2021年06月08日

2021・2022年度経済見通し-21年1-3月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2021年1-3月期の実質GDPは前期比年率▲3.9%へ上方修正

6/8に内閣府が公表した2021年1-3月期の実質GDP(2次速報値)は前期比▲1.0%(年率▲3.9%)となり、1次速報の前期比▲1.3%(年率▲5.1%)から上方修正された。

1-3月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比▲1.4%から同▲1.2%へ、民間在庫変動が前期比・寄与度0.3%から同0.4%へと上方修正された。その他の需要項目では、民間消費は前期比▲1.4%から同▲1.5%へ下方修正されたが、政府消費(前期比▲1.8%→同▲1.1%)、公的固定資本形成(前期比▲1.1%→同▲0.5%)は上方修正された。

2021年1-3月期の成長率は1次速報から年率1%以上の上方修正となったが、国内民需、公需、外需がいずれも減少し、大幅なマイナス成長となったことは1次速報時点と変わらない。日本経済は2020年4-6月期に過去最大のマイナス成長となった後、2四半期連続で前期比年率二桁の高成長を記録したが、2021年1-3月期は緊急事態宣言の再発令を受けて再びマイナス成長となり、経済正常化に向けた動きはいったん足踏みとなった。
(経常利益(季節調整値)はコロナ前の水準を回復)
財務省が6月1日に公表した法人企業統計によると、2021年1-3月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比26.0%(10-12月期:同▲0.7%)と8四半期ぶりの増益となった。製造業が前年比63.2%(10-12月期:同21.9%)と伸びが急加速したことに加え、非製造業が前年比10.9%(10-12月期:同▲11.2%)と5四半期ぶりの増加となった。

季節調整済の経常利益は前期比5.6%(10-12月期:同18.9%)と3四半期連続で増加した。経常利益(季節調整値)は、新型コロナウイルスの影響が顕在化した20年1-3月期、4-6月期で40%近く落ち込んだが、7-9月期以降の3四半期でそれを取り戻し、コロナ前(2019年10-12月期)の水準を回復した。ただし、製造業はコロナ前の水準を40%近く上回っているのに対し、非製造業は対面型サービス業の低迷が続いていることから、コロナ前の水準を依然として10%程度下回っている。なお、2021年1-3月期の経常利益の水準(18.9兆円)は、直近のピーク(2018年4-6月期の24.8兆円)に比べれば20%以上低い。製造業、非製造業ともにそれぞれのピークを20%以上下回っている。
経常利益の推移/経常利益(季節調整値)の推移
企業収益は、2020年前半は新型コロナウイルス感染症の影響で急速に落ち込んだものの、その後は製造業を中心に想定を上回るペースで急回復した。4-6月期は、製造業が輸出の好調と財消費の堅調に支えられて回復の動きが継続する一方、緊急事態宣言の影響を大きく受ける宿泊、飲食サービス業などの対面型サービス業は引き続き低調な動きとなることが予想される。業種間の格差は一段と広がる可能性が高い。
 

2. 実質成長率は2021年度3.5%、2022年度1.9%を予想

2. 実質成長率は2021年度3.5%、2022年度1.9%を予想

(実質GDPが直近のピークを超えるのは2023年度)
2021年1-3月期のGDP2次速報を受けて、5/19に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2021年度が3.5%、2022年度が1.9%と予想する。2021年1-3月期の成長率が上方修正されたことにより、2020年度から2021年度への発射台(ゲタ)が1次速報時点の1.6%から1.8%へ上方修正されたことを受けて、2021年度の成長率見通しを0.2%上方修正した。2022年度は変更していない。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
緊急事態宣言はいったん解除されたが、4/25から東京都、大阪府、京都府、兵庫県の4都府県を対象に3度目の宣言が発令された。当初は5/11までとされていた緊急事態宣言の期限は6/20まで延長され、対象地域も10都道府県まで拡大した。緊急事態宣言対象地域のGDPが日本全体に占める割合は、4/25時点の32%から5/23以降は50%まで高まった。
小売・娯楽施設の人出 Google社の「コミュニティ モビリティ レポート」によれば、小売・娯楽施設(レストラン、カフェ、ショッピングセンター、テーマパーク、映画館などが対象)の人出は、2021年1月の緊急事態宣言発令に伴い大きく落ち込んだ後、新型コロナウイルス陽性者数の減少や一部地域での宣言解除を受けて3月末にかけて持ち直した。4月に入ってからは陽性者数の増加を受けたまん延防止等重点措置や緊急事態宣言の発令によって、東京、大阪などの緊急事態宣言対象地域を中心に人出が大きく減少し、5月のGW明けには緊急事態宣言延長や対象地域の拡大を受けて全国で減少ペースが加速した。しかし、コロナ慣れや自粛疲れの影響などもあり、5月下旬以降は人出の減少幅が縮小している。
小売・娯楽施設の人出とサービス消費 今回の緊急事態宣言は、酒類を提供する飲食店、百貨店(食料品など生活必需品の売り場を除く)の休業、テーマパーク・遊園地の休園など、経済活動の制限が前回の緊急事態宣言時(2021年1月~)よりも厳しくなっていたが、6月に入ってからは制限が一部緩和されている。

緊急事態宣言による個人消費への影響を財、サービス別にみると、人出との連動性が高いサービス消費は低迷が続くものの、すでに水準が大きく下がっているため、追加的な下押し圧力は限定的にとどまる公算が大きい。また、財消費は、大規模商業施設の休業や営業時間短縮がマイナス要因となるが、巣ごもり需要の拡大を背景に底堅い動きが続くだろう。
2021年4-6月期は前期比0.3%(前期比年率1.1%)と2四半期ぶりのプラス成長になると予想する。民間消費は前期比▲0.1%と2四半期連続で減少するが、1-3月期の同▲1.5%からはマイナス幅が大きく縮小するだろう。また、2020年春頃とは異なり、民間消費以外の需要項目は緊急事態宣言の影響を受けにくくなっており、設備投資、輸出は増加することが見込まれる。さらに、ワクチン接種の進捗による押し上げなどから政府消費が高めの伸びとなることも成長率の押し上げ要因となる可能性が高い。

2021年7-9月期は緊急事態宣言の解除を前提として前期比年率4.8%の高成長になると予想する。行動制限が緩和されることにより、民間消費が前期比1.8%の高い伸びとなることが高成長の主因となる。ただし、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言が断続的に発令され、消費が下振れるリスクは否定できない。

先行きについては、ワクチン接種の進捗により新型コロナウイルスの陽性者数が一定程度減少することが期待される。しかし、陽性者数がゼロになることは考えにくく、変異株の出現や気温の変化などによって増減を繰り返す可能性がある。その都度、休業要請や外出自粛などの感染抑制策が講じられれば、経済の停滞は長期化するだろう。
実質GDPが元の水準に戻る時期 経済活動の制限が緩和されたとしても、ソーシャルディスタンスの確保などが引き続き対面型サービス消費を抑制するため、景気回復が続く中でも二極化の解消には至らないだろう。現時点では、実質GDPの水準がコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2022年1-3月期、消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023年度と予想している。しかし、先行きの新型コロナウイルスの感染動向やそれに対応する公衆衛生上の措置を想定することは極めて困難である。これまでと同様の政策対応が続けば、経済の正常化はさらに遅れる可能性が高まるだろう。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2020年12月には10年3ヵ月ぶりに前年比で▲1%台のマイナスとなったが、「Go To トラベル事業」の停止、エネルギー価格の下落幅縮小を主因として、2021年3月には同▲0.1%まで下落率が縮小した。4月には携帯電話通信料の大幅値下げ(前年比▲26.5%)によってコアCPI上昇率は▲0.5%強押し下げられたが、エネルギー価格が上昇に転じたことや一部の品目で年度替わりの値上げが行われたことから、下落率は前月と変わらなかった。経済活動の急激な落ち込みの割に物価の基調は弱くなっていない。

巣ごもり需要の高まりから、食料品、日用品、家電製品など財の消費は堅調なものが多いこと、自粛要請などにより需要が急激に落ち込んでいる外食などのサービスについては、通常の景気悪化時と異なり、値下げによる需要喚起が期待できないことがその背景にあると考えられる。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 コアCPI上昇率は2021年5月にプラスに転じた後、エネルギー価格の上昇ペース加速や、前年の「Go Toトラベル」による宿泊料の大幅下落の裏が出ることなどから、年末にかけてゼロ%台後半まで伸びを高めるだろう。ただし、需給面からの下押し圧力が残存すること、賃金の下落がサービス価格の低下要因となることから物価の基調が大きく高まることは期待できない。

コアCPI上昇率は、2020年度の前年比▲0.4%の後、2021年度が同0.4%、2022年度が同0.5%と予想する。
日本経済の見通し(2021年1-3月期2次QE(6/8発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2021年06月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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