2021年06月09日

デジタル・プラットフォーマーと競争法(3)-Amazonを題材に

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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5――日本における確約計画

1|確約計画の認定
2020年7月10日、公正取引員会はアマゾンジャパン合同会社に対して、アマゾンジャパンが納入業者に対して行った行為が、独占禁止法第2条9項に規定する優越的地位の濫用に該当し、同法第19法(不公正な取引方法の禁止)違反となる疑いがあるとの通知を行ったところ、アマゾンジャパンから確約計画の認定申請があった。2020年9月10日公正取引委員会は、要件を満たすとして認定を行った2

ところで確約計画であるが、公正取引委員会から通知を受けた事業者が,違反の疑いの理由となった行為(被疑行為)を排除するために必要な措置等を記載した確約計画を作成する。そして、公正取引委員会がこの計画を認定した場合,排除措置命令や課徴金納付命令を行わないこととする制度である。この制度はTPP(環太平洋自由貿易協定)の締結に伴って導入されたもので、独占禁止法違反の疑いがある場合に、事業者が自主的に改善を図ることにより短期間で被疑行為を解消するもので、時間とコストが節約できる。

なお、この確約計画の認定は、被疑行為が独占禁止法に違反すると確定するものではない。
2確約計画のもととなった被疑行為の概要
公正取引委員会の公表資料を見ると、事案としては、デパートなどの大手販売業者が納入業者に対して行ってきた、昔からよくある類の行為のようである。まず、売れ残った商品の販売促進のために値引きをした場合、「在庫補償契約」を締結して代金を事後的に減額する。販売利益が十分得られない場合に、根拠を示さずに納入業者に金銭を負担させる。約束したマーケティングサービスの提供が行われていないのに、共同マーケティング名目で納入業者に金銭を提供させる。アマゾンジャパンのシステム投資の協賛金名目で月額仕入れ額の定率を提供させる。納入業者に責任がないのに、過剰在庫として判断された商品を返品している、といったものである。
3確約計画の概要
確約計画では上記2にあげられた行為を取りやめることとし、上記2の行為の対象となった納入業者に金銭的回復を行うこととした。また、従業員や納付業者にこれらの決定を周知徹底する。そのほか、独占禁止法遵守指針を作成し研修や監査を行う。それら措置の履行状況を公正取引委員会へ報告するといったものである。
 

6――検討(欧州と米国の事例)

6――検討(欧州と米国の事例)

1|デジタルプラットフォーム事業者の競争における特徴
デジタルプラットフォーム事業者を独占禁止法で取り扱う場合の特徴としては、両面(多面的)市場とネットワーク効果が挙げられる3。Amazonのようなオンラインモールについてこれらを簡潔に説明する。多数の利用者(消費者)が存在するデジタルプラットフォームは、より販売効果が高まるため、プラットフォームを挟んで利用者の向かい側にいる小売業者が増加する。そして、小売業者が増加すると、より利便性が高まるため、利用者が増加することとなる。

このように利用者のいる市場と、小売業者のいる市場が両面(あるいは多面)で存在していると把握する。そして、利用者の増加が利用者を加速させることを直接的ネットワーク効果といい、また、利用者の増加が小売業者の増加を加速させる効果(および逆向きへの効果も含め)を間接的ネットワーク効果という。

ネットワーク効果は必ずしもデジタルプラットフォーム特有というわけではなく、たとえばテレビ局を考えると視聴者が多ければ広告を放送したい事業者が増えて広告収入が増し、多くの番組を制作することができ、それがまた多くの視聴者を呼び込むということもある。

ただし、デジタルプラットフォームの特徴として、利用者や小売業者が増加する際にかかる費用(限界費用)が非常に少ないということが挙げられる。したがって容易に利用者数・小売業者数を増加させることができる。

ところで、デジタルプラットフォーム事業者でも、勝ち組とそうでない組がある。勝ち組となるには、どこかで少なくとも一面市場で一定のボリュームの利用者層を確保できることが前提となる。Amazonについて言われているのが、Amazon Prime会員制度の存在である。最短翌日が無料になるということで、多くの利用者がAmazonを利用したことでネットワーク効果が構成されていったといわれている4

このようなデジタルプラットフォームがネットワーク効果により一定の規模を超えると、オンラインモールで独占的な存在となる。独占的な存在となると、取引相手である第三者小売業者との関係や、競争者である他のデジタルプラットフォームとの関係に格別の考慮が必要となる。
 
3 報告書p6
4 Lina M Khan(2016).Amazon’s Antitrust Paradox. The Yale Law Journal.p750。このような仕組みに対抗すべく楽天が送料無料を打ち出したところ、公正取引委員会が緊急停止命令を申し立てた経緯がある(その後取り下げられた)。
2|デジタルプラットフォーム事業者の独占禁止法上問題となる行為
図表2を参照してお読みいただきたい。

まず、①デジタルプラットフォーム事業者は、同じオンラインストアを営むデジタルプラットフォーム事業者と競争している。Amazonのようなオンラインストアでは、国際的には、中国ではアリババ、日本では楽天モールなどが競争者になる。独占的・寡占的なデジタルプラットフォーム事業者が第三者小売業者に対して、他のデジタルプラットフォームを利用させないように不当に拘束するケースでは、デジタルプラットフォーム事業者間の競争が歪められ、独占禁止法違反となるおそれがある5

また、Amazonのように直販を行っているケースでは、②Amazon自体と、Amazonと同じ商品を販売している第三者小売業者とが競争していることになる。デジタルプラットフォームを利用する条件については、デジタルプラットフォーム事業者であるAmazonが自由に設定できる。しかし、不当な取引条件により、小売業者としてのAmazonが競争相手である第三者小売業者を排除することとなるときは、独占禁止法上問題となりうる。

なお、Amazonは自社のプラットフォームを利用しない小売業者とも競争している。2010年ころの報道によると、Amazonはベビー用品販売の有力なオンライン事業者であるDiaper’s.comに対抗するために、アマゾンマムという割引プログラムを提供したことがある。そのうえでDiaper’s.comをAmazonが買収し、最終的には自社の割引プログラムであるアマゾンマムを収束させたという事例がみられる。

さらに、③多くの人が利用する取引の場を提供するデジタルプラットフォーム事業者が、第三者小売業者に正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用に該当するおそれがある。この場合、デジタルプラットフォーム事業者が、競争上不当に有利になるなど競争をゆがめるおそれがある。
【図表2】Amazonの競争環境
 
5 報告書P8
3Amazonの欧州・米国の事例検討
まず欧州の事例を考える。第一に、第三者小売業者のデータをAmazonが利用することについてだが、上記②でいうAmazonと第三者小売業者との間の競争として適切かどうか、および上記③の優越的地位の濫用の有無が問題となる。仮にAmazonが第三者小売業者の売れ筋商品をデータから読み解き、同種の商品を開発し、その売れ筋商品よりも安く提供するような事例があるとする。このような競争手段は、小売業者としてのAmazonの競争力を不当に高めるものとして、Amazonが独占的な事業者とみる場合には不当な排除行為として(上記②)、あるいは第三者小売業者への優越的地位の濫用として(上記③)、独占禁止法上問題となりうると考えられる。確かに、利用者にとっては人気商品がより安く入手できることにはなるが、それは当面のことであり、このような行為により第三者小売業者が撤退した後には競争が失われる懸念があるからである(上記、Diaper.comの事例参照)。

第二に、フルフィルメントサービスの利用小売業者優遇(たとえば利用小売業者のみBuy Boxへ掲載)についてである。小売業者にとっては、優遇措置を受けねば競争上不利となるため、否応なしに、フルフィルメントサービス利用が事実上強制されうることが、正常な商慣習に照らして不当かどうかが問題となる。上記③の論点に該当するものである。この点、他社の物流サービスを利用する場合よりも、不利になるような事例があれば問題になる可能性がある。日本の事例はAmazon直販に関する納入業者についての事例であるが、たとえば第三者小売業者の物流サービス利用へ不当な条件を課している場合(協賛金の徴取や不当な返品など)であれば、不当性が認定されると考えられる6。また、利用者からみると、商品の本来の人気度ではなく、フルフィルメントサービスを契約しているかどうかで「お勧め」が決められてしまうことに透明性がないとも言える7

米国コロンビア特別区の訴訟は、最恵国待遇にかかわる問題である。最恵国待遇については、報告書によれば、市場における有力なデジタルプラットフォーム事業者が単独あるいは複数の事業者が並列的に設けることにより、価格維持効果や市場閉鎖効果が生じる場合には独占禁止法上問題となる(拘束条件付き取引)おそれがあるとされている。主には上記①に該当する論点である。一般には、他のオンラインモールにおいて、競争的な価格設定ができないという点で競争阻害性が認められると考えられる。

ちなみに、2017年6月1日に日本の公正取引員会が公表した「アマゾンジャパン合同会社に対する件」では、アマゾンジャパンが価格等の同等性条件および品ぞろえの同等性条件を定めている(=最恵国待遇条項)ことに対して、独占禁止法上の審査を行ったところ、自発的な措置が取られたため、審査を終了したとある。

米国の当局から指摘を受け、いったん最恵国待遇条項を収束させたにもかかわらず、同様の条項を入れていたのであれば、問題となるのはやむを得ないものと思われる。
 
6 たとえば報告書p41にあるような、倉庫内で破損したことが明らかな場合にも、第三者小売業者に負担が求められるケースなどが考えられる。
7 報告書P80参照。
 

7――おわりに

7――おわりに

再度確認をしておきたいのは、このようにAmazonの行為が問題となるのは、Amazonが市場を独占あるいは寡占し、または少なくとも市場における有力な事業者であるためである。小規模な事業者が同様の行為を行っても問題になることは少ない。なぜなら、取引相手はそのような相手との取引を止めるだけのためである。しかしながら、Amazonでは問題となる。なぜなら取引をやめるわけにはいかないからだ。

GAFAのようなデジタルプラットフォーム事業者は、特別な地位にいる。この地位に着目して、門番(ゲートキーパー)として規制をしようという動きが欧州にあり、また米国でも社会に対する影響が大きいことから、立法府に盛んな動きがある。

日本では、デジタルプラットフォーム透明化法が2021年2月より施行され、報道によればデジタル広告についても規制対象としようとする動きがある。透明化法は、独占禁止法のような事後的かつ、ある意味劇薬的な措置を下すだけではなく、法に基づく事前の開示により不適正な競争行為を可能な限り抑制しようとするものである。

日本の場合は、世界的に影響力を持つ、日本発のデジタルプラットフォーム事業者がいないということがあり、管轄権という意味でも海外の事業者に対する規制となるので難しい面がある。

したがって、欧米の議論と歩を同じくしていくことが求められるであろう。これは、隣国に大規模なデジタルプラットフォーム事業者が存在しているという状況を踏まえていく中でも、必要なことであると考えられる。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2021年06月09日「基礎研レポート」)

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