、外食、宿泊などの対面型サービス消費は2020年秋頃までは持ち直しの動きが続いていたが、「Go To トラベル」の停止、緊急事態宣言の再発令などの影響で再び落ち込み、足もとの水準をコロナ前(2019年平均)と比較すると、外食産業売上高は8割程度、延べ宿泊者数は5割弱となっている。
・住宅投資~3四半期連続の増加~
住宅投資は前期比4.5%と3四半期連続の増加を予測する。
新設住宅着工戸数の推移 新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2019年10月の消費税率引き上げ後に90万戸を割り込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2020年4-6月期以降は80万戸程度へと水準を大きく切り下げたが、足もとでは80万戸台後半まで持ち直している。

先行きについては、木材価格の高騰(ウッドショック)が住宅投資の下押し要因となる可能性がある。
・民間設備投資~2四半期ぶりの増加~
民間設備投資は前期比3.3%と2四半期ぶりの増加を予測する。

設備投資の一致指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は2021年1-3月期の前期比5.4%の後、4-6月期は同7.8%と3四半期連続で増加した。また、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2021年1-3月期に前期比▲5.3%と2四半期ぶりに減少した後、4、5月の平均は1-3月期を3.9%上回っている。
設備投資関連指標の推移/設備投資計画(全規模・全産業)
日銀短観2021年6月調査では、2021年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が2021年3月調査から2.9%上方修正され、前年度比10.2%となった。

製造業を中心に企業収益が大きく改善する中、テレワーク拡大やデジタル化に向けたソフトウェア投資、製造業の生産活動の好調を受けた機械投資を中心に設備投資は持ち直している。先行きについては、対面型サービス業の建設投資が引き続き下押し要因となるものの、機械投資やデジタル関連投資が増加することから、設備投資全体としては回復の動きが継続することが予想される。
・公的固定資本形成~増加基調は維持も、2四半期連続の減少~
公的固定資本形成は前期比▲1.3%と2四半期連続の減少を予測する。
公共工事請負金額、出来高の推移 公共工事の先行指標である公共工事請負金額は2020年10-12月期から3四半期連続で減少し、2021年4-6月期は前年比▲2.2%となった。一方、公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2018年7-9月期から2021年1-3月期まで11四半期連続の増加となったが、2021年4、5月の平均は前年比1.3%(1-3月期:同5.8%)と伸びが鈍化している。

公的固定資本形成は、災害復旧や国土強靭化関連工事の進捗を反映し、基調としては増加傾向が続いているが、執行の端境期となったことから1-3月期に続いて減少したとみられる。
・外需~成長率に対してほぼニュートラルに~
外需寄与度は前期比▲0.0%(前期比年率▲0.0%)と経済成長率に対してほぼニュートラルになると予測する。海外経済の回復を背景に財貨・サービスの輸出が前期比2.2%の増加となる一方、国内の財需要の堅調やワクチン購入による押し上げから輸入が前期比2.3%と輸出と同程度の伸びとなったことから、外需寄与度はほぼゼロ%となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 2021年4-6月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比12.2%(1-3月期:同▲2.8%)、EU向けが前期比18.7%(1-3月期:同▲9.7%)、アジア向けが前期比1.8%(1-3月期:同8.0%)、中国向けが前期比▲0.5%(1-3月期:同7.9%)、全体では前期比2.2%(1-3月期:同3.3%)となった。

輸出の牽引役となっていたアジア向けが減速する一方、ワクチン接種の進捗に伴う行動制限の緩和によって景気の回復基調が鮮明となっている米国、EU向けが高い伸びとなっている。世界的な設備投資の回復やデジタル関連需要の拡大を背景に、資本財、情報関連財を中心として輸出は緩やかな増加基調を維持している。


 
日本・月次GDP 予測結果
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年07月30日「Weekly エコノミスト・レター」)

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