2021年02月16日

2020~2022年度経済見通し(21年2月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2020年10-12月期は前期比年率12.7%の大幅プラス成長

2020年10-12月期の実質GDPは、前期比3.0%(前期比年率12.7%)と2四半期連続で年率二桁の大幅プラス成長となった。

世界的な経済活動の持ち直しを背景に輸出が前期比11.1%の高い伸びとなり、外需寄与度が前期比1.0%(前期比年率4.3%)と成長率を大きく押し上げた。経済活動の制約が緩和される中でGo Toキャンペーン事業による後押しもあって、民間消費が前期比2.2%と2四半期連続で増加し、コロナ禍で大きく落ち込んでいた設備投資が同4.5%と3四半期ぶりに増加したことなどから、国内民間需要も堅調に推移した。さらに、政府消費がGo To トラベル事業による押し上げから前期比2.0%の高い伸びとなったことも成長率を押し上げた。
 
2020年(暦年)の実質GDP成長率は▲4.8%(2019年は0.3%)、名目GDP成長率は▲3.9%(2019年は0.9%)となり、リーマン・ショック後の2009年(実質▲5.7%、名目▲6.2%)以来の大幅マイナス成長となった。
 
2020年10-12月期は7-9月期に続く高成長となり、過去最大のマイナス成長となった4-6月期の落ち込みの9割強を2四半期で取り戻した。ただし、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に、消費税率引き上げの影響で落ち込んでいた。直近のピークである2019年7-9月期と比較すると、2020年10-12月期の実質GDPは▲2.9%、民間消費は▲5.3%低い水準にとどまっており、経済活動の正常化にはまだ距離がある。

また、四半期で見れば高成長となったものの、月次ベースでは新型コロナウイルス陽性者数の増加を受けた営業時間短縮要請などから年末にかけて持ち直しの動きが一服している。
対面型サービス消費は再び落ち込む (再び落ち込む対面型サービス消費)
2020年4月の緊急事態宣言下で極めて大きな落ち込みを記録した個人消費は5月を底に持ち直していたが、年末にかけて再び弱い動きとなった。「家計調査(総務省統計局)」の実質消費支出を形態別に見ると、財については巣ごもり需要の拡大や特別定額給付金の効果からすでにコロナ前の2019年平均の水準を上回る推移が続いているのに対し、サービスは緊急事態宣言時の落ち込みが非常に大きかったことに加え、その後の戻りも弱い。特に、対面型サービス消費(一般外食、交通、宿泊料、パック旅行費、入場・観覧・ゲーム代)については、2020年4、5月にコロナ前の2割程度にまで落ち込んだ後、Go To キャンペーン事業による後押しもあって、10月には6割程度まで持ち直したが、その後再び落ち込み12月には5割弱の水準に逆戻りした。新型コロナウイルスの陽性者数増加を受けたGo To キャンペーン事業の一時停止、飲食店の営業時間短縮要請などが影響したと考えられる。
「Go To トラベル」によって押し上げられた宿泊者数 2020年7月に開始された「Go Toトラベル事業」の利用人泊数は約8,781万人泊、割引支援額は約5,399億円に達した。観光庁の「宿泊旅行統計」によれば、延べ宿泊者数は緊急事態宣言下の2020年4、5月に前年比▲80%台の大幅減少となった後、「Go Toトラベル事業」の後押しもあって持ち直しの動きを続けてきた。延べ宿泊者数に占めるGo Toトラベルの利用割合は7月の10%程度から11月には74%まで高まった(7月から12月までの平均は52%)。しかし、新型コロナウイルス陽性者数の再拡大を受けて、11月下旬から12月中旬にかけて一部の地域で利用が停止された後、12/28からは全国で一斉停止となった。このため、Go Toトラベルの利用実績は11月から12月にかけて約6割減となり、延べ宿泊者数も11月の前年比▲31%から12月には同▲38%と減少幅が再び拡大した。
小売・娯楽施設の人出と対面型サービス消費 緊急事態宣言の再発令によって2021年入り後の個人消費は落ち込み幅がさらに拡大することが確実とみられる。1月の消費関連指標の多くはまだ公表されていないが、すでに公表されている主要百貨店の売上高は営業時間短縮の影響などから軒並み大幅な減少となった。

また、対面型サービス消費と相関の高い小売・娯楽施設(レストラン、カフェ、ショッピングセンター、テーマパーク、映画館などが対象)の人出は、緊急事態宣言の再発令を受けて大きく落ち込んでいる。2月7日までの1ヵ月とされていた緊急事態宣言は栃木県を除く10都府県で3月7日まで延長された。このため、対面型サービス消費の落ち込みは3月上旬まで続く公算が大きくなった。
(明るい兆しもみられるが、依然厳しい雇用情勢)
2020年後半の経済活動の持ち直しを受けて、雇用情勢の悪化には歯止めがかかりつつある。労働市場の需給関係を反映する有効求人倍率は、2019年4月の1.63倍から2020年9月には1.03倍まで低下した後、12月には1.06倍まで上昇した。また、失業率は2019年12月の2.2%から2020年10月には3.1%まで上昇したが、11、12月は2.9%と若干改善した。

経済活動の急激な落ち込みに対して失業率の上昇が限定的にとどまっているのは、雇用調整助成金の拡充を背景に、企業がなるべく雇用を維持したまま労働時間の大幅削減(休業も含む)によって需要の急減に対応したことが一因と考えられる。実質GDPと労働投入量の関係を確認すると、労働投入量の調整が主として労働時間の削減によって行われることは、リーマン・ショック時も今回も同様だが、今回は特に労働時間の減少幅が大きくなっている。
実質GDPと労働投入量 ただし、実質GDPの落ち込みに比べて労働投入量の減少幅が小さく、労働生産性が低下していることには注意が必要だ。リーマン・ショック後はこのような状態が長期にわたって続いたため、景気底打ち後も雇用情勢が改善に向かうまでに時間を要した。リーマン・ショック後の景気の谷は2009年3月だが、失業率のピークは2009年7月の5.5%で、失業率が4%台まで低下したのは、2010年12月と景気の底打ちから1年半以上後だった。2020年後半の経済活動の持ち直しを受けて労働投入量の減少幅は縮小傾向となっていたが、2021年入り後は緊急事態宣言の再発令を受けて、経済活動の落ち込みが再拡大することが見込まれるため、労働投入量の調整が再び必要となる可能性が高い。
また、経済活動の水準が元に戻らない中で無理に雇用を維持し続けることは、新規雇用、特に新卒採用の抑制につながる恐れがある。実際、日銀短観2020年12月調査では、2011年度から増加が続いていた新卒採用計画が2020年度に前年比▲2.6%と10年ぶりの減少となった後、2021年度は同▲6.1%と減少幅が拡大した。

景気はすでに底打ちしているものの、もともと失業率は景気の遅行指標であるうえ、雇用調整助成金の拡充を背景とした企業内の雇用保蔵が将来の雇用創出を妨げ、雇用情勢の改善を遅らせる可能性がある。失業者数は直近のボトムである2019年10-12月期の156万人から2020年10-12月期には205万人まで増加したが、2021年4-6月期には239万人まで増加するだろう。失業率は、緊急事態宣言の再発令に伴う景気の落ち込みを受けて2021年度入り後に3.5%まで上昇した後、2021年度後半以降は徐々に低下するものの、そのペースは緩やかなものにとどまり、2022年度末でも3.2%と高止まりが続くと予想する。
新卒採用計画の推移/失業率と失業者数の見通し
現金給与総額の要因分解 (雇用者報酬は2年連続の減少へ)
雇用の減少には歯止めがかかりつつあるが、賃金の悪化はここにきて本格化している。厚生労働省の「毎月勤労統計」によれば、現金給与総額(一人当たり)は2020年7-9月期の前年比▲1.2%から10-12月期には同▲2.3%へと減少幅が拡大した。2020年春頃は残業時間の大幅削減に伴う所定外給与の減少が賃金減少の主因となっていたが、足もとでは特別給与(ボーナス)の大幅減少が賃金全体を大きく押し下げる形となっている。ボーナスは業績悪化の影響が遅れて反映されるため、2021年も減少する公算が大きい。
また、賃金総額の約4分の3を占める所定内給与は今のところ前年比横ばい圏で踏みとどまっているが、2021年春闘の結果が反映される4月以降は伸び率が一段と低下する可能性が高い。

労務行政研究所が2/3に発表した「賃上げに関するアンケート調査」によれば、2021年の賃上げ見通し(対象は労・使の当事者および労働経済分野の専門家約500人)は平均で1.73%と、前年を▲0.32ポイント下回った。厚生労働省が集計している春闘賃上げ率(民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況)はアベノミクス開始後の2014年に13年ぶりに2%台となった後、2020年まで2%台を確保していたが、2021年は8年ぶりに2%を下回ることは確実である。当研究所では2021年の春闘賃上げ率を1.75%と予想している。1.7~1.8%程度とされる定期昇給を除いたベースアップはほぼゼロということになる。

雇用者報酬は、企業の人手不足を背景とした雇用者数の増加を主因として順調に伸びてきたが、雇用者数、一人当たり賃金がいずれも減少することから、2020年度に前年比▲2.1%と8年ぶりの減少となることが見込まれる。2021年度は雇用者数の減少には歯止めがかかるものの、一人当たり賃金の減少が続くことから前年比▲0.6%と2年連続で減少し、2022年度に前年比1.0%と3年ぶりに増加に転じると予想する。
賃上げ見通しと実績の推移/雇用者報酬の予測
一人当たり10万円の特別定額給付金の支給は家計の可処分所得を押し上げていたが、その影響はすでに一巡している。内閣府の「家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列)」によれば、家計の可処分所得は2020年4-6月期が前年比11.6%、7-9月が同2.9%と雇用者報酬が減少する中でも大幅に増加した。しかし、特別定額給付金の支給は9月には支給がほぼ終了しており、10-12月期は雇用者報酬の減少が可処分所得の減少に直結しているとみられる。
家計・可処分所得の増減要因 マクロベースでみた特別定額給付金の支給額は12.7兆円で、2020年度の雇用者報酬の減少額▲6.2兆円を大きく上回る。このため、2020年度の家計の可処分所得は前年比3.2%の増加となり、消費の落ち込みを緩和する役割を果たすだろう。ただし、特別定額給付金による押し上げは一時的なものであるため、2021年度の可処分所得はその反動で大きく落ち込むことが避けられない。長い目でみれば雇用所得環境の悪化が消費の回復を遅らせる要因となる可能性が高い。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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