2021年04月26日

新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年決算発表による-

中村 亮一

文字サイズ

1―はじめに

米国や欧州においては、2月下旬から3月にかけて、2020年決算発表が行われている。これまで、新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響については、2020年4月下旬から5月にかけて行われた2020年の第1四半期の業績発表に関して、保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年第1四半期業績発表による-」(2020.5.22)及び「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年第1四半期公表による-」(2020.5.27)で報告した。また、2020年7月下旬から8月にかけて行われた2020年の第2四半期の業績発表に関して、保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年第2四半期業績発表による-」(2020.8.25)及び「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年第2四半期公表による-」(2020.9.1)で報告した。

今回は、こうした米国や欧州の保険会社の2020年決算発表の中から、大手保険グループの主として財務面からのCOVID-19の影響等に関する公表内容について、2回に分けて報告する。まずは、今回のレポートでは、米国大手保険グループ及び大手再保険グループの状況を報告する。
 

2―米国大手保険グループの公表内容

2―米国大手保険グループの公表内容

ここでは、米国大手保険グループの中から、Prudential Financial、MetLife及びAIGの状況について、各社のプレスリリース資料等から抜粋して報告する。なお、抜粋箇所等における下線付与は筆者による。
1|Prudential Financial
Prudential Financialは、その2020年の決算発表1において、COVID-19に関連して、Charles Lowrey会長兼CEOが「2020年の異常な出来事と現在進行中の世界的なパンデミックを振り返りながら、変化する世界の経済的課題を解決することによって生活をより良くするという当社の目的を果たすために引き続き献身してくれた従業員に感謝します。」と述べている。

また、そのAnnual Reportの「経営陣による財政状態及び経営成績の考察と分析‐概要‐COVID-19」の中で、「流動性」、「資本リソース」、「投資ポートフォリオ」、「引受結果」、「経費」及び「事業継続性」等といった観点からのCOVID-19による影響の説明が行われている。

2020年の第1四半期から、COVID-19の発生により、世界経済と金融市場に極度のストレスと混乱が生じ、世界人口の死亡率と罹患率が上昇した。これらの出来事は2020年を通じて当社の経営成績に影響を及ぼし、2021年の当社の経営成績に影響を与えると予想される。当社はこの危機の影響を管理するためにいくつかの措置を講じている。これらのイベント及びその他の項目の実際の影響及び予想される影響を以下に示す。

流動性。 2020年12月31日現在、Prudential Financialの流動性の高い資産は56億ドルだった。2020年の初めから、流動性を積極的に管理するためにいくつかの措置を講じた。例えば、13億ドルの劣後債務を借り換えて資金調達コストを削減したり、デラウェア信託と15億ドルのファシリティ契約を締結して、代替の流動性源を増やしたり、2020年及び2021年の満期前の資金調達の一部として15億の劣後債務を発行したりした。2020年第1四半期にPrudential Financialの普通株式5億ドルを買い戻した後、既存の買戻し承認に基づいて2020年4月1日から普通株式の買戻しを一時停止した。パンデミックの期間と重大度、そしてその経済への影響が不確実なままだったので、2020年に自社株買いを再開しなかった。2021年2月4日、当社の取締役会は、2021年1月1日から2021年12月31日までの期間に最大15億ドルの発行済み普通株式の買戻しを承認したと発表した。COVID-19及び関連市場の影響混乱は、既存の流動性をさらに圧迫し、代替の流動性源の使用を増加させる可能性があり、その結果、バランスシートの財務レバレッジが増加し、信用及び財務力の格付け又は格付けの見通しに悪影響を与える可能性がある。当社の流動性については、「—流動性及び資本リソース—流動性」を参照してください。

資本リソース。 2020年12月31日現在、当社の重要な保険子会社は全て、格付け目標と一致する資本水準を維持している。ただし、市況は保険会社の法定資本に悪影響を及ぼし、以下で説明するように、信用の移動や投資ポートフォリオの損失の結果を含め、全体的な資本の柔軟性を制約する可能性がある。不利な市況により、保険子会社が格付け目標と一致する資本を維持するために追加の管理措置を講じる必要が生じる可能性がある。これには、内部資金源からの財源の再配置、利用可能な外部資金源の使用、追加の資金源の探索などが含まれる。当社の資本リソースの説明については、「—流動性及び資本リソース—資本」を参照してください。

投資ポートフォリオ。 満期固定投資(トレーディングに分類された有価証券を除く)の正味未実現利益(損失)は、2019年12月31日現在の正味未実現利益44,891百万ドルに対して、2020年12月31日現在の正味未実現利益は58,928百万ドルだった。利益は2019年12月31日現在の46,206百万ドルから2020年12月31日現在の59,980百万ドルに増加し、未実現損失総額は同期間に1,315百万ドルから980百万ドルに減少した。総未実現利益の増加及び総未実現損失の減少は、主に米国の金利の低下によるものだった。COVID-19の世界経済や企業の信用への継続的な影響は、マイナスの信用移行や投資ポートフォリオの損失につながる可能性がある。これらの状態は非常に不確実であるため、現時点では全体的な影響を見積もることはできない。COVID-19危機の影響を最も受けたセクターには、エネルギー、消費者循環投資、小売関連投資が含まれる(詳細については、「一般勘定投資」を参照してください)。2020年の間に、総投資資産の約1.4%が、有期の支払猶予を可能にするために変更された。支払猶予の条件の下で、借り手は、当年度の元本及び/又は利息の支払いの一部を短期間(例えば、6か月)延期することが許可されている。これらの延期は追加の利息を発生させ、当社の投資価値に重大な影響を与えることはない。

・引受結果。 2020年には、COVID-19が引受実績に正味のマイナスの影響を及ぼしたと推定している。これは、グループ保険及び個人生命保険事業における死亡率の悪影響を反映しているが、退職事業における死亡率の影響により一部相殺されている。今後、当社の正味引受実績は、米国での10万人の死亡者が増えるごとに約85百万ドルの悪影響を受けると予測している。ただし、引受結果への最終的な影響は、次のような要因によって異なる。被保険者の年齢、地理的集中、死亡者の中での被保険者と無保険者の人口、さらなる突然変異の可能性を含むウイルスの伝染性と毒性、ワクチンの展開のスピードと有効性。さらに、該当する場合、当社の各セグメントにおける死亡率の経験については、「—セグメント別の経営成績」を参照してください。

・経費。 2020年には、主にエージェントの報酬に関連するCOVID-19に関連するコスト、及びリモートワーク機能と従業員の健康の保護に関連するテクノロジーとサードパーティベンダーの機能により、約1億50百万ドルの高額な費用が発生した。ただし、2020年にはCOVID-19に関連するコスト削減も約1億10百万ドルだった。これは、主にと旅行と接待のコストの削減によるものである。

COVID-19のパンデミックに対応して、保険料支払いの猶予期間の延長、請求支払いと引き出し要求の迅速化、特定の請求支払い要件の免除、特定の取引手数料の免除、ポリシーローンの利息の免除、会社の費用での資金調達など、多くの顧客対応を提供してきた。

•事業継続性。 COVID-19パンデミックの主な影響の1つは、従業員の安全と顧客へのサービス提供を確実にするために、ビジネス継続性プロトコルを実行することである。これには、従業員の大多数をリモートワークの手配に効果的に移行することが含まれていた。

私たちは、全ての事業が、重要な事業運営を維持しながら、リモートワークと社会的距離を無期限に維持できると信じている。さらに、サードパーティが提供するサービスに対するCOVID-19関連の影響を管理しており、重要なオペレーションの大幅な中断は想定されていない。

上記の考慮事項に加えて、他のCOVID-19関連の影響について、このドキュメントの次のセクションで説明している。

・ビジネスの見通し。 COVID-19に関連する影響を含む、各事業の具体的な見通しに関する考慮事項については、「—見通し」を参照してください。

・セグメント別の経営成績。 該当する場合、セグメントの結果に対するCOVID-19の影響の説明については、「—セグメント別の経営成績」を参照してください。

・販売とフロー。 各セグメントの売上高及びフローについては、「—セグメントの経営成績」を参照してください。

・危機管理。 当社のリスク管理フレームワーク及びパンデミックストレスシナリオの組み込みについては、「—リスク管理—COVID-19」を参照してください。

・リスク要因。 COVID-19パンデミックによって引き起こされる当社の事業へのリスクの議論については、フォーム10-KのPrudential Financialの2020年年次報告書に含まれる「リスク要因」を参照してください。

CARES法及びその他の規制の進展。 追加情報については、フォーム10-KのPrudential Financialの2020年年次報告書に含まれている「ビジネス-規制-COVID-19パンデミックに対する規制対応」を参照してください。

4四半期における正規化されたCOVID-19の推定影響額は、第4四半期の調整後営業利益(Adjusted Operating IncomeAOI)(税引前)1,515百万ドルに対して▲65百万ドルであるとしている。

さらに、4四半期の経費に関して、PGIMにおける15百万ドルのCOVID-19費用の節約、Gibraltar Life及びその他における5百万ドルのCOVID-19費用、コーポレート及びその他における500万ドルのCOVID-19費用の節約が報告されている。

また、4四半期までの死亡リスク及び長寿リスクへの影響について、以下の図表の通りとしている(プレゼンテーション資料2P13「COVID-19 Potential Net Mortality and Cost Impacts」より)。
Net Mortality Experience
これに対して、以下の説明が行われている。

・長寿リスクにより、死亡リスクが軽減されている。

・一般集団と比較して、影響は、当社の若い年齢分布、引受の影響を反映した保険死亡率の低下、及び長寿事業に関連する相殺によって軽減されている。

・米国の死亡者数が10万人増えるごとに1
 ・収益が最大85百万ドル減少する可能性がある。
 ・影響は、感染率と死亡率、地理的集中度、被保険者と一般人口の死亡率、ワクチンの展開の速度と有効性、英国の死亡率などの要因によって異なる。
 (1)米国の死亡者数を代替使用して、英国の死亡者数も含んでいる。
 (2)死亡の予測に対する経験は、個人生命、団体生命、国際事業を、長寿の予測に対する経験は退職事業を含む。
2|MetLife
MetLifeは、その2020年決算発表3において、COVID-19の影響に関して、事業別に以下の説明を行っている。なお、COVID-19による影響の大部分は、上半期におけるものであると述べている。

団体給付
調整後利益は、費用マージン、引受、及び取引量の増加により、16%増の3億83百万ドルだった。引受結果はCOVID-19の影響を受け、死亡率の上昇を相殺する以上に非医療的健康が良好だった

ラテンアメリカ
調整後利益は14百万ドルで、報告された通貨ベースと恒常通貨ベースの両方で91%減少した。これは主に、COVID-19の引受結果によるものである。
COVID-19関連のチャレンジがこの地域の殆どに影響を与えたため、売上高は169百万ドルで、恒常通貨ベースで23%減少した

また、年間報告書にあたる「Form 10-K」4における「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の「エグゼクティブサマリー」の中の「今年のハイライト」において、COVID-19の影響等について、以下のように「2020年には、COVID-19パンデミック及び関連する制限の悪影響にもかかわらず、調整後の保険料、手数料、及びその他の収益(外貨変動を除く)は、多くのセグメント、特に最も重要な米国セグメントで、2019年と比較して増加した。」と述べている。
 

エグゼクティブサマリー
今年のハイライト
2020年には、COVID-19パンデミック及び関連する制限の悪影響にもかかわらず、調整後の保険料、手数料、及びその他の収益(外貨変動を除く)は、多くのセグメント、特に最も重要な米国セグメントで、2019年と比較して増加した。プラスのネットフローにより、投資ポートフォリオが増加した。しかし、投資利回りは低下した。利息貸方費用を含む費用も減少した。引受経験は2019年に比べて良好であり、COVID-19パンデミック及び関連する制限の影響を反映している。さらに、毎年の保険数理上の仮定のレビューの結果、2019年の保険料率よりも高い保険料率が発生した。2019年におけるデリバティブの純利益(損失)の有利な変化は、主に長期金利の低下の結果によるものだった。


また、「連結会社の見通し」の中で、COVID-19が会社に与える影響の見通し等についても述べられており、例えば「COVID-19パンデミックに関連するイベントは、当社の特定の事業運営、投資ポートフォリオ、デリバティブ、業績又は財政状態に悪影響を及ぼし続ける可能性がある。」と述べている。また、「COVID-19パンデミックの進化する非常に不確実な性質及びその他の要因により、私たちは継続的に私たちの仮定を見直し、緩和計画を実施し、予防策を講じる。」としている。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年決算発表による-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年決算発表による-のレポート Topへ