2021年02月02日

年金改革ウォッチ 2021年2月号~ポイント解説:厚生年金の適用徹底

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金事業管理部会は、日本年金機構の令和3年度計画案を議論した。原案は、安定・安心した社会生活への貢献を軸とし、オンラインを活用したビジネスモデルの整備も引き続き進めていく計画となっている。年金広報検討会は、前回開催時に提案された小学生向けの漫画や若年者向け年金教育動画など、今年度中の施策について検討を進めた。
 
○社会保障審議会  年金事業管理部会
1月27日(第53回)  日本年金機構の令和3年度計画の策定、その他
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo53_00001.html (資料)
 
○年金広報検討会
1月28日(第8回) 被用者保険の適用拡大に関する広報、小学生向け年金教育図書による効果的な
広報、若年者を対象とした年金教育動画の制作、「いっしょに検証!公的年金」のリニューアル
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00022.html (資料)
 

2 ―― ポイント解説:厚生年金の適用徹底

2 ―― ポイント解説:厚生年金の適用徹底

年金事業管理部会では、昨年12月には2020年度の取組状況が、今年1月には2021年度の計画案が議論された*1。本稿では厚生年金の適用徹底について、昨年5月の法改正を踏まえながら、取組状況や今後の課題を確認する。
 
*1 年金改革ウォッチは、毎月第1火曜日に連載(祝日は休載)。
図表1 厚生年金の加入対象となる事業所 1|2020年改正の概要:対象拡大に加え、立入検査も強化
厚生年金の加入(適用)対象となるか否かは、個人の就労状況(労働時間等)に加えて、職場(事業所)の形態等も影響する。現行は、正社員*2の場合は、法人の事業所は業種や規模に関係なく強制加入の対象となる。個人事業所は、法定された16業種かつ従業員が5人以上の場合に強制加入の対象となり、それ以外の場合は従業員の半数以上の同意を得れば任意加入できる。パート(短時間)労働者*3の場合は、前述した要件に加えて企業規模(会社全体の正社員数*4)も要件となる。
図表2 2020年改正の概要(厚生年金適用関連) 2020年の法改正では、パート労働者の企業規模要件の緩和(中小企業への拡大)等に加えて、個人事業所の対象業種が約70年ぶりに追加された。さらに、2か月以内の試用期間等も対象となり、未適用事業所への立入検査も可能となった。
 
*2 厳密には、週所定労働時間および月所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の常時使用される者(正社員以外も含む)。
*3 厳密には、前述の*2に該当しない者のうち、週所定労働時間が20時間以上や月額賃金が8.8万円以上等に該当する者。
*4 厳密には、パート(短時間)労働者ではない通常の厚生年金加入者(つまり前述の*2に該当する者)の数。
図表3 年金機構の指導で加入した事業所 2|適用徹底の状況:国税庁など関係機関と連携して推進
法改正で対象が拡大しても、加入しなければ保障は受けられない。厚生年金の加入は、原則として事業主が自主的に届け出るため、適用が漏れる事業所や従業員が発生しうる。これを減らす取り組みが、厚生年金の適用徹底である。

近年の適用徹底は、関係機関と連携して行われている。その1つは、関係機関が持っている事業所の情報と厚生年金に加入している事業所の情報との照合である。
図表4 年金機構の指導で加入した人数 2002年度から雇用保険、2012年度から法人登記簿、2014年度からは国税庁の源泉徴収の情報と照合され、適用徹底が進んでいる。2020年度は、事業者の経営状況や感染対策に配慮しつつ、郵送調査等による適用推進が行われている。

もう1つは、国土交通省による取り組みである。運輸業者や建設業者の届出などの際に厚生年金を含む社会保険の加入状況を確認するほか、社会保険に加入していない建設作業員の現場入場を認めないガイドラインの制定や、その徹底に取り組んでいる*5。これを受けて、社会保険に未加入の建設業者を入札に参加させない自治体もある。
図表5 年金機構の加入促進取り組み計画 3|今後の課題:小規模事業所への徹底や脱法行為の対策
上記の取り組みにより厚生年金の適用徹底は進み、従業員5人以上の法人事業所を中心に、加入指導等の対象となる事業所は減少した。今後は、従業員5人未満の法人事業所や個人事業所への加入徹底策を検討する必要がある。

また適用徹底や拡大に伴い、雇用契約から請負契約への切替や、勤務事業所を複数にして事業所ごとの労働時間を週20時間未満に抑える等の脱法行為への対策も、重要となる懸念がある。国土交通省では前述の取組の一環で一人親方問題に関する検討会を開催し、偽装請負への対策も検討している。

新型コロナ禍では、中小企業などの経営基盤の脆弱さが問題となる一方、非正規労働者の不安定さも浮き彫りとなっている。当面の課題はあるが、中期的には多くの労働者が社会保険や労働保険の恩恵を受けられるよう、適用の徹底や拡大を期待したい。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2021年02月02日「保険・年金フォーカス」)

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