2021年02月01日

巨大プラットフォーム企業と競争法(1)-Googleをめぐる競争法上の課題

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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3――欧州委員会による対応

Googleは、EU委員会より、2017年から3年間にわたって3度の制裁金命令を受けている。本項の記述はEU委員会からの公表資料に基づいて記述している。したがって、Googleサイドの主張には触れていない。また、下記認定事実は必ずしも現在のGoogleの事業活動において行われている行為ではないことにも注意いただきたい。
1|欧州委員会からの制裁金命令
まず、欧州委員会は2017年6月27日付け決定により24.2億ユーロの制裁金を課している。この内容としては、Googleの事業の一つである、Google Shoppingという商品比較サービスに関するものである。欧州委員会の認定によれば、Googleは一般検索サービス市場において支配的な立場にあるが、その立場を濫用して、検索結果において自サービスであるGoogle Shoppingへの検索結果を、他の商品比較サービスよりも上位に表示することによって、自社サービスへの流入を増加させ、他のサイトへの流入を阻害したとするものである。この行為がEU機能条約(The Treaty on the Functioning of the European Union (TFEU))第102条違反行為(支配的地位の濫用)であるとされた7。このような行為により、競合する商品比較サービスを締め出し、小売業者の手数料の上昇、消費者への価格上昇などの反競争的効果を生む可能性があるとした(図表5)。
【図表5】EU委員会が認定した事実(Google Shopping)
次に、欧州委員会は2018年7月18日決定により、43.4億ユーロの制裁金を課した。その内容は、次頁図表6に示している。
【図表6】欧州委員会が認定した濫用行為(一般検索サービス)
まず①GoogleのアプリストアであるPlay Store(日本でいうGoogle Play)は市場において支配的な地位を占めている。Googleはそのような支配的な地位を乱用して、Play StoreにGoogle検索を抱き合わせている。

また②同様にPlay Storeの支配的な地位を濫用して、GoogleのウェブブラウザであるChrome を、Play StoreおよびGoogle検索と抱き合わせている。

そして③Googleは、Play StoreとGoogle検索をライセンスする契約条件として、Googleのスマートフォン用のOS(オペレーティングシステム)であるAndroidの派生商品を利用しないこととしている。上述の通り、Android OSの技術は公開されていて、端末製造事業者等がAndroidの派生商品をOSとするスマートフォンを製造することが可能となっている。しかし、Googleの契約条件では、実質的にこれらの商品を排除する効果がある。

さらに④これら派生商品を利用しないことを条件として、端末メーカーやモバイルネットワーク業者に対して収益分配金を支払っている。これらのことが、他の事業者の一般検索サービス参入への意欲を失わせ、Google検索の競争力を強化するものと認定した。これら行為はTEFU第102条違反(支配的地位の濫用)であるとした8
 
最後に、欧州委員会2019年3月20日決定において、14.9億ユーロの制裁金を課した。これはAdSense for Searchというサービスを利用したものである。このサービスはニュースサイトや旅行サイトなどが第三者サイト内に検索機能を持っている場合に、サイト閲覧者が検索した結果に基づく広告を掲示するものである。当初、Googleはそれらの第三者サイトにAdSense以外の広告を掲示することを禁止していた。しかしその後、他の広告業者の広告掲載を認めるものの、それはAdSenseより目立たない場所にすることとし、表示の方法を変更しようとする場合にはGoogleの事前の書面による承認を要することを条件とした。これらの行為がTEFU第102条違反(支配的地位の濫用)であるとした(図表7)9
【図表7】AdSense利用時に要求される表示イメージ
2|欧州委員会による企業買収審査の実施
2020年8月4日の欧州委員会のプレスリリースにより、GoogleがFitbitというウェアラブルデバイスを利用して、利用者の健康状態や運動状態などを計測する会社を買収する計画について詳細な調査を行うことが公表された10

Fitbitは米国サンフランシスコに本社を置く企業で、利用者がウェアラブルデバイスを利用して運動することをサポートするサービスを提供している。

欧州委員会によれば、Googleは、オンライン広告市場において支配的な地位にある。Fitbitの買収により、人々の健康状態・運動状態のデータを得ることが可能となり、広告配信にあたってこれらの情報を利用することで、他の広告配信事業者より優越的な地位を獲得する可能性があるとする。

欧州委員会は、(1)デジタルヘルスケア市場において、FitbitとGoogleのデータベースと能力が一体化することの影響、および(2)競争者が他のウェアラブルデバイスとAndroidとを連動させることを抑止する能力とインセンティブをGoogleが保有することになるかどうかを調査している。  

4――米国司法省等からの訴訟提起

4――米国司法省等からの訴訟提起

本項は米国の司法省や州の司法長官による訴状に基づいて記載している。したがって、前項同様にGoogle側の主張は考慮していない。また訴状記載の行為が現在なされているかどうかについても明らかではない。
1司法省などの提訴
米国司法省およびアーカンソー州をはじめとする11州の司法長官は、2020年10月20日にGoogleをワシントンDCの連邦地裁に提訴した(以下、司法省等訴訟という)11。司法等訴訟の訴状によれば、Googleは、イ)一般検索サービス市場、ロ)検索広告市場、ハ)一般検索テキスト広告市場において反競争的および排他的慣行を通じて独占を維持しており、そのような行為を停止させること等を求めている。

まず訴状では、イ)一般検索サービス市場において、Googleが独占状態を維持し、競合事業者を排除する方法としてPCやスマートフォン等モバイル端末においてGoogle検索をデフォルトとして設定していることを挙げる。特に現在、スマートフォン等による検索は全検索の60%を占め、かつ急速に増加している。

スマートフォン等における検索の手段のイメージとしては、次頁図表8の通りである。まず、画面の上部にクイック検索ボックス(静的検索バー)があり、ここへワードを入れることで検索が可能である。そのほか、Googleの検索アプリや、Chromeのブラウザでも検索できる。さらには音声でも検索ができるようになっている。
【図表8】スマートフォン上の検索ポイント
Google検索が多くのスマートフォン等でデフォルトとなった一連の流れは、以下のようなものと主張されている(図表9)12
【図表9】米国司法省が主張する一般検索サービス市場の独占化過程
まず、①GoogleはオープンソースとしてAndroid OSを公開した。多くの通信事業者・端末製造業者(以下、通信事業者等)にとっては、通信事業者等自身がコントロールできると考え、OSとしてAndroidを採用した。このように多くの端末が製造されたことは、多くのアプリ開発者にとってAndroidベースのアプリを作成する動機づけとなった。

そして、②多くのアプリの配信を受けることができるアプリストアは消費者にとって魅力的であり、通信事業者等にとっても必須のものとなった。③Googleはアプリストアを含むGoogle独自のアプリ群(Google MapやGmailなど。アプリの束であることからBundleという)を通信事業者等にプレインストールさせ、削除できないようにするとともに、スマートフォン等の検索ポイントをGoogleにデフォルトで設定する契約を締結した。また、この契約を締結する前提として、通信事業者等がAndroid派生OS(=Androidをベースとして改変を加えた異なるOS)の作成・配布を行わないという協定を結んでいる。

Googleは通信事業者等に上記の契約遵守を条件とし、かつ通信事業者等に検索広告による収益の分配を行うことで、競合する一般検索サービス事業者との競争を締め出していると司法省等は主張する。

また、④スマートフォン等のOSとしては、Androidのほかには、アップルのiOSがある(米国では60%シェアを占める)が、アップルのブラウザsafariではGoogle検索がデフォルト設定となっている。この対価として、Googleはアップルに多額の検索広告料を分配しているとのことである。結果として、一般検索サービスの検索の90%近く、スマートフォン等に限れば95%近くをGoogle検索が占めている。

このように、イ)一般検索市場においてGoogleは圧倒的なシェアを有している。したがってロ)検索広告市場でも圧倒的なシェアを有している。司法省の主張では、検索広告市場は、次のハ)の一般検索テキスト広告と(上述図表4で、文頭に【広告】と記載されるもの)、その他の検索広告(上述図表4で、カルーセルに表示されるものなど)から構成されるものする。このような検索広告は他の広告市場とは独立して認識されるとする。特に、検索広告では、購入意思決定に近い(=即購入決定される)場面での広告を表示することができる。そのほかのオフラインの広告や検索と関係のない広告では、購入意思決定から遠い、いわゆるブランド認知力を高めるものにとどまる(広告の種類は図表10参照)。
【図表10】広告の種類
ブランド認知力を高める広告では、実際の購買意思決定までは距離のある広告であり、検索広告とは代替性がないと司法省等は主張している。検索広告市場では広告主は400億ドルを支払うが、Googleはその中から独占的に利益を計上し、かつ、この利益を通信事業者等と共有していると主張する。

ハ)一般検索テキスト広告市場は、上述の通り、検索結果と同じようにサイト検索結果として表示されるが、頭に【広告】と表示されているものである。

一般検索テキスト広告は、Googleの検索結果のリンクをクリックすることで、利用者は広告主のサイトに飛ぶ(クリックアウトという)。広告主のサイトでは、広告主が望むような内容あるいは販売の仕組みをとることができることから、一般的な運用型広告のうちでも特有の市場を構成すると司法省は主張している。

司法省等訴訟では、一般検索サービスで合理的な代替物は存在せず、そのため競争市場におけるレベルよりも低い品質のサービスが提供されているとする。また、検索広告・一般検索テキスト広告での競争を妨げ、広告主に多くの課金をしてきたとする。そして、反競争行為を禁止するとともに必要な構造的救済措置を講ずること等を求めている。
 
11 司法省等訴訟の訴状 https://www.justice.gov/opa/press-release/file/1328941/download
12 米国司法省等による訴状のP20参照
2|テキサス州などの提訴
テキサス州など10の州の司法長官が2020年12月16日にテキサス州東部地区米国連邦裁においてGoogleを提訴した(以下、テキサス訴訟という)13。テキサス訴訟は、Googleの運用型広告市場における競争法違反についての訴訟である。概要を簡単に述べたいが、(営業秘密に触れるためか)訴状に黒塗りの部分が多く、読み取れない箇所もあることをご了解いただきたい。

図表11は先に示した図表3の下部にGoogleの広告用のサービス(ツール)を追加したものである。
【図表11】運用型広告市場におけるGoogleの事業展開
訴状をもとに、まずは媒体社からの広告枠販売の流れを解説する(図表11の右側からの流れである)。図表11の中段、右方、広告枠を販売する大規模媒体社(ウェブサイト)の広告枠管理機能を持つ媒体社用アドテクとして、Google Ad Manager(GAM)が提供されている。GAMは広告枠を直接広告主に販売することもできるし、また広告枠在庫について取引所(アドエクスチェンジなど)を通じて販売もできる。訴状では、GAMは大手媒体社の9割以上のシェアを占め、独占的な状態にあり、不当に高額な料金を課し、品質を落としていると主張している。大手媒体社の広告枠は、図の中段、中央のアドエクスチェンジ(Google AdExchange)などに入札要請が行われる。訴状では、Google AdExchangeについてもディスプレイ広告の交換市場において独占的であり、価格を引き上げていると主張する。

小規模媒体社(ウェブサイト)の広告枠販売は、媒体社用アドテクを使うのではなく、図の下側中央にある、アドネットワークであるGoogle AdSenseに直接アカウントを持つことで行う。訴状によればGoogleは、これらのシステム利用について高額で不透明な手数料を徴収していると主張している14

今度は逆に、広告主からの流れを説明する(図表11の左側からの流れである)。中段・左側であるが、広告主側のアドテクツールとして、大規模広告主向けにはDV360を提供する。DV360は、広告主の広告キャンペーンを運営する各種機能を持ち、Google AdExchange経由等で広告枠を購入する。小規模の広告主向けにはGoogle AdsをGoogleは提供している。また、小規模広告主はGoogle Display Networkを通じて、複数のあらかじめ設定された媒体社に広告を出すこともできる。訴状ではいずれもGoogleは独占的な地位を得ており、高額な料金を請求していると主張する。

ところで、広告市場において特徴的なことは、ウェブサイトの規格フォーマットと、広告主の規格フォーマットが合致する必要がある点である。したがって一旦、特定のアドテクと取引をしてしまえば、他のアドテクの利用がむつかしくなる点にある。このことによるアドテク契約先変更の困難さは、広告フォーマットの変更が過去のウェブページ分まで含めて切り替える必要があることによってより強いものになる。

結論として、テキサス訴訟では(1)大手媒体社向けアドテク市場、(2)ディスプレイ広告の取引所市場、(3)大規模広告主向けアドテク市場・小規模広告向けアドテク市場において反競争的な行為が行われたため、救済が与えられるべきとする。
 
13 テキサス訴訟の訴状https://www.texasattorneygeneral.gov/sites/default/files/images/admin/2020/Press/20201216%20COMPLAINT_REDACTED.pdf
14 広告取引市場における入札方式としては、ウォーターフォール型とヘッダービッティング型がある。ウォーターフォール型では、入札要請側が定められた順番に応札者の応札価格を確認し、最初に設定値を超えた応札者が落札する方式である。落札者以降により高い価格の応札者がいても考慮されない。近時は、ヘッダービッティング型が普及している。この方式では、応札者の応札価格を一斉に確認し、落札者を決めるものとなっている。訴状は、ヘッダービッティング型においてGoogleによる反競争的な行為が行われたと主張している。また、GoogleとFacebookが違法に協調的な行為を行ったと主張するが、黒塗り部分が多く、主張する事実関係ははっきりしない。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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【巨大プラットフォーム企業と競争法(1)-Googleをめぐる競争法上の課題】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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