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「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2021年)
金融研究部 主任研究員 吉田 資
前回の「リーマン・ショック」時は、企業の景況感が大きく後退した後に設備投資意欲が減退し、続いてオフィス市況も悪化に向かった。内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「非製造業」の「国内の景況判断BSI」6は、2007年第4四半期に▲6.2とマイナスとなり、2009年第1四半期には▲72.2へ大きく悪化した。(図表-12)。また、「設備投資BSI」7は、2008年第4四半期に▲0.9とマイナスとなり、翌2009年第1四半期には▲6.0へ低下した。その後、2010年第4四半期までマイナスで推移した。Aクラスビルの空室率も上昇し、2009年第4四半期に7.4%にまで上昇した。
これに対して、今回の「コロナ禍」では、「国内の景況判断BSI」は、2020年第2四半期に▲71.7と一気に悪化したが、その後は回復に向かい、2020年第4四半期は+1.1とプラスに転じている。また、「設備投資BSI」は、2020年第2四半期に▲3.7へ悪化し、2020年第4四半期の▲1.7まで3期連続でマイナスが続いている。
このようにしてみると、企業の景況感が大きく後退した後に、設備投資意欲が減退する動きは、前回の「リーマン・ショック」後の動きと似ている部分が多いとも言える。「リーマン・ショック」後は、設備投資意欲の低迷が9四半期にわたり続いた。そのため、今後のオフィス需要を考えるうえでは、特に設備投資意欲の動向を注視する必要がありそうだ。
6 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
7 設備投資が「不足」と回答した割合から「過大」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど設備投資意欲が低い(設備過剰)ことを示す。
東京都都心部のオフィス需要を支えていた要因の1つに、「レンタルオフィス」や「シェアオフィス」、「コワーキングスペース」等のサードプレイスオフィスの増加が挙げられる。企業は、「働き方改革」の一環として、従業員の働きやすさを担保しワークライフバランスの向上を図るため、働く場所に関して多様な選択肢の提供が求められている。サードプレイスオフィスは、こうした働き方改革への対応等を目的とした大企業の利用のほか、スタートアップ企業やフリーランスによる利用をターゲットとしている。
一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターによれば、2020年第3四半期の国内ベンチャーへの投資額は328億円と前年比で▲44%の大幅減少となった(図表-14)。また、労働政策研究・研修機構の調査によれば、「新型コロナによる雇用・収入への影響」に関して、「影響があった」との回答(「大いに影響があった」と「ある程度影響があった」の合計)は、正社員では39%、非正社員では44%であったのに対して、フリーランスでは65%を占めた(図表-15)。
スタートアップ企業の資金調達が減少し、フリーランス市場が厳しい経済環境に直面するなか、これまでサードプレイスオフィス需要の一端を担っていたスタートアップ企業やフリーランスの利用は減少する可能性がある。
8 メインオフィスや自宅とは別に、テレワークのために設けるワークプレイスの総称。専門事業者がサービス提供するものや企業が自前で設置するものがある。
2020 年7 月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2020」では、新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえて、「新たな日常」を支える地域社会を構築し、「東京一極集中」の是正を進めて行く方針が掲げられた。実際に、テレワーク等を取り入れた事業拠点の地域分散や東京からの人口流出の動きが見られるが、現時点では限定的と言える。
3. 東京都心部Aクラスビル市場の見通し
9 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2020~2030年度)」(2020.10.13)、斎藤太郎「2020~2022年度経済見通し(21年2月)」(2021.2.16)などを基に設定。
今回の「コロナ禍」に伴う雇用環境の悪化は、前回の「リーマン・ショック」時と比較して今のところ限定的である。また、これまでオフィス需要を担ってきた「情報通信業」や「学術研究,専門・技術サービス業」のオフィスワーカー数が大きく減少する懸念は低いと言える。
企業のオフィス需要面ではコスト圧縮が強まる一方、生産性向上に向けたオフィス環境の整備は今後も継続することが予想される。サードプレイスオフィスについても、従業員の通勤時間削減や事業拠点のエリア分散などの理由から企業の利用が増加している。ただし、「在宅勤務」の影響は不透明であり、引き続きオフィス需要への影響を注視する必要がある。
以上のことを鑑みると、2021年と2022年の新規供給が限定的なこともあり、東京都心部Aクラスビルの空室率は、当面の間、現時点と同水準で推移する見通しである。その後は、2023年と2025年の大量供給を受けて空室率は緩やかに上昇し、2025年には4%台へ上昇する見込みである(図表-26)。ただし、過去10 年平均(3.8%)に近い水準に留まると予想する。
東京都心部Aクラスビルの成約賃料(月・坪)は空室率が落ち着くなか、既に賃料の水準調整が進んでいることから、当面の間、3.4万円台で推移する見通しである(図表-27)。2023年以降は空室率の上昇を受けて弱含みとなり、2025年には3.2万円台(現行対比▲6%)への下落を見込む。ピーク(2019 年末)対比では▲23%下落するものの、2015年の賃料水準と同程度に留まる見通しである。
(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
(2021年02月19日「不動産投資レポート」)
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