2021年03月08日

J-REIT市場の動向と今後の収益見通し。5年間で12%成長を見込む~今年は横ばいも、来年以降回復に向かう見通し

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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1――新型コロナ感染拡大による急落から1年。現在、J-REIT市場は2019年末の9割水準を回復

新型コロナウィルス感染拡大からおおよそ1年が経過した。この間、J-REIT(不動産投資信託)市場は一時リーマン・ショック時(2008年)に次いで大きい下落率を記録するなど大きなダメージを被ったが、その後は金融市場の回復にあわせて上昇している。市場全体の値動きを表す東証REIT指数(配当除き)は今年に入り8%上昇し、2019年末の9割の水準まで回復した(2月末時点)(図表―1)。
[図表-1]東証REIT指数とTOPIX(2019年12末=100、配当除き)
このように株式やJ-REITの価格が上昇する要因として、各国の政府及び中央銀行による大規模な財政出動と金融緩和の実施が挙げられる。停滞する経済活動を刺激するため大量の資金が投入されるなか、余剰資金が金融市場等に押し寄せて、あらゆるリスク性資産の価格を押し上げている。さらに、アフターコロナを見据えた企業の業績回復期待も上昇を後押しする。上場企業の業績をみると、TOPIXの予想1株利益(12ケ月先)は、2020年7月にボトムを付けて以降、いち早く回復に向かっている。J-REIT市場の予想分配金水準についても、2020年9月にボトムを付けて底打ち感がみられる(図表―2)。
[図表-2] J-REIT市場の予想分配金水準と国内株式の予想利益
もっとも、J-REITの業績に対する過度な懸念が和らぐ一方で、収益の源泉となる不動産賃貸市場は先行き不透明感が高い。運用資産の4割を占めるオフィス市場は昨年から調整局面に入り、ホテル市場は人の移動制限によって宿泊需要が蒸発し、厳しさを増している。もちろん、前回のリーマン・ショック時のように分配金水準が3割強減少する事態は避けられそうだが、このまま直ちに元の水準まで回復するとの見方はやや楽観的過ぎるかもしれない。

そこで、以下では最初に、現在のコロナ禍におけるJ-REITの収益環境を確認する。次に、各種シナリオ(オフィス賃料見通し、物件取得要件、金利見通しなど)を設定し、今後5年間の分配金見通しを試算したい。
 

2――保有不動産は物流施設の比率が高まる

2――保有不動産は物流施設の比率が高まる。1口当たり分配金(DPU)はひとまずピークアウト

J-REITは、エクイティ資金及び借入金を調達して賃貸不動産に投資し、そこから得られる賃貸事業収益(Net Operating Income、以下NOI)を原資に、利益のほぼ全額を分配する金融商品である。J-REITは主に、(1)保有不動産の収益力を高める「内部成長」、(2)不動産を取得する「外部成長」、(3)金融コストを低減する「財務戦略」を通じて、1口当たり分配金(Distributions Per Unit、以下DPU)の成長を図る。

まず、2020年12月末時点の運用不動産はJ-REIT全体で約4,200棟、金額にして約22.9兆円である(図表―3)。アセットタイプ別の保有額は、オフィスビル(9.3兆円、41%)、物流施設(3.9兆円、17%)、商業施設(3.4兆円、15%)、住宅(3.4兆円、15%)、ホテル(1.8兆円、8%)、底地など(1.0兆円、4%)の順となっている。また、過去5年間の取得額(約7.6兆円)の内訳をみると、物流施設の比率(30%)が拡大しており、物流施設の保有額が商業施設を抜いて第2位となった。
[図表-3] J-REITの保有不動産及び新規取得額(アセットタイプ別)
次に、業績動向を確認する。2020年は、新型コロナウィルス感染拡大を受けて、施設売上などに連動して受け取る変動賃料の減少や固定賃料の減免などにより予想DPUの下方修正が相次いだ(図表―4)。J-REIT各社の業績修正は2020年8月までに一巡し、「▲10%以上の下方修正」が9社(占率15%)、「▲10%未満の下方修正」が11社(18%)、全体で20社(32%)が業績の下方修正を発表した。この結果、市場全体の予想分配金水準は2020年3月のピーク水準から一時▲9%低下した。

しかし、その後に発表された実績DPUは上振れて着地している。2020年下期(7月~12月期)における事前予想に対する上振れ率は+4.1%となった(図表―5)。コロナ禍の影響を保守的に見積っていたことに加えて、不動産売却益の計上などにより実績DPUが増加し、市場全体の分配金水準は上向き傾向にある。
【図表ー4】DPU(今期・来期予想)の修正/[図表-5] 事前予想に対する実績DPUの修正率

3――シナリオを設定し、今後のDPU成長率を試算する

3――シナリオを設定し、今後のDPU成長率を試算する

保有オフィスビルのNOI増減率は11期連続でプラス。今後は空室率上昇の影響に留意
三鬼商事によると、東京都心5区の空室率(2021年1月)は11ケ月連続で上昇し4.82%となった。平均募集賃料についても2020年7月をピークに下落に転じており、長らく好況にあった東京オフィス市場は調整局面に入ったと言える。一方、J-REITが保有するオフィスビルは収益拡大を維持している。継続比較可能な保有ビルを対象に賃貸事業収益(NOI)の増減率(前期比)を確認すると、2020年下期は+1.1%と11期連続でプラスとなり、この間の増加率は+15%に拡大した(図表―6)。
[図表-6] JREIT保有ビルの内部成長と東京都心5区の募集賃料
また、各社の開示データなどをもとに保有ビルの賃料ギャップ(継続賃料と市場賃料のかい離率)を集計すると、全体で▲7%(継続賃料<市場賃料)と推計される。依然として継続賃料が市場賃料を下回る状態にあり、既存テナントの賃料改定やテナント入れ替え時において賃料増額を実現できている。ただし、今後については空室率上昇の影響に留意する必要がある。過去のJ-REITのオフィス空室率の推移をみると、東京都心5区の空室率との高い連動性を確認することができる(図表―7)。現在のところ、J-REITのオフィス空室率は低位に留まっているが、今後は空室率が上昇し、収益に対する下押し圧力の高まりが予想される。
[図表-7] J-REIT保有ビルと東京都心5区の空室率
2|保有オフィスビルのNOI成長率は今後5年間で+3%の見通し
ニッセイ基礎研究所は国内6都市(東京・大阪・名古屋・札幌・仙台・福岡)のオフィス賃料予測を公表した1。今後5年間(2020年~2025年)の賃料変動率は、標準シナリオで東京が▲6%、大阪が▲2%、名古屋が▲3%、札幌が▲12%、仙台が+2%、福岡が▲10%となっている(図表―8)。このうち、「東京都心Aクラスビル賃料は当面横ばいで、2023年以降弱含みで推移する」見通しである。

この賃料予測並びに一定の空室率上昇(一律2%上昇)を前提条件(稿末に記載)として、保有ビルのNOI成長率(今後5年間)を計算すると+3%となった(図表―9)。収益ベースで7割を占める東京のオフィス市況が弱含みで推移したとしても、現在の賃料ギャップ(▲7%)が収益にプラス寄与し、保有ビルのNOIは底堅く推移する見通しである。
【図表-8】今後5年間のオフィス賃料予測(2020末~2025年末)/[図表-9] :JREIT保有ビルのNOI見通し(2020年下期=100)
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

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