2021年06月01日

「避難指示」に一本化、「避難勧告」は廃止-災害対策基本法の改正~災害・防災、ときどき保険(15)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1―はじめに

2021年5月20日、改正された災害対策基本法が施行され、市町村が発令する避難情報が変更された。これまでの「避難勧告」と「避難指示」が一本化され、今後は「避難指示」のみとなる。
 

2―最新版の避難指示と警報などの対応

2―最新版の避難指示と警報などの対応

1避難勧告と避難指示の一本化など(2021.5.20~)
これまでの避難情報の発表方法では、本来避難すべきタイミングで避難せず、逃げ遅れにより被災する人が多数発生していたという認識が、政府の防災担当にあった。アンケート調査によれば、「避難勧告」と「避難指示」の違いも十分に理解されているとは言い難いのが現状であった。そうした状況を踏まえて、今回、避難情報のあり方が見直された。
【2021年5月20日以降の避難情報の発表の改正】
警戒レベルが高まるにつれて、レベル1、2、3、4、5となるが、最も高い警戒レベルが最も高いレベル5における避難行動は、これまで「災害発生情報」という表現であった。しかし、これでは住民が取るべき行動がわかりにくいとして、これを「緊急安全確保」に改めて、災害が既に発生していたり差し迫っていたりする状況で、少しでも安全を確保する行動を促すこととした。

最も重要な結論だけ見ると、「レベル3で高齢者や体の不自由な方が避難を開始すること」「レベル4までに全員必ず避難を行うこと」となる。

改正後の警戒レベルと避難情報をあらためて示すと以下のようになる1
【2021年5月20日からの、警戒レベルと避難情報】
 
1 避難情報に関するガイドライン(令和3年5月 内閣府(防災担当))
http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinanjouhou/r3_hinanjouhou_guideline/pdf/hinan_guideline.pdf
2避難情報と気象情報の対応
【2021年5月20日からの避難情報と防災気象情報】(上の表の続き)
上記の通り、警戒レベルと避難情報に対応して、気象庁からは、気象に関して「警戒レベル相当情報」が発表される。今回は主に「各種災害の危険度分布」に関する警告が追加された。
 
また以下のような自然現象については、上記の警戒レベルなどは用いられない。

津波:
災害の切迫度が段階的に上がる災害ではないため、警戒レベルは用いられないが、避難指示のみは発表される。

暴風:
警戒レベルは用いられないが、避難指示は発令される場合はある。

竜巻・雷・急な豪雨:
短時間で局所的に発生することが特徴であり、発生する場所や時刻を予測し避難を呼びかけることが困難なため、警戒レベルの対象になっていない。

噴火:
火山ごとに、噴火警戒レベルという別の指標で公表される。

地震:
(予知できる現象ではないこともあり、今回の避難情報とは別物)
 
3その他の改正
上記の他、今回の災害対策基本法は以下のような改正も含まれている。

(1) 個別避難計画(仮称)の作成(市長村)
これまでにも「避難行動要支援者名簿」の作成が2013年に作成義務化されており、ほとんどの市町村におきて作成されている。しかし、いまだ災害により多くの高齢者が被害を受けているという課題がある。そうした避難行動要支援者の円滑かつ迅速な避難を図るため、個別の避難計画についても市町村に作成を努力義務化することとなった。

(2) 国の災害対策本部を設置できるタイミングを早期化
災害発生の「おそれがある」、という早い段階で、国は災害対策本部を設置できることとし、市町村は他の市町村への避難者の受入れ要請や交通機関への運送要請ができることととした。
 

3―おわりに(私見も含めて)

3―おわりに(私見も含めて)

とはいえ、これで完全にわかりやくなったかというと、まだ発展途上の印象をもたざるを得ない。

わかりにくい原因は、以下のようなものであろうか。
 
〇用語が難しい(漢字が多く長い?)。
避難情報は「空振り」に終わることもあろうから、あとで責任の所在を問われた際に用語の定義や発令基準を明確にしておくことは重要だろう。しかし高齢者・子どもにも理解すべき情報は、何をおいても「あぶないから、はやくにげろ!」の一点であろう。そういえば「指示」と「勧告」はどちらがより緊迫感があるかははっきりしなかったような気がするし、その点では今回の改正はいいとしても、すべての住民への発表としてはまだ用語が難しいとも思える。
 
〇災害の種類によって避難情報の発表の仕方が異なるなど、情報が多すぎること
例えば先日も、「線状降水帯」の情報提供が始まったばかりである。今後も情報を受け取る側からの要望はあれもこれもということになるだろうが、かえって混乱することもあろう。自然現象や災害の種類によって状況は異なるので無理もないとはいえ、その整理が課題であるとも認識されているので、今後も変更されていくだろう。
 
〇国、市町村、気象庁の役割分担がわかりにくいこと
これは、国全体の体制としてしっかり整備され役割がはっきりしていれば、受け取る側にしてみれば、どうでもいいかもしれない。誰が言ってもいいから「あぶないから、はやくにげろ!」である。
 
この改正が施行された5月20日以降、実際に大雨が何度かあって、こうした避難情報がニュース等でとりあげられていたが、これで以前より迅速に避難できたのだろうかと気になる。今後も改善されていくに違いない。今後も変更があれば、取り上げていくことにしたい。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2021年06月01日「基礎研レター」)

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