2021年05月11日

米国個人年金の販売チャネル-商品区分ごとに見るチャネル別販売シェアの状況-

松岡 博司

文字サイズ

4月20日の当保険・年金フォーカスでは、米国の個人年金の商品種類を見たが1、今回は、各個人年金商品を販売している販売担当者、販売チャネルに着眼する。

今回も使用するデータは、米国における生命保険マーケティングの調査・教育機関であるリムラ(LIMRA)とその下部機関である安全退職研究所(Secure Retirement Institute:以下、SRI)がまとめたデータである。
 
1 松岡『米国の個人年金商品-指数連動化が進む米国生保の個人年金-』
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/67611_ext_18_0.pdf?site=nli
 

1――米国における個人年金販売チャネルの概要

1――米国における個人年金販売チャネルの概要

グラフ1は、米国における2020年の全ての個人年金商品の合計販売額を、販売チャネル別に区分して、各チャネルの販売シェアをまとめたものである。
グラフ1  合計個人年金販売のチャネル別販売シェア(2020年)
グラフ1からは、米国の個人年金マーケットでは、特定の販売チャネルが圧倒的な地位を築いているわけではなく、さまざまな販売チャネルがあって、それぞれがそれなりのシェアを有している状況が見える。

以下、もう少し詳細に、商品類型ごとのチャネル別販売シェアを見ていく。
 
なお、グラフ1では、7つの販売チャネルが挙げられている。リムラの各チャネルに関する記述等から、各チャネルの概要をまとめると以下の通りである。

以下でも、同じ区分で販売シェアを見ていく。
表1 各販売チャネルの概要

2――定額年金と変顔年金のチャネル別販売シェア

2――定額年金と変顔年金のチャネル別販売シェア

1各販売チャネルの定額年金・変額年金販売状況
各販売チャネルには得手不得手がある。

グラフ2は、各販売チャネルの2020年の個人年金販売額の内訳を、定額年金と変額年金に分けて見たものである。

独立エージェントの販売実績のほとんどは定額年金の販売である。銀行、フル・サービスの大規模証券ブローカー/ディーラーも、定額年金の販売が多い。

一方、独立証券ブローカー/ディーラー、専属エージェント、ダイレクトレスポンスは変額年金の販売のほうが多い。

定額年金と変額年金をほぼ同等に販売している万能型の販売チャネルはないように思われる。
グラフ2 販売チャネル別の定額年金・変額年金の販売状況(2020年)
2定額年金のチャネル別販売シェア
定額年金販売においては、独立エージェント(33.7%)、銀行(23.6%)、フル・サービスの大規模証券ブローカー/ディーラー(18.0%)が3大チャネルである。
グラフ3 定額年金の販売チャネルシェア(2020年)
3変額年金のチャネル別販売シェア
変額年金販売では、42.5%のシェアを有する独立証券ブローカー/ディーラーと24.8%のシェアを持つ専属エージェントが2大販売チャネルである。

2020年の変額年金販売額は、新型コロナのパンデミックにより、ほぼすべての販売チャネルで対2019年減少したが、独立証券ブローカー/ディーラーだけは、マイナスしなかったという。

専属エージェント、銀行チャネルでは、近年の変額年金の販売低迷にパンデミックが追い打ちをかけた。2020年の銀行チャネルの販売額は2018年以来の最低水準であり、専属エージェントチャネルの販売額は1996年以来の最低水準であった。
グラフ4 変額年金のチャネル別販売シェア(2020年)

3――さらに細かく商品類型別のチャネル別販売シェアを見る

3――さらに細かく商品類型別のチャネル別販売シェアを見る

1確定利付き据置定額年金(定額年金に分類される商品)
定額年金のうち、契約であらかじめ定めた年金の支払いが行われる純粋の定額年金である「確定利付き据置定額年金」は、わが国の定額年金のイメージにもっとも近い商品である。

確定利付き据置定額年金の販売では、銀行のシェアが37.2%と、圧倒的に大きい。これに31.9%のフル・サービスの大規模証券ブローカー/ディーラーが続き、他のチャネルを引き離している。

これらのチャネルは保守的で安全性を好む顧客層を有している。確定利付き据置定額年金の商品性は、そうした顧客層の特性に適している。
グラフ5  確定利付き据置定額年金のチャネル別シェア(2020年)
パンデミックに襲われた2020年に、フル・サービスの大規模証券ブローカー/ディーラーは、確定利付き据置定額年金の販売額を増やした。その結果について、リムラは、「新型コロナウイルスの感染拡大を緩和するために導入されたソーシャル・ディスタンシング規制により、パンデミックはバーチャル年金販売モデルのロジスティクスに影響を与えた。最も厳しい経済状況下で、フル・サービスの大規模証券ブローカー/ディーラーは、確定利付き据置定額年金販売額の37%増を達成した。この成功は、当該チャネルの大規模なプラットフォームに関連している。確立されたコールセンターの設置により、当該チャネルは、保護機能を備えた商品を求める個人の殺到に対処することができた。」としている。
2定額指数連動年金(定額年金に分類される商品)
定額年金のもう一つの主力商品である「定額指数連動年金」は、保険料に付与される利率がS&P500などの証券関連指数に一部リンクして定められる年金である。定額年金に分類され、元本保証があるが、指数に積立金が連動して変動する。元本を保証しつつ証券市場のパフォーマンスを所定の方式に従って顧客に還元する効果を持つ。定額年金に分類されるので、変額年金を販売する時のような厳格な規制は課されない。

定額指数連動年金の販売においては、独立エージェントが60.7%と、圧倒的なシェアを有している。証券関連の指数等が用いられているため、証券業務に長けた、フル・サービスの大規模証券ブローカー/ディーラー、独立証券ブローカー/ディーラー、銀行による販売が中心なのではないかとも想像されるが、これらのシェアは、それぞれ13.2%、4.0%、15.5%と、目立つほど高くはない。
グラフ6 定額指数連動年金のチャネル別販売シェア(2020年)
3RILA(登録指数連動年金)(変額年金に分類される商品)
RINA(登録指数連動年金)は新しい商品で、2020年末現在でも提供している生保会社は12社しかないので、販売チャネルの状況も、狭い範囲内での結果となるが、2020年のRINA販売においては、独立証券ブローカー/ディーラーのシェアが55.4%と高く、これに銀行(22.9%)が続いている。
グラフ7  RILA(登録指数連動年金)のチャネル別販売シェア(2020年)
株式運用等の実績に応じて積立金が変動する従来の変額年金とは異なり、RINAでは、株価指数等の動きによって積立金が変動する。この点では定額年金中の定額指数連動年金とよく似ているが、指数が上昇した時に契約者が受け取るリターンは、定額指数連動年金におけるよりも大きい。逆に指数が下落したときには、定額指数連動年金におけるような元本保証はない。ただし元本割れとなったとしても従来型の変額年金のように全てのリスクを契約者が負うわけではなく、契約者が負担する損失に一定の歯止めをかける仕組みが付されている。

2020年には、パンデミックの中、マーケット指数の回復に積極的に参加しながら、許容可能な下値への保護を提供するRILAに対する消費者の関心が高まった。RINA以外の変額年金販売が不調に陥る中、RILAは成長を持続し、変額年金トータルとしての販売減を最小限にとどめることに貢献した。

特に独立証券ブローカー/ディーラーチャネルは、この流れをうまく受け止め、退職に向けた魅力的な投資ソリューションとしてRILAを推奨し、成功した。
 

さいごに

さいごに

以上、米国における個人年金の販売チャネルの状況を見てきた。各チャネルにはそれぞれ得意とする商品分野があって、その特性を活用したい生保会社が、販売チャネルの特性にあった商品の販売を委ねる。

筆者の個人的な感想では、わが国では銀行で販売される印象が強い変額年金において、米国では専属エージェントが約4分の1の販売シェアを有していることが興味深い。米国の生保会社にとって、個人年金業務は生命保険業務よりも重要性の高い事業分野となっているので、個人年金の販売に強い専属エージェントを育成している生保会社があることが想像される。

なお、米国においても、パンデミックの2020年には、バーチャルな販売の導入が模索されたはずであるが、今回のリムラのデータでは、個人年金のオンライン販売を切り出した調査結果は提示されていない。

今後、各販売チャネルにおいて、どのようにオンライン販売の活用が検討され、実施されて行くのか、注目していきたい。
Xでシェアする Facebookでシェアする

松岡 博司

研究・専門分野

(2021年05月11日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【米国個人年金の販売チャネル-商品区分ごとに見るチャネル別販売シェアの状況-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

米国個人年金の販売チャネル-商品区分ごとに見るチャネル別販売シェアの状況-のレポート Topへ