2021年07月06日

英国EU離脱プロセスの回顧-貿易協力協定の合意から完全離脱後まで-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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≪英国のEU完全離脱からの1カ月で見えてきたこと(「Weeklyエコノミスト・レター」2021年1月29日号再録)≫

1――英国のEU完全離脱は「ハードな離脱」
 
20年末に英国がEUを完全離脱し、21年初から英国とEUの関係は「貿易協力協定(TCA)」に基づく関係に変わった。

英国のEU離脱は、協定なしこそ避けられたものの、英国が完全離脱の早期実現と主権の回復、EUが単一市場の原則を重視した結果、経済活動への打撃が大きい「ハードな離脱」となった。
2――新協定TCAの範囲は限定的かつ可変的、北アイルランドの特別な位置づけも流動的
 
TCAはカバーする範囲は広いが、単一市場、関税同盟を形成してきた関係を引き継ぐ協定としては限定的だ。TCAは、関税ゼロ、数量規制なしのFTAを基礎とし、英国とEUの接続性を保ち、EUプログラムの一部への参加など広範な領域にわたる。しかし、金融サービス、データ保護、衛生植物検疫(SPS)措置などはEUの一方的権限として協定外とされた。TCAに基づく関係とEU加盟国としての権利には範囲の面でも深さの面でも大きな差がある。

TCAは可変的でもある。TCAは5年ごとに見直しを行う。様々な障壁は、英国が規制の乖離の自由を取り戻した代償だが、規制の乖離の権限は実際には行使されないかもしれず、行使すれば、EU市場のアクセスの悪化を招くかもしれない。EUは、関税ゼロ、数量規制なしのFTAの前提として競争条件の公平性確保を求めたため、社会・雇用、環境・気候変動の領域では共に高い水準を維持する非退行条項(non-regression clause)や、補助金ルールでの約束違反があった場合には、仲裁パネルを設置、違反が認定されても修正や補償に応じなければ、他方は義務を停止できる。12カ月前の通告による停止もあり得る。

北アイルランドとアイルランド共和国との境界管理の新たな枠組みは、TCAではなく20年1月末の離脱とともに発効した離脱協定のアイルランド議定書が移行期間終了とともに導入されたが、4年後には継続の是非を北アイルランド議会が単純過半数で決定することになっている。その後も投票は原則として4年毎に行う。早ければ4年後あるいはその先に新たな枠組みへの置き換えの議論が始まる可能性がある。
3――ハードな完全離脱の影響の表れ方は業種や規模、地域によって異なる
 
完全離脱後の英国内では混乱や波紋も広がっている。「ハードな離脱」にも関わらず、TCAの合意は、20年12月24日、全文が明らかになったのが同26日と発効の直前になった。しかも、経過期間や経過措置はごく限定的だ。離脱推進派のジョンソン政権が、離脱実現のため、意図的に主権回復を重視した関係に変わることによる弊害が周知されなかったことが混乱を助長したという見方もある。

完全離脱の影響を、統計で確認することは困難だが、影響の表れ方は、業種や規模、地域によって異なっている。

サービス分野は、英国の総付加価値の8割、英国とEU間の貿易の3分の1を占めるが、単一市場から離脱し、母国法主義(母国の法令等で許可されている場合、他の加盟国の許可を得ることなく、その国でサービスを提供し得る原則)」の適用外、単一パスポートの圏外となったことで、英国からEU市場へのサービス提供の自由度は大きく低下した。専門資格の相互承認も見送られた。EU圏内でのサービスの自由を確保するためには、EU圏内に拠点を設けることが原則となった。
4――金融業は同等性評価すら見送られているが、事前準備も進展しており混乱は見られず
 
金融サービス業は、英国の総付加価値の7.1%(2018年時点)を占め、総輸出額608億ポンド(2019年)に上る。ビジネスサービス(総付加価値7.8%、輸出額1048億ポンド)と共に英国が競争上の優位を保ってきた分野だ。英国の金融サービス業の総付加価値の5割は首都ロンドンで生み出されており、ロンドンの国際金融センターは、EUの金融の中心的な役割を果たしてきた。ところが、TCAでは、EUと日本やカナダとの協定とは異なり、金融は対象外とされた。EUが第3国の規制を同等とし、市場アクセスを認める「同等性評価」の判断も先送りされ、3月末までに規制協力の枠組み構築に関する覚書締結を目指すことを確認するに留まった。

移行期間終了後の「経過措置」も限定的なものに留まった。英国側はTCA合意前の11月9日の段階で、規制の同等性を認めるパッケージを公表しているが11、EU側は、英国を拠点とする中央清算機関(CCP)の利用を2022年6月末まで、証券決済機関「ユーロクリアUK&アイルランド」を21年6月末まで第3国機関として同等性を認めるに留めている。

今後締結を目指す覚書も、情報交換や同等性評価に関する対話の枠組みなど関するもので、国際条約と同等の法的拘束力はなく、市場アクセスはカバーされないと見ている。EUには、単一金融市場の一体性と安定性確保のため、ユーロ建て資産についてのロンドンへの依存度を引き下げたい思いがあり、規制の自由を望む英国に歩み寄るインセンティブは乏しい。

このように英国の完全離脱は、金融セクターにとって、かなりハードなものであり、移行期間終了後、最初の取引となった1月4日には、欧州全体の株式取引の6分の1に相当する60億ユーロ規模がロンドンから他のEU主要都市にシフトしたが12、市場の混乱はみられない。英国政府が離脱決定後の早い段階から、単一パスポート圏内に留まらない方針を示し、監督当局も対応を促してきたため、金融セクターでは事前の準備が進んでいたからだ。2016年の国民投票以降の在英国の金融機関によるEU圏内への拠点の新設や増強、人員、資産の移管は、会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)の調査によると、2020年9月末までに、移管した雇用は7500人、新たにEUで創出した雇用は2800人、資産は1兆2千億ポンドに達するという13
 
11 HM Treasury equivalence decisions for the EEA States – 9 November 2020 Published 9 November 2020
12 ‘EU share trading flees London on first day after full Brexit’, Financial Times, January 5 2021、ロンドンでEU株を扱っていたCBOEヨーロッパとロンドン証券取引所(LSE)傘下のターコイズはアムステルダム、アクイス・エクスチェンジはパリに開設していた拠点に取引を移管した。Brexit Forces Bankers to Shift Trading of European Stocks Out of London, The Wall Street Journal, Jan.4, 2021によれば、CBOEヨーロッパは90%、アクイス・エクスチェンジは100%取引を移管した。
13 EY Financial Services Brexit Tracker: Financial Services Firms continue moving staff ahead of Brexit deadline, with total jobs relocating from London to Europe now over 7,500, 1 Oct 2020による。英国でのオペレレーションが一定規模以上の222の金融機関が公開した情報に基づく調査。
5――財の貿易に生じた障壁、小規模企業への重い負担
 
ジョンソン首相は、EUとの合意を発表した12月24日のスピーチ14で「1月1日から関税の柵はない。非関税障壁もない」と述べたが、実際には、財の貿易には通関手続き、衛生植物検疫(SPS)、付加価値税(VAT)、ゼロ関税適用のための原産地証明、適合性評価など新たな障壁が出現している。

原産地規則では、それぞれのFTA締約国を累積対象に加える「拡張累積」の採用は見送られた。電気自動車(EV)、バッテリーなど特定の品目では、一定期間、高めの非原産割合を認められたことで、アジアからの原材料を利用しているケースでも、当面はゼロ関税の恩恵を享受できる見通しとなった。

小規模な企業は、新たに導入された輸出入申告のシステムへのアクセスも含め、「ハードな離脱」で出現した障壁への対応に苦慮している15。大企業の間でも、新たに出現した障壁を前提に採算性を再検討し、サプライ・チェーンを見直す動きが広がると見られるが、小規模な企業では、コロナ禍による疲弊も重なり、英国-EU間のビジネスを断念するケースも増そうだ。

21年初から英国の輸出業者が直面した問題の1つに、英国が第3国となったことで、EU内の顧客から、従来は不要だった輸入時に支払う付加価値税(VAT)の負担を求められるケースがある。英国の事業者の選択肢は、肩代わりして支払うか、EUへの輸出を断念するか、商品流通拠点を新設し、VATの還付を受けるかになる。急遽、EU域内に拠点の新設に動く企業も増えているという16

VAT問題や事務負担の増大は、EUの輸出業者や運送業者にも生じている。フランスからアイルランド共和国向けに輸送する業者が、英国での事務手続きや通関の遅れを避けるため、海路を選択するケースも増加している17

個人レベルでも、オンライン・ショッピングでの商品の配送料等の引き上げなどに「ハードな離脱」の影響が実感されるようだ。深刻なものとしては、処方箋の相互承認を見送られたことで18、オランダ製の医療用大麻を原料とする抗てんかん薬の英国への輸出禁止となった問題があり、双方の合意で、6カ月の猶予期間を設けることで当面の対応が採られた。
 
14 Prime Minister's statement on EU negotiations: 24 December 2020
15 ‘Making Brexit Work’, Times, 22 January 2021
16 ‘A Brexit nightmare': the British businesses being pushed to breaking point’, The Observer, 24 January 2021
17 ‘After Brexit, Ireland and France cut out the middleman - Britain’, Reuter , 22 January 2021などによれば、従来はユーロトンネルでドーバー海峡を渡り、ウェールズのホーリーヘッドからアイルランドのダブリンへのフェリーを利用する所要11時間の英国経由のルートが好まれていたが、1月には所要17時間のフランスのシェルブール港からアイルランドのダブリン港に向かうフェリーを選択するケースが増え、今年1月のシェルブール港のトラックの通過台数は9000台と前年同期の3倍に増えた。デンマークのオペレーターが新設したフランスのダンケルク港とアイルランドのロスレア港を結ぶ週6日運航するフェリーもほぼ満員の状態が続いている。
18 ‘Government to offer reprieve after Brexit halts medical drug supply epileptic children’, The Independent, 26 January, 2021
6――スコットランドの海産物の輸出の困難化、北アイルランドでの食品不足などの問題も
 
地域別には、スコットランドの漁業、北アイルランドでの食品の流通などに「ハードな離脱」の弊害が表面化する事例がある。

漁業は、英国が、TCA交渉で主要な交渉課題とした分野だが、漁業割当を巡る合意内容は「主権の回復」の期待を大きく下回るとして批判にさらされ19、年明け以降は、新鮮な海産物のEUへの輸出自体ができなくなる深刻な事態に直面している20。英国船籍の漁船による漁獲量の6割は英国で最大の漁港・ピーターヘッドがあるスコットランドで水揚げされ、輸出先はフランス、次いでオランダ、アイルランドと上位をEU加盟国が占める21。英国政府は、中小の漁業者、海産物輸出事業者を対象に1月1日以降の損失をカバーするための2300万ポンド相当の支援プログラムが速やかに利用できるよう準備を進めている22

グレート・ブリテン島から北アイルランドに向けた物流にも混乱が生じ、北アイルランドのスーパーマーケットでは食料品不足が生じている。北アイルランドは、TCAではなく、離脱協定の議定書に基づく、「関税区域は英国で、英国の関税率、FTAが適用されるが、財の規則はEU規則が適用される」特別な位置づけとなった。北アイルランドが、事実上、財の単一市場に残留した形であり、SPS、農産物、VAT、国家補助金もEUの規則に従う。このため、グレート・ブリテン島から北アイルランドへの物流には、国内でありながら、通関申告や動植物、食品には衛生証明書が必要になった。北アイルランドのスーパーマーケットなど輸入業者の食品安全証明書を移行期間から3カ月間免除する措置で緩和されているものの、追加的な事務的な手続き、物流の遅延、これらに伴うコストを回避するため、北アイルランドへの出荷や輸送を停止する企業が出たことが北アイルランド向けの食品の流通に影響を及ぼしている。アイルランドの議定書第16条の適用が、重大な経済、社会、環境上の困難の持続や取引の迂回を引き起こした場合、一方的な発動が認められている「セーフガード条項」の発動の可能性が早くも取り沙汰されている。

スコットランドでは、一貫して反対してきたEU離脱の現実化、英国のコロナ対策への不満、スタージョン州首相への人気が加わり、独立を求める住民投票の実施への機運が高まっている。今年5月の議会選挙では、与党・スコットランド民族党が過半数を制する見通しであり、一貫して住民投票の再実施に反対の立場を採る英国政府との対立は法廷闘争に発展するとの観測もある。

北アイルランドでは、英国との一体性を重視するユニオニストに不満が募り、アイルランド共和国との統一を支持するナショナリストへの追い風となりやすく、アイルランド和平への圧力の高まりが心配される。
 
19 26年までの5年間でEU側が英国水域における漁業割当の25%を段階的に返還する。
20 1月18日にはスコットランドの海産物輸出業者らがロンドン中心部の政府庁舎付近にトラック約25台を停車し、抗議活動を行った。‘Rotting fish, lost business and piles of red tape. The reality of Brexit hits Britain.’ CNN Business, January 23, 2021では、英国からスペインへの海産物の輸出は、これまで1枚のカバーレターで行えたものが、完全離脱後は26のプロセスが必要になったという事例が紹介されている。
21 UK sea fishery statistics 2019による
22 ‘UK outlines support for Brexit-hit seafood exporters.’ Just-Food, January 23, 2021.
7――共振するコロナ禍とハードな離脱の影響
 
完全離脱は、新型コロナの変異株の感染拡大とタイミングが重なった。

英国経済は、すでにコロナ禍で深刻な打撃を受けている。2020年のGDPは、国際通貨基金(IMF)の21年1月予測によれば、前年比マイナス10.0%と主要先進国で最悪の落ち込みとなる。21年はワクチンの普及による制限緩和を前提に、同プラス4.5%と米仏に続く高成長だが、短期間で危機前の活動水準に届くV字型回復とは程遠い。

英国は新型コロナの感染被害も深刻だ。英国では、12月に変異株の感染が急拡大し、行動制限の強化で感染拡大のペースは抑えられてきたが、死亡者数の増加は続いている。1月29日時点での累計感染者数は375万4448人、死亡者数は10万3324人で世界第5位、欧州で最悪の状況だ。

英国の新型コロナを巡るほぼ唯一の好材料は、1月23日にはワクチンの接種が人口100人あたり11.67回と、主要先進国では米国の7.45回を上回りトップに立っており、イタリアの2.68回、フランスの2.51回を大きく引き離していることだ。他方、ワクチンの確保が、英国とEUの新たな対立の火種となる気掛かりな動きも見られる23

英国では、他の多くの国と同じく、実質GDPだけでなく、財・サービスの貿易、投資の縮小、失業率の上昇など、経済指標は軒並み悪化しており、経済の収縮と経済対策の膨張により、財政赤字と政府債務は急増している。

こうした経済指標の悪化は、EU離脱が影響を及ぼした面もあると思われるが、コロナ禍の影響が遙かに上回っているだろう。

コロナ禍の影響は、業種により非対称的で、所得や地域の格差を増幅し、EU離脱の影響を見えにくくする。コロナ禍の拡大が始まって以来の雇用の減少24は、行動制限が直結する対面サービス(宿泊・飲食、卸・小売り、娯楽)で顕著だが、これらの業種の賃金水準は中位値より低い。他方、金融、IT、専門サービス業は、賃金水準が高く、リモートワークで感染リスクが軽減でき、かつ、雇用への影響は限定的だ。金融、IT、専門サービスは、ロンドンへの集中度が高い。コロナ禍が始まった2020年2月から12月までの金融サービスの給与所得者数の減少は、1万149人で、EU離脱対応の人員シフトのペースと概ね合致する。同じ期間の宿泊・飲食での減少は34万3124人、卸・小売りが16万5817人と遙かに大きい。

コロナ禍とEU離脱の影響は中期的に共振し続けるおそれがある。コロナ禍は感染収束後も、家計や企業、政府のバランスシートの調整圧力やマインドへの影響として残存する。新システムへの不慣れなどから生じる初期の問題は解消しても、隣接する巨大市場へのアクセスの悪化をカバーするコストは、解消はしない。

EU離脱後の成長戦略は図らずもコロナ禍の復興という意味を持つことになった。英国は、グリーン化にも意欲的だが、EU離脱で手にした主権の行使という点では、欧州を超えて世界に広がる「グローバル・ブリテン」戦略が重要だ。近く、本格的な一歩として環太平洋経済連携協定(TPP)参加の正式表明に動くなど、取り戻した通商交渉の権利を積極的に行使しようとしている。

しかし、向こう数年間、英国は国内の経済対策、とりわけ格差是正策と、遠心力が強まりやすくなっている連合王国の統合維持のための政策を最優先せざるを得ず、「グローバル・ブリテン」戦略に割ける政治的な資源には限りがあるだろう。
 
23 「コロナワクチン供給巡り対立深刻化、EUとアストラゼネカ」ロイター、2021年1月28日
24 英国の労働市場の動向については、経済・金融フラッシュ「英国雇用関連統計(12月)-再ロックダウンで休業者も再び増加へ」もご参照下さい。
8――ポスト・ブレグジットのグローバル・ブリテン戦略と日本
 
日本と英国は、外交的には開かれた多国間のルールに基づく枠組みから利益を得ており、共に支持する立場を同じくしていることから、国際舞台で共同歩調をとる場面は増えるだろう。

TCAと同時に発効した日本と英国の包括的経済連携協定(日英EPA)は、英国にとって、グローバル・ブリテン戦略の最初の大きな成果である。英国の財の貿易相手国・地域ではEUがおよそ半分を占めるなど欧州圏内の比重が高いが、欧州圏外では、日本は、米中に続く位置を占める。日英EPAは、20年9月11日に大筋合意に至ったもので、19年2月に発効した日EU・EPAの内容をおおむね踏襲しつつ、英国における日本企業のビジネスに直結する分野では日EU・EPAを超える合意もある25。原産地規則では、多くの産品で、EU原産材料又はEU域内における生産を、それぞれ日英EPA上の原産材料又は生産とみなすことができる「拡張累積」も認めている。

日本は、英国のTPP参加にも協力する立場であり、日英EPA調印時には、英国のTPPの早期加盟を支援する旨の書簡も交わしている。
 
25 外務省経済局「日英包括的経済連携協定(EPA)に関するファクトシート」では、日EU・EPAを超える内容として、鉄道用車両・同部品や一部の自動車部品の関税の即時撤廃や、一部の産品の品目別原産地規則の緩和について触れている。
9――EU離脱の日本へのマクロ的な影響は軽微、企業は対応を迫られる
 
英国のEU離脱の日本経済へのマクロ的な影響は限定的だ。日本の貿易総額(輸出+輸入)に占めるEUのシェアは2020年時点で10.5%、英国は1.3%である。2020年は、コロナ禍により、ほぼ全ての相手国・地域で貿易が縮小したが、経済活動の再開が比較的順調に進んだ中国向けの輸出は増加し、日本の対中貿易依存度は23.9%まで上昇した。日本にとってEUは、中国、ASEAN(貿易シェア15.1%)、米国(同14.7%)に続く第4の市場という位置付けである。輸出先としてもEUのシェアは9.4%で、中国(同22.0%)、米国(同18.4%)、ASEAN(同14.4%)に続く第4の市場、英国は同1.7%に留まる。

しかし、英国の拠点からEU市場への財やサービスの提供や、英EU間でクロスボーダーなサプライ・チェーンを構築してビジネスを展開してきた場合などは、英国をEU市場へのゲートウェイとして活用するビジネス・モデルを見直す必要がある。

英国が、TPPに参加することになれば、日本-英国-EU間に複数のFTA/EPAが関わるようになる。これらを活用することによる関税負担の軽減余地は拡大することになるが、それぞれの協定で原産地規則等が異なるため、貿易管理業務は複雑化する。在英国企業ほどの緊急性はないにせよ、日本企業も新たな環境に対応するための選択を迫られる。
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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