2021年05月19日

コロナ禍による在宅勤務の導入・増加の生活習慣や健康への影響

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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新型コロナウイルスの感染拡大にともなって外出の自粛が要請され、企業においても在宅勤務を推奨するようになった。それにともない、外出頻度が下がることで、運動不足になったり、生活のメリハリがなくなる等生活習慣が乱れることによる心身の健康への影響が懸念されている1。例えば、在宅勤務によって勤務時間は長くなる傾向があることから、座位時間が長くなることによる身体への影響2や、コミュニケーション不足によるメンタル面での不調等が指摘されている。

厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査3(2021年3月)」によると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前と比べて運動量が減ったと回答した割合は4割に及ぶ。一方、スポーツ庁の「スポーツの実施状況等に関する世論調査4(2021年2月)」によると、従前より成人で運動不足を感じている割合は8割程度と継続的に高かったが5、2000年調査では週1日以上スポーツを実施している割合は59.9%と、前年を6.3ポイント上回っていた。特に、女性は20代~40代、男性は20代~30代で10ポイント程度上昇していた。頻度が上がった回答者にその理由を尋ねたところ、「コロナウイルス感染症対策による日常生活の変化」「仕事が忙しくなくなったから」の順だったと報告している。これらの調査から、コロナ禍の自粛生活において活動量は減少しつつも、新たに運動習慣を取り入れる等の行動をとっている様子がうかがえる。

そこで、本稿では、ニッセイ基礎研究所が定期的に行っている「被用者の働き方と健康に関する調査」を使って、在宅勤務の有無や頻度が上がったことにともなう生活習慣や心身の自覚症状への影響を分析した。ただし、現状では、コロナ禍においても在宅勤務を利用している人はまだ少ないことから、今回の結果では、在宅勤務が一般に生活習慣や健康状態に与える影響というよりは、突如導入した在宅勤務によって、生活習慣や心身にどのような負担があったかを確認するのにとどめておく。
 
1 例えば、経済産業省 第2回健康投資ワーキンググループ資料「新型コロナウイルス感染症に関するアンケート調査結果(2021年3月11日)」
2 例えば、スポーツ庁広報WEB「日本人の座位時間は世界最長「7」時間!座りすぎが健康リスクを高める あなたは大丈夫?その対策とは・・・日本人の座位時間は世界最長「7」時間!座りすぎが健康リスクを高める あなたは大丈夫?その対策とは・・・」や、国立がん研究センター「職業性座位時間と死亡との関連」
3 厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査(2021年3月)」
4 スポーツ庁「令和2年度 スポーツの実施状況等に関する世論調査」について(2021年2月25日)」
5 運動不足を感じている割合は、2019年度調査で78.7%、2020年度調査で79.6%だった。
 

1――使用したデータ

1――使用したデータ

使用したデータは、2021年3月にニッセイ基礎研究所が実施した「被用者の働き方と健康に関する調査」である。この調査は2019年3月から毎年実施しており、本稿では時系列で比較する場合には、2019年、2020年に実施した同調査を参照する。

対象は、(株)クロスマーケティングのモニターのうち、雇用されている18~64歳の男女で、各都道府県の性、および10歳刻みの年齢群団の構成が2015年国勢調査の構成と合致するように回収した6。2021年調査の回答数は5,808だった7
 
6 その他、企業規模や業種別の就労者数がなるべく実態に近づくよう回収した
7 2019年、2020年も同じ条件で実施。回答数はそれぞれ6,201、6,485だった。
 

2――在宅勤務実施状況

2――在宅勤務実施状況~2021年2月時点で3割程度が実施。昨年から15ポイントUP。

1年前の2020年2月に在宅勤務をした割合は15.5%だった。当時の経緯を振り返ると、日本で最初に感染が確認されたのが1月16日で、PCR検査での陽性者の累計は2月21日に100人を、3月20日に1000人を超えた。2月21日に、厚生労働省が経済団体に対して、職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けて、労働者が発熱などの風邪の症状が見られる際に休みやすい環境や、安心して休むことができるよう収入に配慮した病気休暇制度の整備、感染リスクを減らす観点からテレワークや時差通勤の積極的な活用の促進などの取り組みへの協力を要請した。

このことから、2020年2月に在宅勤務を実施している人は、新型コロナウイルス感染拡大前から在宅勤務を導入している企業や、比較的早期に導入した企業に勤めている人が多く、業種や職種には一定程度の偏りがある可能性がある。
図表1 在宅勤務実施者割合 2021年調査によると、2021年2月に在宅勤務をした割合は全体で30.2%だった。新規感染者数が減少傾向にあった時期だったため、一時期よりは在宅勤務数は減少していた可能性があるが、それでも1年前(2020年2月)の15.5%と比べると15ポイント程度増加していた(図表1)。参考として、調査対象者の属性、および勤務先の属性別の実施状況を、最終ページの図表に示す。
図表2 在宅勤務頻度の変化 在宅勤務をしている人について頻度をみると、「毎日(ほぼ毎日)」と「週に2日程度」がいずれも6.2%と高かった。1年前と比べると、もっとも割合が増えていたのが「毎日(ほぼ毎日)」で、2.4%から6.2%と3.8ポイント増えていた。

全体の20.3%で、1年前と比べて在宅勤務の頻度が上がっており8、75.7%が変化なし、4.0%が低下していた。頻度別にみると、1年前に、月に1~週に1日程度在宅勤務を実施していた人の4割程度が今年は頻度が上がっていたのに対し、まったくしていなかった人では8割が今年もまったくしていなかった(図表2)。
 
8   在宅勤務の利用頻度を7段階(「まったくしていない」「月に1~3回程度」「週に1日程度」「週に2日程度」「週に3日程度」「週に4日程度」「毎日(もしくはほぼ毎日)」)で回答してもらい、2021年の在宅勤務利用頻度が2020年よりも1段階以上上がった場合を「高くなった」とした。
 

3――生活習慣・心身の自覚症状の状況

3――生活習慣・心身の自覚症状の状況

|在宅勤務有無による違いの概要
在宅勤務をすることによって、生活習慣や心身における自覚症状に変化はあるのだろうか。以下では、まず、2019年~2021年調査で最近の動向を確認し、次に2021年調査について、在宅勤務の利用有無による差の概要を確認する。
図表3 生活習慣・心身の自覚症状の時系列推移と在宅勤務有無による差 (1) 生活習慣~在宅勤務をしていた人で「運動習慣がある」「睡眠で十分休養がとれている」が高く、「生活が不規則」が低い
生活習慣については、特定健診における問診でも使われている「1回30分以上の軽く汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施している(以下「運動習慣がある」とする)」「睡眠で休養が十分とれている」「生活が不規則だ」の3つの項目を比較した。

2019年調査からの推移をみたところ、運動習慣がある割合は、2021年調査で10%と、2019年調査や2020年調査と比べて高かった。睡眠で休養がとれている割合は12%前後でおおむね横ばい、生活が不規則である割合は約17%から約14%に低下していた。

2021年調査について、在宅勤務の実施有無で比較すると、在宅勤務をした人で運動習慣がある割合が高く、生活が不規則な割合が低かった。睡眠による休養については、大きな差はなかった。
(2) 心身における自覚症状~在宅勤務をしていた人で「慢性的な疲労」「眼精疲労・目の乾き」「ストレス」を感じる人が少ない
次に、心身における自覚症状として、過去3か月間に「慢性的な疲労」「慢性的な頭痛」「慢性的な肩こり」「慢性的な腰痛」「眼精疲労・目の乾き」「ストレスを感じる」に当てはまるかどうかを尋ねた結果を比較した。

2019年調査からの推移をみたところ、慢性的な疲労、頭痛、肩こり、腰痛、眼精疲労・目の乾きを自覚する割合、ストレスを感じる割合は横ばいだった。

2021年調査で、在宅勤務の実施有無で比較すると、在宅勤務をした人で、慢性的な疲労と眼精疲労・目の乾きとストレスを感じる割合が低かった。
2|回帰分析による推計
ただし、生活習慣や心身の自覚症状は在宅勤務の利用以外の多くの環境に影響される。また、最終ページの参考図表にも示すとおり、在宅勤務の利用も、調査対象者個人の属性、および勤務先属性に影響される。そこで、生活習慣や心身の自覚症状について当てはまるかどうか9を被説明変数、2021年2月時点での在宅勤務の頻度、および1年前と比べて在宅勤務の頻度が上がったかどうかを説明変数として、線形回帰モデルで推計を行った。コントロール変数として、調査対象者個人の属性(性、年齢、未既婚、子どもの有無、居住地域、年収、職種)、および勤務先属性(規模、業種)を加えた。なお、相関が強い変数はなく,多重共線性がないと考えられる。

推計結果は以下の通りだった(図表4)。
図表4 推計結果
 
9 各項目について当てはまる場合を1、当てはまらない場合を0とした。
(1) 生活習慣~在宅勤務が増えたことで運動・休養が充実するも、生活が不規則にもなる可能性
運動習慣についてみると、1年前と比べて在宅勤務の頻度が上がった人で運動習慣があると回答していた。

今回の対象者は就労世代で、運動不足を感じていた人が多いと考えられる。また、通勤自体が運動になっていた人にとっては、在宅勤務が増えることによって運動不足となる。さらに、感染拡大によって体力の増強への関心が高まっている可能性もある。こういったことを背景に、通勤等に使っていた時間が自分でコントロールできるようになることで、運動に費やす時間が増えたと考えられる。

睡眠による休養についても、1年前と比べて在宅勤務の頻度が上がった人で「睡眠で休養が十分にとれている」と回答する傾向があったが、2021年時点での在宅勤務の頻度の状況による差はなかった。頻度が上がったことで、これまで通勤や身支度に使っていた時間を、体調にあわせて睡眠等の休養にあてることができた可能性が考えられる。運動習慣と睡眠については、在宅勤務が増えた人で改善しているものの、在宅勤務の頻度が高いほど良い状態であるわけではない点には注意が必要だ。

また、2021年時点で在宅勤務をしている人は、在宅勤務をしていない人と比べて生活が不規則だと回答していない。しかし、1年前と比べて頻度が上がった人では不規則だと回答していた。このことから、在宅勤務の導入有無によらず、出勤頻度が変わらなければ生活リズムは作りやすいが、在宅勤務の頻度が上がるなど出勤頻度が変わることは、生活を不規則にする可能性があると考えられる。
(2) 心身における自覚症状~在宅勤務が増えたことで調子を崩す可能性
在宅勤務をしている人は、在宅勤務をしていない人と比べて慢性的な疲労、肩こり、眼精疲労・目の乾きを感じていなかった。慢性的な頭痛、腰痛、ストレスについても、有意差はないがどちらかと言えば、在宅勤務をしている人で感じていない傾向があった。しかし、1年前と比べて在宅勤務の頻度が上がった人では、いずれの項目でも不調を感じていた。このことから、生活の規則正しさと同様に、在宅勤務の頻度が上がるなどの変化が身体へ負担をかけている可能性がある。

身体への負担を覗わせる情報として、今回の調査で在宅勤務の頻度が上がった人では、生活習慣の変化以外にも仕事や家事・育児の負担が増えていた人が多かった。例えば、1日あたりの平均着席時間が8時間以上の割合は、在宅勤務の頻度が上がった人で46.2%と、全体の平均33.9%を大きく上回っていた。これは、在宅勤務をしている人全体も上回る。また、この1年間で「勤務先での仕事量が増加した」と回答している割合も10.5%と高く、「家事・育児負担が増加した」と回答している割合も高かった。
図表5 在宅有無別 仕事量、家事・育児負担の変化と、着席時間

4――在宅勤務実施者は健康状態が良好な傾向

4――在宅勤務実施者は健康状態が良好な傾向。ただし、頻度が上がった人で生活リズムや体調を崩しやすい可能性。

以上のとおり、被用者を対象に行ったアンケート調査を使って、生活習慣と、心身の自覚症状の有無を、在宅勤務の有無、および1年前と比べて在宅勤務の頻度が上がったかどうかで回帰することで、在宅勤務と生活習慣や心身の自覚症状との関係をみた。なお、在宅勤務による心身への影響として、メンタルヘルス不調が懸念されているが、メンタルヘルス不調については、在宅勤務の有無や頻度だけでなく、コロナ禍による世帯年収の変化、業務内容の変化、家族への影響、企業における感染対策、上司との関係等、より多くの要因が関連すると考えられるため、今回は扱わず、「ストレスを感じるか」に対する自己評価のみを扱った。

その結果、在宅勤務の頻度が上がった人は、運動習慣があり、睡眠で休養が取れている等、生活習慣面では良い傾向もみられたが、生活は不規則になっており、慢性的な疲労、肩こり、頭痛、腰痛、眼精疲労・目の乾き、ストレスのいずれも感じる等、健康状態は良くなかった。その理由の1つとして、在宅勤務の頻度が上がった人では、これまでの通勤習慣の変化のほか、勤務先における仕事量の増加や家事・育児負担の増加があった。また、今回の調査で在宅勤務を実施したり、在宅勤務の頻度を上げた人の中には、働き方の見直しではなく、感染拡大抑止のために在宅勤務を要請されていたり、企業側も各家庭でも十分な環境が整わないまま実施していたケースも多いと考えられることから、テレワークの実施場所は自宅であった人が多く、こういったイレギュラーな勤務や家族全員の自粛生活によって、生活リズムが不規則になったり、心身への負担になった可能性がある。そのような中でも、在宅勤務が増えた人では、運動習慣をもち、睡眠によって休養がとれている傾向があったことから、在宅勤務で自分でコントロールできる時間が増えれば、運動や休養にあてられる可能性がある。また、在宅勤務を実施している人では、生活習慣の不規則さが少ないほか、慢性的な疲労、肩こり、眼精疲労・目の乾き等の心身の自覚症状が少なく、健康状態が良好な状態にあり、在宅勤務による健康へのメリットもある。

感染収束後には、より健康的で生産性の高い働き方ができるようテレワークの導入やその頻度についての議論が深まることを期待したい。
 

Appendix

Appendix

2021年時点での在宅勤務実施頻度、および2020年との頻度の比較を、調査対象者個人の属性(性、年齢、未既婚、子どもの有無、居住地域、年収、職種)、および勤務先属性(規模、業種)別に示す。

業種では「情報通信業」「金融業、保険業」、職種では「管理職・マネジメント」「事務系専門職」「技術系専門職」は1年前と比べて在宅勤務を利用する割合が増加し、利用割合も高かったのに対し、業種では「医療、福祉」、職種では「販売職」「生産、技能職」「接客サービス職」「運輸、通信職」は利用割合が低く、増加もしていない。業務内容によって在宅利用状況が異なることを改めて確認できる。

 
2021年時点での在宅勤務実施頻度、および2020年との頻度の比較
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

(2021年05月19日「基礎研レポート」)

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【コロナ禍による在宅勤務の導入・増加の生活習慣や健康への影響】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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