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ワクチンパスポートの国内利用に向けて-ワクチンパスポートの国内利用には総じて肯定的であるものの、広く受容されるためには優遇措置のバランスが肝要
生活研究部 井上 智紀
1――はじめに
では実際に、消費者側では国内においてワクチンパスポートを利用することについてはどのように考えているのだろうか。本稿では、前掲の提言書において想定されている国内での利用方法について簡単に触れた上で、弊社が実施した「第5回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査3」の個票データを用い、ワクチンパスポートの国内利用の是非および利用方法別の受容度合いについて尋ねた結果の詳細を示す。
1 本稿では、特に断りのない限り7月26日より海外渡航者向けの申請受付が始まる「新型コロナウイルスワクチン接種証明書」のほか、「接種済証」や「接種記録書」を含め国内において新型コロナウイルスワクチンの接種履歴を証明できるもの全般を「ワクチンパスポート」と称する。
2 日本経済団体連合会新型コロナウイルス会議「ワクチン接種記録(ワクチンパスポート)の早期活用を求める」(2021年6月24日)
3 調査は全国の20~74歳の男女を対象に2021年7月5日~7日に実施した。有効回答数は2,582サンプル。調査結果の詳細は「2020・2021年度特別調査 「第5回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」 調査結果概要」を参照のこと。
2――想定されるワクチンパスポートの国内利用の方法
このなかで、国内利用については活用の方向性として以下の4つの分類を示し、ワクチン接種の対象者や進捗に応じて政府や医療界、経済界に求められる取り組みを3段階のロードマップに示している。
3――ワクチンパスポートの国内利用に対する消費者意識
図表 1に示した4分類の想定される国内利用の方法に基づき、7種類の利用方法をあげ、利用意向をたずねた結果をみると、「ワクチンを接種して、ぜひ利用したい」と「ワクチン接種して、機会があれば利用したい」を合わせた利用積極層は“店頭や申込み時にパスポートを提示することで飲食代金や利用料の割引、ポイントの割増が受けられる(以下、飲食代金や利用料の割引、ポイントの割増が受けられる)”が50.5%で最も多く、“介護施設や医療機関での面会制限が緩和され、直接会えるようになる(以下、面会制限が緩和され、直接会えるようになる)”(44.7%)が4割を超えて続く。その他の項目についても3割台であり、利用消極・反対層は最も多い“パスポートの保有者は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の期間中・対象地域でも国内旅行などのツアーに参加できるようになる(以下、緊急事態宣言等の期間中・対象地域でも国内旅行などのツアーに参加できるようになる)”でも27.4%と3割に満たず、いずれも利用積極層が利用消極・反対層を上回る。「こうした利用方法は認めるべきではない」についてみても、最も多い“パスポート保有者限定のキャンペーンに参加できる”でも12.7%と1割程度に留まっている。
利用積極層の本人職業別では「飲食代金や利用料の割引、ポイントの割増が受けられる」は公務員、学生で、「面会制限が緩和され、直接会えるようになる」は専業主婦、学生でそれぞれ5割を超えて高く、学生では「緊急事態宣言等の期間中・対象地域でも移動制限や隔離(待機)措置が緩和される」も5割を超えて高くなっている。一方、利用消極・反対層では、「緊急事態宣言等の期間中・対象地域でも国内旅行などのツアーに参加できるようになる」は専業主婦・主夫、無職、学生で、「イベント会場、施設等への入場時には、パスポート保有者向けの専用レーンが開設される(以下、パスポート保有者向けの専用レーンが開設される)」は学生で、「会場や施設等の入場者数の制限が緩和されたパスポート保有者限定のイベントが開催される(以下、パスポート保有者限定のイベントが開催される)」は無職でそれぞれ3割台と高くなっている。
利用積極層のワクチンの接種状況別では、「飲食代金や利用料の割引、ポイントの割増が受けられる」で接種済み・意向ありが58.3%と高く、接種意向なしではすべての利用方法で2割に満たない。利用消極・反対層では逆に、すべての利用方法で接種意向なしが高い。
利用積極層についてワクチンパスポートの国内利用に対する考え別にみると、賛成派では「飲食代金や利用料の割引、ポイントの割増が受けられる」をはじめすべての利用方法で半数を超えて高くなっている。一方、利用消極・反対層ではすべての利用方法で反対派が高く、「パスポート保有者限定のキャンペーンに参加できる」では64.8%、「パスポート保有者限定のイベントが開催される」では63.9%と特に多くなっている。これを「こうした利用方法は認めるべきではない」とする反対層に限定しても同様にすべての利用方法で反対派が高く、「パスポート保有者限定のキャンペーンに参加できる」(46.1%)、「パスポート保有者向けの専用レーンが開設される」(45.1%)などほとんどの利用方法で4割を超えている。
4――ワクチンパスポートの国内利用の実現に向けて
また、利用方法別の利用意向では、いずれの利用方法についても利用積極層が利用消極・反対層を上回っていた。属性別では「飲食代金や利用料の割引、ポイントの割増が受けられる」や「面会制限が緩和され、直接会えるようになる」の利用積極層は、70~74歳では6割を超えて、学生では5割台と他層に比べ高く、他の利用方法よりも多くなっている一方で、「国内旅行などのツアーに参加できるようになる」の利用消極・反対層では専業主婦・主夫、無職、学生で、「パスポート保有者限定のイベントが開催される」の利用消極・反対層では無職で、「パスポート保有者向けの専用レーンが開設される」の利用消極・反対層では学生で、それぞれ高くなっているもののいずれも3割台と、利用積極層と拮抗する結果となっていた。このほかワクチンの接種状況・意向別では総じて接種済み・意向あり層で、ワクチンパスポートの国内利用に対する考え方別では賛成派で、利用方法を問わず利用積極層が高くなっていたことから、属性によりそれぞれ若干の差はあるものの、総じて介護施設や医療機関での面会制限の緩和のほか、飲食代金の割引きやポイントの割り増しなどの優待措置では概ね前向きに捉えられる一方、パスポート保有者に限定したイベントやキャンペーンの実施については否定的な見方が比較的多くなっていた。
これらの結果は、ワクチン接種そのものや副反応に対する考え方、感染拡大の懸念が残る中、ワクチンパスポートを利用することで得られる効用の捉え方などが影響したものと思われる。国内利用に対する反対派や利用方法によらず利用消極・反対派が接種意向のない層で多くなっていたことから、ワクチンの安全性や効果、感染のリスクとワクチンの副反応についての情報提供など、ワクチン接種を促進するためのリスクコミュニケーションを図ることで、間接的ではあるもののワクチンパスポートの受容性も高まることが期待できよう。また、利用方法について少額の割引や割増ポイントの付与などの優遇措置に比べパスポート保有者に限定したイベント、キャンペーンが否定的にみられていたことは、接種の環境整備がまだ十分ではなく、現状では希望したからといってもすぐに接種できる状況にはないことや、接種そのものが任意とされる中では、多少の優遇を受けることは受容できるものの、パスポート保有者であることを条件とするような過度に優遇されているととられかねない方法までは望まれておらず、広く受容されるためにはこうした優遇措置のバランスが肝要であることを意味している。ただし、先行して接種が進んでいる70歳代など高齢層では利用方法によらず利用積極層が多くなっていたことから、受容の程度はワクチン接種の進捗状況に応じて変わる可能性もあろう。まずは少額の割引や割増ポイントの付与などの優遇措置から導入し、段階的に拡げることも一案といえるだろう。
(2021年07月21日「基礎研レター」)
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