2021年07月02日

新型コロナについての法的対策の変遷-感染症法・特措法の改正と運営

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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4――法令改正期(第三期)

1|感染症法の改正
改正感染症法は、2021年2月3日に成立した(2月13日施行)。

上述の通り、新型コロナには新型コロナ政令で感染症法が適用されていて、政令の期限は2021年3月27日までとされていた。これに対して、新たに定めた改正感染症法では、新型コロナウイルス感染症および再興型15コロナウイルス感染症が、新型インフルエンザ等感染症の一類型として追加された(第6条第7項第3号、第4号)。つまり、新型コロナに関する感染症法の適用が法律本文で定められ、感染症法が恒久的に適用されるようになり、新型コロナ政令は廃止された。また、以下のような改正が行われた。
 
第一に、積極的疫学調査の実効化を図るべく、調査協力拒否に対して罰則が導入された。改正感染症法では、積極的疫学調査の対象となる者のうち、患者が調査協力を拒否した場合には、協力に応ずべきことを命ずることができる(改正感染症法第15条第8項)。ここでいう患者には、疑似症患者のうち、り患していると疑うに足る正当な理由のある者、および無症状病原体保有者をも含む(感染症法第8条第2項、第3項)とされている。協力の命令にあたっては所定の項目を記載した書面を交付しなければならない(改正感染症法第15条第10項、第11項)。命令を受けた患者が正当な理由なく答弁を拒否した場合や虚偽の答弁をした場合、あるいは正当な理由がなく調査を拒否・妨害・忌避した場合に30万円以下の過料を課すこととされた(改正感染症法第81条)。

第二に、入院等の措置についての改正がある。まず、新型コロナの患者のうち、65歳以上の者や呼吸器疾患を有する者など、省令で定める重症化のおそれがある患者には入院を勧告する(改正感染症法第26条第2項で準用する同法第19条第1項、改正感染症法施行規則第23条の6)。入院勧告に従わない者には入院をさせることができる(入院措置、改正感染症法第26条第2項で準用する同法第19条第3項)。

重症化のおそれがないとされる患者には宿泊療養・自宅療養の協力を求める(改正感染症法第44条の3第2項)こととされた。この点は、すでに運用としてなされていたが、今回明文の根拠を設けたものである。宿泊療養・自宅療養の協力要請に従わない者に対しては、入院の勧告および入院措置をすることができる(改正感染症法第26条第2項)。患者が入院勧告を受けて入院し、あるいは入院措置を受けて入院したときであって、その期間中に逃げた場合、または入院措置を受けたのに、正当な理由がないのに入院しなかった場合に新たにペナルティを課すこととした。具体的に違反者には、50万円以下の過料を課す(改正感染症法第80条)こととされた。

第三に、厚生労働大臣と都道府県知事の権限強化である。現行法では、厚生労働大臣は緊急の必要があると認めるときは都道府県知事に対して指示ができる(感染症法第63条の2)とされていた。改正法では、このような場合に加え、厚生労働大臣は都道府県知事が法令に違反している場合や事務管理や執行を怠っているときにも指示ができるとした(改正感染症法第63条の2第2項)。これは、都道府県によっては感染状況や取組体制等に差異があることなどを踏まえ、国として整合的な措置がとれるようにするとの趣旨のものである。また、入院病床などの配分が市区町村レベルでは効率的な分配に限界があることを踏まえ、都道府県知事の権限として、入院勧告・措置等の総合調整を行えることとされた(改正感染症法第48条の3)。

特徴的なのが、感染症法第16条の2の改正である。この規定は、厚生労働大臣および都道府県知事の医療関係者に対する協力要請を定めている。改正法は協力要請の対象者に民間検査機関を追加するとした。そして「協力要請」を行った対象者が正当な理由がなく協力しなかった場合は「勧告」を行うことができ、さらに勧告に従わない場合にはその旨を公表できるとした(改正感染症法第16条の2)。これは、当初、民間検査機関等の活用が進まなかったことや、民間検査機関が陽性判定を行っても、必ずしも公的検査機関での再検査や医療機関入院へとは連携されなかったことなどを踏まえた改正とされている。なお、この条文によって、新型コロナ患者の受け入れを民間病院に求め、従わない民間病院を公表することとも可能となった。しかし、民間病院に必ずしも新型コロナ患者を受け入れ可能な施設や専門要員があるとは限らないことからは、少なくとも実情を無視した一方的な勧告を行うことはないと考えられるであろう(図表4)。
【図表4】改正感染症法の概要(太字が改正部分)
 
15 再興型コロナウイルスとはいったん終息したコロナウイルスが再び感染し、まん延するものをいう。
2|特措法の改正
改正特措法も改正感染症法と同じく2021年2月3日に成立した(2月13日施行)。

今回の改正のポイントとしてはまず、従前の法律附則を収束し、法律本文で新型コロナが新型インフルエンザ等に含まれるものと明記した(改正特措法第2条第1項第1号。改正感染症法第6条第7項を引用して定義)。このことにより、新型コロナに対しても、特措法が恒久的に適用されることとなった。以下で新型インフルエンザ等というときは新型コロナを含む。
 
第一に緊急事態宣言発出前に営業の時短要請ができるとする、まん延防止等重点措置制度の導入である。新型インフルエンザ等が特定の区域でまん延し、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある場合には、まん延防止等重点措置を公示することができる(改正特措法第31の4)。細部を除けば、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置との相違は、前者が全国規模の感染拡大があることをその要件としているのに対して、後者、つまり今回導入されたまん延防止等重点措置は、区域レベルでの感染拡大があることをその要件とする。そのため、都道府県単位で自粛要請がしやすくなる。

まん延防止等重点措置における自粛要請として定められているのは、特定の業態の事業者に対する営業時短や従業員への検査勧奨、手指の消毒設備設置などの感染予防対策等の要請である(改正特措法第31条の6第1項、改正特措法施行令第5条の5)。住民に対しては、要請対象となった業態の店舗等の場所に時間外にみだりに立ち入らないこと等が要請される(同条第2項)。正当な理由がないのに営業時短等要請に従わない事業者には要請されている措置をとるよう命ずることができ、命令違反に対しては20万円以下の過料が課される(改正特措法第80条)。これらの要請・命令にあたっては学識経験者の意見を聞き(改正特措法第31条の6第4項)、命令を行ったときは、その旨を公表することができる(同条第5項)。なお、都道府県知事には命令を出すにあたっての報告徴収、立入検査等の調査権限が認められる(改正特措法第72条)。緊急事態宣言のもとで命令を出すにあたっても同様の調査権限が認められる(同条)。

まん延防止等重点措置は緊急事態宣言よりもその発出の要件は軽いが、必要な措置を行うことが可能である。ただし、営業自粛要請ができない点で、行える措置は一部限定的となっている。

第二に、緊急事態宣言に基づく協力要請に対して、正当な理由がないのに従わない事業者に対する当該措置を講ずべき「指示」を、「命令」に格上げし(改正特措法第45条第3項)、措置を講ずべきとの命令への違反に対しては30万円以下の過料を課すことができる(改正特措法第79条)こととした。まん延防止等重点措置と緊急事態宣言に基づく措置命令違反には過料が課せられることとなっているが、過料の上限金額がいずれも原案から引き下げられている。

第三に、国および地方自治体は、新型インフルエンザ等、および新型インフルエンザ等に関する措置により、経営に影響の及んだ事業者に対して、財政上の支援を効果的に講ずるものとした(改正特措法第63条の2)。一部には、補償と自粛要請がセットだとの主張がなされることがあったが、営業自粛要請を受けていない事業者であっても、新型コロナは経営に甚大な影響を及ぼしているケースも考えられる。また、政府の財源も無限でないことや、支援金の早期支給の必要性などを考慮すると、自粛要請に対する補償として支援規定を明確に限定して位置づけてしまうと、財政支援の自由度が失われる懸念がある。改正特措法では、政府は義務的に財政支援を行うものとされており、かつ柔軟な支援が可能となるような書きぶりとなっており、妥当と思われる。

第四に、国および地方公共団体における新型インフルエンザ等に関する差別的取扱い等についての情報収集と、差別が行われないようにする啓発活動の実施である。感染症の歴史は差別の歴史でもある。患者や医療従事者などに対する偏見や差別が解消されるよう、政府をはじめ、関係各所は取り組む必要がある(図表5)。
 
【図表5】改正された特措法の概要(太字が改正部分)

5――改正法適用期(第四期)

5――改正法適用期(第四期)

1|まん延防止等重点措置
第二次緊急事態宣言解除後、英国やインドで見つかった感染力の強い変異種の影響などもあり、すぐに感染者数が大幅に増加することになった。そこで2021年4月5日には宮城県、大阪府、兵庫県にまん延防止等重点措置が発出された。4月12日にはさらに東京都、京都府、沖縄県が追加された。その後も、4月20日から埼玉県、千葉県、神奈川県、4月25日から愛媛県、5月9日から岐阜県、三重県、5月12日から北海道、5月16日から群馬県、石川県、岡山県、広島県、熊本県がそれぞれ追加された。

まん延防止等重点措置では、飲食店の時短営業が求められていたが、当初は営業が8時まで、酒類提供が7時までということであった。しかし、後述の通り、居酒屋等でクラスター発生があったため、緊急事態宣言対象地域で酒類提供の終日制限が入れられたことに合わせる形で、酒類提供は終日自粛という方針となった。
2第三次緊急事態宣言
東京や大阪では、まん延防止等重点措置によっても感染が収束に向かわず、東京都、京都府、大阪府、兵庫県の一都二府一県で4月25日から緊急事態宣言へと一段強化された。時期は5月11日までとされたが、感染者数の減少を見ることができず、5月31日まで延長された。その後、愛知県、福岡県に5月12日から5月31日まで、北海道、広島、岡山については5月16日から5月31日まで、沖縄県に5月23日から6月20日まで緊急事態宣言が発出された。本稿執筆時(2021年6月1日)では、当初より6月20日までとされていた沖縄県に加え、9都道府県にも6月20日までの緊急事態宣言延長が行われた。他方、まん延防止等重点措置について、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、三重の5県の期限を5月31日から6月20日まで延長された。ただし、群馬、石川、熊本の期限は6月13日から延長しないこととされている。

第三次の緊急事態宣言が行われる前には、居酒屋やカラオケにおけるクラスターが発生したが、特に昼のカラオケや、昼飲みの居酒屋が問題視された。このため、時短要請では足りないと考えられたことから、酒類提供を行う店、およびカラオケを提供する店は、居酒屋かどうかなど業種に限らず、営業をしないよう要請されている。また、店が提供せず、客が酒類を持ち込む等の抜け穴を利用して営業していた飲食店もあったが、それらも制限対象となった。
 

6――おわりに

6――おわりに

住民に対する外出自粛要請は、改正特措法でも要請にとどまりペナルティをもって強制をしているわけではない。そのため、現在の緊急事態宣言では、人流抑制を目的に幅広い業種に営業停止を要請せざるを得ないことになっていると思われる。クラスター発生のエビデンスがないような業種にも休業要請が出ているのは、このことを踏まえたものと思われる。

言い換えると「行先」をなくすことで人流を抑えるという方式である。他方で、エビデンスもないのに休業要請を求められる事業者の私権制限は問題ではないかとの指摘もある。

日本では移動や営業の自由が認められるが、公共の福祉に反しない限りという限定付きである(憲法第22条第1項)。強制的な外出制限の導入も含め、憲法上どのような私権制限が認められるかどうかはしっかりと議論すべきである。憲法改正に議論が及ぶからと議論に消極的であってはならない。他方、新型コロナ対策は政局や他の政治目標と関係付けられてはならない。

インドで見つかった変異種は感染力も毒性も高いとの報告がある。また、ワクチンが有効である期間についてもどこまでであるかは不透明な部分が残されている。現行のままの改正感染症法・改正特措法で対応可能なのか、時間を無駄にせず、早急かつ丁寧に検討をしていく必要がある。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2021年07月02日「ニッセイ基礎研所報」)

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【新型コロナについての法的対策の変遷-感染症法・特措法の改正と運営】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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