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- フローから観察した労働市場の動向
2021年04月05日
ところで、休業者が急増した際には、休業者がその後失業したり労働市場から退出したりすることが懸念されていた。休業からのフローでその点を確認すると(図13)、2020年5月から6月にかけて従業への移行が急増し、4月に従業者から休業者に移行した者の多くは従業者に戻ったとみられる。他方で、休業者が従業に戻るまでの過程などで、2か月続けて休業している者も大きく増加した。グラフのトレンドから、現状でも休業継続者が増加していることがわかる。業績悪化などによる休業延長や感染拡大の影響からの育児休業延長などがその要因と考えられる。他方、懸念されていた休業者の失業や労働市場からの退出は、全体としては大きく発生しなかったといえる。
なお、休業から従業へのフローを従業上の地位別にみると(図14)、20年5月以降に、性別・従業上の地位にかかわらず、休業からのフローが増加していることが確認できる。休業へのフローが多かった女性の非正規雇用者の休業からの復帰が著しかった。
なお、休業から従業へのフローを従業上の地位別にみると(図14)、20年5月以降に、性別・従業上の地位にかかわらず、休業からのフローが増加していることが確認できる。休業へのフローが多かった女性の非正規雇用者の休業からの復帰が著しかった。
7 総務省「労働力調査」(詳細集計)
8 「今月及び前月の就業状態」(基本集計第I-7表)で、就業者の内訳である従業者と休業者別の就業状態の推移が調査されている。労働省(1986)の手法は、就業者・失業者・非労働力の3つの就業状態間のフローを求めるものだが、就業者を従業者と休業者に分割し、同様のフローを求めた。なお、結果は幅を持って理解する必要がある。
9 自営業者、正規雇用、非正規雇用の人数は従業者と休業者の双方を含むが、休業者の増加を把握することはできる。
4――まとめ
ここまで、フローデータを用いて労働市場の動向をみてきた。まとめると、失業のフローからは、感染拡大前の2019年半ばから就業から失業へのフローの増加と失業から就業へのフローの減少が発生しており、労働市場の悪化傾向がみられていた。2020年に入ってから、感染拡大などにより、非正規労働者、特に女性の非正規雇用者の失業へのフローが顕著に増加していた。足元の状況では、就業から失業へのフローや失業から就業へのフローには落ち着きがみられるが、失業者が失業状態で滞留している状態が続いている。また、緊急事態宣言が発出された2020年4月に労働力人口が急減したが、労働市場からの退出増加がその要因であり、女性の非正規雇用者の退出が特に多かった。2020年4月には休業が急増したが、休業を多く経験したのも女性の非正規雇用者であった。
このように、感染拡大による労働市場の影響は、全体の失業率や失業者数だけをみれば、それほど大きく悪化したわけではないかもしれないが、非正規雇用者、特に女性の非正規雇用者に対して大きな影響を与えていた。
以前より、非正規雇用者は不況や企業の業績悪化時に雇用の調整弁になりやすいことが指摘されていた。たとえば、Yokoyama, Higa, and Kawaguchi(2021)は、2001年から2012年までの企業レベルのデータを用いて、為替レートの変動という外生的なショックが企業の雇用調整に与える影響を定量的に分析し、円高になると輸出依存度の高い企業ほど売上高への影響が大きく、正規雇用者ではなく、非正規雇用者を減らしたことを示していた。
今回の感染拡大による労働市場への影響については、確かに感染拡大の影響を受けやすい業種に偏りがあり、そのような業種に非正規雇用者が集中しているといった事情や小中学校の一斉休校により育児の負担が女性に集中したなどの特殊事情はあるだろう。しかし、経済環境が変動した際には、非正規雇用者が雇用調整の手段とされやすい状況自体は変わっていないとみられる。属性別の違いを踏まえて、労働市場の動向をとらえていく必要が高いといえるだろうし、非正規雇用者に経済変動の負担が集中する状況を是正していく必要があるだろう。
このように、感染拡大による労働市場の影響は、全体の失業率や失業者数だけをみれば、それほど大きく悪化したわけではないかもしれないが、非正規雇用者、特に女性の非正規雇用者に対して大きな影響を与えていた。
以前より、非正規雇用者は不況や企業の業績悪化時に雇用の調整弁になりやすいことが指摘されていた。たとえば、Yokoyama, Higa, and Kawaguchi(2021)は、2001年から2012年までの企業レベルのデータを用いて、為替レートの変動という外生的なショックが企業の雇用調整に与える影響を定量的に分析し、円高になると輸出依存度の高い企業ほど売上高への影響が大きく、正規雇用者ではなく、非正規雇用者を減らしたことを示していた。
今回の感染拡大による労働市場への影響については、確かに感染拡大の影響を受けやすい業種に偏りがあり、そのような業種に非正規雇用者が集中しているといった事情や小中学校の一斉休校により育児の負担が女性に集中したなどの特殊事情はあるだろう。しかし、経済環境が変動した際には、非正規雇用者が雇用調整の手段とされやすい状況自体は変わっていないとみられる。属性別の違いを踏まえて、労働市場の動向をとらえていく必要が高いといえるだろうし、非正規雇用者に経済変動の負担が集中する状況を是正していく必要があるだろう。
また、フローの足元の動きからは、2か月続けて失業状態にある者の増加がみられる。実際、労働力調査(詳細集計)の失業期間別完全失業者数で失業期間別に前年差をとると(図15)、2020年第2四半期から第3四半期にかけて失業期間が3か月未満、6か月未満の失業者が増加する一方で、第4四半期には、3か月未満の失業者の減少と6か月以上1年未満の失業者の増加がみられた。感染拡大の影響による失業者の失業期間が長期化していることがわかる。従前から、失業期間が長くなればなるほど失業継続の可能性が高まること(失業の期間依存性)が指摘されてきた。失業期間の長期化は求職意欲を低下させ、労働者のスキルを陳腐化させる可能性があり、早期の再就職を可能にする環境を整備することが必要である。政府が年末に策定した経済対策には、離職者の早期再就職支援や業種・職種を越えた転換を伴う再就職等を促進する都道府県の取組の支援などが盛り込まれており、失業者への職業訓練や求職者と企業を結び付けるマッチング機能の向上が期待される。
(参考文献)
太田聰一・照山博司(2003)「労働力フローデータによる就業および失業の分析」、内閣府経済社会総合研究所『経済分析』第168号
太田聰一・玄田有史・照山博司(2008)「1990年代以降の日本の失業:展望」、日本銀行ディスカッションペーパーシリーズNo.08-J-4
桜健一(2006)「フローデータによるわが国労働市場の分析」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズNo.06-J-20
労働省編(1986)『昭和60年労働経済の分析(労働白書』、日本労働協会
労働政策研究・研修機構(2020)『ユースフル労働統計2020 ―労働統計加工指標集―』、労働政策研究・研修機構
Lin, Ching-Yang and Hiroaki Miyamoto (2012) “Gross Workers Flows and Unemployment Dynamics in Japan”, Journal of the Japanese and International Economies Vol26, pp.44-61.
Yokoyama, Izumi, Kazuhito Higa and Daiji Kawaguchi (2021) “Adjustments of regular and non-regular workers to exogenous shocks: Evidence from exchange rate fluctuation”, Industrial and Labor Relations Review, Vol. 74, No. 2, pp 470-510.
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山下 大輔
研究・専門分野
(2021年04月05日「基礎研レポート」)
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