2021年03月29日

女性の労働参加を更に促進、シニアの労働参加は次なる課題(中国)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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1――中国は「高齢化対策」を国家戦略に格上げ

中国は、今後迎える高齢社会に対応するため、第14次5ヵ年計画(2021‐2025)のスタートと同時に、「高齢化対策」を国家戦略に格上げした1。例えば、子育て世代の負担軽減や、年金、介護などの老後の生活を支える社会保険制度を更なる整備をはかるとしている。

中国は、第14次5ヵ年計画の最終年である2025年に、人口の14%が65歳以上の高齢者となる「高齢社会」に移行すると推測されている。今後5~10年で、一人っ子世代の親の世代が定年退職の時期を順々に迎えるようになるなど、一人っ子の夫婦(2人)によるそれぞれの両親(4人)の介護や老後の生活のサポートが現実味を帯びてくる。
 
一人っ子政策は、2016年に廃止され、2人までの出産が可能となったが、出生率は毎年最低を更新し続けている状態だ。東北三省(遼寧省・黒龍江省・吉林省)は、特に、若年層の人口流出で高齢化が進み、年金や医療といった社会保障に関する経費が財政を圧迫し始めており、産児制限そのものを撤廃するような検討もされている。しかし、国の一人っ子政策の緩和によっても事態が好転していないことから、社会では、教育コストの引き下げ、夫婦間の家事・育児の分担度合いの見直し、女性のキャリアパスの形成、といった子育て環境の整備や女性の更なる活躍に向けた取り組みに注目が集まり始めている。
 
1 「発改委:十四五将進入中度老齢化、積極応対老齢化上昇為国家戦略」、騰訊財経、2021年3月8日
 

2――中国の女性労働力率は…

2――中国の女性労働力率は60.6%と世界トップクラスも低下傾向に

WorldBankによると、中国における女性の労働参加率2は60.6%(2019年推算)とOECD諸国と比較しても高い状態にある(図表1)。日本は近年、女性の労働参加率が上昇傾向にあるが、中国では減少傾向にある。中国の女性の労働参加率について、1990年と2019年を比較してみると、30年ほどでおよそ11ポイント減少している。国有企業の改革による雇用形態の変容、新卒の学生に対する国による就職先の決定の廃止、進学率の上昇、更には少子高齢化による生産年齢人口そのものの減少といった、経済成長に伴う雇用の変革や高齢化の影響を受けていると考えられる。
 
少子高齢化が急速に進展する中国において、労働力の確保をはかるには、労働参加率を上昇させることで労働力の量そのものを増やす方法と、生産性の向上があろう。特に、生産年齢人口が高齢者を支える年金、介護といった社会保険を更に整備する上でも、労働力の量を増やすことは重要な課題である。そして、移民や外国人材の受け入れが難しい状況においては、女性と高齢者の労働参加が鍵となる。中国では、労働参加率がすでに高い女性について、直面している課題を改善することで、労働参加を維持、更には増やすことが期待されている。
図表1 女性の労働参加率の国際比較(1990年・2000年・2019年)
 
2 労働参加率は、生産年齢人口(15歳~64歳)に占める労働力人口(就業者と完全失業者の合計)の割合。生産年齢人口のうち、どの程度の割合が労働市場に参加しているかを示す。
 

3――見えないキャリアパス、…

3――見えないキャリアパス、夫婦間で就労時間は同じも、女性に偏る家事・育児負担

中国において、働く女性が抱える問題としては、どのようなことがあるのであろうか。中国国家統計局の「2018年全国時間利用調査公報」3によると、就労者の1日の平均労働時間は7時間41分であった。性別で見ると、男性は7時間52分、女性は7時間24分とほぼ同じとなっている。夫婦共働きが一般的であり、歴史的にも「女性は天の半分を支える」として、男女関係なく等しく激務に従事している。
 
一方、家庭内における家事、子育て、買い物、こどもの塾の送り迎えなどは女性に偏る傾向がある(図表2)。1日の家事の平均時間は女性が126分、男性が45分、子育ては女性が53分、男性が17分と、いずれも女性が男性のおよそ3倍となっている。家事等を含めた家庭内の無償労働については、女性が男性の2.5倍と負担は重い。
図表2 1日の時間の使用構成内容(男女別)
3月8日の国際女性デーに合わせて、中国の大手求人サイトである智聯招聘が「2020中国女性職場現状調査報告」4を発表した。それによると、働く女性は、妊娠・育児期間中も高い就労意欲・学習意欲があるものの(図表3)、それと同時に、不公平感を感じていることが分かる(図表4)。
図表3 働く女性が妊娠・育児期間における理想の就業状況/図表4 職場で性別が原因で不平等を感じる内容
妊娠・育児期間中は、子育てに時間を費やすとしても、「体力的に可能であれば仕事量や研修などでの学習を維持し、昇級を希望している」女性は61.9%と高い(男性は40.2%)。「仕事量を抑えて、妊娠・子育てを安心してできるよう便宜をはかってほしい」としている女性は14.5%と低いのに対して、男性でそう考えている人は46.5%と高くなっている。一方、職場において性別が原因で不平等と感じる内容として、女性は「妊娠・子育ては、女性にとって逃れられない負担である」が最も多く(64.0%)、次いで「根深い封建的な思想」(51.8%)となっている。
 
中国では、歴史的にみても女性の労働参加率は高い状態を維持しており、男女関係なく等しく激務に従事している。しかし、家庭内における家事等については女性への負担が重く、加えて、出産・育児期については、高い就労・学習意欲があるにもかかわらず、それが実現されているとは言えない状態にある。雇用主は、法律で定められた既存の産休等の措置に加えて、整備が進んでいないキャリアパスの整備や働き方の弾力化など、よりキャリア形成が分かりやすく、働きやすい施策の導入に取り組む必要があるであろう(図表5)。
図表5 雇用主による働く女性への施策導入状況
 
3 中国の11の省・市(北京市、河北省、黒龍江省、上海市、浙江省、安徽省、河南省、広東省、四川省、雲南省、甘粛省)で、15歳以上の常住人口を対象に実施。調査対象者は20226世帯、48580名。居住地域別では、都市部が29557人、農村が19023人。男性が23577名、女性が25003名。1日・1440分を7分類・18項目に分けて何に使用しているか調査。公報は2019年1月に公表。
4 有効回答件数は65956件。
 

4――高齢者が‘間接的’に支える…

4――高齢者が‘間接的’に支える労働市場への労働人口の供給

労働力の量そのものを増やすには、上掲の女性に加えて、高齢者の労働参加の促進がある。中国では法定の退職年齢が男性60歳、女性は55歳(幹部)または50歳と性別や役職で異なっているが、世界的にみてもリタイアは早いと言えよう。加えて、高所、高温や健康へのリスクが高い職種については男性55歳、女性は45歳と更に法定退職年齢が前倒しになっている。しかも、実質的な退職年齢は法定退職年齢よりも早く、54歳前後となっている5。現時点では、法定退職年齢が年金受給開始年齢となっているが、実質的には、男性など多くが年金の受給開始年齢より早くリタイアしていることになる。第14次5ヵ年計画では、定年退職年齢(年金受給開始年齢)の引き上げの検討が盛り込まれたが、検討とされただけで社会の反発は大きかった6
 
一方、日本の高齢者の就労意欲は高く、65-69歳の就業率は49.6%(2020年)とおよそ半数を占めている(図表6)。70歳以上についても17.7%とおよそ2割を占めている。10年前の2010年と比較しても、65-69歳の就業率は13.2ポイント上昇、70歳以上についても4.9ポイント上昇している。

中国についてはあくまで参考値となるが、高齢者の就業率は日本と比較しても低いと言えよう。2010年時点で、より実質値に近い都市部の就業率をみると、50歳後半には3割台まで落ち込み、60歳代の前半から後半にかけては1割を下回る状態にある。全国での就業率が日本の2010年の状況と比較して大きく変わらずに高いのは、当時、農村部の公的年金制度が未整備であったため、農村部の就業率が全体を引き上げている点が考えられる。
図表6 50歳以降の年齢別の就業率(日本/中国)
都市部で50歳代以降に就業率が低い点については、時期的に自身のこどもの子育て期と重なり、上掲の働く女性の状況から、子育て(孫)へのサポートの需要が高い点が挙げられるであろう。働く女性が出産後の職場復帰に際して自宅での保育を希望する場合、特に女性については、自身の親、年配者、親戚によるサポートを希望していることが分かる(図表7)。女性(母親)が自宅で保育を担うかについては、男性(父親)が41.3%希望しているのに対して、女性(母親)自身は14.9%と低い状態にある。実際には、高齢者が女性の職場復帰や子育て期の就業継続に寄与しており、子育てを含め、高齢者による家庭内の労働が、そのこどもである生産年齢人口世代の労働市場への供給を間接的に支えているという構造になっている。
図表7 職場復帰で自宅での保育を希望する場合の担い手
 
5 「延退冲撃群体較大 弾性退休制度需合理設計」、第一財経、2020年12月22日
6 「分析:中国暫進式延遅退休真的来了?如何落地恐怕併不容易」、REUTERS、2020年11月23日
 

5――国としては、まず、女性の更なる…

5――国としては、まず、女性の更なる就労促進のサポートを強化。高齢者の労働参加向上は次なる課題。

政府は今後迎える高齢社会の労働力の確保について、まず、すでに労働参加率が高い女性の労働の維持、更には働く女性が直面する課題を改善することで更なる促進を企図している。国家発展改革委員会は、その一環として、子育てへのプレッシャーを改善し、幼稚園や託児所の拡充を目指す。現在、託児所が受け入れ可能な3歳以下の乳幼児は人口1000人あたりわずか1.8人と少なく、今後これを4.5人まで拡大する7。託児所の拡充には、地域を管轄する社区の活用も挙げられている。また、「入園が厳しく、費用が高い」とされている幼稚園については、受け入れ可能な園児を400万人以上増やし、小学校などの初等教育より前の就学前教育の就園率を90%以上にするとした。

一方、高齢者の就労については、就労対策よりも、まず、老後の生活を支える公的年金制度、公的介護保険制度の整備を優先すべきと考えているようだ。日本とは異なり、元より高齢者の就労意欲が高くない点からも、いきなり高齢者の労働参加を進めるのは難しい。現況は年金積立金の運営が厳しさを増しており、今後5年で定年退職年齢の引き上げを実施し、それにともなって年金受給開始年齢の引き上げも図るなど、公的年金制度を持続可能なものに整備する必要がある。また、公的介護保険制度についても2025年を目途に全国導入が目指されている。子育ての社会化が進むことによる高齢者のサポート負担の減少、年金受給開始年齢の引き上げ、子女による社会保険料負担、親世代への経済的な負担が目に見えて増加するといった、今後の状況が変容していく中で、最終的に、高齢者の就労が増える可能性はある。しかしながら、高齢者の労働参加向上を主目的とする取り組みは、まだその先にある課題と言えよう。
 
7 注釈1と同一。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

(2021年03月29日「基礎研レポート」)

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