2021年06月04日

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1. はじめに

福岡のオフィス市場では、景気悪化やテレワーク普及などを背景にオフィス需要が低迷するなか、昨年は11年ぶりに1万坪を超えるオフィスビルの新規供給があり、空室率が上昇している。成約賃料についても需給バランスの緩和に伴い頭打ちとなった。本稿では、福岡のオフィス市況を概観した上で、2025年までの賃料予測を行う。
 

2. 福岡オフィス市場の現況

2. 福岡オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
全国主要都市のオフィスの空室率は、2020 年4月の緊急事態宣言の発令以降、いずれの都市も上昇傾向で推移している(図表-1)。三幸エステートによると、福岡市の空室率(2021年5月時点)は4.0%(前年比+1.9%)となった。福岡市の空室率を規模1別にみると、「大規模2.9%(前年比+1.9%)」、「大型2.7%(同+1.3%)」、「中型6.2%(同∔3.1%)」、「小型8.5%(同+1.2%)」となり全ての規模で上昇に転じた(図表-2)。景気悪化やテレワーク普及などを受けてオフィス需要が縮小するなか、まとまった面積の募集では、入居テナントの決定に時間を要する事例が増加している。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 福岡オフィスの規模別空室率
全国主要都市のオフィス成約賃料は、これまで空室率の低下を背景に上昇基調で推移してきた。しかし、2020 年下期はオフィス床の解約や事業拠点の一部閉鎖などにより空室面積が増加し、賃料にも頭打ち感がみられる。福岡市の成約賃料は2020 年上期に過去最高水準に達したが、2020 年下期は前期比でマイナス(▲6.7%)となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2020 年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、仙台市を除く全ての都市で空室率が上昇した。しかし、賃料については上昇と下落で分かれる結果となった。福岡市の空室率は東京都心5区、大阪市に次いで大きい上昇幅となったが、成約賃料は前年比でプラスとなった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した福岡市の賃料サイクル2は、2012 年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面が続いていたが、2020 年下期は「空室率上昇・賃料上昇」の局面へ移行した(図表-5)。
図表-4 2020年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 福岡オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、福岡ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、築古ビルの滅失等が進んだことで、69.4 万坪(2019 年末)から68.7万坪(2020 年末)へと▲0.7 万坪減少した。また、テナントによる賃貸面積は、オフィス需要の縮小に伴い、68.0万坪(2019 年末)から66.1万坪(2020 年末)へと▲1.9 万坪減少した(図表-6、図表-7)。

この結果、2020 年末の福岡ビジネス地区の空室面積は2.6万坪(前年比+1.2万坪)となり、前年からほぼ倍増となった(図表-6)。
図表-6 福岡ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 福岡ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によると、2020年末時点で賃貸可能面積が最も大きいエリアは、「博多駅前地区(23.7%)」で、次いで「天神地区(21.9%)」、「博多駅東・駅南地区(16.2%)」、「祇園・呉服町地区(15.5%)」、「薬院・渡辺通地区(12.2%)」、「赤坂・大名地区(10.4%)」の順となっている(図表-8)。

2020 年は、新規供給のあった「博多駅前地区」(前年比+2.7千坪)と「赤坂・大名地区」(同+1.0千坪)で賃貸可能面積が増加した一方で、「天神地区」(同▲7.3千坪)や「祇園・呉服町地区」(同▲3.6千坪)等は築古物件の滅失等により減少した(図表-9)。

これに対して、賃貸面積は「赤坂・大名地区」を除く全ての地区で減少した。特に、「天神地区」(前年比▲9.3千坪)や「祇園・呉服町地区」(同▲5.7千坪)、「博多駅東・駅南地区」(同▲2.0千坪)で減少が目立つ。この結果、空室面積は全ての地区で増加し、福岡ビジネス地区全体で+11.5千坪の増加となった。
図表-8 福岡ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2020年)/図表-9 福岡ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2020年)
エリア別の空室率(2021年4月時点)は、「博多駅東・駅南地区」が5.7%(前年比+3.7%)、「博多駅前地区」が4.9%(同+2.6%)、「祇園・呉服町地区」が4.8%(同+1.9%)、「赤坂・大名地区」が4.3%(同+1.1%)、「天神地区」が3.6%(同+1.8%)、「薬院・渡辺通地区」が3.2%(同+2.0%)となり、全てのエリアで上昇した(図表-10左図)。

一方、募集賃料は、全てのエリアにおいて上昇傾向で推移しており、特に、「博多駅前地区」(前年比+3.4%)の賃料が大きく上昇した(図表-10右図)。
図表-10 福岡ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

3. 福岡オフィス市場の見通し

3. 福岡オフィス市場の見通し

3-1. オフィスワーカー数の増加
住民基本台帳人口移動報告によると、福岡市の転入超過数は高水準で推移しており、2020年は、+7,909人となった。(図表-11)。また、福岡県の就業者数は、2012年以降増加が続いており、2020年は258.9万人(対前年+0.4万人)となった(図表-12)。こうした市内への人口流入や就業者数の増加がオフィス需要を下支えしている。
図表-11 主要都市の転入超過数/図表-12 福岡県の就業者数
ところで、新型コロナウィルスの感染拡大は、労働市場に多大な影響を及ぼしている。以下では、福岡のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「福岡財務支局」の管轄下3県(福岡県・佐賀県・長崎県)」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(福岡財務支局)は、2020年第2四半期に「▲53.7」と一気に悪化した。翌第3四半期はプラスに回復したものの、その後は再び悪化し、2021年第1四半期は「▲11.7」となった(図表-13)。景況感の悪化幅は、全国平均と比べて、やや大きい傾向がみられる。

また、「従業員数判断BSI4」(福岡財務支局)は、人手不足を表わす「+22.5」(2020年第1四半期)から「+5.2」(第2四半期)へ大幅に低下した。2021年第1四半期は「+5.5」で全国平均(+8.7)を下回っており、本格回復には至っていない(図表-14)。

また、帝国データバンク「新型コロナウィルス感染症に対する九州企業の意識調査」(2021年3月)によれば、コロナウィルス感染症による業績への影響について、福岡県では「マイナスの影響がある」との回答が74%を占めている。福岡においても、コロナ禍が企業経営に与えたダメージは大きいと言える。
図表-13 企業の景況判断BSI(全産業)/図表-14 従業員数判断BSI(全産業)
パーソル総合研究所の「新型コロナウィルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、福岡県におけるテレワーク実施率は、2020 年4月調査で24%に増加した。その後はやや低下し、2020年11月調査では16%であった。(図表-15)。

また、福岡商工会議所「新型コロナウィルス感染症が企業に及ぼす影響に関する緊急調査」によれば、「新型コロナウィルス感染症の拡大を受けて実施した経営上の対策」として、「テレワーク」を挙げた回答は全体で39%、大企業に限ると66%となっている(図表-16)。

福岡県におけるテレワーク実施率は東京都・大阪府・愛知県の三大都市と比べると低いものの、コロナ禍を経て「在宅勤務」を採り入れた新たな働き方が大企業を中心に定着しつつある。今後とも「在宅勤務」と「オフィス勤務」を組み合わせた働き方が続くことが予想され、オフィス需要への影響を注視する必要がある。
図表-15 従業員のテレワーク実施率/図表-16福岡商工会議所 テレワーク実施率
福岡市では、コロナ禍においても就業者数の増加が続いている。しかし、コロナ禍が「企業の経営環境」と「雇用環境」に与えたダメージは大きく、「在宅勤務」を採り入れた新たな働き方が大企業を中心に定着しつつある。以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数の拡大は続くものの、今後鈍化することが予想される。
 
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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