2021年06月10日

Covid-19における外出抑制~人々の自発的な抑制と飲食店への営業自粛要請~

大阪経済大学経済学部教授 小巻 泰之

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4第3波後半(2021年1月7日~3月31日)
(1)自発的な外出抑制の効果
全地域でみると、15時台の外出抑制効果は-0.34%と第2波(-0.59%)よりやや劣るものの、第3波前半のように外出抑制効果が有意でなかった状況と比較すれば、抑制効果が確認できる(図表4、4行目)。ただし、地域間では大きく異なる。第2波は大都市圏を含む地域の方がそれ以外の地域より外出抑制効果は高かったが、第3波前半では逆に、大都市圏を含む地域(-0.19%~-0.27%)の方が、それ以外の地域(-0.46%~-0.60%)より低くなっている。

この傾向は、飲食店への要請ありの地域(-0.25%~-0.29%)より、要請なしの地域(-0.64%~-0.80%)の方が2倍程度と効果が大きくなっている。大都市圏を含む地域への緊急事態宣言の発出を受けて、それ以外の地域での自発的な外出抑制している様子が窺える(図表5、4行目)。ただし、第2波及び第3波前半には、飲食時間帯に入ると外出抑制効果が高まったことが確認できるが、第3波後半には営業自粛要請の対象時間帯になっても、外出抑制効果に変化がない。
 
(2)飲食店の営業自粛の効果
飲食店に対する要請内容は、第3波前半と大きく変わるわけではないが、外出抑制効果は全地域で-7.69%~-16.62%と、第2波及び第3波前半での効果をかなり上回っている(図表6、4行目)。この背景には、第3波前半と異なり、後半には緊急事態宣言を受けて、当該地域では遊興移設、商業施設や大規模(1000平米超)な劇場や運動施設なども時短営業が要請されていることがあると考えられる。

こうした要請範囲の拡大により、要請の強弱の違いでみると、第3波前半とは異なり、強めの要請で-6.02%~-17.5%と、要請が弱め地域では-5.94%~-15.66%と大きな差異はない(図表7、4行目)。
5第4波前半(2021年4月1日~5月7日)
(1)自発的な外出抑制の効果
この時期は、同様に緊急事態宣言が発出された第3波後半と比較すれば、緊急事態措置に該当する地域では「酒類提供が止められたこと」及び「百貨店や劇場等の他の施設の使用でも休業もしくは時短要請がおこなわれたこと」である。また、新型コロナ感染症のウイルスの型が変異株に置き換わった。

しかしながら、全都道府県でみれば、19時台以降-0.33%~-0.39%と第3波後半期(-0.33%~-0.38%)と大きな差異は確認できない。ただし、厳しい新規感染者数の増加を示す大都市圏を含む地域は-0.46%(第3波後半-0.27%)は、それ以外の地域-0.19%(同-0.46%)より自発的に外出率を抑制する効果が確認できる(図表4、5行目)。

また、飲食店以外に、他の施設への休業もしくは時短要請あり地域の方は-0.31%~-0.42%と、要請なし地域(-0.29%~-0.35%)よりやや大きい程度にとどまっている。(図表5、5行目)。
 
(2)飲食店の営業自粛の効果
第4波では緊急事態措置地域の場合、酒類の提供(酒類の持ち込みを含む)をおこなう飲食店への休業要請、酒類を提供しない飲食店へは時短要請を実施している。

第3波前半・後半と比べ、かなり強い措置となっているが、全地域の飲食店への営業自粛要請の効果は-2.93%~-7.76%と第3波後半(-7.69%~-16.62%)より低下している(図表6、5行目)。ただし、より強い要請をおこなっている大都市圏を含む地域では-9.01%~-17.03%、第3波後半期(-7.97%~-19.23%)と同等もしくは上回る効果が確認できる。また,飲食店だけでなく、他の施設への休業あるいは時短要請をおこなっている場合には-3.42%~-9.37%と、それを実施していない地域(-2.60%~-6.66%)よりも外出抑制効果は高い(図表7、5行目)。この点において、第3波後半と同様に、より強い要請は外出を抑制する効果を高めると考えられる。
図表4:外出率と新規感染者との関係(地域区分)
図表5:外出率と新規感染者との関係(飲食店への営業自粛要請の有無による区分)
図表6:外出率と飲食店への営業自粛要請との関係(地域区分)
図表7:外出率と飲食店への営業自粛要請との関係(要請内容の強弱による区分)

6――まとめ

6――まとめ

2020年初ではCovid-19に関する状況がわからず「未知のウイルス」であり、不確実性が高かった。特に、2020年2月に起きたマスク騒動は、「未知のウイルス」という不確実性の高まりにより、マスク購入が最適な行動と認識された結果であろう。また、有名人の死亡報道はCovid-19をより身近なものとして捉えさせた可能性が考えられる。このような中で、第1波時には新型コロナ感染症の状況が不明な点が多く不確実性が高い状況で、新規感染者数の増加を受けて、飲食店をはじめ、多くの施設で休業措置が要請されたことや、学校についても休校措置がとられた。

その後、Covid-19の病理的な知識の蓄積、マスクの効果等の感染予防の手段が周知されるにしたがって、ある程度予防可能な感染症であることが認識されてきた。また、ワクチン開発により世界で最初にワクチン接種、日本でのワクチン接種が進む状況も不確実な状況を軽減させている。ただし、今後、Covid-19(変異株)へ置き換わり、感染状況が大きく変化する可能性もある。

こうした中で、人々の自発的な外出抑制効果は時間の経過とともに低下している。特に、第2波以降、大きく低下している。まして、ワクチン接種が徐々に進展する中で、人々の自発的な外出自粛に依存するのは難しいのではなかろうか。

しかしながら、飲食店への営業自粛要請は、人々の外出自粛に対して依然として一定の効果を保持していると考える。このため、外出抑制効果が落ちてきたとはいえ、人と人との接触機会を減少させる有効な対策の1つである。特に、強めの要請をおこなった場合、あるいは緊急事態宣言を受けて政府と一体でおこなった場合には、飲食店への営業自粛要請による外出抑制効果はより高まることも確認できる。
 
飲食店への営業自粛要請は、東京都など一部の地域では既に長期化している。その中で、営業自粛要請に協力した飲食店の経営を支えるのは「協力金」である。しかしながら、「協力金」の支給状況に関する情報は、各自治体のホームページなどをみてもほとんど確認できない。たとえば、東京都のホームページに掲載されている「申請の流れ」をみると、2021年1月8日以降の実施分の支給は「3月上旬」とされている。しかし各種メディアの報道では、同期間の支給は2021年4月23日時点で半分程度とのことである。これでは資金繰りの厳しい中小零細企業を中心に、飲食店など一部の産業へ負担を押し付け、産業間や地域間で不公平感を増長させるような結果となるのではなかろうか。営業自粛要請もまた、飲食店の自発的な行動に期待しての対策である。要請協力金に関する支給状況・結果を示した上で協力要請をするなど、政策への信頼感を高める必要がある。
 
今回の検討では、外出率の変化については2020年初のCovid-19感染拡大前の状況を基準に検討している。外出率は第1波で大きく減少した後、2020年初比ではマイナスであるものの、増減を繰り返している。各感染の波での外出率については、それぞれの時期で比較検討する必要もあると考える。また、飲食店への効果は休業要請あるいは時短要請の効果を一律に扱っている。この点については、Hale and et al(2021)のように、実施された政策の強弱(政策の強度)を数値化するような形での分析を検討する必要がある。特に、第1波には種々の政策の複合的な効果となっており、それ以降とは政策の強度も異なっている。こうした点については、今後の課題としたい。

参考文献
 
  1. 虫明英太郎(2021)「新型コロナウイルス感染拡大に対応した外出抑制措置の影響~ビッグデータを活用した分析の現状~」,財務総研スタッフ・レポート 2021 年 1 月 19 日 No.21-SR-01.
  2. Hale, Thomas and et al (2021), “ Variation in government responses to COVID-19,” BSG-WP-2020/032,March 2021.
  3. Hatchett, R. J., C. E. Mecher, and M. Lipsitch (2007) “Public health interventions and epidemic intensity during the 1918 influenza pandemic,” Proceedings of the National Academy of Sciences 104(18), 7582–7587.
  4. Hosono,K (2021) “Epidemic and Economic Consequences of Voluntary andRequest-based Lockdowns in Japan,” RIETI Discussion Paper Series 21-E-009。
  5. Hunter, Paul R., Felipe J Colón-González, Julii Brainard and Steven Rushton (2020) “Impact of non-pharmaceutical interventions against COVID-19 in Europe: a quasi-experimental study,”
  6. Katafuchi1, Y., Kurita, K., and Managi, S. (2020), “COVID-19 with Stigma: Theory and Evidence from Mobility Data,” Economics of Disasters and Climate Change (2021) 5:71–95。
  7. 小巻泰之(2020a)「今こそエビデンスに基づくソーシャルディスタンスの検討を~感染症対策の効果に関する定量的分析の必要性~」、東京財団政策研究所〈政策データウォッチ(30)〉.
  8. 小巻泰之(2020b)「ソーシャルディスタンス(社会的距離の確保)の経済への影響」,ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」、2020年7月16日。
  9. 小巻泰之(2021)「COVID-19に関するEBPMは可能な状況なのか?」、東京財団政策研究所REVIEW,No.9, pp4-7,2021 年3月。
  10. Markel, H., H. B. Lipman, J. A. Navarro, A. Sloan, J. R. Michalsen, A. M. Stern, and M. S. Cetron (2007) “Nonpharmaceutical Interventions Implemented by US Cities During the 1918-1919 Influenza Pandemic,” JAMA 298(6), 644–654.
  11. 水野貴之、大西立顕、渡辺努(2020)「流動人口ビッグデータによる 地域住民の自粛率の見える化-感染者数と自粛の関係」、キヤノングローバル戦略研究所
  12. 水野貴之(2020)「Covid-19特設サイト:外出の自粛率の見える化」
  13. Yamamoto T, Uchiumi C, Suzuki N, Yoshimoto J, Murillo-Rodriguez E (2020) The psychological impact of‘mild lockdown’ in japan during the covid-19 pandemic: a nationwide survey under a declared state of emergency. medRxiv preprint medRxiv:2020.07.17.20156125。
 
 

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