2021年02月17日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(6)-助言内容(グループ監督(その1))-

中村 亮一

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局)が2020年12月17日に、EC(欧州委員会)にソルベンシーIIレビューに関する意見を提出したと公表1した。このテーマに関しての最初のレポートでは、このEIOPAの意見書の全体概要と、Insurance Europe及びAMICEの意見表明、さらに保険業界とは異なるスタンスからの批判的な意見を有する欧州議会議員の意見の内容を報告した。また、このシリーズの2回目のレポートから、EIOPAの意見書の中の助言内容について報告しており、これまで、「長期保証(LTG)措置及び株式リスクに関する措置」、「技術的準備金」、「自己資本」、「SCR(ソルベンシー資本要件)」、「MCR(最低資本要件)」、「報告と開示」及び「比例性」について報告してきた。

今回のレポートでは、EIOPAの意見書の中の助言内容の「グループ監督」のうちの、グループソルベンシーの計算方法を支配する規則以外の、グループ監督の範囲、第三国、最小連結グループSCRの計算及びその他の問題について、報告する。  

2―EIOPAの意見書からの助言―グループ監督(その1)

2―EIOPAの意見書からの助言―グループ監督(その1)

1|概要
EIOPAは、ソルベンシーII指令に基づく保険グループの監督に関する現在の法的不確実性に対処するために、いくつかの規制変更を提案している。グループの規制の枠組みは、多くの場合あまり具体的ではなく、他の場合には多くの明確化なしに必要な変更を加えた単体の規則の適用に依存しているため、これは歓迎される機会であると考えられている。

特に、グループに適用される定義、グループ監督の適用範囲、及び第三国との問題を含むグループ内取引の監督に関する政策提案がある。他の提案は、自己資本の要件や金融コングロマリット指令との相互作用など、グループソルベンシーの計算を管理する規則に焦点を当てている。助言の最後のセクションでは、グループレベルでのガバナンス要件の適用に関連する不確実性に焦点を当てている。
2|グループ監督の適用範囲
2-1.支配的な影響力の問題を含む、グループの定義、グループ監督の範囲

(1) ソルベンシーII指令の第212条における、監督権限に基づいて事実上のグループを形成する会社を捕捉するためのグループの特定をサポートする定義に関する明確性の欠如
ソルベンシーIIの対象となる事実上のグループを形成する会社を捕捉するためのグループの特定をサポートする定義で確認された問題に対処するために、監督当局が、監督当局の見解で(必ずしも契約に基づくとは限らない)、会社を、ソルベンシー指令の第212条(1)(c)(ii)に言及されているように、統一ベース又は集中調整を通じて効果的に管理されている相互に関連する会社とみなすことができるようにすることを認めるために、ソルベンシーII指令の第212条が、レベル2でさらに明確にされることを勧告している。

(2) 水平グループ、EEAに複数のエントリポイントを持つグループ、及び同じ個人又は法人が保有する複数のグループの場合、ソルベンシーII指令第213条に基づくグループ監督の適用を促進する必要性
水平グループ、EEAに複数のエントリポイントを持つグループに関して遭遇する課題に対処するという見解である。また、EEA内の同じ個人又は法人が複数のグループを保有している場合、監督当局は、グループの監督がそうでなければ適用されない場合、又は効果的なグループの監督が危険にさらされる場合に、関連する監督当局が、監督される会社に、グループの監督を行使できるような方法で構造化するように要求する権限を有することが勧告される。

(3) ソルベンシーIIの対象となるグループの範囲を確保するための他の定義の明確さの欠如
十分に調和したルールとグループ及び国境を超えるビジネスの効果的かつ効率的な監督を通じて公平な競争条件を確保するために、ソルベンシーII指令で概説されている他の定義及び他の欧州の規制との可能な相互作用に関して、明確さが必要であることから、ソルベンシーII指令第212条における子会社、親会社、管理、参加、及びグループの定義を明確にすることを勧告している。

グループ監督の適用範囲
9.1. 支配的な影響力の問題を含む、グループの定義、グループ監督の範囲

ソルベンシーII指令の第212条における、監督権限に基づいて事実上のグループを形成する会社を捕捉するためのグループの特定をサポートする定義に関する明確性の欠如

9.1EIOPAは、ソルベンシーIIの対象となる事実上のグループを形成する会社を捕捉するためのグループの特定をサポートする定義で確認された問題に対処するために、監督当局が、監督当局の見解で(必ずしも契約に基づくとは限らない)、会社が、ソルベンシー指令の第212条(1)(c)(ii)に言及されているように、統一ベース又は集中調整を通じて効果的に管理されている相互に関連する会社とみなすことができるようにすることを認めるために、ソルベンシーII指令の第212条が、レベル2でさらに明確にされることを勧告する、という見解である。

9.2第212条のパラグラフ1(c)(ii)の意味の範囲内での支配的な影響力の行使は、その条項のパラグラフ2の意味の範囲内での支配的な影響力の行使と必ずしも同じ基準を満たさないことを規制の枠組みで明確にすることもまた助言される(パラグラフ2が支配的な影響のみに焦点を当てているのに対して、パラグラフ1(c)(ii)が支配的な影響を含む様々な要素を含む場合、そして監督当局がパラグラフ1の内容に加えてパラグラフ2の内容も「また」考慮することが示されている場合)。

9.3ソルベンシーIIフレームワークは、会社が相互にリンクされている場合に検討するための基準を定義する必要もある。その点で、相互にリンクする会社の場合、レベル2の規制の枠組みは、グループの監督要件に責任を負う会社を決定するために使用される基準も提供する必要がある。

9.4以下の要素は、集中調整を含め、会社が相互に関連している場合に考慮すべき基準の一部として考慮され、レベル2規制に含まれるべきである。これは、以下の例の網羅的でないリストとして提示されている。

(a)関係する会社には以下がある。
・部分的又は完全に同じ株主がいる。
・AMSBのメンバーは共通だが、過半数ではない。
・部分的又は完全に同じ管理機関を有している。
・部分的又は完全に同じ方針システム(投資、リスク管理、コンプライアンスなど)とアウトソーシングの取り決めを有している。
・ノウハウと主要機能の担当者及び主要機能保有者自身を含む同じ担当者を部分的又は完全に共有している。
・グループ内で発生するかのようにグループ内取引と見なすことができる、財務的及び非財務的なリンクを有している(それらの一部に直接のキャッシュフローが存在しない場合でも)。例えば、関係する会社が類似の商品及び/又はサービスを提供するためのサービスを互いに提供し、これらのサービスの定期的な金融及び非金融取引が関係する会社間で行われる場合
・他の会社への共同保有を含む、共通の投資を行う。

(b)さらに、集中化調整は、関与する会社の種類とは無関係に、支配的な影響の全体的な分析の一部である。集中化調整は、地理的な場所(国境を越えた場合など)によっても、管理の役割の定義や会社間のサービスの提供の定義によっても制限されない。集中化調整は、調整と(取引/活動の)関連する決定が共同で行われることも意味する。

水平グループ、EEAに複数のエントリポイントを持つグループ、及び同じ個人又は法人が保有する複数のグループの場合、ソルベンシーII指令第213条に基づくグループ監督の適用を促進する必要性

9.5 EIOPAは、水平グループ、EEAに複数のエントリポイントを持つグループに関して遭遇する課題に対処するという見解である。また、EEA内の同じ個人又は法人が複数のグループを保有している場合、監督当局は、グループの監督がそうでなければ適用されない場合、又は効果的なグループの監督が危険にさらされる場合に、関連する監督当局が、監督される会社に、グループの監督を行使できるような方法で構造化するように要求する権限を有することが勧告される。EUレベルでそのような権限を一貫して使用するために、国境を越えたグループの場合は、関係する他の監督当局及びEIOPAにプロセスの一部として相談する必要がある。この枠組みの中で、監督当局は、EU持株会社の設立(ソルベンシーII指令の第262条で既に認められている可能性と同様)又はソルベンシーII指令の第212条(1)c(ii)に記載されているように集中調整と支配的な影響力を行使する会社の設立を要求することが認められるべきである。

ソルベンシーIIの対象となるグループの範囲を確保するための他の定義の明確さの欠如

9.6 EIOPAは、十分に調和したルールとグループ及び国境を超えるビジネスの効果的かつ効率的な監督を通じて公平な競争条件を確保するために、ソルベンシーII指令で概説されている他の定義及び他の欧州の規制との可能な相互作用に関して、明確さが必要であると考えている。従って、EIOPAは、以下を確実にするために、ソルベンシーII指令の第212条における子会社、親会社、管理、参加、及びグループの定義を明確にすることを勧告している。

・ソルベンシーII指令の第212条(1)(c)のサブパラグラフ(i)及び(ii)は相互に排他的ではない。
・支配的な影響力が行使される会社の子会社や参加は、支配的な影響力を行使する会社と同じグループの範囲内にある。
・共同子会社及び共同参加が独自の会社によって支配的な影響力を行使する会社によって行われる場合、これらの共同子会社及び共同参加について、支配及び所有の割合を合計することができる。
・指令83/349/EECの第12条(1)に規定されている関係によって相互にリンクされている会社によって定義されたグループの場合、これらのリンクされた会社のそれぞれの子会社及び参加もグループの一部となる。

2-2.保険持株会社の定義及び保険持株会社と混合金融持株会社に関連するその他の課題

(1) ソルベンシーII指令の第212条は、保険持株会社(IHC)の定義における「排他的」又は「主に」の意味についての追加の説明を提供していない。
IHCの定義で使用される「排他的」又は「主に」という用語に関連して、用語が、持株会社又はグループの連結貸借対照表の50%以上、又は監督当局が関連するとみなすその他の指標(ソルベンシー資本要件、資本、人員など)が(第三国(再)保険会社を含む)保険セクターに由来している状況に関連して理解されるように、ソルベンシーII指令の第212条(1)(f)をさらに明確にするように勧告している。

(2) ソルベンシーII指令の第214条(1)及び保険持株会社と混合金融持株会社に対する権限
ソルベンシーII指令の第214条(1)の文言を修正して、(i)グループのトップIHC又は混合金融持株会社(混合活動保険持株会社を除く)に対する監督及び執行を許可すること、(ii)必要に応じて、グループ内のホールディングレベル又は別のレベルでのグループ監督を可能にする構造的組織を要求する、ことを勧告している。

また、グループ監督者が、必要に応じて、そのような持株会社に適用される適切かつ効果的な監督権限及び措置を有することを勧告している。

9.2.保険持株会社の定義及び保険持株会社と混合金融持株会社に関連するその他の課題

ソルベンシーII指令の第212条は、保険持株会社(IHC)の定義における「排他的」又は「主に」の意味についての追加の説明を提供していない。

9.7 EIOPAは、IHCの定義で使用される「排他的」又は「主に」という用語に関連して、用語が、持 株会社又はグループの連結貸借対照表の50%以上、又は監督当局が関連するとみなすその他の指標(ソルベンシー資本要件、資本、人員など)が(第三国(再)保険会社を含む)保険セクターに由来している状況に関連して理解されるように、ソルベンシーII指令の第212条(1)(f)をさらに明確にするよう委員会に勧告している。

9.8助言は、IHCの特定をサポートし、公平な競争の場を確保する。また、特定の状況では、監督者が他の基準を考慮に入れるためのある程度の柔軟性が可能になる。これは、IHCの特定の目的により関連性がある。

9.9この助言は、ソルベンシーII指令の第212条(1)(g)における混合活動保険持株会社の定義の変更を推奨していない。

ソルベンシーII指令の第214条(1)及び保険持株会社と混合金融持株会社に対する権限

9.10ソルベンシーII指令の第214条(1)の文言を修正して、(i)グループのトップIHC又は混合金融持株会社(混合活動保険持株会社を除く)に対する監督及び執行を許可すること、(ii)必要に応じて、グループ内のホールディングレベル又は別のレベルでのグループ監督を可能にする構造的組織を要求する、ことを勧告している。EUレベルでそのような権限を一貫して使用するために、国境を越えたグループの場合は、関係する他の監督当局とEIOPAに決定プロセスの一部として相談する必要がある。

9.11また、グループ監督者が、必要に応じて、そのような持株会社に適用される適切かつ効果的な監督権限及び措置を有することを勧告している。可能な執行措置及び監督者に付与される権限のリストは、以下を考慮する必要がある。

・保険持株会社又は混合金融持株会社が保有する子会社の保険又は再保険会社の株式に付随する議決権の行使を停止する。
・保険持株会社、混合金融持株会社、又はその持株会社のAMBSに対して差止命令又は罰則を発行する。
・保険持株会社又は混合金融持株会社に、子会社の保険又は再保険会社への参加を株主に譲渡するよう指示又は命令を与える。
・ソルベンシーII指令の第218条から第246条に定められた要件の遵守を確保する責任を負う、グループ内の別の保険持株会社、混合金融持株会社、又は保険又は再保険会社を一時的に指定する。
・株主への分配又は利息の支払いを制限又は禁止する。
・保険持株会社又は混合金融持株会社に対し、保険又は再保険会社又はその他の金融セクター事業体からの売却又は保有の削減を要求する。
・保険持株会社又は混合金融持株会社に、コンプライアンスを回復するために、遅滞なくリターン計画を提出するよう要求する。

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中村 亮一

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