2021年04月12日

えひめ結婚支援センターにおけるイベント成婚「年の差」分析結果-「年の差婚」の正しい認識が成功のカギ-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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2――「同級生婚」に課題/20代人口県外転出の影響か

成婚カップルの年齢差に関しては、センターのイベント分析結果からは全国水準通りの結論が出ている一方で、全国水準との気になる差異も生じている。
 
婚姻統計(全婚姻届対象)から算出した全国水準に比べて「同じ年齢同士の成婚」割合が極めて低くなっている(図表3)。
 
センターイベントによる年上妻婚は64件で成婚数の25%であった。これは全国水準の24%に近い発生状況である。しかし、同年齢婚は26件で成婚数の10%にとどまり、全国水準である21%の半分以下の低水準となった。この低割合を代替しているのが年上夫婚の171件である。成婚数全体の66%を占めており、これは全国水準より10ポイント以上も高い。
【図表3】男女どちらが年上かでみた割合 センターと全国の比較(%)
【図表4】初婚同士カップル 年上夫の割合の全国推移(%)
このように男性年上婚が66%を占めるという状況は、国の婚姻統計から算出される全国水準の推移でみるならば「1995年の日本の姿」である(図表4)。
 
ちなみに1995年は、育児休業法が1992年に施行されてからまだ間もなく、出産を希望する女性の正社員への本格進出の法的土壌がようやく整備された時期であり、非農林業において共働き世帯が専業主婦世帯と割合で並んだ時期である4

共働き世帯が68%にまで上昇した今よりも、はるかに家族における男性の経済的な責任が重かった時代の年上夫割合をセンターのイベント成婚カップルは示している。
 
同年齢婚が成立しにくく、その分、夫年上婚が多い傾向について考えられる理由としては、
 
1. イベント参加男女の年齢が高いため「男性が養うべき」といったように参加男女またはその親族の結婚観が古い傾向がサポーターの方々からは指摘されている
 
2. 愛媛県は20代前半人口がメインとして県外に就職で転出し、さらにその人数における
男女アンバランス(男性よりも女性が多く転出)が大きいことから、いわゆる同級生感覚の
年齢同士の出逢いがイベントにおいても生じにくい
 
3. イベントにおいて、常に参加男性の年齢が女性に比べて高い傾向がある
 
が挙げられる。
 
1.については、最初に説明したように、成婚カップルの年齢が全国平均の初婚男女の成婚ピーク年齢とくらべてかなり高く、旧来の価値観の影響を受けていることが推測される。
 
次に、2.について説明しておきたい。

統計上、「人口集中地区」というエリアがある。人口集中地区とは、
 
・1平方キロメートルの中に4000人以上が居住する地区(Aとする)
かつ
・Aにあたるエリア同士が隣接して、合計5000人以上
 
となる地区を指している。そして、
 
1.この人口集中地区と非人口集中地区との成婚カップルの出会い方の差
2. 人口集中地区の中でも人口が200万人以上の「大都会」と総数での成婚カップルの
出会い方の差
 
を計算したものが下表(図表5)である。
【図表5】2010年以降に結婚した夫婦の出逢い方(%)
図表からは、大都会になるほど「学校での出会い」がやや多めになる傾向がみられている。

東京一極集中に代表される20代前半人口の県外への転出により、地方部においては都市部よりも「学校での出会いや恋愛の延長にある成婚」が成立しにくい傾向が推測される。

このことから、地元型イベントにおいても、同級生感覚の出会いは減りやすい実情があるのかもしれない。

また、愛媛県は男性に比べて女性の県外への転出超過数が非常に多い(2020年転出超過数は、女性が男性の1.77倍)ことから、尚更、同級生で県内に残る人数が男女で大きく異なることになる(より女性がいない)。

県外への転出超過人口数の男女アンバランスが未婚化要因の1つとなる可能性に配慮した総合的な人口政策が期待される。
 
最後に3.については、どの自治体のイベントも同様の傾向があり、女性に比べて男性の参加者の年齢が高い傾向がみられるとの声が現場から上がってきている5
 
男女どちらが上であっても5歳差までの成婚が7割を占めるというセンターの成婚実態に鑑みると、男性の参加年齢の引き下げ、または前述の通り、イベント毎に男女の参加年齢を分けるなどの工夫が成婚件数の向上のためには必要であるだろう。
 
4 労働政策研究・研修機構ホームページ「早わかり グラフでみる長期労働統計」
5 この傾向は結婚相談所大手でも同様であり、男性であっても成婚ピークは女性とほぼ変わらない(初婚男性27歳)という実態の男性への周知の必要性は非常に高いといえるだろう。
 

3――イベント成婚分析結果から

3――イベント成婚分析結果から

筆者が2020年に国内婚活マッチングアプリ最大手の「Pairs(ペアーズ)」を運営するエウレカ社と共同実施した「日本の未婚化の要因に関する仮説検証調査(2020)」では、男女ともに年齢が上がるほど自分と年齢差のある若い異性を結婚相手の理想と回答する「年の差婚」を理想とする傾向が明確に示されている。

ただ、男性は年齢上昇とともに未婚者の結婚願望が強くなるが、女性は20代で6割、30代前半で7割が成婚に至る(2015年国勢調査)という背景からか、同調査では、女性は40代になると結婚願望が顕著に低くなる傾向がみられた。

つまり、結婚相手探しにおいて、「年の差婚」を追い求める傾向は年齢の高い男性において顕著となる。

しかし、今回の分析結果からは、家族経営企業の事業承継に必須となる「後継者の未婚による黒字倒産回避」を設立目標の柱の一つとし、7年余りで8千件近いカップルを誕生させているえひめ結婚支援センターであっても、イベント成婚カップルの平均年齢差は2歳であり、5歳差までの成婚が中心である、という結果に目を向けたい。
 
結婚を希望する人は、年の差婚の現実から目を背けない。その先に運命の人が見えてくるといえるのかもしれない。

【参考文献一覧】
 
厚生労働省.「人口動態統計」
 
国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」
 
ニッセイ基礎研究所・エウレカ社共同調査「日本の未婚化の要因に関する仮説検証調査(2020)」
 
天野 馨南子.「ニッポンの結婚適齢期」男女の年齢・徹底解剖(1)―2018年婚姻届全件分析(初婚男性編)―. ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年11月16日
 
天野 馨南子.「ニッポンの結婚適齢期」男女の年齢・徹底解剖(2)―2018年婚姻届全件分析(再婚男性編)―. ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年11月20日
 
天野 馨南子.「ニッポンの結婚適齢期」男女の年齢・徹底解剖(3)―2018年婚姻届全件分析(初婚女性その1)―. ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年12月7日
 
天野 馨南子.「ニッポンの結婚適齢期」男女の年齢・徹底解剖(4)―2018年婚姻届全件分析(初婚女性その2)―. ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2021年1月4日
 
天野 馨南子.「ニッポンの結婚適齢期」男女の年齢・徹底解剖(5)―2018年婚姻届全件分析(初婚女性その2)―. ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2021年1月18日
 
天野 馨南子.「年の差婚」の希望と現実-未婚化・少子化社会データ検証-データが示す「年の差婚の希望の叶い方. ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2017年2月20日
 
天野 馨南子.初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」(上)-未婚少子化データ考- 平成ニッポンの夫婦の姿.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年5月14日
 
天野 馨南子.初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」(下)-未婚少子化データ考-変わり行く2人のカタチ.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年5月28日
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2021年04月12日「基礎研レポート」)

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