2021年04月13日

欧州大手保険グループの2020年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(比率の推移分析と感応度の推移)-

中村 亮一

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(2)感応度の推移
感応度については、2020年末は、2019年末と基本的には大きくは変わっていない。ただし、ヘッジ、資産配分の変更及び社債スプレッド感応度手法の改善により、社債スプレッド感応度が大きく変化している。

また、多くの市場での追加のヘッジとリスク軽減により、株式に対する感応度が低下した。

なお、長寿リスクに対応した、年金死亡率の5%低下による影響が16%ポイントと大きなものとなっている。
Avivaの感応度の推移
なお、Avivaは、感応度分析に関して、以下の補足説明を行っている。

(参考)感応度分析の限界
上記の表は、他の仮定は変更されていないが、主要な仮定の変更の影響を示している。実際には、仮定と他の要因の間には相関関係がある。これらの感応度は非線形であり、これらの結果からより大きな又はより小さな影響を内挿又は外挿してはならない。

感応度分析では、グループの資産と負債が積極的に管理されていることは考慮されていない。さらに、グループのソルベンシーIIのポジションは、実際の市場の動きが発生した時点で異なる場合がある。例えば、グループの財務リスク管理戦略は、市場変動へのエクスポージャーを管理することを目的としている。

投資市場が様々なトリガーレベルを超えて移動するにつれて、経営行動には、投資の売却、投資ポートフォリオの割当ての変更、保険契約者にクレジットされる配当の調整及びその他の保護行動の実行が含まれる可能性がある。

上記の感応度分析におけるその他の制限には、確実に予測できない可能性のある短期的な市場の変化に関するグループの見解と、全ての金利が同じように動くという仮定を表すだけの潜在的なリスクを実証するための仮想的な市場の動きの使用が含まれる。
5|Aegon    
(1)SCR比率の推移
Aegonは、上半期と下半期に区分したベースでの分析結果を開示しているので、以下の報告も基本的にはそれに従っている。

2020年上期末におけるSCR比率は、以下の要因により、2019年末の201%から6%ポイント低下して、195%となった。

・強い事業成績を反映した資本形成で+9%ポイント

・米国を中心とした低金利や株式、クレジット等の市場の影響が▲18%ポイントと大きなマイナス

・モデルと前提の変更は、オランダにおけるUFRの年次引き下げと米国の生命保険の解約率と死亡率に関する前提の更新による。

・一時的な項目として、米国での経営行動とリスク軽減による一時的なベネフィットと金利に対する感応度低下及び米国での不利な死亡率請求の経験による影響

また、2020年下半期におけるSCR比率は、以下の要因により、2020年上期末の195%からほぼ横ばいの196%となった。

・強い通常の資本形成からの貢献で+10%ポイント

・配当等の資本返済で▲3%ポイント

・LACDTファクターの引き下げと実際の前提の変化による影響▲1%ポイント

・Aegon Bankの包含とSantanderとのJVの拡大の結果としての一時的要因からの不利な影響及びPyramid売却のベネフィットによる影響▲2%ポイント
AegonのSCR比率推移の要因/AegonのSCR比率推移の要因(内訳)
(参考)地域別のソルベンシー比率
地域別のソルベンシー比率は、以下の図表の通りとなっている。

2020年上半期の動向は、以下の通りである。

・オランダのソルベンシーII比率は、主にソルベンシーIIベースでの過剰なヘッジポジションによりプラスの影響を及ぼした金利に牽引されて増加した。また、スプレッドの上昇により負債の価値が低下したため、全体的な信用スプレッドは中立だったが、債券資産の価値が悪影響を受けた。

・英国のソルベンシーII比率は、低金利による悪影響により減少した。効果的なヘッジの結果として、株式市場の下落はソルベンシーII比率に影響を与えなかった。

・米国では、金利の低下による影響が大きく、株式とクレジットも格付けの移行とクレジットデフォルトがRBC比率に14%ポイントの悪影響を及ぼした。不利な死亡率によりRBC比率が10%ポイント低下した。経営陣の行動はプラスの影響を及ぼした(新しい変額年金フレームワークの実装が洗練され、キャプティブ再保険会社が再編成され、どちらもRBC比率のボラティリティを低下させた。さらに、ヘッジファンドの売却を含むリスク軽減活動も貢献した)。

 また、2020年下半期の動向は、以下の通りである。

・オランダのソルベンシーII比率は、174%から159%に15%ポイント低下した。LACDTファクターを65%から45%に引き下げたことによる影響が▲6%ポイント、実際の前提の更新はプラスの効果。分離勘定事業でより社債クレジットやボラティリティに投資したことによる必要資本の増加。通常の資本形成で122百万ユーロが配当支払いで相殺。

・英国のソルベンシーII比率は145%から156%に11%ポイント増加した。コスト削減を反映した事業費前提の更新によるプラス効果。通常の資本形成で44百万ポンドが+3%ポイント。Scottish Equitableは2020年下半期に配当を支払わず、2021年第1四半期に支払う予定。

・米国のRBC比率は、407%から432%に25%ポイント増加した。通常の資本形成による629百万米ドルが+29%ポイント。株式市場の上昇等で+14%ポイント。経営行動や一時的要因で▲16%ポイント等。

なお、米国保険会社のRBC比率のソルベンシーII比率への換算については、毎年見直し、DNB(オランダ中央銀行)の了解を得ているが、2020年末の432%は207%に相当していると報告されている。
Aegonの地域別ソルベンシー比率/Aegonの地域別ソルベンシー比率(目標範囲)
(2)感応度の推移
感応度は、基本的には2019年末と大きくは変わっていない。

2016年末から2017年末にかけて、米国事業の転換手法の改正等の影響もあり、金利上昇による感応度が大きく上昇したが、2018年末以降はこの水準は低下している。

なお、AvivaはVA(ボラティリティ調整)やUFRに対する感応度も示している。また、長寿リスクに対応した、年金死亡率の5%低下による影響は▲7%ポイントとなっている。
Aegonの感応度の推移
Aegonは、これらの感応度をグループ全体だけでなく、地域別にも開示しており、さらにはそれらの要因等について、Annual Reportで詳しく説明している。例えば、2020年は、オランダの生命保険の信用スプレッドに対する感応度を内部モデルの改善で低下させている。
6|Zurich
Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、ソルベンシーIIに同等と考えられているSST(スイス・ソルベンシー・テスト)による数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表している。Z-ECMはソルベンシーIIやSSTとは異なり、UFRを使用していないことから、EU諸国を親会社としている保険グループと比べて、金利低下の影響をより受けることになる。

Zurichは、これまでZ-ECM比率を中心に開示してきていたが、2020年からはSST比率での開示を中心に据えることに変更している。Zurichによれば、SSTはZ-ECMよりも安定性をもたらし、資本は基本的には同じ方法で管理される。

ZurichのSST比率は、監督当局であるFINMAと合意した内部モデルで算出している。

(1)SST及びZ-ECM比率の推移
2020年末のソルベンシー比率(SST比率)は、着実な営業利益の計上により、+20%ポイントのプラス効果があったものの、COVID-19及び超過カタストロフィの影響で▲4%ポイント、金利や市場変動等の市場の影響で▲45%ポイントと大きなマイナスがあり、また配当支払い等で▲12%ポイントの影響があったことから、結果として、2019年末の222%から、40%ポイントと大きく低下して、182%となった。

Zurichのソルベンシー比率の目標範囲は、これまでZ-ECM比率でAA格付けに相当する100%~120%となっていたが、2020年からは、SST比率で160%以上としている。

なお、SSTにおいては、市場リスクの割合が高くなっており、2020年末においては、Z-ECMの52%に比べて、SSTでは68%となっている。過去においては、SSTによる比率はZ-ECMによる比率の1.6倍から1.8倍になっていた。

また、Zurichによれば、SSTはソルベンシーIIよりも保守的になっており、ソルベンシーIIベースでの比率は(SST比率と比べて)約90%ポイント高くなると見積もられるようである。
Zurichのソルベンシー比率(SST)推移の要因/Zurichのソルベンシー比率(Z-ECM)推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、他社とは異なり、業績表示が米ドル建で行われていることから、米ドルの為替レートの影響を含めている。また、SST比率の感応度の最新ベースの公表数値は、2020年第3四半期末のものとなっている。

これによると、金利や信用スプレッドによる感応度がかなり高いものになっている。
SST比率の感応度の推移/Z-ECM比率の感応度の推移

3―まとめ

3―まとめ

以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2020年末におけるSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告してきた。

2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして、5 年が経過した。この間、各社は自社の考え方をベースとしつつも、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、各社各様の方策で各種の対応を行ってきた。こうした中で2020年は、COVID-19の発生による各種市場の変動等という予期せぬ事象への対応が求められた。これらの結果として、現在のソルベンシー比率や感応度の水準が構築された形になっている。

次回のレポートでは、資本管理に関係する取引等のトピックについて報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年04月13日「保険・年金フォーカス」)

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