2021年05月18日

QE速報:1-3月期の実質GDPは前期比▲1.3%(年率▲5.1%)-緊急事態宣言の影響で3四半期ぶりのマイナス成長

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●1-3月期は前期比年率▲5.1%と3四半期ぶりのマイナス成長

本日(5/18)発表された2021年1-3月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比▲1.3%(前期比年率▲5.1%)と3四半期ぶりのマイナス成長となった(当研究所予測4月30日:前期比▲0.9%、年率▲3.6%)。

緊急事態宣言再発令の影響で、民間消費(前期比▲1.4%)、設備投資(同▲1.4%)が減少したことに加え、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた医療機関の受診減少、「Go To トラベル」の停止から、政府消費が前期比▲1.8%の大幅減少となったことが成長率を押し下げた。

また、世界的な経済活動の持ち直しを背景に輸出が前期比2.3%の増加となったが、国内の財需要の底堅さを背景に輸入が前期比4.0%と輸出の伸びを上回ったため、外需寄与度が前期比▲0.2%(前期比年率▲0.9%)と3四半期ぶりのマイナスとなった。
 
名目GDPは前期比▲1.6%(前期比年率▲6.3%)と3四半期ぶりの減少となり、実質の伸びを下回った。GDPデフレーターは前期比▲0.3%(10-12月期:同▲0.4%)、前年比▲0.2%(10-12月期:同0.2%)であった。
 
2020年度の実質GDP成長率は▲4.6%(2019年度は▲0.5%)、名目GDP成長率は▲4.0%(2019年度は0.3%)となった。実質GDPはリーマン・ショック時の2008年度(▲3.6%)、2009年度(▲2.4%)を超えるマイナス成長となった。
需要項目別結果
<需要項目別の動き>
民間消費は前期比▲1.4%と3四半期ぶりの減少となった。2度目の緊急事態宣言が発令される中、飲食、宿泊などのサービス消費が大きく落ち込んだ。

実質家計消費の内訳を形態別にみると、食料品などの非耐久財(前期比1.6%)は増加したが、「Go To トラベル」の停止、緊急事態宣言の影響で、交通、外食、旅行、宿泊などのサービスが同▲2.6%の減少となったほか、自動車、家電製品などの耐久財(同▲3.1%)、被服・履物、家具などの半耐久財(同▲3.0%)も減少した。

雇用者報酬は名目・前年比▲0.5%(10-12月期:同▲2.6%)、実質・前年比▲0.2%(10-12月期:同▲2.0%)と、いずれも4四半期連続のマイナスとなったが、雇用者数、一人当たり賃金の減少幅がいずれも縮小したため、マイナス幅は前期から大きく縮小した。
 
住宅投資は前期比1.1%と2四半期連続で増加した。新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は消費税率が引き上げられた2019年10-12月期に90万戸を割り込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2020年4-6月期以降は80万戸程度へと水準を大きく切り下げたが、2021年1-3月期は83.0万戸へと持ち直した。先行きについては、雇用所得環境の悪化が下押し要因となるため、住宅投資は低迷が続く可能性が高い。
 
設備投資は前期比▲1.4%と2四半期ぶりに減少したが、10-12月期に前期比4.3%の高い伸びとなった反動もあり、基調としては持ち直しの動きが継続していると判断される。緊急事態宣言下でも製造業の生産活動が堅調だったことから、製造業の機械投資は増加したが、非製造業の建設投資が低迷したとみられる。先行きについては、対面型サービス業の建設投資が引き続き下押し要因となるものの、機械投資やデジタル関連投資が増加することから、設備投資全体としては持ち直しの動きが続くことが予想される。
 
政府消費は前期比▲1.8%と4四半期ぶりの減少となった。ワクチン供給や接種による押し上げはあったものの、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた医療機関の受診減少、「Go To トラベル」の停止が押し下げ要因となった。
 
公的固定資本形成は、災害復旧や国土強靭化関連工事の進捗を反映し、基調としては増加傾向が続いているが、1-3月期は執行の端境期となったことから、前期比▲1.1%と7四半期ぶりに減少した。
 
外需寄与度は前期比▲0.2%(前期比年率▲0.9%)と3四半期ぶりのマイナスとなった。海外経済の回復を背景に財貨・サービスの輸出が前期比2.3%の増加となったが、国内の財需要の底堅さを反映し、輸入が前期比4.0%と輸出の伸びを上回ったことから、外需が成長率の押し下げ要因となった。
20214-6月期も低迷が続く)
日本経済は2020年4-6月期に過去最大のマイナス成長となった後、2四半期連続で前期比年率二桁の高成長を記録したが、2021年1-3月期は緊急事態宣言の再発令を受けて再びマイナス成長となり、経済正常化に向けた動きはいったん足踏みとなった。

2020年4月の緊急事態宣言時と比べれば成長率のマイナスは小幅にとどまったが、2021年1-3月期の実質GDPの水準はコロナ前(2019年10-12月期)を▲2.3%下回っている。政府支出(政府消費、公的固定資本形成)はコロナ前を大きく上回っており、海外経済の回復を背景に財の輸出も増加しているが、民間消費などの国内民間需要、インバウンド需要の蒸発を主因としてサービスの輸出がコロナ前を大きく下回っている。また、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に、消費税率引き上げの影響で落ち込んでいた。直近のピークである2019年7-9月期と比較すると、2021年1-3月期の実質GDPは▲4.2%、民間消費は▲6.7%低い水準となっている。
コロナ前と比べた経済活動の水準
緊急事態宣言はいったん解除されたが、4/25から東京都、大阪府、京都府、兵庫県の4都府県を対象に3度目の宣言が発令された。当初は5/11までとされていた緊急事態宣言の期限は5/31まで延長され、5/12からは愛知県、福岡県、5/16からは北海道、広島県、岡山県が対象地域に追加された。緊急事態宣言対象地域のGDPが日本全体に占める割合は、4/25時点の32%から5/16以降は50%まで高まった。

今回の緊急事態宣言は、酒類を提供する飲食店、百貨店(食料品など生活必需品の売り場を除く)の休業、テーマパーク・遊園地の休園など、経済活動の制限が前回の緊急事態宣言時(2021年1月~)よりも厳しくなっているため、個人消費への悪影響は前回よりも大きくなることが予想される。財、サービス別には、サービス消費は低迷が続くものの、すでに水準が大きく下がっているため、追加的な下押し圧力は限定的にとどまる公算が大きい。また、財消費は、大規模商業施設の休業がマイナス要因となるものの、巣ごもり需要の拡大を背景に底堅い動きが続くだろう。

現時点では、2021年4-6月期の実質GDPは、緊急事態宣言の影響を受けにくい設備投資、輸出が増加し、ワクチン接種の進捗などから政府消費が増加に転じる中、民間消費がほぼ横ばいとなることから、前期比年率1%程度のプラス成長を予想している。大幅マイナス成長の後としては低い伸びにとどまる可能性が高いだろう。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年05月18日「Weekly エコノミスト・レター」)

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