2021年07月27日

10月からオンライン資格確認本格運用

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――2022年度までのデータヘルス改革「集中改革プラン」

2015年に開催された「保健医療分野におけるICT活用推進懇談会」の議論を受けて、2017年度にデータヘルス改革推進本部が厚生労働省内に設置された。データヘルス改革とは、ICTを活用した健康管理・診療サービスの提供や、健康・医療・介護領域のビッグデータを集約したプラットフォームを構築し、国民の健康寿命のさらなる延伸を実現し、効果的・効率的な医療・介護サービスを提供しようとするものだ。大きな方針として、「ゲノム医療・AI活用の推進」「自身のデータを日常生活改善等につなげるPHRの推進」「医療・介護現場の情報利用活用の推進」「データベースの効果的な利活用の推進」が予定されている。

データヘルス改革で提供が予定されているサービスのうち、「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」「電子処方箋の仕組みの構築」「自身の保健医療情報を活用できる仕組み(PHR)の拡大」の3つのサービスについては、2022年夏に本格運用を目指す(集中改革プラン)1。また、これに先立って、データヘルス改革を行う前提とも言える被保険者番号の個人単位化や、オンライン資格確認システムの導入も進められている。  

2――オンライン資格確認とは

2――オンライン資格確認とは

1|マイナンバーカードによる健康保険資格確認
オンライン資格確認は、社会保険診療報酬支払基金(支払基金)と国民健康保険中央会(国保中央会)から、受診者の健康保険資格情報等をリアルタイムで提供する仕組みである。これまで、患者が受診をする際、医療機関で月初に保険証を提示して、加入している健康保険の資格を確認していた。しかし、月初の確認では、加入している健康保険が変わった場合に把握できず、資格喪失後の受診に伴う保険者や医療機関等での請求確認等に事務コストがかかっていた。保険証の回収の徹底が困難な場合、保険者では未収金も発生しており、事務コストをかけて資格喪失者を追跡しても不明なケースも少なくないとされている2。資格過誤に起因する保険者の事務負担は年間約30億円程度、医療機関等の事務負担は年間約50億円程度と試算されている。

マイナンバーカードを使って、受診のたびに支払基金・国保中央会に資格情報等を問い合わせることで、こういったコストが解消される。一方、患者にとっても、医療費が高額になった場合に適用される高額療養費制度を利用する場合に、保険者への申請がなくても、オンライン資格確認等システムから限度額情報を取得でき、限度額以上の医療費を窓口で支払う必要がなくなる。
 
2 厚生労働省医療保険部会資料「オンライン資格確認の導入によるメリット」(平成30年5月)より
2|本格運用開始は、10月に延期
オンライン資格確認は、2021年3月上旬にプレ運用を始め、下旬に本格運用を始める予定だった。ところが、新型コロナウイルスの影響などによるシステム改修の遅れや、半導体不足による端末調達の遅れ、顔認証付きカードリーダーの生産の遅れなどで準備が進まず、当初500程度の施設でプレ運用を行う予定だったが、実際に3月上旬からプレ運用に参加できたのは19施設、3月末時点でも100施設程度(病院22施設、医科診療所13施設、歯科診療所23施設、薬局42施設)にとどまった3。また、保険者が管理している加入者のマイナンバー登録ミスも3万5000件ほど見つかった。

3月下旬の本格運用については、当初からプレ運用期間の短さが指摘されていたことから、本格運用を10月まで延期し、参加施設を増やしながらプレ運用期間を延長することとなった。マイナンバー登録ミスに対しても、誤入力をチェックするシステムを導入するなどの改善を行っている。
 
3 「News オンライン資格確認、本格運用を10月まで延期」(2021年3月29日)日経メディカル
 

3――本格運用開始に向けた課題

3――本格運用開始に向けた課題

医療機関等で、オンライン資格確認等システムの導入を進めるために、7~9月を「集中導入期間」と定め、システム導入費用の一部助成の対象期間を延長したり、導入に関する相談窓口を開設するなどサポートが強化されることになった。3月末までに顔認証付きカードリーダーを申し込んだ医療機関や薬局には導入のために要した費用について補助を行っていたため、カードリーダーの申し込み数は13万施設と、全施設の半数程度にまで増加し、そのうち8割の施設が9月末までに導入完了する予定となっている。

一方で、マイナンバーカードの普及については、人口に対する交付率は34.2%にとどまる。さらに、マイナンバーカードの健康保険被保険者証利用登録は、その1割程度と少ない。また、医療従事者等が電子処方せんを発行する場合に必要となる資格証明機能をもつHPKIカードの取得率は、6月末の時点で医師全体の5.7%にとどまり、オンラインの電子処方せんを発行するために必要な認証については議論が続いている。

国民への周知も課題となるだろう。当面、これまでの健康保険証のままでも、マイナンバーカードの保険証機能と同等のことが可能であるため、患者や医療機関において、これまでの保険証での運用と比べてのメリットがわかりづらい。そのため、オンライン資格確認が本格運用されても、マイナンバーカードの取得にはつながらない可能性がある。また、マイナンバーカードを保険証として利用すること自体が周知されているとは言えない状況の中では、あらためてデータヘルス改革に関する強力な周知活動の展開が必要となるだろう。
 

4――2021年度以降の予定

4――2021年度以降の予定

2021年6月に、マイナポータルを通じて自分の保健医療情報を閲覧できる仕組みを中心とする工程表が公表された。2021年10月には特定健診の自分自身や医療機関での閲覧、マイナポータルと民間PHR事業者のAPI連携、薬剤情報(レセプトに基づく過去の処方・調剤情報)の閲覧が開始する。2022年度には、集中改革プランに掲げられた「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」「電子処方箋の仕組みの構築」「自身の保健医療情報を活用できる仕組み(PHR)の拡大」がスタートする。

医療機関や薬局における過去の受診歴等の閲覧を、患者が希望しない場合の手続きについてはまだはっきり示されていない。自分のどういった情報が医療機関や薬局、民間PHR事業者と共有されうるのか、どういった場合に、どこに共有してもらうことで、自分がよりよい医療・サービスを受けることができるのか、我々自身も考えていく必要があるだろう。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

(2021年07月27日「保険・年金フォーカス」)

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【10月からオンライン資格確認本格運用】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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