2021年01月04日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-

中村 亮一

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1―はじめに

前回のレポートでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)が2020年12月3日に公表1した「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2020(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2020)」の第3のセクションから、VA(ボラティリティ調整)の適用状況について、その国別の適用状況やSCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)比率への影響等を報告した。

今回のレポートは、EIOPAの報告書の第3のセクションから、TRFR(Transitional on the risk-free rate:リスクフリー金利に関する移行措置)とTTP(Transitional on technical provisions:技術的準備金に関する移行措置)という移行措置の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告する2,3
 
1 https://www.eiopa.europa.eu/content/report-long-term-guarantees-measures-and-measures-equity-risk-2020_en
2 前回のレポートで述べたように、以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2020」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
3 LTG措置や株式リスク措置の具体的説明については、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-」を参照していただきたい。
 

2―TRFR及びTTPの国別の適用状況

2―TRFR及びTTPの国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)

1|TRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)
(1)適用会社
TRFRは、単体では3カ国(ドイツ、ギリシャ、アイルランド)からの5社が適用している。これは、英国除きでは前回の報告書と同じである。また、これらの会社は、生命保険会社、生損保兼営会社又は再保険会社であり、損害保険会社は含まれていない。

なお、グループで見れば、ドイツとオランダとフランスの3か国からの3つのグループとなっている。
TRFRの国別適用状況(会社及びグループ数)
TRFRを用いた3つの会社の市場シェアの合計が国内市場の24%であるギリシャを除いて、TRFRを用いた会社の技術的準備金における市場シェアは、EEA(欧州経済地域)と各国レベルの両方で無視できる水準である。

また、TRFRとVA(ボラティリティ調整)を同じ負債に同時に適用することができるが、TRFRを適用する5社は全てVAも適用している。
(2)SCR比率への影響
TRFRの非適用により、適用会社全体の平均SCR比率は229%から181%に48%ポイント低下する。

なお、適用会社のSCR比率の分母のSCRは平均12.7%増加し、分子の適格自己資本は平均11.0%減少する。
図表 TRFR非適用のSCR比率への影響(措置適用会社)
(3)技術的準備金への影響
TRFRの非適用により、適用会社の技術的準備金は3.2%増加する。
図表 TRFR非適用の技術的準備金への影響(措置適用会社)
(4)TRFRに関する追加情報
TRFRによるリスクフリー金利に対する平均調整は、2016年の約1.6%、2017年の約1.2%、2018年の約1.1%に対して、2019年は約1%であった。

保証レベル帯域別の最良推定値やデュレーションの分布は、以下の図表の通りとなっている。保証レベルが2%から3%の帯域での最良推定値の金額が顕著に高くなっている。また、最近の保証利率水準の引き下げ動向を反映して、一般的には保証レベルが低い帯域ほどデュレーションがより長くなっている。
図表 保証レベル帯域別の最良推定値の分布/ 図表 保証レベル帯域別のデュレーションの分布
2|TTP(技術的準備金に関する移行措置)
(1)適用会社
TTPは11カ国からの136社が適用している。なお、前回の2019年の報告書では(英国を除いて)10カ国からの133社が適用していたので、EEA全体としては3社が増加しただけで大きな変化は見られなかった。なお、新たにリヒテンシュタインからの会社が適用している。

国別では、ドイツが59社で最も多く、フランスの21社、スペインの19社と続いている。
TTPの国別適用状況(会社数)
TTPを適用している会社の技術的準備金のEEA市場シェアは25%で、国別では、ドイツが約8%で最大シェアを有し、フランスが約4.5%で続いている。
図表 TTPを適用している会社の技術的準備金のEEA市場シェア
以下の図表が、TTPを適用している会社の技術的準備金の各国における市場シェアを示している。ノルウェーでは79%の市場シェアで最大で、ポルトガルとフィンランドでも50%を超えている。
図表 TTPを適用している会社の技術的準備金の各国における市場シェア
TTPとMA(マッチング調整)を併用している会社は8社で、TTPとVA(ボラティリティ調整)を併用している会社は118社である。技術的準備金のEEA市場シェアでは、それぞれ0%と21%となっている。

なお、TTPを適用しているEEAグループは67グループとなっている。
(2)SCR比率への影響
TTPを適用しなかった場合のSCR比率の影響については、以下の図表の通りである。

TTPを適用しているEEAの会社全体では318%から196%に122%ポイント低下する。

国別では、ドイツで422%から191%に231%ポイント低下し、オーストリアで258%から153%に105%ポイント低下し、フランスでは300%から197%に103%ポイント低下しており、これらの国々における影響の大きさが明らかになっている。
図表 TTP適用によるSCR比率への影響
なお、SCR比率の分母と分子に当たるSCRと適格自己資本へのTTPの非適用による影響は逆方向となっており、TTPの非適用により、EEA全体では、SCRは9.2%増加し、適格自己資本は32.5%減少する。

国別では、ドイツにおいては、SCRが18.8%増加、適格自己資本が46.1%減少し、オーストリアにおいては、SCRが14.1%増加、適格自己資本が32.4%減少し、フランスにおいては、SCRが7.9%増加、適格自己資本が29.1%減少しており、これらの国々での影響度が加盟国の中では最大規模となっている。

以下の図表が、TTPを適用している会社のSCR比率の適用前後の状況を示している。

TTPを適用している会社の51%の絶対的な影響は0%から100%ポイントの範囲内となっている。また、11%の会社がTTPを適用しない場合、SCR比率が100%未満となる。さらに、0.75%の会社が、TTPを適用しない場合、適格自己資本がマイナスになる。

また、生命保険会社と損害保険会社及び生損保兼営会社の間で、影響度に明確な差異は見られない。
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中村 亮一

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