2021年07月30日

TOPIXの見直しが指数の騰落率に与える影響は?

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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東京証券取引所は2022年4月4日付で、現在の5つの市場区分から3つの市場区分(プライム市場・スタンダード市場・グロース市場)に移行する。それに先立って2021年7月9日に上場会社に対して、6月30日を基準とした新上場区分の適合状況について一次判定を通知した。現時点の東証1部上場企業2,191社のうちプライム市場に適合したのは約7割であった。

新市場区分への移行に合わせて、TOPIX等株価指数も見直される。新市場区分への移行とTOPIXの見直しは現行のTOPIXの騰落率にどの程度影響するのだろうか。プライム市場とTOPIXの見直し方針に沿って、プライム市場基準適格企業指数、見直し後TOPIXをそれぞれ概算で作成し、現行のTOPIXと騰落率を比較した。
 

■プライム市場の上場基準

■プライム市場の上場基準

2022年4月4日付で移行される3つの市場区分のうち、プライム市場はグローバルな機関投資家との建設的な対話を中心に据えた大企業向けの市場と位置付けられている。そのため流動性、ガバナンス、経営成績面において3市場の中で最も厳しい基準が設定されている。図表1は、プライム市場の新規上場基準及び上場維持基準の主要ポイントをまとめたものである。
図表1 「プライム市場」の上場基準
東証上場会社は、今後2021年9月~12月にかけて新しい3つの市場区分への適合状況や自社の経営戦略・目的に沿って移行先の新市場区分を選択する。
 
ただし、経過措置として、当分の間、図表2のとおり現行の市場区分に該当する新市場区分が設定されている。例えば、東証1部に上場している企業は、プライム市場の上場維持基準を充たしていない場合も、「上場維持基準の適合に向けた計画書」の開示を行うことで上場維持基準に係る経過措置が適用され、プライム市場に移行できる。
図表2 経過措置の適用

■見直し後のTOPIXは市場区分と切り離して運用

■見直し後のTOPIXは市場区分と切り離して運用

東証は新市場区分への移行に合わせて、株価指数の見直しも行う方針である。現行のTOPIXには東証1部の全企業が構成銘柄として組み込まれている。TOPIXはパッシブ運用等の主要なベンチマークとして日本株式市場を代表する株式指数である一方で、流動性や時価総額の低い企業が組み込まれていることで投資対象としての機能性について疑問視する声もあった。
 
今回のTOPIX見直しでは、市場区分と切り離して運用することで、市場代表性に加え投資対象としての機能性の向上を目指す方針である。
 
大まかに説明すると、見直し後のTOPIXでは流通株式時価総額100億円未満の企業は段階的に指数から除外されていく。現行の東証1部上場企業であれば、流通株式時価総額が100億円未満でも計画書を提出すれば経過措置としてプライム市場に移行することはできるが、TOPIXからは段階的に除外され、2025年には流通株式時価総額が100億未満の企業は完全に除外される計画になっている。
図表3 見直し後のTOPIXの算出ルール

■指数の騰落率への影響は?

■指数の騰落率への影響は?

現行の東証1部上場企業にプライム市場維持基準、TOPIXの見直しを適用した場合、現行のTOPIXと比較して指数の騰落率はどの程度変化するのだろうか。2021年6月30日の移行基準日でのデータに基づく東証の一次判定の結果を非公開にしている企業も多いため、可能な範囲でそれぞれの基準を満たしているであろう企業を集計し、騰落率を算出した。
 
まず、プライム市場維持基準に適合した企業については、2021年6月30日時点の東証1部上場企業のうち次の(1)~(5)の基準を満たしていると推計される企業((1)株主数800人以上、(2)流通株式数20,000単位以上、(3)流通株式時価総額100億円以上、(4)流通株式比率35%以上、(5)平均売買代金0.2億円以上)、また2021年7月21日までに東証の一次判定でプライム市場基準に適合したと発表した企業をピックアップした。現行の東証1部上場企業に限定して集計を行ったところ、約1,500社が該当した。
 
次に見直し後のTOPIX構成銘柄については、2021年6月30日時点の東証1部上場企業のうち流通株式時価総額が100億円以上と推計される企業または2021年7月21日までに東証の一次判定でプライム市場基準に適合したと発表した企業をピックアップしたところ、約1,600社が該当した。
 
それぞれの企業について2015年1月から2021年6月までの月次の浮動株考慮後時価総額(配当込み)を計算し、2014年12月を基準値100として指数を作成し、現行の配当込みTOPIXに対する累積超過収益率を計算した。浮動株は現行のTOPIXと同じ浮動株比率を用いて計算した。
 
あくまで現状把握可能な範囲での集計のため、実際には流通株式や浮動株比率の計算方法や、全上場企業の移行先選択状況によって結果は多少差がでる可能性はあるが、影響は限定的と考える。
図表4 見直し後の指数騰落率は現行の配当込みTOPIXとほぼ変わらず
期間中の対配当込みTOPIX累積超過収益率は、プライム市場基準適格企業を指数化したものが+0.82%、見直し後のTOPIXが+0.52%と現行の配当込みTOPIXの騰落率を上回った。ただし、期間全体を通して騰落率の差はそれほど広がらなかった。
 
6月末時点の流通株式時価総額の合計を確認したところ、プライム市場基準適格企業で作成した指数のウェイトは現行のTOPIX構成銘柄の98.6%、見直し後のTOPIXは99.5%だった。銘柄数は現行のTOPIXから2~3割減少するが、ウェイトはほとんど変わらない。しかし、東証の試算結果にもあったようにウェイトが99%台とほとんどかわらないことを考えると、その他の少ないウェイトの企業を除外したことで騰落率に多少でも差が出たことになる。
 
過去を振り返った限りでは、現行のTOPIXと騰落率で大きな差は見られず、指数の継続性に問題はなかったことになるが、数多くの企業を除外したことにより多少なりとも見直し後TOPIXの騰落率が改善することになる。あくまで過去の騰落率を元に推計したものではあるが、今回の市場構造や株価指数の見直しを実施することで、時価や流動性がより重視され、ある意味、企業が投資家により厳しく選別されることになる。今回の市場区分変更やTOPIX見直しによって、上場企業の流動性、ガバナンス、業績に好影響を与え、将来のさらなる株式価値、企業価値向上につながること、そしてTOPIX自体の機能性がさらに向上することを期待したい。 
 
 

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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2021年07月30日「基礎研レター」)

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