2021年05月20日

コロナ禍1年の家計消費の変化-ウィズコロナの現状分析とポストコロナの考察

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~コロナ禍1年余りが経過、個人消費の現状は?

新型コロナウイルス感染症の感染が拡大してから1年以上が経過した。日本国内では、政府が全国一斉休校を要請した2020年3月頃から、消費行動は大きく変化した。その状況について何度か報告してきたが、総務省「家計調査」において、2020年3月以降の1年分の月次データが出揃ったため、あらためてコロナ禍1年の家計消費の変化を振り返る。また、ワクチン接種などが進み、行動制限が緩和されたポストコロナについても考察する。
 

2――個人消費全体の状況

2――個人消費全体の状況~感染状況と消費は連動するが、人流が減りにくくなり当初ほどは落ち込まず

まず、個人消費全体の状況を概観する。GDP統計の家計最終消費支出に相当する「総消費動向指数(CTIマクロ)」を見ると、コロナ禍で国内で初めて緊急事態宣言が発出された2020年4・5月は、リーマンショックや東日本大震災後を大幅に上回る落ち込みとなった(図表1)。なお、コロナ禍の直前の個人消費は、2019年10月に消費税率が10%へ引き上げられたために生じた反動減からの回復が鈍い状況にあった。そこにコロナ禍が直撃し消費は深く落ち込んだ。2020年6月には経済活動の再開を受けて大幅に改善したが、夏や冬には感染が再拡大したことで再び落ち込み、2021年3月の時点ではコロナ前の水準には戻っていない。

これまでの推移を見ると、感染状況と消費は連動している。これからのワクチン接種の進行状況にもよるが、今後も感染状況が悪化すれば消費は下向き、改善すれば上向くことを繰り返すのだろう。なお、感染者数は格段に増えているにも関わらず、初めての緊急事態宣言発出時と比べて、昨年の夏や冬の感染再拡大期の消費の落ち込みは浅い。これは、緊急事態宣言発出区域が一部地域にとどまったことや、飲食店や百貨店などの店舗施設の営業自粛要請も当初と比べて限定的であったことに加えて、生活者の意識変容の影響も大きいだろう。この1年で未知のウイルスが既知のウイルスとなったことで、生活者の感染不安は弱まり、感染状況が悪化しても人の流れは減りにくくなっている1
図表1 総消費動向指数(CTIマクロ)の推移
 
1 久我尚子「「コロナ慣れ」と感染不安の弱まり」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2021/4/23)
 

3――消費内訳の変化

3――消費内訳の変化~ウィズコロナでは外出型消費大幅減少、巣ごもり消費活発化、ポストコロナは?

総務省「家計調査」にて二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると、外出自粛や非接触志向の高まりによって、旅行やレジャー、外食などの外出型消費や、マッサージや理美容サービスなどの接触を伴う対面型サービスの消費が大幅に減少している。一方、家の中で過ごす時間が増えたことで、食のデリバリーサービスやゲームなどの巣ごもり消費が活発化している。また、働き方がテレワークへと大きく舵が切られたことで、パソコンや家具などのテレワーク関連製品の需要が増している。それぞれの消費領域について順に見ていきたい。
1食関連~外食支出は感染状況と連動、中食・内食増加が一定の定着、テレワークで店舗立地に変化も
食関連で支出額の減少が目立つのは外食の食事代や飲酒代である(図表2・3(a))。特に2020年4月の飲酒代は前年同月比▲90.3%となり大方の需要が消失し、食事代も▲63.3%と大幅に落ち込んでいる。6月から秋にかけては、経済活動の再開を受けて人の動きが増え始めたことや、政府の需要喚起策「GoToイートキャンペーン」の効果もあり回復基調を示している。なお、2020年10月の食事代は前年同月を若干上回っているが、これは需要回復の影響もあるが、前年同月に当たる2019年10月は消費増税による反動減が生じていたために、2020年10月は前年同月比でプラスに振れやすい影響がある。2018年10月と比べれば、2020年10月の食事代は▲5.9%、飲酒代は▲38.0%である。

2020年11月以降は感染が再拡大したことで回復基調は後退したが、2021年2月に感染状況が改善したことで再び回復基調を示しており、外食の支出額と感染状況は連動している様子がよく分かる。

一方、食関連で支出額の増加が目立つのは、パスタや即席麺、冷凍食品など手軽に食べられる利便性の高い食品に加えて、生鮮肉やチーズなどの比較的高級な食材、油脂・調味料、チューハイ・カクテルなどの酒類、出前である。これらより、外食を控えて家での食事回数が増えたために、外食需要がテイクアウトやデリバリーなどの中食や内食(自炊)需要へとシフトしたことで、手軽な食事需要とともに、家での食事の質を高めたい需要の両面が増している様子がうかがえる。
図表2 新型コロナで大きな変化が見られる主な支出品目(二人以上世帯、対前年同月実質増減率%)
図表3-1 新型コロナで大きな変化が見られる主な支出品目(二人以上世帯、対前年同月実質増減率%)※図表2の一部
図表3-2 新型コロナで大きな変化が見られる主な支出品目(二人以上世帯、対前年同月実質増減率%)※図表2の一部
図表3-3 新型コロナで大きな変化が見られる主な支出品目(二人以上世帯、対前年同月実質増減率%)※図表2の一部
以前にも指摘したが2、中食需要が増している背景には、コロナ禍による外食需要からのへシフトに加えて、中食需要自体も増していることがある。近年、利便性重視志向の高い単身世帯や共働き世帯が増加傾向にあることで中食市場は拡大傾向にあった。さらに、コロナ禍でデリバリーやテイクアウトに対応する飲食店が増えたことで、消費者にとって中食の選択肢が増え、サービスとしての魅力が増している。

なお、食関連で増加している品目の推移を見ると、いずれも、2020年4・5月がピークで、その後、増加幅が一旦落ち着いた状況で推移している。外食ほどには感染状況と連動しておらず、この1年で中食や内食が増えた状況が、ある程度、定着している様子がうかがえる。

ポストコロナでは、外出行動が戻り始め、非接触志向の高まりが緩和されることで、外食需要は自ずと回復基調を示すだろう。しかし、テレワークの浸透によってオフィス街の人の流れが減ることで、オフィス周辺のランチや会社帰りの飲み会需要はコロナ前の水準には戻りにくいと見られる。在宅勤務をはじめとした柔軟な就労環境の整備は、もともと「働き方改革」として進められてきたことであり、今後とも一層進むだろう。すでに一部の外食チェーンでは、コロナ禍でオフィス街に近い駅前から住宅の多い郊外へと出店戦略を見直す動きもある。今後は人の流れが変わることで、外食店のみならず、コンビニエンスストアやドラッグストアなど他業態の店舗立地も変わっていくのだろう。
 
2 久我尚子「コロナ禍の家計消費の推移」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2020/11/12)など。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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