2021年04月20日

欧州大手保険グループの2020年末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-

中村 亮一

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4|Aviva
2019年3月にAvivaのグループCEOに就任したMaurice Tulloch氏は、複雑な事業体構成を見直し、より強い説明責任と経営の焦点化を図る観点から、英国の生命保険と損害保険事業を分割すると述べ、また、アジア事業の戦略的選択肢を検討していくと述べていた。また、これにより最大20億ドルの価値のある取引でアジア事業を売却すると想定されていた。

その後、2020年7月にAmanda Blanc 氏がCEOに就任し、この戦略を引き継いだ形になっている。

2020年に入ってからの主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2020年3月6日に、インドネシアの合弁会社PT Astra Aviva Lifeの株式をAvivaの合弁パートナーであるPT Astra International Tbkに売却し、インドネシアから撤退することに合意したと発表した。この取引は2020年11月18日に完了した。

2020年6月5日には、低コストの「ロボ」投資サービスであるWealthifyの40%の株式を取得して、100%子会社とした。

2020年7月16日には、Friends Provident International Limited (FPIL)の、International Financial Group Limited (IFGL)の子会社であるRL360 Holding Company Limited (RL360)への売却を完了した。

2020年9月11日には、Aviva Singaporeの過半数の株式をSingapore Life Ltd (Singlife)が率いるコンソーシアムに売却し、国内有数の保険会社の創設を支援することに合意した。この取引は、2020年11月30日に完了した。

2020年11月23日には、イタリアの生命保険合弁会社であるAviva Vita SpAの80%の株式を、パートナーのUBI Bancaに、約4億ユーロの現金対価で売却することを発表した。この取引により、2020年6月30日現在のAvivaの純資産価値は1億2,000万ポンド増加し、AvivaのソルベンシーIIの資本剰余金は2億2,000万ポンド増加し、株主ベースでのソルベンシーII比率は約4%ポイント増加する。なお、この取引に関しては、2021年4月1日に完了したことが発表された。

2020年12月10日には、香港の合弁会社であるAviva Life Insurance Company Limitedの全株式の合弁パートナーであるHillhouse Capitalへの売却を完了したことを発表した。

2020年12月14日には、ベトナムでの完全所有の生命保険事業であるAviva Vietnam Life Insurance Company Limited(「Aviva Vietnam」)の全株式をManulife Financial Asia Limitedに売却することに合意した。この取引により、AvivaのIFRS純資産価値及びソルベンシーⅡ剰余が約1億ポンド増加すると想定されている。この取引は、規制当局の承認を含む特定の完了条件の対象であり、2021年の後半に完了する予定である。

さらに、2021年に入ってからも、これまでに以下の取引を発表している。

2021年2月23日には、フランス事業であるAviva FranceをAéma Groupeに32億ユーロで売却すると発表した。これにより、例えば、ソルベンシーIIの資本剰余金が約8億ポンド増加し、ソルベンシーII比率は約22%ポイント増加する、としている。

2021年2月24日には、トルコでの合弁事業であるAvivaSA Emeklilik ve Hayat AS(「Aviva SA」)の40%の株式を、1億2,200万ポンドの現金対価で、Ageas Insurance International NVに売却することに合意した。この取引により、AvivaのIFRS純資産価値及びソルベンシーⅡ剰余金が約1億ポンド増加すると想定されている。この取引は、規制当局の承認を含む通常の完了条件の対象であり、2021年に完了する予定である。

2021年3月4日には、イタリアにおける生命保険及び損害保険事業であるAviva Italyを8億73百万ユーロで(生命保険事業をCNP Assurancesに5億43百万ユーロで、損害保険事業をAllianzに3億30百万ユーロで)売却することを発表した。この取引により、ソルベンシーIIの資本剰余金が約2億ポンド増加し、ソルベンシーII比率が約7%ポイント増加すると想定されている。

2021年3月26日には、Aviva Poland の全株式を25億ユーロの現金対価でAllianzに売却することを発表した。

このように、Avivaは、ポートフォリオを簡素化するための戦略として、英国、アイルランド、カナダの事業等のグループのコアに焦点を置いた「持続可能で耐性力のある」方針を推進している、と述べている。
5|Aegon    
Aegonは、3つのコア市場(米国、オランダ、英国)、3つの成長市場(スペイン&ポルトガル、中国、ブラジル)、1つのグローバル資産運用会社のビジネスに焦点を当てている。

2020年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2020年7月11日、オランダの保険監督当局であるDNB(オランダ国立銀行)は、ソルベンシーII比率における銀行の扱いに関する業界全体のガイドラインを発表した。その結果、Aegonは今後のグループソルベンシーII比率の計算にAegon Bankを含めることになり、この変更は、Aegonの資本配分決定に影響を与えることになった。この変更は、最終的には 2020 年末までに実装され、2020年3月31日のAegonの資本ポジションに基づくこの変更の推定のマイナスの影響は、グループソルベンシーII比率で4%ポイントとなると報告されていた。

Aegonは、2018年7月3日にBanco SantanderがBanco Popular.を買収した後、生命保険と損害保険のパートナーシップを拡大することに合意していたが、2020年7月30日に、この拡大が完了したことを発表した。この取引は、グループソルベンシーII比率に対して3%ポイントのマイナスの影響を及ぼす、と述べていた。

2020年9月17日には、2020年の中間配当の希薄化効果を中和するために、59百万ユーロの普通株式を買い戻す予定であると発表した。この自社株買いプログラムは、2021年10月28日に完了した。

2020年10月9日には、英国を拠点とする傷害保険商品のプロバイダーであるStonebridgeを英国の仲介及び引受グループであるEmbignellの一部門に約6000万ポンド(6500万ユーロ)で売却する予定であると発表した。この取引は、Aegonの資本ポジションと結果に重大な影響を与えることはない、としていた。なお、この取引は、2021年3月1日に完了した。この取引は、事業ポートフォリオを積極的に管理し、魅力的な資本利益率の可能性が高く、Aegonが成長に適したポジションにある事業に資本を割り当てるという会社の戦略に沿ったものである、と述べていた。

2020年11月29日には、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、トルコでの保険、年金、資産管理事業をウィーン保険グループAG Wiener Versicherung Gruppe(VIG)に8億3,000万ユーロで売却することに合意した、と発表した。この取引により、IFRS資本が505百万ユーロ増加し、ソルベンシーII比率は約8%ポイント増加すると想定されていた。この取引は、この種の取引に慣習的な規制及び独占禁止法の承認の対象であり、2021年の後半に完了する予定である、と述べていた。ただし、この取引に関して、2021年4月7日に、VIGは、ハンガリー内務省がハンガリーのAegon企業の外国投資家による意図的な買収を拒否すると発表した法令を受け取ったと発表した。
6|Zurich
Zurichの2020年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

Zurichは、2020年に入ってから、以下のような債券の発行を行ってきている。

2020年2月17日に、2億5,000万スイスフランの無担保シニア債の発行に成功したことを発表した。この債券は2032年8月に満期を迎える。この取引はスイスの投資家を対象としている。

2020年2月18日に、2億米ドルの無担保シニア債の発行に成功したことを発表した。この債券は2030年2月に満期を迎える。この取引はアジアの投資家を対象としている。

2020年6月9日に、7億5,000万ユーロの期限付き劣後債の発行に成功したことを発表した。この債券は、2050年9月に満期を迎え、2030年6月に最初にコール可能で、Zurich Finance (Ireland) DACによって発行される。

2020年9月18日に、2億ユーロの期限付き劣後債の発行に成功したことを発表した。この債券は、2052年12月に満期を迎え、2032年9月に最初にコール可能で、Zurich Finance (Ireland) DACによって発行される。

一方で、2020年10月8日には、Zurichの健康と福祉の新興企業であるZurich LiveWellがオーストラリアに拠点を置くデジタル健康福祉サービスプロバイダーHealthLogixと南アフリカに拠点を置くHealthInsiteを創設者から買収することに合意したと発表した。

また、2020年12月11日には、子会社であるFarmers Group、IncとFarmers Exchanges が、MetLifeの米国の損害保険事業を39.4億米ドルで買収することに合意した、と発表した。この取引については、2021年4月7日に完了したことが発表された。

なお、Zurichは、2021年に入ってからも、2021年1月12日には、17.5億米ドルの期限付劣後債の発行に成功したことを発表した。これは、2051年4月に満期を迎え、2031年1月に最初にコールされ、Zurich Finance (Ireland) DACによって発行される。年間クーポンは2031年4月まで3.00%に固定されている。
 

3―まとめ

3―まとめ

以上、欧州大手保険グループ各社のプレスリリース資料等に基づいて、2020年に入ってからのこれまでの資本管理に関係する取引等のトピックについて報告してきた。

前回のレポートでも述べたように、2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして5 年が経過したが、この間、各社は、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、各社各様の考え方に基づいて、リスク管理や資本管理等で各種の対応を行ってきている。

資本管理の面では、今回のレポートで報告したように、2020年に入ってからも、将来の劣後債務等の償還時期等を見据えた上で、必要に応じて、償還時にその一部等に関して、新たな劣後債務の発行等を行っている。また、積極的に地域別の事業展開や事業領域そのものの見直しを行うことで、新たな会社の買収や子会社の売却等を行っている。この結果として、各社の戦略の差異等を反映する形で、今回報告している保険グループ間でも、子会社等の売買取引が行われることになっている。

こうした各社の資本管理や前回のレポートで報告したリスク管理の考え方等については、適宜あるいは四半期毎の報告書やSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)等において、一般の投資家向け等にも開示や説明がなされてきている。ただし、各社によって、その説明の内容やそのレベル等は異なっている。

ソルベンシーII制度の下での各種の開示や報告の問題については、現在行われているソルベンシーIIのレビューにおいて、いくつかの見直し提案等が行われているところである。これらの議論の動向も踏まえて、今後発表されてくる2020年のSFCR等の開示資料や説明資料において、こうした点に関して、さらなる情報提供の工夫や充実が図られていくことが期待されることになる。

いずれにしても、欧州の大手保険グループのソルベンシーIIを巡る状況やそれへの各種対応については、日本の保険会社にとっても大変参考になるものがあることから、今後とも継続的にウォッチしていくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年04月20日「保険・年金フォーカス」)

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