2021年04月13日

地震の報道発表の表現の変更-余震という言葉は使わない~災害・防災、ときどき保険(13)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――東日本大震災の余震?

2011年3年11日からの東日本大震災1からちょうど10年ということで、その直前直後には当時の映像や被災地の現状を伝えるテレビ番組が多かった。つらい記憶を呼び起こされるから見たくない、という人もいる一方で、逆にこの記憶や教訓を風化させないような活動をしている人たちも多くいるという。この震災への関わりは人それぞれだとしても、毎年の節目には、今後改めて防災への意識を巡らし、さらに災害への対応力を高めるきっかけになると思う。目下のところ、緊急の「災害」は新型コロナウィルスの感染拡大であるが、災害時における避難所のあり方などを併せ考えることにより、同じ「災害」の中での、それぞれに求められる対応の相違点の理解を深めるよい機会として、わずかながら前向きにとらえることもできるかもしれない。
 
その10年の節目の1か月ほど前、2月14日に、東北地方を中心に比較的大きな地震があり、季節感も同じこともあって、一瞬10年前の再来かと恐怖を覚えた人も多いだろう。これもまだ10年前の「余震」である、との報道発表もなされていた。人間の時間感覚とは違うスケールの大きな話である。それにしても、この「余震」という表現についてであるが、最近は気象庁が正式な報道発表では使わないようにしているとのことである。今回はそうした動きについて紹介する。
 
1 地震の名称は、気象庁により「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」と命名され、一方この地震による災害は政府により「東日本大震災」と名付けられている。「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」と「阪神・淡路大震災」の関係も同様。
 

2――余震という言葉をめぐって

2――余震という言葉をめぐって

1一般的な「余震」の定義
一般にまず余震の定義であるが、「大きな地震の後に引き続いて発生する、最初に発生した大きな地震よりも小さな地震」2(気象庁)とされており、大きな地震の「後」にある「小さな」地震というイメージであった。ただし場合によっては最初の地震よりもさらに大きな地震が発生することもあり、その場合にはそれが本震となり、それ以前に発生していた地震は「前震」と呼ばれることがある(同じく気象庁による。)。

大きな地震が起きた場合、いくら気を付けるとはいえ、大地震のあとに既に大きな被害がでているあとで、もうこれ以上大きい地震は来ないのではないかという印象がどうしても強くなるのもやむをえない。報道においては、この後も油断なきようにとの警告も含む呼びかけになっているとはいえ、実際の例があまりない以上、どうしても実感がわかないものになっていたかもしれない。
 
2 気象庁ホームページ「地震について」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq7.html#6
2熊本地震をきっかけに、「余震」の表現を使わない方向へ
実際に、「余震とみられる地震のほうが大きかった」という事例が熊本地震(2016年4月)である。これは、2016年4月14日に発生した、マグニチュード6.5の大きな地震から「始まる」。ところが最も規模の大きな地震はその後の4月16日に起こったマグニチュード7.3のもので、現在ではこちらが本震とみなされている。

このことを契機として、気象庁の地震発表においては「余震」という言葉を使わず、単純に「大きな地震」というような表現で発表することにしたとのアナウンスがあった3。(2016年8月19日 地震調査研究推進本部地震調査委員会 事務局)
 
この報告書の中では、特に

・「マグニチュード」よりも「震度」を用いること
・「余震」ではなく「地震」という言葉を用いること
・震源の位置によっては、最初に発生した大地震と同程度か、それよりも揺れが大きくなる場所もあることを、適宜付加すること

が防災上の呼びかけにおいて重要であるとされた。これにより、これまでにあったような「余震」に対する「軽い」印象をもたれないようにして、警戒を怠らないことにつながることを期待したのであった。
 
しかし、正式な発表文書ではそうだとしても、先の2月の地震の際の、気象庁の記者会見をみてたら、やはり口頭での発表の際には「余震」ということばが使われていた、ように記憶している。これはうっかりしたものなのか、今までの印象との連続性を考えて口頭ではあえて言ったのか、定かではない。あるいはどう言ってみても、新聞やインターネット上に記事の特に見出しでは、簡潔さを重視して「余震」と書かれてしまうから、やむをえない側面もあるかもしれない。
 
3 大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方(H28.8.19 自身調査研究推進本部地震調査委員会) https://www.jishin.go.jp/main/yosoku_info/gaiyo.pdf
3その後の検討を受け、気象庁が改めて「余震」の表現を使わないと公表
 さらに4月1日、気象庁は「東北地方太平洋沖地震の余震域で発生する規模の大きな地震の報道発表資料での表現の変更について」という発表を行った4

これによると、東北地方太平洋沖地震の発生から10年が経過したことを区切りとして、
 
(1)東北地方太平洋沖地震の余震域内で発生した震度5弱以上の地震について報道発表する際に、報道発表資料の表題に付けている副題
「-『平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震』」について(第○○報)-」
を付けないこととする。
 
(2)また、これらの資料に書いてある表現
「今回の地震は『平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震』の余震と考えられます」
という表現をやめることする。

とされている。
 
2011年3月11日の地震発生から、「平成23年(2011年)と称する気象庁の報道発表は、この10年間に、2021年3月21日の第92報まで発表されてきた。これらはすべて東北地方太平洋沖地震の余震としての表現だったからこそである。

余震活動は、経過とともに減衰はするものの終わったわけではなく、引き続き注意が必要であることも述べられている。

さらに、日本海溝沿いの地震全般について、別の仕組みで起こる地震についても注意する必要があること(余震ではなく、関連性の薄い別の地震ということか)、も表現を変更する理由のひとつとされている。
 
余震といえば、どうしても本震に対する「余り」「余韻」という印象で警戒感にゆるみがでるかもしれないこと、そもそも余震であろうとなんであろうと、大きな地震津波に対する防災行動を常に本気で呼びかけ、行動してほしいとの主旨である。  

3――おわりに

3――おわりに

東日本や熊本はもちろんのこと、あるいは地震だけではない台風被害などもそうだが、相当の年月が過ぎてもまだ避難生活を余儀なくされている人たちがいる。そのことを、正直いって日頃は忘れてしまっていることが多いが、こうした節目に改めて、その生活の状況について聞くと、気の毒な思いを禁じ得ない。同時に助かった側としても、ことあるごとに、災害への備えを見直していく機会ととらえれば、忘れた頃に突然の大災害となってしまうことを、いくらか避けられるかもしれない。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年04月13日「基礎研レター」)

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