2021年01月05日

年金改革ウォッチ 2021年1月号~ポイント解説:年金数理部会と厚労省の新たな試算

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金事業管理部会は、日本年金機構の令和2年度の取組状況の報告を受けた。年金広報検討会は、年金額の簡易試算ができるWebアプリや小学生向け漫画などを議論した。企業年金・個人年金部会は、海外の私的年金税制について有識者から説明を受けた。年金数理部会は、2019年に公表された財政検証のピアレビュー結果を確認した。(年金記録訂正分科会は執筆時点で資料未公表のため内容不明)
 
○社会保障審議会  年金事業管理部会
12月4日(第52回)  日本年金機構の令和2年度の取組状況、その他
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo52_00002.html  (資料)
 
○年金広報検討会
12月17日(第7回) 被用者保険の適用拡大に関する広報、個々人の年金の「みえる化」、その他
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00021.html  (資料)
 
○社会保障審議会  企業年金・個人年金部会
12月23日(第18回)  企業年金のガバナンス等、DCの拠出限度額
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15697.html  (資料)
 
○社会保障審議会  年金数理部会
12月25日(第86回)  令和元年財政検証に基づく公的年金制度の財政検証(ピアレビュー)、その他URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131_00014.html  (資料)
 
○社会保障審議会  年金記録訂正分科会
持回り開催(第8回)  年金記録の訂正に関する事業状況(令和元年度、令和2年度上期[概況])
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_238274.html  (開催案内)
 

2 ―― ポイント解説:年金数理部会と厚労省の新たな試算

2 ―― ポイント解説:年金数理部会と厚労省の新たな試算

年金数理部会では、同部会の作業班で進められていた2019年財政検証の事後検証(ピアレビュー)の結果がまとめられ、その中に盛り込まれた厚労省の新たな試算が説明された。本稿では、今回のピアレビューで新たに行われた年金数理部会の新たな試算と、厚労省が説明した新たな試算を確認する*1
 
* 年金改革ウォッチは、毎月第1火曜日に連載(祝日は休載)。
*1 今回の年金数理部会は、新型コロナウィルスの感染再拡大を受けて報道機関のみが傍聴可能だった。議事録も未公表であるため、本稿はホームページに掲載された資料に基づいて執筆した。
図表1 新しく報告書に盛り込まれた感応度分析の例 1|年金数理部会の新たな試算:財政検証のプログラムを用いて感応度分析を実施
年金数理部会のピアレビューとは、法律に基づいて5年に1度作成される公的年金の将来見通し(財政検証結果)の事後検証を指す。今回のピアレビュー報告書は、過去の財政検証との比較が加わるなど、前回までと構成が変わった。特に目を引くのが、財政検証のプログラムを用いた感応度分析である。

感応度分析とは、前提の変更で結果がどう変わるかの分析である。これまでは財政検証に含まれる複数の前提での結果が比較されてきたが、今回は年金数理部会が独自の前提を使って将来見通しを再計算し、財政検証にない新たな結果を示している(図表1)。分析の基準が6通りある経済前提のうち1つだけなのは残念だが、次回以降の発展に期待したい。
図表2 基礎年金(1階部分)・厚生年金(2階部分)に分けた給付水準の見通し(概要) 2|厚労省の新たな試算:実質的な給付削減(マクロ経済スライド)の停止を基礎年金(1階部分)と厚生年金(2階部分)で統一
現在の年金制度は、2017年に保険料の引上げが打止めとなったため、年金財政が健全化するまで給付を実質的に削減する仕組みになっている。この仕組みの下、2009年と2014年に続き2019年の将来見通しでも、厚生年金(2階部分)よりも基礎年金(1階部分)で給付削減が長引く見通しになっていた(図表2)。
図表3 現行制度と新たな試算での給付水準の低下率 この影響は自営業に留まらない。現役時に給与が少ない会社員は、受け取れる厚生年金が少なく、年金全体に占める基礎年金の割合が大きい。前述の基礎年金の削減が長引く影響と合わせて考えれば、割合が大きい部分の低下率が大きいため、現役時に給与が少ないほど年金全体の低下率が大きくなる(図表3上)。同部会は、これを問題視していた。

厚労省が示した新たな試算では、基礎年金と厚生年金の削減停止時期が揃うことで、働き方や給与水準、世帯構成に関係なく同じ低下率となる*2(図表3下)。人々の生き方が多様化する中、この新たな試算(見直しの方向性)は検討に値しよう。
 
*2 基礎年金の給付削減が長引くことや基礎年金と厚生年金の削減停止時期を揃えることについては、2011年6月2012年9月の弊社拙稿、本誌2014年9月号同年11月号『社会保障研究』(2020年3月)への寄稿などを参照。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2021年01月05日「保険・年金フォーカス」)

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