2021年06月15日

人口問題に揺れる中国-第3子出生容認へ【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(47)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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1――10年ぶりの国勢調査の結果、二人っ子政策移行の効果は見られず、国の財政、経済成長を支える現役世代が減少。少子高齢化の急速な進展が明らかに。

中国では10年ごとに国勢調査を行っている。中国国家統計局は5月11日、第7回国勢調査の結果についてその概要を公表した1

その結果によると、総人口はこの10年間で5.4%増え、14億1178万人2となった。年齢別の構成割合については、0-14歳が17.95%(前回より構成割合は1.35ポイント上昇)、15‐59歳が63.35%(6.79ポイント減少)、60歳以上が18.7%(5.44ポイント上昇)を占めた。
 
労働の中核となり、経済成長や国の財政、更には社会保障財源を支える15-59歳の生産年齢人口3は4.8%減の8億9438万人となった。中国では、2012年に生産年齢人口がピークを迎え以降、減少に転じている。一方、60歳以上の高齢者人口はこの10年間で48.6%増と大幅に増加し、2億6402万人となった。上掲のとおり、高齢者は全人口の18.7%を占め4、高齢化が一段と進んでいることが分かった。
 
平均寿命も年々延びており、CEICのデータに基づくと、1981年の67.77歳から2019年では77.3歳となっている。その一方で、出生率は低下している。中国は2016年に一人っ子政策から二人っ子政策に移行したが、その効果が表れているとは言えない状態であろう。人口1000人あたりの出生数を示す出生率については10.48‰(2019年)と2018年に続いて最低を更新している。また、今回の国勢調査によると、1人の女性が一生の間に何人の子を産むかを表す合計特殊出生率5は1.3となり、日本とほぼ同じ水準であった6。1世帯あたりの平均人数は2.62人と3人を割り込む状態となっている。このように、中国では、出生率の低下と平均寿命の伸長が同時に進行し、生産年齢人口を中心とした若年層の構成比が低下し、それとともに高齢者の構成比が増加するという少子高齢化が急速に進んでいる。少子高齢化の進展は国力、国の安全保障のみならず、高齢者を現役世代で支える社会保障制度の維持にも大きな影響を与える可能性がある。
 
1 中国国家統計局「第七次全国人口普査主要数拠情況」、2021年5月11日公表
2 香港、台湾、マカオの居住者及び外国籍の者を除く。
3 中国では生産年齢人口を15歳‐59歳としており、60歳以上は高齢者と位置付けられている。
4 なお、65歳以上が総人口に占める割合は13.5%であった。
5 15歳から49歳までの年齢別出生率を合計したもの
6 毎日新聞「2020年の出生率は1.34 5年連続低下 出生数は過去最少」2021年6月4日、https://news.yahoo.co.jp/articles/cad2c94515017948effb2db74085a5e31e899fbc 2021年6月8日アクセス
 

2――「メイド・イン・チャイナ」を支えた出稼労働者の総数も初めて減少に。

2――「メイド・イン・チャイナ」を支えた出稼労働者の総数も初めて減少に。主力は30―40歳に変容し、平均年齢は41.4歳と高齢化。都市化の進展や都市での定住など積極要因も影響。

国政調査の結果とほぼ同時期に発表したのが、出稼労働者に関するモニタリング調査の結果である。それによると、2020年、全国の出稼労働者の総数は、前年より1.8%減少して2億8560万人となった。総数が前年割れとなったのは統計を始めた2008年以来初めてとなった(図表1)。
図表1 出稼労働者数の推移
また、出稼労働者の年齢構成をみると、人口動態と同様に高齢化が進んでいることが分かる。2020年は16-20歳が1.6%、21-30歳が21.1%と、20代までが全体の2割ほどにまで縮小している(次頁図表2)。一方、41-50歳が24.2%、51歳以上が26.4%と40代以上の構成が全体の5割を占めた。統計がとられ始めた2008年当初は、20代までが全体の46.0%、40代以上が30.0%と年齢構成としては逆転していた。
 
中国では、1980年代の改革開放政策の下、東部沿海地域の都市を中心に、製造業の工場、建設現場、都市生活を支えるサービス業などにおいて、多くの労働者が必要となった。中国語で「農民工」ともよばれる出稼労働者は、それらを支える担い手として内陸の農村部などから都市部に移動し、就労している。その一方、国は都市と農村の住民を戸籍で峻別し続け、行政サービスや社会保障も都市で分立して行い、戸籍によって加入できる制度や給付内容が異なるなど、人口移動を厳しく制限してきたという歴史的な背景もある。戸籍地を離れ、都市に移動した出稼労働者は、帯同した子女の教育を都市住民と同様に受けることができない、移動先の公的医療保険に加入せず(できず)、ケガや病気になった際の医療サービスへのアクセスが難しいなどが問題となっていた。
図表2 出稼労働者数の年齢構成、平均年齢の推移
このような状況の中で、これまで増加し続けていた出稼労働者が減少に転じた背景には何があるのであろうか。2020年に減少に転じた点に着目すると、新型コロナウイルスの影響で製造業や建設業の労働需要が減少したことや、政府による帰省および起業を促進する政策支援の影響が考えられる。

しかし、中長期的に考えると、中国が経済成長を遂げ、産業構造の変化とともに緩やかな成長に転換する中で、高齢化、都市化が進展し、社会保障など行政サービスの整備が進み、働き方やライフスタイルにも変化があった点など複合的な要因も考えられる。高齢化といった視点からは、1980年代の最初の出稼労働者が50代~60代といった退職年齢に達し、戸籍地に帰省している点が挙げられる。また、都市化の進展といった視点からは、およそ1億人の農村住民が都市居民となる中で、農村戸籍人口自体が減少傾向にあるなど政策的な影響も挙げられる。更に、都市化やデジタル化が進み社会が成熟していく中で、働き方やライフスタイルの変化もあろう。地方の中小規模の都市における若年層が、わざわざ省を跨いで競争が激しい大都市への就労を希望するといった状況は減少傾向にある。
 
一方、1980年以降およそ40年という時間の中で、都市、農村における社会保障制度、行政サービスの整備が進み、それが出稼労働者の都市部への定住を促進している点もみられる。この度のモニタリング調査では、出稼労働者の41.4%が自身は都市住民と認識し、そのうち83.3%が都市での生活に満足しており、都市生活に適合できていると返答している。中国では1990年代後半から社会保障制度の改革が進み、公的医療保険制度や年金制度においても都市部の制度に出稼労働者の加入が可能となったり、別途制度が設けられたりしている。また、今回のモニタリング調査によると、帯同した子女のうち、義務教育の年齢のこどもの99.4%が何らかの形で就学できており、それに伴う地域活動への積極的な参加なども都市への定住が進む背景にあると考えられる。このように、出稼労働者の増加の鈍化、更には減少については、都市での生活の改善による定住化といった積極的な面も見られる。
 

3――政府は第3子の出生を認める方針を発表。

3――政府は第3子の出生を認める方針を発表。一人っ子政策とは真逆の政策転換。現役世代が安心して子育てができる環境や産休の整備、補助の支給など具体案の検討が必要に。

加えて、5月31日、中共中央政治局は第3子の出生を認める方針を発表している7。方針では、結婚、出産、教育を一連のライフイベントと捉え、託児サービスなどの強化、教育を受ける公平性などを促進するとともに各家庭における教育関連の出費が抑えられるようにするとしている。また、産休の整備、子育て環境としての住宅などにおいても政策でサポートするとしている。つまり、第2子出産から第3子出産を認める政策に移行する中で、むしろ出産を奨励するという、中国が歴史的に実施してきた一人っ子政策から大きく転換している点が見受けられる。産児制限の緩和については、当初、高齢化や人口流出が進む東北地域などを中心に検討がなされていたが、これを全国的に展開することになる。政府は、第14次5ヵ年計画において、「高齢化問題」の解決を国家戦略として引き上げているが、第3子出生の緩和策はその1つとして捉えることもできるであろう。
 
しかし、現役の子育て世代(一人っ子世代)としては、政策的な緩和よりも、一人っ子でさえかかる高額な教育費用8、産後復帰のための幼稚園や保育所など預け先の確保に加えて、子育て環境としての住宅問題(広さの確保、学区を考えた上での転居など)の方がよほど現実問題であろう。それに日々の生活費や高齢の両親の老後の生活や介護費用を考えると、第2子、第3子の出産に二の足を踏むのも理解できる。人々の暮らしを主管する民政部長が「現在、様々な要因の影響から、適齢期の出産意向が低く、合成特殊出生率が警戒水域(1.5)を下回っている。人口問題は歴史的な転換点にある」9とした発言は国が抱えている危機感ともとれる。

今後は、政策の転換にともない、出産・育児をサポートしていく段階に入っていくであろう。法定の産休期間の延長や弾力化、児童手当、出産にともなう住宅補助や住宅ローン優遇の検討、出産復帰後のキャリアパスの確保といった実際の問題に即した対応や解決が求められる。
 
7 中国国家衛生健康委員会「中共中央政治局召開会議聞取十四五時期積極応対人口老齢化重大政策挙措置汇報審議《関于優化生育政策促進人口長期均衡発展決定》中共中央総書記習近平主持会議」http://www.nhc.gov.cn/wjw/mtbd/202105/95871240947b416eb97eeacb5d302061.shtml 2021年6月8日アクセス
8 第一財経の報道によると、妊娠期から高校卒業までにかかる1人あたりの平均教育費(18年間)の合計はおよそ70万元~233万元(1120~3730万円)。ただし、北京市などは276万元、上海市は247万元と大都市は高騰傾向にある。なお、2020年、1人あたりの可処分所得の全国平均(年間)は32,189元。中国における教育費の出典は、第一財経「如果放開三胎,你願意生吗」2021年1月11日、https://www.yicai.com/news/100908971.html 2021年6月2日アクセス
9 新浪網「民政部部長:総和出生率破警戒線 人口発展進入関鍵転折期」2020年12月1日https://finance.sina.com.cn/china/2020-12-01/doc-iiznctke4225172.shtml?cref=cj 2021年6月8日アクセス
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

(2021年06月15日「保険・年金フォーカス」)

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【人口問題に揺れる中国-第3子出生容認へ【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(47)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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