2021年03月29日

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3. 大阪オフィス市場の見通し

3-1. 新規需要の見通し
(1) オフィスワーカーの見通し
総務省「住民基本台帳人口移動報告」によると、大阪市の転入超過数3は2000年以降、拡大傾向が続いている。2020年の転入超過数は+16,802人となり、他の主要都市と比較して人口流入が高い水準にある(図表-11)。

また、大阪府の就業者数も増加している。2020年の就業者は460.5万人(前年比+2.6万人)となり、7年連続で増加した(図表-12)。
図表-11 主要都市の転入超過数/図表-12 大阪府の就業者数
一方で、新型コロナウィルスの感染拡大は、労働市場に多大な影響を及ぼしている。以下では、大阪のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「近畿地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「非製造業」の「企業の景況判断BSI4」(近畿地方)は、2020年第2四半期に「▲51.9」と一気に悪化した(図表-13)。翌第3四半期はプラスに回復したもののその後は再び悪化し、2021年第1四半期は「▲15.7」となった。全国平均の動きと比較した場合、近畿地方の低下幅はやや大きい傾向がみられる。

また、「非製造業」の「従業員数判断BSI5」(近畿地方)は、「25.8」(2020年第1四半期)から「+2.7」(第4四半期)へ大幅に低下し、足もとでは「+8.9」まで回復している(図表-14)。しかし、コロナ禍による「雇用環境」への影響は、企業の景況感と同様、全国平均と比べて大きい傾向にある。
図表-13 企業の景況判断BSI(非製造業)/図表-14 従業員数判断BSI(非製造業)
パーソル総合研究所の「新型コロナウィルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、大阪府におけるテレワーク実施率は、2020 年4月調査で29%と大きく増加したが、その後低下傾向にある(図表-15)。

また、大阪府商工労働部・政策企画部「新型コロナウィルス感染症に関する府内企業の実態調査」(2020年7月調査)によれば、大阪市のテレワーク(在宅勤務)導入率は50%で、エリア別では、「都心部地域6」の導入率(58%)が高くなっている(図表-16)。

大阪におけるテレワーク実施率は東京と比べて低いものの、コロナ禍を経て「在宅勤務」を導入する企業は増加しているようだ。今後とも「在宅勤務」と「オフィス勤務」を組み合わせた働き方が続くと予想され、オフィス需要への影響を注視する必要がある。
図表-15 従業員のテレワーク実施率/図表-16 大阪市 テレワーク(在宅勤務)導入率
大阪市では、コロナ禍においても就業者数は増加しており、今後5年間でオフィスワーカー数が減少する懸念は小さいと言える。しかし、コロナ禍が「企業の経営環境」と「雇用環境」に与えたダメージは全国平均と比べてやや大きく、「在宅勤務」の導入企業も増加している。以上のことを鑑みると、大阪市のオフィスワーカー数の拡大は当面は力強さに欠けることが予想される。
 
3 転入超過数=転入人口-転出人口
4 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
5 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
6 北区、中央区、天王寺区、福島区、西区、浪速区
(2) 大型イベント開催(大阪・関西万博)の経済波及効果への期待
2025 年に開催予定の大阪万博への期待は大きい。帝国データバンクが2019 年1 月に実施した「大阪万博に関する企業の意識調査」によれば、大阪府に所在する企業の60%が大阪万博の開催が自社に「プラスの影響がある」と回答した。大阪府・市「大阪IR 基本構想(案)」によれば、万博の経済波及効果は、開業初年度(建設時+運営)までに2 兆円、開業以降は毎年7,600 億円と試算されており、オフィス需要にもプラスの効果が期待されていた。

しかし、新型コロナウィルスの感染拡大により、2020 年6月に開催予定であった博覧会国際事務局総会が延期され、開催計画にあたる登録申請書の承認が予定より半年遅れるなど、開催準備に対するコロナの影響が懸念される。

また、大阪府と大阪市は、カジノを含む統合型リゾート(IR)の実施方針において、開業時期を明記しない方針を固め、IRの開業時期は事実上、白紙となった7。万博との相乗効果が期待されていたため、万博への来場者数や万博に関連した施設開発計画等への影響が懸念される。
 
7 共同通信ニュース「大阪IR施設、開業時期が白紙に―コロナ禍、事業者に配慮」」2021/2/11
3-2. 新規供給見通し
大阪のオフィスビルの新規供給は、2014年以降限定的な状況が継続している (図表-17)。
大阪の過去5年間の新規供給面積が総ストックに占める割合は、1.6%であった。主要都市と比較すると、仙台市(1.6%)と並んで低い水準にある(図表-18)。過去10年間でみても、新規供給面積の割合は1割弱に留まっており、築浅オフィスビルは希少性の高い状況にある。
図表-17 大阪のオフィスビル新規供給見通し/図表-18 主要都市の新規供給動向(2020年ストック対比)
2021年は、「本町サンケイビル」等が竣工予定であるが、新規供給は引き続き低水準に留まる見通しである。しかし、2022年には「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」、「新大阪第5ドイビル」、「日本生命淀屋橋ビル」等、大規模ビルの竣工が複数予定されており、新規供給は4万坪を超える見込みである。2023年は一旦落ち着くものの、2024年以降は「梅田3丁目計画(大阪中央郵便局跡)」や「うめきた2期」等の大規模開発が竣工を迎える予定である。
3-3. 賃料見通し
前述の新規供給見通しや経済予測8、オフィスワーカーの見通し等を前提に、2025年までの大阪のオフィス賃料を予測した(図表-19)。

新型コロナウィルス感染拡大により、企業の経営環境や雇用環境が大きなダメージを受けるなか、「在宅勤務」を導入する企業も増加しており、オフィスワーカー数の増加は力強さを欠く見通しである。また、景気への波及効果が期待される大阪・関西万博開催への影響も懸念される。以上を鑑みると、大阪のオフィス需要は当面弱含む見通しである。

一方、新規供給については梅田駅や淀屋橋駅を中心に複数の大規模開発が計画されており、2022年以降増加する見込みである。今後、大阪の空室率は緩やかな上昇が継続すると予想する。

大阪のオフィス成約賃料は、需給バランスの緩和に伴い下落基調で推移する見通しである。2020年の賃料を100とした場合、2021年の賃料は「100」、2022年は「97」、2025年は「90」に下落すると予想する。ただし、ピーク(2020年)対比で▲10%下落するものの、2018 年の賃料水準「85」を上回る水準にとどまり、リーマンショック後のような大幅な賃料下落には至らない見通しである。
図表-19 大阪のオフィス賃料見通し
 
8 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2020~2030年度)」(2020.10.13)、などを基に設定。
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2021年03月29日「不動産投資レポート」)

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