2021年05月20日

わが国の不動産投資市場規模(3)~商業施設の「収益不動産」は約71.1兆円、物流施設は約23.9兆円、ホテル・旅館は約12.9兆円。

金融研究部 主任研究員 吉田 資

株式会社価値総合研究所 パブリックコンサルティング第3事業部 主任研究員 室 剛朗 

文字サイズ

4. ホテル・旅館の資産規模の推計結果

4-1. 概要
ホテル・旅館の「収益不動産ストック」を把握するため、(1)「収益不動産」、(2)「投資適格不動産」のカテゴリーに分類し、推計を行った(図表-13)。
図表-13 「収益不動産ストック」の定義(ホテル・旅館)
まず、ホテル・旅館の資産規模は、「収益不動産」で約12.9兆円、「投資適格不動産」で約8.4兆円と推計された(図表-14)。最大の投資対象アセットである「オフィス」の資産規模と比較すると、約8分の1の水準に留まっている。

各カテゴリーにおけるJ-REITの保有比率を確認すると、「収益不動産」で14.0%、「投資適格不動産」で16.7%となった。前述の「物流施設」(「収益不動産:15.5%」、「投資適格不動産:29.8%」)に次いで、J-REITの保有比率が高いアセットタイプとなった。
図表-14 ホテル・旅館の「収益不動産ストック」とJ-REITの占率
次に、ホテル・旅館の市場回転率を確認する。RCAによれば、2020年のホテルの取引額は、約0.3兆円(前年比▲47%)と半減した。また、取引額に占めるクロスボーダー取引の割合は、これまで概ね20~40%で推移していたが、2020 年は18%に低下した(図表-15)。

日本政府観光局によれば、2020 年はコロナ禍による入国制限を受けて訪日外国人数が412 万人(前年比▲87%)と急減した。ホテル稼働率も低迷しており、「ホテル」の取引額は大幅に減少した。

2007年から2020年のホテル・旅館の年間取引額は、平均0.4兆円であった。これに基づく市場回転率は、「収益不動産」で2.8%、「投資適格不動産」で4.4%と推計される(図表-16)。「投資適格不動産」を基準とした場合、米国(約4.5% と推計)と同水準の不動産取引が行われていると言える。
図表-15 ホテル・旅館の取引額(2007年~2020年)/図表-16 ホテル・旅館の市場回転率
4-2. エリア別にみたホテル・旅館の「収益不動産ストック」
ホテル・旅館の「収益不動産(12.9兆円)」をエリア別にみると、「関東地方」が約5.4兆円(占率42%)と最も大きく、次いで「近畿地方」が約2.7兆円(21%)、「中部地方」が約1.6兆円(13%)、「北海道・東北地方」が約1.3 兆円(10%)、「沖縄・九州地方」が約1.2兆円(10%)、「中国・四国地方」が約0.6兆円(5%)と推計された(図表―17)。「収益不動産」の約4割が「関東地方」に集積している。
図表-17 ホテル・旅館の「収益不動産」の市場規模(単位:兆円)
続いて、ホテル・旅館の「投資適格不動産(8.4兆円)」を都市別にみると、「東京23区」が約3.3兆円(占率40%)と最も大きく、次いで「大阪市」が約1.3兆円(16%)、「京都市」が約0.5兆円(7%)、「名古屋市」が約0.3兆円(4%)、「横浜市」が約0.3兆円(3%)と推計された(図表―18)。「投資適格不動産」の4割が「東京23区」に集積していることになる。
図表-18ホテル・旅館の「投資適格不動産」の市場規模(単位:兆円)

5. おわりに

5. おわりに

本調査では、「収益不動産」の資産規模は約272.3 兆円、「投資適格不動産」の資産規模は約171.3兆円と推計された。各カテゴリーにおけるJ-REITの保有比率を確認すると、「収益不動産」で7.8%、「投資適格不動産」で10.8%となった。投資適格性が高い「投資適格不動産」の約10分の1をJ-REITが保有している。また、市場流動性を示す「市場回転率」は、1.6%、「投資適格不動産」で2.5%となった。

各用途の「(1)資産規模」、「(2)J-REITの保有比率」、「(3)市場回転率」を図表-19(「収益不動産」)と図表-20(「投資適格不動産」)に示した。「投資適格不動産」について確認すると、資産規模が最も大きい「オフィス」は、「J-REITの保有比率」並びに「市場回転率」が一定以上の水準にあり、不動産投資市場の中核を形成している。また、「物流施設」は、「資産規模」はそれほど大きくないものの、「J-REITの保有比率」並びに「市場回転率」が高水準であり、今後の投資拡大が期待される。「ホテル」についても、「物流施設」と同様に「J-REITの保有比率」並びに「市場回転率」が高い水準にある。一方、「オフィス」に次ぐ「資産規模」を有している「商業施設」と「住宅」は、「J-REITの保有比率」並びに「市場回転率」が低水準に留まっており、証券化拡大の余地はまだ大きいと考えられる。
図表-19 用途別 「収益不動産」「資産規模」、「J-REITの保有比率」、「市場回転率」
図表-20 用途別 「投資適格不動産」「資産規模」、「J-REITの保有比率」、「市場回転率」
また、「収益不動産」のエリア分布を確認すると、「収益不動産272兆円」の39%が「東京都」に集積している(図表―21)。用途別にみると、「オフィス99.5兆円」の59%、「住宅64.9兆円」の41%が「東京都」に集積している。一方、「商業施設」、「物流施設」、「ホテル」は「オフィス」と比較すると「東京都」への集積度は低く、地方都市も一定の市場規模を有すると言える。
図表-21 「収益不動産」のエリア分布
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部

吉田 資 (よしだ たすく)

株式会社価値総合研究所 パブリックコンサルティング第3事業部 主任研究員 室 剛朗 

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【わが国の不動産投資市場規模(3)~商業施設の「収益不動産」は約71.1兆円、物流施設は約23.9兆円、ホテル・旅館は約12.9兆円。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

わが国の不動産投資市場規模(3)~商業施設の「収益不動産」は約71.1兆円、物流施設は約23.9兆円、ホテル・旅館は約12.9兆円。のレポート Topへ