2021年07月20日

新型コロナワクチン接種後の消費行動や働き方の予測-約半数が外出行動を再開、約7割がマスク着用等が習慣化

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~ワクチン接種が加速しコロナ禍の出口が見える中で、生活者の予測や期待感は?

6月下旬から、新型コロナウイルスのワクチン接種が職域でも開始されたことで、医療従事者や高齢者に続き、現役世代でも接種者が増えている。足元ではワクチンの供給不足が課題となっているが、政府は今年の11月頃には希望者全員の接種完了を目指しており、1年以上続いているコロナ禍の出口が見えてきたようだ。

ニッセイ基礎研究所では、昨年6月から「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を継続的に実施している。7月上旬に実施した第5回調査1では、新型コロナウイルスのワクチン接種についての様々な意識に関する設問を新たに加えたため、いくつかのレポートで報告していきたい。本稿では、ワクチン接種が進んだ後の消費行動や働き方などの状況についての予測や期待感について捉える。
 
1 調査時期は2021年7月、調査対象は全国に住む20~74歳の男女、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答2,582。
 

2――ワクチン接種後の予測

2――ワクチン接種後の予測~約半数がコロナ前の外出行動を再開、約7割がマスク着用等が習慣化

調査では、ワクチン接種が進んだ後の消費行動や生活様式、働き方にについて、いくつかの観点をあげ、それぞれについて、どの程度そう思うかを尋ねている(図表1)。

まず、外食や旅行・レジャーなどの外出型の消費行動がコロナ前と同様になるかどうかについては、全体では、いずれも5割前後がそう思う(「そう思う」+「ややそう思う」)と回答している。つまり、生活者の約半数はワクチン接種が進むことで、外出型の消費行動が再開すると考えている。

ただし、行動によって、やや温度差がある。店舗での買い物や友人・知人と会うことについては、そう思う割合が比較的高く半数を超え、そう思わない割合(「あまりそう思わない」+「そう思わない」)が約1割を占める。一方、外食や旅行・レジャーについては、そう思う割合は45%程度で、店舗での買い物や友人・知人と会うことと比べて10%pt程度低く、そう思わない割合が約2割と高い。
図表1 新型コロナウイルスのワクチン接種が進んだ後の消費行動や生活様式・価値観、働き方の状況(n=2,582)
この外出行動についての温度差の要因には、外食や旅行・レジャーなどは、より娯楽色の強い外出行動で不要不急の用事と見られやすいこと、また、ワクチンを接種しても感染リスクが完全に消えるわけではないため、感染リスクが比較的高い行動と見られることで、店舗での買い物等と比べて元に戻りにくいと考えられていることなどがあげられる。

生活様式や価値観等においては、マスク着用や社会的距離を取ることの習慣化について、実に約7割がそう思うと回答している。ウイルスとの戦いの出口が見えてきたとはいえ、多くの生活者はウイルスとの共存は続くと考えているようだ。

ワクチン接種済み証明の有無による差別や分断が生じることについては、約半数がそう思うと回答しているが、現在はワクチン接種進行の過渡期であり、今後、大多数が接種済みとなった時点では意識が変容している可能性もある。また、健康意識が高まり健康状態が良くなることや新たな感染症が流行することについては約3割がそう思うと回答している。

働き方においては、出張が減り遠隔地とのオンライン会議が増えることについては約半数が、出社が減りテレワークと併用した働き方が主流になることについては約4割が、コロナ前のように勤め先で飲み会等が実施されることについては約3割がそう思うと回答している。

遠隔地との会議はテレワークのメリットを活かしやすいために、通常業務と比べて、そう思う割合が比較的高いのだろう。一方、通常業務については、医療や介護などテレワークが難しい業種もある上、テレワークが可能な業種であっても、現在のところ、出社とテレワークの最適なバランスを模索中の組織も少なくない。よって、遠隔地との会議と比べると、そう思う割合が下がるのだろう。2020年は初めて日本国内で緊急事態宣言が発出され、様々な組織でテレワークへと大きく舵を切られた1年であったが、足元ではIT企業等でも社員同士の対面コミュニケーションによる協業から得られる価値などを再認識することによって、オフィス回帰の動きも見られる2

また、コロナ前のように勤め先で飲み会等が実施されることについては、そう思う割合は約3割にとどまるが、先の感染リスクの問題に加えて、やはり大なり小なり働き方が変わることで、上司や同僚との付き合い方も変わると考えているのかもしれない。
 
2 「オフィス再開で社員と綱引き 米IT大手、感染収束にらみ」日本経済新聞(2021/06/11)や「アフターコロナのオフィス 創造性発揮へ見直し相次ぐ」日本経済新聞(2021/7/4)の通り、アマゾンやグーグルではオフィス中心の文化へ回帰する動きもある。
 

3――属性別ワクチン接種後の予測

3――属性別ワクチン接種後の予測~女性や若者、高齢層で消費再開、管理職でテレワーク浸透の見方

1|外出型消費行動~女性や若者、コロナ禍で外出自粛傾向の強い高齢層でコロナ前の行動再開に期待
(1) 性年代別
まず、外出型の消費行動について性別に見ると、いずれもそう思う割合は女性が男性を上回り、特に、友人・知人と会うこと(女性が男性より+7.7%pt)や店舗での買い物(+7.6%pt)、公共交通機関の利用(+6.6%pt)で高い(図表2)。
図表2 性年代別に見たワクチン接種が進んだ後の外出型消費行動の状況(「そう思う」+「ややそう思う」) つまり、女性の方が男性よりワクチン接種後に外出型の消費行動が再開すると考えている。これは再開への期待感の強さも影響しているのだろう。

従来から様々な消費文脈で言われてきたように、女性の方が男性より消費意欲が旺盛であり、同じ年収階級の男女の消費性向を比べると、年収階級によらず女性が男性を上回る3

また、年代別に見ると、全体的に20歳代、あるいは70歳代などの高齢層ほど、そう思う割合が高い傾向がある。特に、70歳代では公共交通機関の利用(全体より+11.6%pt)や店舗での買い物(+8.7%pt)、60歳代では友人・知人と会うこと(+5.7%pt)で高い。

これは、コロナ禍において感染による重篤化リスクの高い高齢層ほど外出自粛傾向が強いために、外出行動再開への期待感が強い影響が考えられる。また、若者は従来から他年代と比べて外出行動に積極的であるために期待感が強いようだ。職業別に見ると20歳代の多い学生では、全ての項目でそう思う割合が全体を大幅に上回り、特に旅行やレジャーは69.4%(全体より+24.3%pt)、店舗での買い物や友人・知人と会うことは69.4%(+15.0%pt)を占めて高い。

なお、各年代で性別に見ても、そう思う割合は、おおむね女性が男性を上回り(逆に男性が女性を5%pt以上上回るのは「コロナ前と同じように旅行やレジャーを楽しむようになる」の60歳代以上のみ)、特に、20歳代や30歳代の若い年代で差が大きい。
 
3 久我尚子「平成における消費者の変容(2)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2019/3/12)
図表3 ワクチン接種状況・意向別に見たワクチン接種が進んだ後の外出型消費行動の状況(「そう思う」+「ややそう思う」) (2) ワクチン接種状況・意向別
ワクチン接種状況・意向別に見ると、一回目完了や一回目予約済み、(まだ予約していないが)すぐにでも接種したいと回答した層で、そう思う割合が高い傾向がある(図表3)。つまり、接種完了間近の層や接種に積極的な層で外出行動再開への期待感が強いようだ。

接種完了間近の層では、特に公共交通機関の利用や友人・知人と会うことにおいて、接種に積極的な層では、外食や旅行・レジャー、店舗での買い物において、そう思う割合が高い。これは、前者には高齢層が、後者には若い年代が比較的多いことが影響しているようだ。ワクチン接種一回目完了では60歳以上が64.6%を占める。一方、すぐにでも接種したいでは60歳以上は16.7%にとどまる一方、20~30歳代は31.4%を占める4

一方、接種に消極的な層では全体的にそう思う割合が低い。中でも、絶対に接種したくない層では、そう思う割合はいずれも2割台にとどまる。ワクチン接種に消極的であるがために、特に生活は変わらず、期待感も弱いということだろう。

なお、接種に消極的な層は、感染による重篤化リスクの低い若い年代が多く、絶対に接種したくないでは20~30歳代が50.6%を占める。
 
4 ワクチン接種状況の詳細は第五回調査結果概要等を参照。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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