2021年03月09日

米国経済の見通し-経済の正常化、追加経済対策の効果で21年は37年ぶりの高成長へ

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(住宅投資)住宅ローン金利の上昇もあり、住宅市場の好調は維持できない
GDPにおける住宅投資は、20年7-9月期に前期比年率で6割超の大幅な伸びとなった後、10-12月期も3割台半ばの伸びを維持しており、新型コロナ禍にあっても20年後半の住宅市場は好調となった2

一方、住宅着工件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は21年1月が年率+51.3%、先行指数の許可件数(同)も+71.6%と非常に高い伸びとなっており、住宅市場は21年に入っても好調を維持している(図表12)。

住宅市場が好調な要因として、20年の春先に新型コロナで落ち込んだ反動に加え、史上最低水準まで低下した住宅ローン金利が挙げられる。もっとも、好調を支えた住宅ローン金利は足元で上昇に転じている。全米抵当銀行協会(MBA)によれば、30年固定の住宅ローン金利は20年12月中旬につけた2.86%を底に上昇に転じており、21年2月下旬には3.2%台と20年7月以来の水準となった(図表13)。また、借り換えも含めた住宅ローン申請件数は21年1月下旬に981.1と20年3月以来の水準をつけた後、21年2月下旬には20年10月以来となる800割れの水準まで低下しており、住宅ローン金利の上昇が申請件数に影響しはじめたとみられる。

当研究所は長期金利の上昇を見込んでおり、住宅ローン金利も22年末にかけて上昇基調が持続する可能性が高い。このため、住宅市場は足元で依然好調なものの、今後も好調を維持することは難しく、住宅ローン金利の上昇に伴って住宅市場は悪化に転じよう。
(図表12)住宅着工件数と実質住宅投資の伸び率/(図表13)住宅ローン金利および住宅ローン申請件数
 
2 好調な住宅市場について詳しくはWeeklyエコノミスト・レター(2020年10月30日)「V字回復を示す米住宅市場-新型コロナで落ち込んだ後はV字回復、住宅販売などは前回の住宅バブル以来の水準に」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65985?site=nliを参照下さい
(政府支出、債務残高)累次の経済対策で財政状況は大幅に悪化、狭まる財政拡大余地
新型コロナで落ち込んだ経済を立て直すために、米政府が昨春以降、累次の経済対策を実施した結果、財政状況は大幅に悪化した。議会予算局によれば20年度(19年10月~20年9月)の財政赤字は▲3兆1,320億ドル(前年度:▲9,840億ドル)、名目GDP比▲14.9%(同:▲4.6%)となり、前年度から赤字幅が大幅に拡大した(図表14)。また、新型コロナ流行前(20年1月)に試算されていた経済対策を織り込まないベースの20年度の財政赤字▲1兆150億ドル(GDP比▲4.6%)に比べて2.1兆ドル程度(同▲10.3ポイント)財政赤字が拡大したことが分かる。
(図表14)財政収支・債務残高見通し また、21年度は成立が見込まれる1.9兆ドル規模の追加経済対策を含まないベースで財政赤字は▲2兆2,580億ドル(GDP比▲10.3%)と試算されており、追加経済対策によって20年度を上回る赤字幅となる可能性が高い。

債務残高(GDP比)も20年度は100.1%(前年度:79.2%)と前年度から大幅な増加となったほか、追加経済対策を含まないベースで31年度に107.2%まで増加することが見込まれている。これは第2次世界大戦直後の1946年に記録した106%を上回り史上最高だ。

一方、1.9兆ドル規模の経済対策は3月6日に民主党議員の賛成票のみで可決しており、下院での再可決を経て、今週中にも成立するとみられる。
1.9兆ドルの追加経済対策(American Rescue Plan、米国救済計画)には、家計向けに所得制限3を付した上で1人1,400ドルの直接給付や、失業保険に週300ドルの追加給付を9月6日まで実施することが盛り込まれたほか、州・地方政府向けに3,600億ドルの財政支援、新型コロナ対策としてワクチン接種、検査プログラム支援、学校再開支援などが盛り込まれている(図表15)。家計向けの直接給付は昨年から3度目の支給となり、累計支給額は成人1人当たり最高3,200ドルに上る。

一方、米シンクタンクの「責任ある財政委員会」(CRFB)は1.9兆ドル規模の追加経済対策実施後の債務残高は31年度に114%まで上昇すると試算しており、財政拡大余地は狭まっている。今後は大規模な追加経済対策が実現する可能性は低いとみられるほか、バイデン政権が目指す4年間で2兆ドル規模のインフラ投資なども財源を確保しないで実現することは難しいだろう。>
(図表15)1.9兆ドル規模の追加経済対策(上院案)の概要
 
3 単身世帯で年収7万5千ドル以上で減額、8万ドル以上では支給無し、夫婦では年収15万ドル以上で減額、16万ドル以上で支給無し。
(貿易)堅調な輸入拡大を背景に成長率のマイナス寄与は継続
実質GDPにおける外需の成長率寄与度は20年10-12月期に2期連続のマイナス寄与となった。輸出入の内訳をみると輸出が前期比年率+21.8%(前期:+59.6%)となった一方、輸入が+29.6%(前期:+93.1%)となっており、当期のマイナス寄与は輸入の伸びが輸出の伸びを大幅に上回ったことが大きい。
(図表16)貿易収支(財・サービス) 一方、先日発表された21年1月の貿易収支(3ヵ月移動平均)は季節調整済で▲681億ドル(前月:▲667億ドル)の赤字となり、前月から赤字幅が▲14億ドル拡大し、1950年の統計開始以来最大の赤字幅となった(図表16)。輸出入別では、輸出が34億ドル増加した一方、輸入の増加幅が49億ドルと輸出を上回ったことが貿易赤字の拡大の要因となったことが分かる。このため、21年に入っても堅調な国内需要を背景に外需の成長率寄与度はマイナスが続いているとみられる。

米経済は個人消費主導の高成長が見込まれる中、米国の成長率が相対的に海外経済の成長率を上回る状況が続くとみられることから、当面は外需の成長率寄与度はマイナスが持続しよう。

一方、外需に影響を与えるバイデン大統領の通商政策については、同大統領は対中政策で同盟国を巻き込む国際協調路線をとる方針を示しており、トランプ政権からの路線変更を示唆しているものの、当面対中関税を維持するとしており、短期的にトランプ政権の強硬な対中政策路線が変更される可能性は低いとみられる。

また、米国が将来的にCPTPPに復帰する可能性はあるものの、お膝元の民主党議員や世論の反発が予想されるため、短期的な復帰は困難だろう。いずれにせよ、バイデン政権は当面新型コロナ対策などの内政を重視する姿勢を明確にしており、通商政策の優先順位は低いため、通商政策が大幅に変更される可能性は低いだろう。
 

3.物価・金融政策・長期金利の動向

3.物価・金融政策・長期金利の動向

(物価)インフレは短期的に高進も、持続的なインフレ加速は予想せず
消費者物価の総合指数(前年同月比)は、新型コロナの影響で20年5月に+0.1%まで低下した後は持ち直し21年1月は前月に続いて+1.4%となった(図表17)。これは新型コロナ流行前(20年2月)の+2.3%を大幅に下回る水準である。1月の中身をみると、食料品価格が+3.8%と物価を押し上げた一方、エネルギー価格が▲3.6%と物価を押し下げた。エネルギー価格の物価押し下げは20年3月以来11ヵ月連続である。

一方、物価の基調を示す食料品とエネルギー価格を除くコア指数は1月が+1.4%と、こちらも20年6月の+1.2%から持ち直しているものの、新型コロナ流行前(20年2月)の+2.4%を大幅に下回っているほか、20年9月の+1.7%から頭打ちとなっており、基調としての物価上昇圧力も限定的となっている。足元で原油価格などの商品価格が上昇しているほか、企業の仕入れ価格などで上昇がみられるものの、現状で消費者物価の上昇圧力には繋がっていない。

もっとも、今後は前年にインフレ率が低下した反動や、ワクチン接種の浸透に伴う経済の正常化の動きに加えて、追加経済対策が需給ギャップをインフレギャップに転換させることなどから、インフレの上昇が見込まれる。実際に、1.9兆ドルの追加経済対策を含まない実質ベースの需給ギャップは議会予算局の推計で21年に▲3,600億ドルのデフレギャップが見込まれていたが、追加経済対策によってインフレギャップに転換する可能性が高い(図表18)。
(図表17)消費者物価指数(前年同月比)と原油価格/(図表18)潜在GDPおよび需給ギャップ(CBO推計)
当研究所は消費者物価の総合指数は21年に前年比+2.3%と、20年の+1.2%から大幅に上昇した後、22年は+2.1%と小幅に低下することを予想する。追加経済対策のインフレへの影響についてはエコノミストの評価が分かれており、持続的なインフレ加速に繋がるとの見方もある。当研究所は追加経済対策の景気押上げ効果は一時的とみられるほか、フィリップス曲線が平坦化しており、労働需給の逼迫が物価を押し上げ難い状況が続いていることから、持続的なインフレ加速には到らないと予想している。
(金融政策)22年前半に量的緩和の買い入れペースは縮小へ
FRBは、新型コロナによる米国経済、資本市場への影響を軽減すべく、20年3月以降、実質ゼロ金利政策、量的緩和政策、資金供給ファシリティ―の創設など、実行可能な政策を総動員して危機対応を行っている。
(図表19)政策金利およびPCE価格指数 FRBは政策金利引き上げの条件として、インフレ率が持続的に物価目標の2%を下回っている場合には、暫くの間2%超の水準を許容する方針を示している。20年12月時点のFOMC参加者のインフレ見通しは、FRBが物価指標としているPCE価格指数が23年末に漸く物価目標水準に達するとの見通しとなっている(図表19)。もっとも、ワクチン接種の進捗に伴う経済正常化の動きや1.9兆ドル規模の追加経済対策によって成長率の見通しは上方修正される可能性が高く、インフレ率の見通しについても上方修正されることで物価目標到達時期は前倒しになるとみられる。

当研究所はこれまで政策金利の引き上げ時期予想を25年半ばとしてきたが、24年前半に前倒しする。また、金融危機後の金融政策の正常化プロセスでは、15年12月の政策金利の引き上げに先立ち、13年12月から量的緩和の買い入れペースの縮小を開始し、14年10月に量的緩和政策を終了している。このため、前回同様のペースを想定すると24年前半の政策金利の引き上げに先立ち、22年前半に買い入れペースの縮小を開始することが見込まれる。

一方、今後、短期的にはインフレ率が物価目標を超える局面もあろうが、FRBは経済の正常化に伴うインフレ高進は一時的と判断していることから、当面のインフレ高進によって、今年や来年に利上げ時期が前倒しされる可能性は低いだろう。
(長期金利)21年末1.7%、22年末2.0%を予想
長期金利(10年国債金利)は、昨年秋口以降上昇基調が持続しており、足元は1.6%近辺で推移している(図表20)。
(図表20)米国金利見通し 長期金利は景気回復やインフレ率の上昇を背景に上昇基調が持続しよう。当研究所は21年末に1.7%、22年末に2.0%に上昇すると予想する。

一方、インフレリスクの高まりや、財政赤字の拡大に伴う国債需給悪化懸念などで長期金利が急激に上昇し、金融市場や実体経済への影響が懸念される場合には、FRBが長期金利の上昇を抑制するための対策を実施しよう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年03月09日「Weekly エコノミスト・レター」)

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