2021年02月16日

2020~2022年度経済見通し(21年2月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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2. 実質成長率は2020年度▲4.8%、2021年度3.7%、2022年度1.7%を予想

(実質GDPが直近のピークを超えるのは2023年度)
2020年の日本経済は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた自粛要請や緊急事態宣言の発令によって前半に急速に落ちこんだ(1-3月期:前期比年率▲2.2%、4-6月期:同▲29.3%)後、緊急事態宣言の解除を受けた経済活動の再開によって後半は想定を上回るペースで急回復した(7-9月期:同22.7%、10-12月期:同12.7%)。

しかし、2021年1-3月期は緊急事態宣言が再発令されたことを受けて、再びマイナス成長となる可能性が高い。前回の緊急事態宣言時は、飲食店、遊興施設、百貨店などが全面休業に追い込まれたのに対し、今回は飲食店の営業時間短縮、大規模イベントの人数制限など規制の範囲が狭い。また、前回の緊急事態宣言では、当初7都府県に限定されていた対象地域がその後全国に拡大されたが、今回は11都府県に限られている(1/8~13は4都県、2/8以降は10都府県)。さらに、緊急事態宣言が再発令される前の時点で、消費はすでに平常時よりも抑制された状態にある。これらのことを踏まえれば、個人消費への悪影響は前回の緊急事態宣言時よりも小さくなる可能性が高い。

ただし、経済活動の制限自体が前回の緊急事態宣言時より限定的だとしても、経済の耐久力が当時よりも大きく低下していることには注意が必要だ。たとえば、法人企業統計の経常利益はコロナ前の水準を2割以上下回っており、特に新型コロナの影響を強く受けた宿泊業、飲食サービス業は2020年1-3月期から3四半期連続で赤字となっている。また、企業収益の大幅悪化に伴いこれまで大幅な積み増しが続いてた利益剰余金(いわゆる内部留保)は2020年4-6月期、7-9月期と前年比でマイナスとなった。特に、宿泊業、飲食サービス業は利益剰余金が前年から半減しており、そのうち資本金1千万~2千万円の中小企業では、利益剰余金の実額がマイナスとなっている。

緊急事態宣言そのものによるインパクトが小さかったとしても、事業の継続が不可能となり、廃業や倒産に追い込まれる企業が一気に増え、失業者数が急増するリスクは前回の緊急事態宣言時よりも高くなっている。
中小企業(宿泊、飲食サービス、娯楽業)の利益剰余金はマイナスに
2021年1-3月期の実質GDP成長率は、前期比▲1.6%(前期比年率▲6.4%)と3四半期ぶりのマイナスとなることが予想される。緊急事態宣言再発令の影響で民間消費が前期比▲2.8%と3四半期ぶりの減少となるほか、設備投資も同▲1.3%と減少に転じる可能性が高い。

設備投資は、輸出、生産が持ち直していることや企業収益の悪化に歯止めがかかったことを受けて2020年10-12月期は増加に転じたが、日銀短観2020年12月調査では、2020年度の設備投資計画(含むソフトウェア・研究開発投資額、除く土地投資額)が2020年9月調査から▲2.1%下方修正され、前年度比▲3.0%(全規模・全産業)となった。
設備投資計画(全規模・全産業) 2021年入り後は経済活動が再び落ち込むことから、設備投資は再び弱い動きとなることが見込まれる。企業収益は持ち直しているものの依然として低水準にとどまっており、設備投資の好調を支えていた潤沢なキャッシュフローという前提は崩れている。また、製造業の機械投資は生産活動の回復を受けて底堅く推移する一方、飲食、宿泊業などを含む非製造業の建設投資は低迷が続くことが予想される。設備投資が全体として回復基調に転じるまでには時間を要する可能性が高い。
1-3月期はマイナス成長となるものの、落ち込み幅は前回の緊急事態宣言時を大きく下回る公算が大きい。民間消費の落ち込みが当時の3分の1程度(2020年4-6月期:前期比▲8.4%、2021年1-3月期:同▲2.8%)にとどまることに加え、2020年4-6月期に成長率を大きく押し下げた外需が成長率の押し上げ要因となるためである。

2020年冬以降は欧米で再び経済活動制限の動きが広がっているが、その影響を強く受けているのは主としてサービス業であり、ペントアップ需要や巣ごもり需要の拡大などから財の消費は総じて堅調で、製造業の生産活動はしっかりしている。多くの国で工場が操業停止となり、輸出入が急激に落ち込んだ2020年春とは状況が大きく異なっている。
世界の実質GDPと貿易量の関係 オランダ経済政策分析局が作成している世界貿易量は、2020年春頃には前年比で▲15%程度と実質GDPを上回る落ち込みとなった。しかし、その後は世界的な生産活動の好調を受けて急回復し、年末にかけて前年を上回る水準を取り戻した。2020年10-12月期に続き2021年1-3月期もマイナス成長が予想される欧州向けの輸出は弱い動きとなることが見込まれるが、米国、中国向けが好調を維持することで輸出全体は引き続き堅調な推移が続くことが予想される。
2021年4-6月期は緊急事態宣言の解除を前提として、前期比年率5.9%の高成長となった後、経済正常化の過程にあることから当面は潜在成長率を明確に上回る成長が続くことが予想されるが、経済活動の水準がコロナ前の水準に戻るまでには時間を要するだろう。緊急事態宣言が解除されたとしても、ソーシャルディスタンスの確保等が引き続き対面型サービス消費を抑制することに加え、コロナ禍における企業収益の悪化や雇用、所得の減少が先行きの需要の下押し圧力となるためである。さらに、需要が大きく落ち込んだ状態が続いた業界では、コロナ禍で生じた供給力の低下が将来の需要の回復を遅らせる一因となる可能性がある。たとえば、インバウンド需要消失の影響を強く受けている宿泊業では、倒産、事業規模の縮小が相次ぐことで、訪日客を受け入れるための客室数の水準が大きく低下し、このことが中長期的な需要の下押し要因となるだろう。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
また、2021年度以降はワクチンの普及によって新型コロナウイルスの感染者数が一定程度減少することが期待される。しかし、感染者数がゼロになることは考えにくく、気温の低下によってウイルスが活性化し免疫力が低下する冬場には感染者数がある程度増加することは避けられない。その場合、感染拡大防止に向けた公衆衛生上の措置がとられることによって個人消費を中心に経済活動が停滞する可能性がある。

実質GDP成長率は、2020年度が▲4.8%、2021年度が3.7%、2022年度が1.7%と予想する。実質GDPの水準がコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2022年4-6月期となるが、消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023年度までずれ込むだろう。
実質GDPが元の水準に戻る時期
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2020年12月には前年比▲1.0%と約10年ぶりに1%台のマイナスとなったが、その主因は既往の原油価格下落に伴うエネルギー価格の低下と「Go To トラベル事業」による宿泊料の大幅下落である。両者を除いたコアCPI上昇率はほぼゼロ%となっており、経済活動の急激な落ち込みの割に物価の基調は弱くなっていない。巣ごもり需要の高まりから、食料品、日用品、家電製品など財の消費は堅調なものが多いこと、自粛要請などにより需要が急激に落ち込んでいる外食などのサービスについては、通常の景気悪化時と異なり、値下げによる需要喚起が期待できないことがその背景にあると考えられる。

先行きについては、足もとの原油価格の大幅上昇を受けて、エネルギー価格の下落率は今後縮小し、夏場にはプラスに転じることが見込まれる。また、Go Toトラベルは12/28から停止されているため、2021年1月以降のコアCPI上昇率は宿泊料の下落幅縮小により0.4%ポイント程度押し上げられる。今回の見通しでは、Go To トラベルは緊急事態宣言解除後の4月に再開され、6月末に終了することを想定している。このため、コアCPI上昇率は2021年4-6月期に再び▲0.4%ポイント程度押し下げられる。また、Go To トラベルが実施された期の翌年は下落幅と同じ分だけ押し上げられる。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 コアCPI上昇率は、当面ゼロ%台半ばのマイナスで推移した後、2021年7-9月期に6四半期ぶりのプラスとなることが予想される。ただし、需給面からの下押し圧力が残存すること、賃金の下落がサービス価格の低下要因となることから物価の基調が大きく高まることは期待できない。

コアCPI上昇率は、2020年度が前年比▲0.4%、2021年度が同0.4%、2022年度が同0.6%と予想する。
日本経済の見通し(2020年10-12月期1次QE(2/15発表)反映後)/米国経済の見通し/欧州(ユーロ圏)経済の見通し
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年02月16日「Weekly エコノミスト・レター」)

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