2021年05月13日

住宅市場は立ち直りの動き。REIT指数は5カ月連続で上昇-不動産クォータリー・レビュー2021年第1四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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1. 経済動向と住宅市場

昨年後半から回復基調にあった経済活動は新型コロナ感染拡大を受けて再び停滞色を強めており、不動産市場の先行きについても依然として不透明感の強い状況が続いている。

5/18に公表予定の2021年1-3月期の実質GDPは前期比年率▲3.6%と3四半期ぶりにマイナス成長になったと推計される1。緊急事態宣言の再発令の影響で対面型サービスを中心に民間消費が落ち込み、経済正常化の動きはいったん足踏みとなった。なお、4/25に発令された3度目の緊急事態宣言が対象地域を広げて5/31まで期限延長されたことで、景気に対するさらなる悪影響が懸念される。

経済産業省によると、1-3月期の鉱工業生産指数は前期比+3.0%と3四半期連続の増産となったが、前期(+5.7%)からは伸びが低下した。(図表-1)。輸出はすでにコロナ前の水準を上回るものの、国内需要の回復が遅れており、1-3月期の生産は1年前と比べて▲1%程度低い水準にとどまっている。

ニッセイ基礎研究所は、3月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2021年度+3.7%、2022年度+1.7%を予想する(図表-2)2。今後はワクチンの普及によってコロナ拡大の抑制が期待されるものの、コロナ禍による雇用や所得の減少が需要の下押し圧力となり、直近のピーク水準(2019年7-9月期)を回復するのは2023年度にずれ込む見通しである。
図表-1 鉱工業生産(前期比) / 図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場では、マンションの新規発売戸数や成約件数が2ケタの増加を示すなど立ち直りの動きを見せるなか、価格が上昇している。2021年3月の新設住宅着工戸数は71,787戸(前年同月比+1.5%)と21カ月ぶりに増加に転じ、1-3月累計では約19.1万戸(前年同期比▲1.6%)となった(図表-3)。今後は緊急事態宣言の影響などに留意しなければならないが、着工戸数の底打ちが期待される。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、暦年比較)
2021年3月の首都圏のマンション新規発売戸数は3,103戸(前月同月比+44.9%)と4カ月連続で増加し、1-3月累計では6,671戸(前年同期比+37.1%)と大幅に増加した(図表-4)。3月の1戸当たりの平均価格は6,330万円(前年同月比+2.8%)、㎡単価は93.5万円(▲3.9%)、初月契約率は73.6%(+3.6%)、販売在庫は7,357戸(前年比▲531戸)となった。マンション発売は昨年の落ち込みから回復基調をたどっている。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(暦年比較)
東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2021年3月の首都圏の中古マンション成約件数は4,228件(前年同月比+16.1%)、1-3月累計では11,295件(前年同期比+12.2%)となり、いずれも調査開始以来の過去最高を記録した(図表-5)。中古マンションの成約件数は周辺部・東京都区部ともに高水準で、新規登録件数の減少によって品薄感も見られるなか、価格が上昇している。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(12カ月累計値)
日本不動産研究所によると、2021年2月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は8カ月連続で上昇し、過去1年間の上昇率は+3.5%となった(図表-6)。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)
 
1 斎藤太郎『2021年1-3月の実質GDP~前期比▲0.9%(年率▲3.6%)を予測』(ニッセイ基礎研究所、Weekly エコノミスト・レター、2021年4月30日)
2 斎藤太郎『2020~2022年度経済見通し-20年10-12月期GDP2次速報後改定』(ニッセイ基礎研究所、Weekly エコノミスト・レター、2021年3月9日)
 

2. 地価動向

2. 地価動向

地価は都心商業地を中心に下落傾向にある。国土交通省の「地価LOOKレポート(2020年第4四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「15」、横ばいが「47」、下落が「38」となった。(図表-7)。同レポートでは、「下落地区の割合について、用途別では商業系が住宅系より高く、地域別では大都市圏が地方圏より高い傾向にある」としている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
一方、野村不動産ソリューションズによると、首都圏住宅地価格の変動率(4月1日時点)は前期比+1.0%(年間+1.3%上昇)となり3四半期連続でプラスとなった。「値上がり」地点の割合は41.7%(前回22.6%)、「値下がり」地点の割合は1.2%(前回2.4%)となった。在宅勤務の普及を受けて通勤利便性より住環境を重視するといった新たな需要もあり、住宅地価格は強含んでいる(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価格(変動率、前期比)

3. 不動産サブセクターの動向

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2021年3月の東京都心5区の空室率は13カ月連続上昇の5.42%(前月比+0.18%)、平均募集賃料(月坪)は8カ月連続下落の21,541円(前月比▲0.6%)となった。一方で、他の主要都市をみると空室率は上昇基調にあるものの(図表-9)、募集賃料は今のところ大阪を除いて前年比プラスを確保している3。コロナ禍の影響が全国のオフィス市況に広がるなか、調整幅は東京が最も大きくなっている。
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2021年第1四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は35,309円(前年同期比▲8.9%)となった(図表-10)。三幸エステートは、「募集面積の増加が続いていることに加え、市況の先行きに対する警戒感から、オーナー側では賃料交渉に対して柔軟な姿勢が見られる」としている4

また、日経不動産マーケット情報(2021年4月号)によると、「来年4月までに竣工する全11棟5のテナント内定率は65%にとどまり、前回調査より10%低下した」としており、新築ビルの内定ペースは市況の悪化に伴い減速傾向にある。

ニッセイ基礎研究所は、東京都心Aクラスビルの賃料見通しを2月に発表した6。「Aクラスビルの成約賃料は、既に水準調整が進んでいることから当面の間、現行水準で推移した後、2023年以降の大量供給に伴う空室率の上昇を受けて弱含みで推移する」見通しである。オフィス需要は2008年のリーマンショック後ほど落ち込むことはないとみるが、今後は使用するオフィス床面積を見直す動きが本格化することが予想され、その動向を注視したい。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
 
3 2021年3月時点の募集賃料は、前年比で、札幌(+2.4%)・仙台(+0.3%)・東京(▲4.7%)・横浜(+2.5%)・名古屋(+0.8%)・大阪・(▲0.3%)・福岡(+2.5%)となっている。
4 三幸エステート「オフィスレント・インデックス2021年第1四半期」(2021年5月7日)
5 東京23区内にある延べ床面積1万m2以上の賃貸オフィスビルを対象
6 吉田資『東京都心部Aクラスビル市場の現況と見通し(2021年)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2021年2月19日)
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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