2021年07月13日

欧州保険会社が2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-

中村 亮一

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1―はじめに

欧州の保険会社各社が4月から5月にかけて公表した単体及びグループベースのSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)については、これまでのレポートで、長期保証措置と移行措置の適用による影響及びSCRとMCRの計算方法の説明等について報告した。

今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容等から、内部モデルの使用状況及び(内部モデル適用による影響が大きい)分散効果の状況について報告する。
 

2―内部モデルの使用状況及び分散効果の状況

2―内部モデルの使用状況及び分散効果の状況

この章では、欧州大手保険グループ5社(AXA、Allianz、Generali、Aviva、Aegon)の内部モデルの使用状況及び分散効果の状況について報告する。
|内部モデル及び分散効果について
ソルベンシーIIにおける第一の柱である「必要資本」の算出等においては、(1)技術的準備金(Technical Provision)、(2)SCR(ソルベンシー資本要件:Solvency Capital Requirement)、(3)MCR(最低資本要件:Minimum Capital Requirement)の3つが重要な構成要素となる。

このうちのSCRの算出については、標準的な算式が定められているが、保険会社のリスク管理の高度化を促すために、監督当局の承認を要件に、各保険会社・グループ独自の内部モデル(部分的な適用を含む)の使用も認められている1

標準的方式では、SCRはモジュラー・アプローチと呼ばれる構造に基づいて算出され、保険引受けリスク、市場リスク等の各種のリスク・モジュールでの算出を行った後、各種リスク間の分散効果等を反映させる形で算出されていく。内部モデルでは、これらのそれぞれの算出等において独自のモデルやパラメータが使用されることになる。

分散効果は、異なるリスク/サブリスク又は異なるポートフォリオ/会社への集計方法の適用によって現われる。標準式でも考慮されているが、内部モデルを使用する場合、さらに各社のリスクの実態に応じる形での分散効果が反映される。ある意味で、内部モデルを採用することにより、最もSCR軽減効果が期待されているものである。
 
1 MCRは、監督当局の究極的な行動発動基準であることから、簡便な計算方式で、客観性を有し、保険会社からの法的措置にも十分対抗できる基準としており、内部モデルの使用も認められていない。
|内部モデルの使用状況及び分散効果の状況
内部モデルのリスクカテゴリ毎の使用状況に関しては、SFCRのQRTsのS.25.02.22に報告されている。

さらに、QRTsのS.32.01.22においては、グループSCRの算出における各子会社等の取扱について、以下の10個の分類に基づいて、具体的な一覧表が掲載されている。

1 - 方法1:完全連結
2 - 方法1:比例連結
3 - 方法1:調整持分法
4 - 方法1:部門別ルール
5 - 方法2:ソルベンシII
6 - 方法2:その他の部門別ルール
7 - 方法2:ローカルルール
8 - 指令2009/138/ECの第229条に関連した参加の控除
9 - 第214条指令2009/138/ECに定義されているグループ監督の範囲には含まれない
10 - その他の方法

このうちの主として前者のQRTsに基づいて、各社の内部モデルの適用状況を報告する。
なお、併せて、これらのQRTsの数値に基づいて、分散効果の状況も報告する。
(1) AXA
AXAのグループSCRのうち、グループ全体でみると、88%が内部モデル、4%が標準式、0%が同等性、7%が銀行・資産運用会社、年金基金等の他の規制基準、の適用に基づくものとなっている。

2019年と比べて、XL事業体2が標準式から内部モデルへと変更されたことから、標準式による割合が低下して、内部モデルによる割合が高くなっている。

AXAのSCRの構成は、以下の図表の通りとなっている。

同等性評価やその他の規制基準によるものを除いたベースで考えた場合(以下、同様)、分散効果控除前のSCRのうちの97.2%が内部モデルを使用して算出されている。
AXAのSCR(ソルベンシー資本要件)
なお、AXAは、グループSCRを算出するために、内部モデルを使用する会社の一覧を以下の通りとしている。
内部モデルを使用する会社の一覧
グループ内で、指令2009/138/ECの第230条及び第233条で言及されている方法1(デフォルト法)と方法2(控除合算法)の組み合わせを使用して、グループ・ソルベンシーが計算される。方法2を用いる会社は、銀行、資産運用会社、年金基金を中心とした保険以外の金融部門やソルベンシー制度が同等とみなされている米国の残りの子会社に関連している。 関連する主要な会社は以下の表に要約されている。
関連する主要な会社
また、グループの分散効果については、以下のように説明している。
 

E.2ソルベンシー資本要件(SCR)と最低資本要件(MCR
グループ分散効果
内部モデルの分散効果は、異なるリスク/サブリスク又は異なるポートフォリオ/会社への集計方法の適用によって駆動される。したがって、分散効果は、特定のリスク要因の範囲内、ポートフォリオ間、地域間又は異なるリスクカテゴリ間で現れる。

一例として、デュレーションギャップは、例えば、保障商品の長いデュレ―ションと年金の短いデュレ―ションのように、異なるポートフォリオに対して異なる符号を有することができる。このような場合、2つのポートフォリオを組み合わせると金利リスクが低下する。

リスク集計アプローチ内の細かさのレベルは、分散効果の測定に影響する主要な要因である。典型的には、集計アプローチが、地理、事業単位/法人レベル、リスクタイプ、商品タイプなどの次元に応じて、ポートフォリオや活動を区別するほど、より明示的な分散効果が明らかになる。内部モデルでは、主要なリスクカテゴリ(市場、信用、生命、損害、オペレーショナルリスク)全体にわたる集計と、地理/会社間の集計という、主な集計ステップを考慮したマルチレベル集計アプローチが実施されている。

2020年12月31日現在の主要なリスク(市場、信用、生命、損害、オペレーショナル)における分散効果は129億ユーロであった。


さらに、内部モデルと標準式との差異の説明の中で、以下の記述(抜粋)が行われている。
 

内部モデルで使用されるサブリスクとリスク要因の数が多いため、様々な資産クラスのリスクとそれらの間の分散は、標準式よりも正確に把握できる。 例えば、ショックは経済に依存しるが、これは不安定な市場では、より高いショックが想定されることを意味している。

損害保険のリスク:標準式はリスクのボラティリティを定量化するために業界全体のパラメータに依存しているが、内部モデルは企業固有のボラティリティパラメーターに依存しているため、ポートフォリオに組み込まれているリスクと一致し、一般により詳細である。 内部モデルは、より正確なモデリングのために保険料リスクと準備金リスクを分割し、それらの間の分散を考慮に入れている。 最後に、解約リスクは保険料リスクを通じて捉えられる。

分散化:標準式では、地理的な分散化は明示的に認識されていない。内部モデル集約アプローチでは、AXAグループがグローバルに事業を展開しているため、地理的な分散を考慮している。

 
2 XL事業体については、2018年はバミューダの標準式SCRに基づいて、同等性に従って評価されていたが、2019年はソルベンシーIIの標準式で算出された。2020年には、さらに内部モデルで算出する形に変更されている。
(2) Allianz
AllianzのSCRの構成は、以下の図表の通りとなっており、内部モデルによるものが、分散効果控除前のSCRの76.3%を占めている。

全ての主要な保険会社は内部モデル(ただし、米国子会社は同等性)でカバーされており、EEA(欧州経済地域)における小規模会社は標準式に基づいている。EEA域外の小規模会社は帳簿価格控除法(各会社の帳簿価格をグループの適格自己資本から控除)を適用している。また、単体SCRの決定において標準式を使用している会社は、グループSCRの集計において、標準式による結果を使用している。

Allianzの場合、標準式と内部モデルの場合のリスクカテゴリの開示項目が異なっているので、AXAのようにリスクカテゴリ毎の内部モデルの使用割合は必ずしも算出できない。ただし、例えば、引受けリスクの内部モデルの使用割合は全体平均に比べて低くなっている。

さらに、分散効果による控除率が33.6%となっている。

なお、分散効果17,625百万ユーロのうち、内部モデルにおけるものが12,038百万ユーロ、標準式におけるものが5,586百万ユーロとなっている。
AllianzのSCR(ソルベンシー資本要件)
Allianzは、分散効果について、以下のように説明している。
 

分散化と相関の前提
当社の内部モデルは、グループレベルで結果を集計する際に、集中、蓄積及び相関の影響を考慮している。結果として生じる分散化は、全ての潜在的な最悪のケースの損失が同時に実現する可能性があるというわけではないという事実を反映している。私たちは、様々な事業セグメントや地域にまたがって様々な商品を提供する総合的な金融サービスプロバイダーであるため、分散化は当社のビジネスモデルにとって重要である。

分散化は通常、相互依存的ではない、又は部分的にのみ相互依存する複合リスクを見るときに発生する。重要な分散化要因には、地域(例えば、オーストラリアの暴風雨とドイツの暴風雨)、リスクカテゴリ(市場リスクと引受リスク等)及び同じリスクカテゴリ内のサブカテゴリ(商業用又は個人用等の損害保険リスク)がある。最終的には、分散化は、問題の投資商品又は保険商品のそれぞれの特徴とそれぞれのリスクエクスポージャーによって左右される。例えば、オーストラリアの会社におけるオペレーショナルリスクの発生は、ドイツの会社が保有するフランス国債の信用スプレッドの変動とは全く無関係であると考えることができる。

可能であれば、過去10年以上にわたる四半期毎の観測を考慮して、過去のデータを統計的に分析して、市場リスクの各ペアについて相関パラメータを導出する。過去のデータやその他のポートフォリオ固有の観察結果が不十分又は利用できない場合、相関関係設定委員会が相関関係を設定する。この委員会は、リスクの専門知識とビジネス専門家を明確かつ統制されたプロセスで結合する。一般的に、専門家の判断を使用するときは、悪条件下でのリスクの共同の動きを表すために相関パラメータを設定する。これらの相関関係に基づいて、適用されたモンテカルロシミュレーション内で定量化可能なリスクの発生源の依存構造を決定するために、業界標準の手法であるガウスコピュラを使用する。

リスクカテゴリ間の分散を表すグループ全体の分散効果は、(上の表に示すように)17,625,009千ユーロになる。

(3) Generali
GeneraliのSCRの構成は、以下の図表の通りとなっており、これによれば、内部モデルによるものが、分散効果控除前のSCRの80.9%を占めている。

なお、GeneraliはSCR(分散効果等反映後)の構成を開示しているが、それによると、内部モデル 79.4%、標準式 17.1%、その他3.5%となっている。

内部モデルは、イタリア、ドイツ、フランス、チェコ、オーストリアの会社等に対して適用されている。スイスとスペインの会社は、グループSCRの算出のためだけに内部モデルの使用が承認され、ローカルではそれぞれSST(Swiss Solvency Test)及び標準式による資本要件に従っている。2021年中に、追加のドイツの会社に対する内部モデルの適用の拡張に対する認可の申請が行われている。

他の残りの保険会社は標準式でグループSCRに貢献している。特に2019年末からGenerali Chinaは保有割合を考慮して、グループSCRに比例アプローチで統合されている。他の金融機関(銀行、年金基金等)は、ローカルのセクター資本要件でグループSCRに反映されている。

Generaliにおける内部モデルは、金融、信用、生命保険及び損害保険引受リスクに加えて、オペレーショナルリスクに対して適用されている。
GeneraliのSCR(ソルベンシー資本要件)
Generaliは、分散効果について、リスク別の状況を以下の通りに開示している。
リスク毎の分散効果
また、これに関連して、分散効果に関して、以下の説明が行われている。なお、ここでの数値は、税吸収効果前の数値に基づいているので、上記図表とは全体の分散効果の数値等が異なっている。
 

E.4.3.内部モデルで使用される手法 分散効果」
相関行列と関連する周辺分布の前提によって生成される潜在的な暗黙の分散化については、次のようにして発生する。

・異なる市場指数(例えば、株式市場はセクター別指数と地理的指数の間である程度の分散化を保持している)

・異なるセグメント(分散化は、中長期的なキャッシュフロー及び市場の実現と保険契約者の行動との間の関連する相互作用を伴う生命保険事業ならびに短期的なエクスポージャー及び一般的には金利の動きからは反対の効果を有する損害保険事業との共同存在から発生する)

・異なる地域(伝播や相互作用の影響が限定された、異なる地域で販売されている損害保険事業及び生命保険事業)

・異なるビジネスモデル(例えば、保険契約者との利益分配の水準及びポートフォリオの関連する経営行動)

・異なるリスク(例:異なるリスクの発生確率は同じではなく、その結果、共同イベントは100%未満の相関を持つ。例として、自然大災害イベントは金融市場イベントから独立しているが、その逆は当てはまらない)。

これら全ての要素は、関連する分散効果を生み出す一貫した方法でグループSCRに貢献している。

最後に、グループ部分内部モデルは、内部モデルの範囲と標準式の範囲との間の相互作用を評価するために、「2つの世界(two world)」のアプローチを利用する。規則で定義されているように、このアプローチでは、「2つの世界」の間で保守性を重視した分散化のメリットを享受できない(例えば、内部モデル範囲と標準式範囲の金利SCRが反対の経済シナリオによって生成される場合)。

定量的な結果に関しては、セクションE.2で提供された情報に基づいて、地理、セグメント、ビジネスモデル、及び詳細なリスク・モジュールの間の分散が既にSCRリスクカテゴリに組み込まれていることを考慮して、主要なリスクカテゴリ間で生じる分散効果を図表にまとめている。

一般論として、金融イベントとクレジットイベントは互いに強く相関しており、限られた分散化を提供する(すなわち、金融イベントとクレジット強調イベントが同時に発生する可能性が高い)ことは明らかである。生命保険及び健康保険の引受リスクは、主にバイオメトリックイベントによって引き起こされることを考えると、他のリスクカテゴリとの相関は弱い。 損害保険引受リスクは、金融イベント(イールドカーブの変動、インフレ、取引相手の信用力)と実質的に相関しており、これは示されている分散効果を説明している。最後に、オペレーショナルリスクは、当グループが選択した前述の「2つの世界」のアプローチに沿って、他のどのリスク分類とも分散化していない。最終的な全体的な分散効果は、大部分のエクスポージャーが引受リスクよりも金融上及び信用上のリスクにさらされていることによるものである。

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中村 亮一

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