2021年01月29日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(3)-助言内容(技術的準備金、自己資本、SCR等)-

中村 亮一

文字サイズ

6|引受リスク
解約リスク、信用及び保証保険の保険料リスク及び健康パンデミックリスクに関するレビューのために受け取ったデータに基づいて、EIOPAは現在の引受リスクのストレスファクターを変更しないように勧告している。

7|リスク軽減手法
EIOPAは、リスク軽減手法の認識について、いくつかの変更を提案している。

一定の制限付きの不利の進展カバーを認識すること勧告し、委任規則に規定を追加することを提案している。EIOPAは、標準式でカバーされる不利な進展の適用に関するさらなるレベル3のガイダンスを開発する予定である、としている。

さらに、標準式におけるリスク軽減手法の反映に関して、委任規則の規定を追加することを提案している。また、ベーシスリスクに関して、ベーシスリスクに関するEIOPAのガイドラインのガイドライン1、2及び3を委任規則の法律に変換することを勧告している。

具体的には、以下の通りである。

5.27非比例再保険のカバーのさらなる認識に関して、EIOPAは、保険料リスク計算における非比例再保険の認識の調整係数に関する現在の法律を変更することを勧告していない(委任規則第117条(3))。

5.28 EIOPAは、SCR標準式におけるファイナイト再保険の現在の認識を変更しないように勧告している。

5.29 EIOPAは、以下の制限付きの不利な進展カバーを認識するよう勧告している。

・各不利な進展のカバーは、個別のアタッチメントポイントとデタッチメントポイントを使用して、(同じセグメント内で同じリスク特性を持つ)1つの特定の契約グループにのみ適用できる。

・アタッチメントポイントは、最良推計準備金の(1 +σ)倍を超えてはならない。

・追加の再保険料(C)はマイナスであってはならない。

5.30従って、EIOPAは、委任規則の第117条に以下を追加することを勧告している。

附属書IIに定められた全てのセグメントについて、特定のセグメントの損害保険準備金リスクの標準偏差は、附属書Ⅱに定められたセグメントの損害保険総準備金リスクの標準偏差と非比例再保険の調整ファクターの積に等しくなければならない。

この調整係数は、次のように計算される。

𝑎𝑑𝑗𝑢𝑠𝑡𝑚𝑒𝑛𝑡 𝑓𝑎𝑐𝑡𝑜𝑟=(𝐴−(𝐵−𝐶)∗𝐷∗𝐸)/𝐴

ここで、
A =標準式で定義された準備金リスクシナリオの基本的自己資本への影響=名目上の最良推定正味準備金×セグメントの損害準備金リスクの標準偏差×3

B =準備金リスクシナリオの下での不利な進展カバーの回復=以下の低い方:
・再保険構造でカバーされる名目上の最良推定正味準備金×(1 +3σ(res,s))-再保険構造のアタッチメントポイント
・再保険構造のカバーサイズ

C =追加の再保険料又はそれに相当するもの。この保険料は、マイナスであってはならない。

D =再保険会社への出再(%)

E =健全性係数は100%。隔年でEIOPAは、報告データの経験に基づいてこの係数を評価する。

さらに、EIOPAは、標準式でカバーされる不利な進展の適用に関するさらなるレベル3のガイダンスを開発する予定である。

二重計算を回避するために、「名目上の最良推計値」は、不利な進展カバーの回収可能性を考慮せずに、第116条(6)及び第147条(6)で与えられた量の測定値である。

5.31 EIOPAは、標準式及び内部モデルの両方で、SCRを削減するために使用される可能性のある金融リスク軽減手法及びその他の金融商品は、両方の要素が契約で事前に定義されていて、保険会社の新株や特定事象の発生時にカウンターパーティによって特定の価格設定メカニズムでその時保有する保険会社の新株に転換する転換社債の購入をトリガーする偶発資本商品を含まないことを、規制でさらに明確にするように勧告している。

標準式におけるリスク軽減手法の反映
5.32 EIOPAは、委任規則第210条に以下を追加することを提案している。

「会社は、リスク移転の取り決めに起因するソルベンシー資本要件の削減又は利用可能資本の増加が、会社がさらされるリスクの変化に見合ったものであることを保証するために、リスクの効果的な移転の範囲を証明するものとする。
ソルベンシー資本要件及び利用可能資本は、手法を実施する取り決めの経済的実体を反映するものとする。基本ソルベンシー資本要件を計算する場合、保険又は再保険会社は、指令2009/138/EC第101条(5)で言及されているリスク軽減手法のみを考慮に入れるものとする。
・ソルベンシー資本要件の削減又は利用可能資本の増加は、リスク移転の程度に見合ったものであり、
・ソルベンシー資本要件には、プロセスで取得された対応するリスクに対する適切な取り扱いがある。」

5.33ベーシスリスクに関して、EIOPAは、ベーシスリスクに関するEIOPAのガイドラインのガイドライン1、2及び3を委任規則の法律に変換することを勧告している。

8|外部評価への依存軽減
EIOPAは、外部評価への依存軽減について、引き続き調査を行っていくこととして、今回は変更の提案を行っていない。
 

5.34委任規則で現在規定されている代替信用評価の対象となる資産(即ち、格付けのない債券)の範囲を変更せず、このレビューで追加の方法を認識しないこと、しかし、新しい代替信用評価方法がどのように標準的な方法論の下でいくつかの特定の格付けされたエクスポージャーに合わせて調整することができるのかを調査するために分析テーブルを開いて方法を調査することを勧告している。

5.35 EIOPAの見解では、信用格付け機関によっても格付けされる会社エクスポージャーに適した代替の信用評価の幅広い使用を認める可能な追加方法に関する決定は、以下の分析後に行うことができる。(i)保険会社の格付けのない債務の標準式における資本チャージを削減することを認める導入された健全性基準の実施 (ii)格付けされた債券に適した将来の潜在的な新しい方法の影響評価。これは、方法論の必要な堅牢性と、格付けの安定性も含め、必要な識別力と予測力を達成するために、様々な側面を網羅する必要がある。

9|国債の移行措置
EIOPAは、国債の移行措置に関して、以下の勧告を行っている。
 

5.36 EIOPAは、ソルベンシーII指令の第308b条(12)の現在の要件を修正して、セクター間の一貫性と公平な競争条件を確保する必要があると考えている。従って、EIOPAは、市場リスク集中の計算と標準式に従ったスプレッドリスクサブモジュールから、2019年12月31日より前に発生した、加盟国の中央政府又は他の加盟国の自国通貨建ての中央銀行へのエクスポージャーを免除するグランドファザー条項の導入を勧告している。

 

5―EIOPAの意見書からの助言

5―EIOPAの意見書からの助言―MCR(最低資本要件)

1|最低資本要件の計算
EIOPAは、最低資本要件の計算に関しては、キャップとフロアの使用とレベルに関して、現在の25%から45%のコリドーを変更しないように勧告している。一方で、ソルベンシー資本要件の基準式のリスクファクターに最近加えられた変更に合わせて、損害保険リスクのリスクファクターを更新することを勧告している。

具体的には、以下の通りである。

6.1キャップとフロアの使用とレベルに関して、EIOPAは現在の25%-45%のコリドーを変更しないように勧告している。

6.2 EIOPAは、委任規則の付属書XIXに記載されている最低資本要件(MCR)の計算のリスクファクターを次のように変更することを推奨している。



6.3生損保兼営会社の適格基本自己資本項目の特定に関連する潜在的な問題に関して、EIOPAは、名目MCRsの現在の計算に変更を加えないよう勧告している。

2|最低資本要件への不遵守
最低資本要件の不遵守に関する法的規定を明確にするための提案がなされている。

MCRへの不遵守の場合に「直ちに」及び「観察」することにより、保険会社から何が期待されるかを明確にするよう勧告している。この情報を早期に交換するために、「観察」される内容について、さらにレベル3のガイドラインを提供する予定である、としている
また、MCRへの不遵守の観察に関連しての対応について、ソルベンシーII指令のいくつかの規定を修正することを提案している。

具体的には、以下の通りである。

6.4 EIOPAは、ソルベンシーII指令の第139条(1)に規定されているように、MCRに違反した場合に「直ちに」及び「観察」することにより、保険会社から何が期待されるかを明確にするよう勧告している。

「保険及び再保険会社は、不遵守の正確なレベルがいまだ決定されていない場合でも、又は…の場合、最低資本要件が遵守されなくなったことを確認する129条(4)に規定された四半期報告だけでなく、直ちに監督当局に通知するものとする。」

6.5 EIOPAは、この情報を早期に交換するために、「観察」される内容について、さらにレベル3のガイドラインを提供する予定である。

6.6 EIOPAは、ソルベンシーII指令の第139条(2)を次のように修正することを勧告している。

「最低資本要件への不遵守の観察から、又は不遵守のリスクの観察から1か月以内...」
短期の現実的な金融スキームの最小内容のレベル2でのさらなる規制が提供されるべきである。

6.7レベル2のさらなる規制は、短期の現実的な金融スキームを承認/不承認するだけでなく、取るべき最小限の措置について監督当局に提供することもできる。

6.8 EIOPAは、ソルベンシーII指令の第139条(3)を次のように修正するよう勧告している。

清算手続が開始されない場合、第1項で決定された情報を受け取ってから2か月以内に、本国の加盟国の監督当局は、保険又は再保険会社の資産の自由な処分を制限又は禁止することを検討するもの とする。 …」

6.9 EIOPAは、ソルベンシーII指令の第144条(1)を次のように修正することを勧告している。

「本国の加盟国の破綻処理当局は、最低資本要件の不遵守の観察から3か月以内に、会社が最低資本要件を遵守しない場合、又は、監督当局は、提出された財務スキームが明らかに不十分であるか、当該会社が承認されたスキームを遵守していないと見なした場合、保険又は再保険会社に付与された承認を取り消すものとする。」

6.10意見書の第12章(特に12.9項を参照)によれば、加盟国は、(再)保険会社の破綻処理のために公式に指定された破綻処理機関を設置する必要がある。新契約を引き受ける許可を撤回し、保険契約の全部又は一部をランオフにする権限は、第12章のパラグラフ12.18及び12.19に従って、その破綻処理当局によって行使されるべき破綻処理権限の一部であるべきである。

6.11 EIOPAは、ソルベンシーII指令の第144条(1)を、承認が取り下げられた会社がこの意見書の第12章(特に12.31項及び12.32項を参照)に従って破綻処理プロセスに入り、清算手続きが行われていない時に、会社がソルベンシーIIの枠組みに従って引き続き監督の対象となることを明確に述べるために修正することを勧告している。

6.12 EIOPAは、この意見書の第12章に従って、最小限の監督要件を満たす必要があることを考慮して、現実的な時間枠で秩序ある破綻処理を保証するために、破綻処理機関が先制破綻処理計画を実施するか、又は これが存在しない場合のアドホックな破綻処理計画を設定する必要があることを考慮して、レベル2又はレベル3でさらなる措置を開発する必要があると勧告している。

6.13破綻処理機関は、保険会社の秩序ある破綻処理に責任を負わなければならず、この目的のために、計画の正しい実施を関係する監督当局とともに監視する。破綻処理フェーズ中に最小の監督要件を満たす必要があることを考えると、NSAは特定の監督権限を維持し、破綻処理プロセス中に適用されるソルベンシーIIの規定に継続的に準拠するようにする必要がある。両当局は定期的に協力し、全ての関連情報を交換する必要がある。国境を越えた事業で監督カレッジがない場合、協力プラットフォーム又は他の種類の国境を越えた協力と調整の取り決めが実施されている場合、計画はホスト破綻処理当局、関係する監督当局、及びEIOPAに伝達される必要がある。

 

6―まとめ

6―まとめ

以上、今回のレポートでは、ソルベンシーIIの2020年のレビューに関するEIOPAの意見書の中の助言内容のうち、「技術的準備金」、「自己資本」、「SCR(ソルベンシー資本要件)」及び「MCR(最低資本要件)」について報告してきた。

次回のレポートでは、「報告と開示」に関する助言内容について報告する。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2021年01月29日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(3)-助言内容(技術的準備金、自己資本、SCR等)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(3)-助言内容(技術的準備金、自己資本、SCR等)-のレポート Topへ