2021年04月30日

新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年決算発表による-

中村 亮一

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1―はじめに

米国や欧州においては、2月下旬から3月にかけて、2020年決算発表が行われている。これまで、新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響については、2020年の4月下旬から5月にかけて行われた2020年の第1四半期の業績発表に関して、保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年第1四半期業績発表による-」(2020.5.22)及び「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年第1四半期公表による-」(2020.5.27)で報告した。また、2020年の7月下旬から8月にかけて行われた2020年の第2四半期の業績発表に関して、保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年第2四半期業績発表による-」(2020.8.25)及び「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年第2四半期公表による-」(2020.9.1)で報告した。

今回は、こうした米国や欧州の保険会社の2020年決算発表の中から、大手保険グループのCOVID-19の影響等に関する公表内容について、2回に分けて報告している。まずは、前回のレポートでは、米国大手保険グループ及び大手再保険グループの状況を報告した。今回のレポートでは、欧州大手保険グループの状況を報告する。
 

2―欧州大手保険Gの公表内容

2―欧州大手保険Gの公表内容

ここでは、欧州大手保険Gから、AXA、Allianz、Generali、Aviva、Aegon及びZurichの状況について、各社のプレスリリース資料等から抜粋して報告する。なお、抜粋箇所における下線付与は筆者による。
1|AXA
AXAは、その2020年の決算発表1において、COVID-19について、43億ユーロの基礎利益に対して、COVID-19の請求(Covid-19 claims)2は15億ユーロである、として、以前に報告された数値と変わっていない、と報告した。より具体的には、「Covid-19関連のPC請求及び連帯措置による当グループの2020年の基礎利益への影響は、15億ユーロ(税引後及び再保険控除後)だった。この影響は、グループの2020年6月3日の発表及びグループの上半期の結果リリースで提供された見積もりと一致している。下半期のさらなるロックダウンによる影響は概ね中立であり、コマーシャルラインでの追加の請求はリテールラインでの頻度減少のベネフィットによって相殺された。」と述べた。

Thomas Buberl CEOは、「Covid-19危機を通じて、AXAは社会での役割を積極的に果たし、顧客にサービスを提供し、従業員をサポートすると同時に、中小企業への7億ユーロの投資や、フランスやグループが事業展開するその他の国でのその他の連帯措置を通じて経済回復に貢献してきた。」と述べた。また、「取締役会は、当社グループの貸借対照表上の状況、キャッシュ・フロー及び全体的な経営成績、並びに継続中のCOVID-19危機に関連する継続的な不確実性を慎重に検討した結果、一株当たり1.43ユーロの配当を提案することを決定した。」と述べた。

なお、事業部門別の影響等については、例えば以下の記述が行われている。

(1)損害保険
コマーシャルラインの売上高は、2%増加して317億ユーロとなった。第1四半期の売上高増加 (5%増)、第2四半期のCOVID-19の売上高減少(10%減)に続き、第3四半期の売上高が回復(2%増))し、第4四半期の売上高が増加 (7%増)した。この増収は主にAXA XL保険によるもので、価格面では引き続き好調に推移したが、収益性改善のための引受活動や、COVID-19における保険事業の縮小による影響が見込まれている。

パーソナルラインの売上高は1%減少して170億ユーロとなったが、これは主に欧州とフランスにおけるCOVID-19関連の新契約活動の減少によるものである。

P&Cの基礎収益は51%減少してユーロ16億4400万となったが、これは主に (i) COVID-19からの請求、特に事業中断(1.1億ユーロ)、イベント中止(0.6億ユーロ)、その他のライン(0.5億ユーロ、主にクレジット、金融、負債、旅行)、連帯措置、その他(0.2億ユーロ)によるもので、自動車の減少(8億ユーロ)と (ii) 自然災害、特に大西洋における自然災害の頻度が高まった結果、AXA XLのNAT CAT保険料の値上げによって一部相殺された。

COVID-19の予測及びNAT CATの正常化を前提とすると、P&Cの基礎収益は2%増加した。これは、前年度の支払準備率の悪化や投資利益の減少を相殺する以上に、今年度の引受実績が増加したためである。

なお、COVID-19による影響の商品別の内訳及びそのうちのAXAXL等の内訳の状況は、プレゼンテーション資料の中で、以下の図表のように示されている。
(参考)損害保険 COVID-19による影響
(2)生命保険及び貯蓄
総収益は6%減少して315億ユーロとなったが、これは第1四半期における大幅な成長(+4%)が、第2四半期 (▲21%)、第3四半期(▲6%)及び第4四半期(▲3%)のCOVID-19関連の影響 (主にG/A貯蓄) によって相殺されたことによるものである。

(3)医療
フランスがCOVID-19に関連して保険金請求の頻度が低かったことが、政府が導入した医療保険料への例外的な税金や社会改革に関連して保険金請求の深刻度が高まったこと、及び英国とアイルランドが2019年に例外的に有利な保険金請求が繰り返されなかったことにより相殺されたため、コンバインドレシオは0.5ポイント上昇して94.5%となった。
(参考)地域別事業部門別のCOVID-19の基礎利益への影響(プレスリリース資料より)
 
1 https://www.axa.com/en/press/press-releases/full-year-2020-earnings
2 「COVID-19の請求」には、P&C、L&S、医療保険のCOVID-19関連の純請求額、ならびに連帯措置及びCOVID-19に関連する費用控除後の取引量の減少の影響が含まれる。「COVID-19の請求」には、COVID-19危機に関連する金融市場への影響(投資証拠金、ユニットリンク手数料、資産運用手数料等への影響を含む)は含まれていない。
2|Allianz
Allianzは、その2020年の決算発表3において、COVID-19について、「2020年の営業利益は108億ユーロで、COVID-19によるマイナスの影響は13億ユーロだった。」とし、「2020年の業績は、COVID-19のパンデミックの影響により、特に損害保険事業の業績に影響が出たが、全ての事業セグメントにおいて非常に堅調に推移した。」と述べた。より具体的には、「総収入は1.3%減少して1,405億ユーロ(2019年は1,424億ユーロ、以下同様)となり、営業利益は9.3%減少して108億ユーロ (119億ユーロ)となった。これは主に、COVID-19による約13億ユーロのマイナス影響によるものである。損害保険事業では、COVID-19関連の損失、流出の減少、営業投資の減少により営業利益は減少した。」としている。

Allianz SEのCFOであるGiulio Terzariol,氏は、「COVID -19の影響を調整すると、営業利益は前年の記録を上回り、当社の基本的な業績がいかに分散化し、健全であるかを示している。パンデミックの間、当社の資本基盤は強固なままである。」と述べた。

なお、事業部門別の影響等については、例えば以下の記述が行われている。

(1)損害保険
2020年の営業利益は前年比13.4%減の44億ユーロとなったが、引受結果は、COVID-19のパンデミックの影響を強く受けた。特にコマーシャル部門でのパンデミック、自然災害による保険金請求の増加、流出による保険料の減少などが影響したが、経費率の大幅な改善により一部相殺された。営業投資利益も減少した。

(2)生命保険・医療
新契約保険料現在価値(PVNBP)は、COVID-19の規制の影響を受けて、2020年には615億ユーロ(670億ユーロ)に減少した。減少が最も大きかったのはドイツと米国で、このマイナス効果は、イタリアでの販売数量の増加により一部相殺された。

業利益の事業部門別のCOVID-19による影響は、以下の図表の通りとなっている。
営業利益の内訳
3|Generali
Generaliは、その2020年の決算発表4において、COVID-19について、「当グループの営業成績は、史上最高の52億8百万ユーロ(2019年は、51億92百万ユーロ)となった。COVID-19の業績への影響は、▲123百万ユーロと見積もられている。」と述べた。

また、Philippe Donnet CEOは、次のようにコメントした。

「今日、私たちはパンデミックによって引き起こされた危機のために前例のない状況で得られた優れた結果を提示している。これは、技術的な観点と資本ポジションの両方の観点から、このセクターの同業他社と比較してGeneraliの回復力が高いことを裏付けている。」

COVID-19の影響額の状況は、以下の図表の通りとなっている。
営業利益(COVID-19の影響)
なお、事業部門別の影響等については、例えば以下の記述が行われている。

(1)生命保険
当セグメントの営業利益は、26億27百万ユーロ(2019年は31億29百万ユーロ)となった。テクニカル・マージン(保険費用控除後)の好業績は、金融市場の悪影響による純投資額の減少及びより重要な部分では、より保守的な長期財務予測を反映したスイスの保険契約者に対する保証引当金の継続的な増加により相殺された。COVID-19でパンデミックが発生したため、(金融市場のパフォーマンスに関連する投資の減損及び程度は低いが、特にフランスにおける健康保険の請求額の増加により)結果として合計▲307百万ユーロの影響を受けた。

(2)損害保険
当セグメントの営業利益は、技術的収益性の改善とポルトガルの新会社Seguradoras Unidasの買収によるプラスの貢献により、24億56百万ユーロ(+19.4%)と大幅に増加した。投資結果の減少は、市場金利の現状を反映した経常利益の減少や株式配当金の減少によるものである。COVID-19が当セグメントの営業成績に与えた影響はプラスで、120百万ユーロと見積もられている。

なお、当セグメントの保険料は221億47百万ユーロで安定していた。グループが事業を行っている国々で広まった前向きな傾向は、とりわけ旅行保険セクターへのCovid-19の影響を受けたEurop Assistanceの大幅な縮小(▲30.2%)によって相殺された。

また、非営業費用として、COVID-19特別国際基金への費用が1億ユーロ、その他のパンデミック関連イニシアティブに対して、68百万ユーロが(フランスにおいて、保険セクターに要請された医療制度への特別拠出金64百万ユーロ、等)が計上された。

さらに、主として上半期において、AFS投資に関して2億87百万ユーロの減損が計上されたことが挙げられている。
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中村 亮一

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