2021年01月22日

世界各国の新型コロナとの闘いを振り返って

三尾 幸吉郎

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1――新型コロナとの闘いに明け暮れた2020年

世界経済を振り返ると、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との闘いに明け暮れる年となった。初めは正式名称のない新型肺炎で、ワクチンも治療方法も無い正体不明な感染症だったため、世界各国はそれぞれの医療制度、文化風土、政治体制などを踏まえた上で、各国各様の対策が実施されることとなった。小さなクラスターに対しても徹底した検査・隔離・追跡で臨むなど一貫して厳格な防疫に軸足を置いた国もあれば、国民の自由を尊重し集団免疫を獲得することで対処しようとした国もあれば、両者の中間で経済と防疫を両立しようと取り組んだ国もあった。そこで、本稿では2020年の新型コロナとの闘いを振り返り、筆者なりにその結果を評価してみることとしたい。
 

2――新型コロナ感染が多かった国と少なかった国

2――新型コロナ感染が多かった国と少なかった国

[図表-1]COVID-19確認症例数(2020年) まず初めに、世界各国におけるCOVID-19の確認症例数を確認しておく。ここでは、人口の多寡を調整して比較するため、人口百万人当たりの確認症例数を用いた。その結果を見ると[図表-1]、新型コロナの感染爆発が起きて医療崩壊に追い込まれるなど確認症例が多かった国と、厳格な防疫で感染を低位に抑え込んだ国に二極化したことが分かる。欧米先進国では米国が6万人弱、英国とフランスが3万人を超え、ドイツも2万人を超えた。一方、新型コロナ禍の発火点となった中国では、その後の厳格な防疫が奏功して69人に留まり、同じ共産主義体制のベトナムではそれよりさらに少ない15人に留まった。また、欧米先進国と同じ自由民主主義体制のニュージーランドでも400人弱に抑えられており、オーストラリアや韓国でも1000人強に留まった。

これら感染を低位に抑え込んだ国に共通する点を考えると、百万人当たりの感染数が1人を下回るまで行動規制を緩めなかったことが挙げられる。中国、ベトナム、台湾が行動規制を緩和したのは0.1人を下回ってからで、ニュージーランド、オーストラリア、韓国も1人を下回ってから緩和に動いている。一方、欧米先進国では、英国、フランス、ドイツが行動規制を緩和したのは5月のことで、その時の百万人当たりの感染数はそれぞれ44人、11人、9人で、米国は6月に80人前後で緩和した。このように欧米先進国では早々と行動規制を緩める方向に舵を切っており、両者の新型コロナ対策はとても対照的なものとなった。
 

3――財政赤字が巨大化した国と小幅に留まった国

3――財政赤字が巨大化した国と小幅に留まった国

また、新型コロナとの闘いでは世界各国が財政赤字を拡大することになった。防疫を強化するためには、ヒトの自由な移動を制限し、ヒトとヒトとの接触を減らさなければならなかったので、観光業・外食業・各種イベント産業などに大きな経済的打撃を与えた。これを放置すれば自殺者が増えるなど社会不安を招く恐れがあったため、世界各国は補助金などで財政支出を増やしたり、減税などで財政収入を減らしたりして、財政収支が悪化することとなった。世界各国の財政赤字(対GDP比)を見ると[図表-2]、国際通貨基金(IMF)の推定によれば、米国が▲18.7%、英国とフランスが2桁マイナス、ドイツも▲8.2%と推定されている。他方、感染を低位に抑え込んだ国でもマイナス幅が軒並み拡大したが、中国とオーストラリアが2桁マイナスに陥った一方、韓国と台湾は1桁台前半、ベトナムとニュージーランドも1桁台後半に留まりそうである。このように新型コロナとの闘いでは、財政赤字が巨大化したところと、小幅な拡大に留まったところに二極化することとなった。
[図表-2]世界各国の財政収支

4――GDP回復が順調な国とそうでない国

4――GDP回復が順調な国とそうでない国

[図表-3]2021年まで名目GDP増減 そして、国内総生産(GDP)を見ると、厳格な防疫で臨んだ国が相対的に順調に回復しそうである。国際通貨基金(IMF)の予測を元に、新型コロナ前(2019年)の名目GDPを基準として、2021年にどこまで回復するかを見たのが図表-3である。これを見ると、日本よりも新型コロナ感染を低位に抑え込んだベトナム、台湾、中国、ニュージーランド、オーストラリア、韓国はいずれも2019年の名目GDPを上回る見通しとなっている。台湾・韓国はベトナム・中国よりも増加率が低いものの、感染を抑制したことで国民や国内企業を救済するための財政負担が少なくて済んだため、ベトナム・中国よりも財政赤字を小幅に抑制することに成功した。一方、感染拡大に歯止めをかけられなかった欧米先進国を見ると、英国とフランスは2019年の名目GDPに届きそうになく、財政赤字も膨らんだ。欧州の中では相対的に感染が少なかったドイツでは、財政赤字が相対的に小幅に留まり、サービス産業の比率が小さかったこともあって2019年の名目GDPを上回りそうである。米国も2019年の名目GDPを上回る見通しだが、感染が拡大したことで国民や国内企業を救済するための財政負担が膨らみ、欧米先進国で最大の財政赤字を計上することになりそうだ。
 
以上のように2020年の新型コロナ禍との闘いを振り返ると、残念ながら集団免疫を獲得するまで国民の自由を尊重し続けたところは見当たらず、経済と防疫の両立に取り組んだところも軸足を移し替えるタイミング判断に苦労した事例が散見された。そして、終始一貫して厳格な防疫に軸足を置いたところが、感染抑止の観点で見ても、経済成長の観点で見ても、財政負担の観点で見ても、相対的に良好なパフォーマンスを挙げることとなったといえるだろう。新たな細菌やウイルスによるパンデミック(世界的大流行)はこれが最後ではなく、これからもしばしば人類に襲いかかると見られるだけに、今回の教訓を次回以降に生かしたいものである。
 
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2021年01月22日「基礎研レター」)

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