2021年02月16日

2019年における65歳時点での“健康余命”は延伸~余命との差は短縮傾向

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――65歳時点の健康余命も延伸

1|65歳の男性/女性の健康余命は14.43/16.71
現在、一般的に使われている「健康寿命」は厚生労働省の基準によるもので、“健康”とは、「健康上の問題で日常生活に影響がない」ことを言う1。「日常生活」とは、たとえば「日常生活の動作(起床、衣服着脱、食事、入浴など)」、「外出(時間や作業量などが制限される)」、「仕事、家事、学業(時間や作業量などが制限される)」、「運動(スポーツを含む)」等、幅広い。

この定義による2019年の健康寿命は、前稿2で示したとおり男性/女性それぞれ72.68/75.38年だった(筆者による概算)。65歳以上の各年齢の健康余命は、65歳時点で14.43/16.71年、75歳時点で7.96/9.24年だった(図表1)。平均余命は、65歳時点で19.83/24.63年なので、余命から健康余命を差し引いて、不健康な期間は男女それぞれ5.40/7.92年となる計算だ。
図表1 年齢ごとの平均余命と健康余命(2019年)
「65歳時点の余命」は「寿命 – 年齢(65)」より長い。これは、平均寿命(=0歳児の余命)が65歳未満で亡くなる人の寿命を含んだ平均であるのに対し、65歳の平均余命は65歳まで生きた人のみで計算した余命だからだ。

では、「65歳時点の健康余命」は?というと、やはり「健康寿命-年齢(65))」ではない。これは、健康寿命(=0歳児の健康余命)が65歳未満の不健康な期間も差し引いて計算しているのに対し、65歳の平均健康余命は65歳以降の不健康な期間のみを差し引いているからだ。
 
1 計算には、3年に1回実施される「国民生活基礎調査(大規模調査)」の「健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という問に対する回答が使われる。
2 村松容子「2019年健康寿命はさらに延伸~制限がある期間はやや短縮するも、加齢や健康上の問題があっても、制限なく日常生活を送ることができる社会を構築することが重要」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター2020年8月3日
2|65歳の健康余命は延伸。平均余命との差は短縮の傾向
2001年以降の65歳時点の平均余命と健康余命の推移を見ると、いずれも延伸している(図表2)。その差は、調査年による差が大きいものの、平均余命と健康余命の差(65歳以上の不健康期間)は、男女ともどちらかと言えば縮小している。2019年は、2004年(15年前)と比べると、男女それぞれ平均余命は1.62年/1.35年、健康余命は1.96年/2.13年延びており、平均余命と健康余命の差は、それぞれ0.34年/0.78年短縮していた。
図表2 65歳時点の平均余命と健康余命

2――健康上の問題で日常生活に影響がある割合は…

2――健康上の問題で日常生活に影響がある割合は12年間で5ポイント程度低下

では、健康度状態はどの程度改善しているのだろうか。

健康寿命の計算に使われているのは、「国民生活基礎調査」の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問である。2019 年の結果は、全体の13.4%(男性12.0%、女性14.6%)が「健康上の問題で日常生活に影響がある」と回答していた。

65歳以上の健康上の問題で日常生活に影響がある割合を年齢階層別にみると、男女とも年齢が高いほど健康上の問題で日常生活への影響がある割合が高い(図表3)。この割合は、時系列でみると、男女とも各年齢層で低下しており、2007年と2019年を比較すると、70~84歳で男女ともそれぞれ日常生活に影響がある割合は5ポイント程度低下している。こういった健康状態の改善が、平均余命の延伸を上回る健康余命の延伸につながっている。
図表3 健康上の問題で日常生活になんらかの影響がある割合

3――国全体では改善傾向。

3――国全体では改善傾向。加齢や健康上の問題があっても、制限なく日常生活を送ることができる社会の構築も重要

「健康寿命」という言葉は、高齢期における健康や生活に不安を感じている中、広く使われるようになった。2019年の健康寿命は男女それぞれ72.68/75.38年、65歳時点での健康余命は14.43/16.71年であり、いずれも延伸している。健康上の問題で日常生活に影響がある割合が、近年減少していることから、65歳以上では余命の延伸を上回って健康余命が延伸している。

こういった健康状態の改善は、喜ばしいことである。しかし、この計算は、もともとは都道府県による健康格差を縮小することを目的として、保健医療に関する取り組みの計画や評価のために行われた。したがって、ある集団において同様の条件で計算し、諸外国や都道府県、時系列で比較するのに適している。

一方で、その集団を構成する個人の健康状態は様々な状況にある。概算結果を、個人の生涯設計に適用するとすれば、寿命も健康寿命も「寿命 ‐ 年齢」よりも「ある年齢における余命」の方が長い傾向があること、および、今後、各種健康政策によって健康寿命を延伸したとしても日常生活に影響がある期間は一定期間生じるということだろう。

65歳まで生きている人は、平均寿命より長生きすることが予想されるため、平均寿命を目安に老後の生活のための資産形成をするのでは不十分である可能性がある。また、健康上の問題で日常生活に影響がない期間も、健康寿命より長いことが予想される。

また、国の政策としては、健康状態の改善と同時に、加齢や健康上の問題があっても、なるべく自立して日常生活を送ることができる社会を構築することも、重要となるだろう。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2021年02月16日「基礎研レター」)

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