2021年03月12日

わが国の不動産投資市場規模(1)-ボトムアップ・アプローチによる推計結果~「収益不動産」は約272兆円、「投資適格不動産」は約171兆円。

金融研究部 主任研究員 吉田 資

株式会社価値総合研究所 パブリックコンサルティング第3事業部 主任研究員 室 剛朗 

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1. はじめに

 日本の不動産投資市場は、2001年9月のJ-REIT市場の開設以降、拡大が続いている。REIT等の資産総額は、0.4兆円(2002年3月時点)から26.6兆円(2020年3月時点)に拡大しており、政府の「未来投資戦略1」における数値目標の30兆円に迫っている(図表-1)。また、私募ファンドの市場規模2も、10.2兆円(2007年6月時点)から21.1兆円(2020年6月時点)に拡大した。

国土交通省「令和元年度 不動産投資家アンケート調査」によれば、「現在投資している不動産商品等の用途」は、「オフィスビル」(19.3%)が最も多く、次いで「商業施設」(16.7%)、「ホテル・旅館」(13.5%)、「賃貸住宅」(13.3%)、「物流施設」(13.3%)となっている(図表-2)。投資対象資産は、当初オフィスビルを中心としていたが、現在は裾野が広がり多岐に渡っている。

また、J-REITの取得物件の状況をみると、2010年以降、地方都市の割合が増加傾向にあり、近年では2~3割を占めており、投資対象エリアについても広がりを見せている。

不動産投資市場の将来を見通すにあたり、投資対象となる「収益不動産」の資産総額がどれくらいの規模であるのか、また、その内訳を「用途別」や「エリア別」に把握することは重要だと考えられる。そこで、本稿3では、まず、「収益不動産」の資産規模を、「用途別」(「オフィス」・「賃貸住宅」・「商業施設」・「物流施設」・「ホテル・旅館」)に、そして、「エリア別」に推計する。次に、推計した「収益不動産」の資産規模と、J-REIT等の既に証券化された不動産の資産規模を比較することで、今後の不動産投資市場の拡大可能性を考えたい。
図表-1 REIT等の資産総額/図表-2 投資している不動産商品の用途
 
1 「未来投資戦略2017 - Society 5.0の実現に向けた改革」において、「民間投資の喚起による都市の競争力の向上等」の項目で「2020年頃までにリート等の資産総額を約30兆円に倍増することを目指す」としている。
2 三井住友トラスト基礎研究所「私募ファンドに関する実態調査」私募REITを含む運用資産額ベースの市場規模
3 本調査は、ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所の共同研究であり、その内容を3回に分けて報告する。
 

2. 「収益不動産」の資産規模の推計方法

2. 「収益不動産」の資産規模の推計方法

2-1. 「収益不動産」の定義
本稿では、事業者や個人に物件を賃貸することで、賃料収入を獲得できる不動産(以下、「収益不動産」)を調査対象とする。ただし、「オフィス」、「商業施設」、「物流施設」、「ホテル・旅館」では、企業における不動産の利用形態がオフバランス化の進展に伴い「自社所有」から「賃貸借」に移行する動きがある。現時点で「自社所有」の不動産であっても、将来、賃貸されることで「収益不動産」になり得ることから、現時点の所有形態の如何を問わず、一定の規模以上の不動産を「収益不動産」と定義した。

また、「収益不動産」の内訳を詳細に把握するため、(1)「収益不動産」、(2)「投資適格不動産」、(3)「コア投資不動産」に分類し推計する(図表-3)。

(1)「収益不動産」は、一定水準以上の面積基準(例:オフィスは延床面積1,000m2以上)や、築年基準(例:住宅は1981年の着工以降)を満たす不動産を対象とする。

(2)「投資適格不動産」は、機関投資家の投資意欲が特に強いスペック(面積基準や築年基準、等)や立地要件を満たす不動産を対象とする。

(3)「コア投資不動産」は、最大の投資対象アセットであるハイクラスの「オフィス」に焦点を当て、主要政令指定都市に立地する大規模ビルを対象に推計する。
図表-3 「収益不動産」の定義(用途別)
2-2. 先行研究
「収益不動産」資産規模の推計方法として、主に「トップダウン・アプローチ」と「ボトムアップ・アプローチ」による方法がある。
(1) 「トップダウン・アプローチ」による推計
「トップダウン・アプローチ」は、GDPと不動産ストックには強い相関関係があるという仮定に基づき、GDPに占める「収益不動産」の割合を設定して資産規模を推計する手法である。「トップダウン・アプローチ」の事例として、「PGIM Real Estate」による推計4が挙げられる。「PGIM Real Estate」の推計対象は、機関投資家を対象にした投資用不動産 (「institutional-grade real estate」)と定義されている。「institutional-grade real estate」に関して、詳細内容は公表されていないが、投資適格性の高い不動産のストック量を示すものと考えられる。

「PGIM Real Estate」の推計では、まず、世界各国を「国民一人あたりのGDP」を選別基準として、「先進国」と「先進国以外の国」に分ける。次に、「先進国」を対象に、GDPに占める投資用不動産の割合を45 %と仮定した上で5、「投資不動産」の資産規模を計算している。

世界の「投資用不動産」の資産規模は、2016年末時点で約27兆ドルと推計されている。日本の資産規模は、アメリカ(約8.1兆ドル)、中国(約2.7兆ドル)に次いで大きい約2兆ドル(約224兆円6)で、世界の「投資用不動産」の7.4%を占める(図表―4)。
図表-4 世界の「収益不動産」の資産規模(上位10位)
 
4 PGIM Real Estate 「A Bird’s Eye View of Real Estate Markets: 2017 Update」
5 先進国の中でも、人口密度が高い香港などは、この率を上方修正している。
6 1ドル112円で換算。
(2) 「ボトムアップ・アプローチ」による推計
「ボトムアップ・アプローチ」は、個別不動産の積算により、市場規模を推計する手法である。「ボトムアップ・アプローチ」の事例として、一般財団法人日本不動産研究所「全国オフィスビル調査」が挙げられる。

「全国オフィスビル調査」では、全国87都市に立地する延床面積3,000m2のオフィスビルを推計対象としている。具体的には、調査対象地域の住宅地図をもとに建物を抽出して、建物登記簿を取得し、建物用途・延床面積の条件判定を行い、条件を満たすオフィスビルを毎年1月1日時点で集計している。建物登記簿がない建物については、他で代用できる資料がある場合はその内容を付加している。

「全国オフィスビル調査」によれば、全国のオフィスビルストックは、2020年1月時点で1億3,021万m2(10,586棟)となっている。都市別にみると、「東京区部」が7,153万m2(全国の55%)と最も大きく、次いで「大阪」が1,613万m2(同12%)、「名古屋」が634万m2となった。三大都市に全国のオフィスストックの72%が集積している(図表―5)。
 
先行調査のレビューを踏まえ、本調査では、「用途別」や「エリア別」の推計を行う目的から、「ボトムアップ・アプローチ」を採用した。ただし、「建物登記簿」等を調べる個別不動産の積算ではなく「建築着工統計」等を利用することで、調査の継続性並びに再現性の担保を図ることとした。
図表-5 全国のオフィスビルストック
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金融研究部

吉田 資 (よしだ たすく)

株式会社価値総合研究所 パブリックコンサルティング第3事業部 主任研究員 室 剛朗 

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