2020年12月28日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(1)-意見書の全体概要と保険業界等からの反応-

中村 亮一

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3―Insurance Europeによる意見

ここでは、Insurance Europeによる意見4表明の内容を報告する。

ソルベンシーIIのレビューに関するECへのEIOPAの意見の公表に続いて、Insurance Europeの副事務局長のOlav Jones氏は、ソルベンシーIIのレビューは、「フレームワークの問題を修正して、保険会社が直面する実際のリスクを適切に反映し、運用上の負担を軽減する機会を提供」することで、「保険会社は、経済への投資を増やし、より長期的な貯蓄商品と顧客への保護を提供し、国際舞台での競争力を高めることができる。」はずであったが、「EIOPAがこの可能性を無視し、代わりに全体的な資本レベルが現在低すぎることを証明せずにソルベンシーIIをさらに保守的にするという意見を欧州委員会に発表したことを残念に思う。」と述べた。さらに「この助言は、長期的には、競争力の低い欧州保険業界につながり、経済への投資が少なくなり、長期貯蓄商品が少なくなり、顧客へのリターンが低くなる可能性がある。」と述べた。

そして、「レビューは、本当に修正する必要があるソルベンシーIIの部分にのみ焦点を当て、EIOPAの潜在的な変更の非常に広範なリストが想定しているようなフレームワークのオーバーホールには焦点を当てないことが重要である。」と述べた。

2020年12月17日
EIOPAのソルベンシーIIレビュー意見は、EU経済、消費者、グリーン変革を支援するための改善を提供していない

ソルベンシーIIのレビューに関するECへのEIOPAの意見の公表に続いて、Insurance Europeの副事務局長のOlav Jones氏は次のように述べている。

「ソルベンシーIIのレビューは、フレームワークの問題を修正して、保険会社が直面する実際のリスクを適切に反映し、運用上の負担を軽減する機会を提供する。そうすることで、保険会社は、経済への投資を増やし、より長期的な貯蓄商品と顧客への保護を提供し、国際舞台での競争力を高めることができる。」

「これが、EIOPAがこの可能性を無視し、代わりに全体的な資本レベルが現在低すぎることを証明せずにソルベンシーIIをさらに保守的にするという意見を欧州委員会に発表したことを残念に思う理由である。実際、この助言は、長期的には、競争力の低い欧州保険業界につながり、経済への投資が少なくなり、長期貯蓄商品が少なくなり、顧客へのリターンが低くなる可能性がある。このような結果は完全に不要であり、レビューが現在のフレームワークに導入する変更を決定する共同議員(欧州委員会、欧州議会及びEU理事会)によって回避される必要がある。」

「ソルベンシーIIは全体的にはうまく機能しているが、重要な領域には改善が必要であることが広く認識されている。これらは、長期的なビジネスの取扱いと過度の運用上の負担の軽減である。長期的なビジネスの取扱いにおける欠陥に対処するための作業は、障壁を取り除き、グリーンディールやキャピタル・マーケット・ユニオンなどの主要プロジェクトにおける欧州委員会の野心を促進するのに役立つ方法で行うことができ、またそうすべきである。EIOPAの意見はこれを達成せず、全体的なリスクは障壁を減らすのではなく増やすことになる。」

「比例性を機能させ、報告要件を合理化することで、運用上の負担を軽減できる。これにより、消費者のコストが削減され、保険会社と監督者は業界が直面する重大なリスクに集中できるようになると同時に、市場の大小様々な保険会社をサポートできるようになる。この点に関するEIOPAの意見は正しい方向への有益なステップだが、実際に比例性が完全に機能し、報告の負担の増加を回避するためには、重要な改善が必要となる。」 

「最後に、レビューは、本当に修正する必要があるソルベンシーIIの部分にのみ焦点を当て、EIOPAの潜在的な変更の非常に広範なリストが想定しているようなフレームワークのオーバーホールには焦点を当てないことが重要である。したがって、業界は欧州委員会に対し、ソルベンシーIIの問題を増やすのではなく、減らすというレビューへのアプローチを取るように求める。」

 

4―AMICEによる意見

4―AMICEによる意見

ここでは、AMICE(欧州相互保険会社及び保険協同組合協会)7による意見5表明の内容を報告する。

AMICEは、「EIOPAの助言が、保険リスクに対するますます保守的なアプローチを表しており、これは最終的に保険契約者に悪影響を及ぼすことに失望している。」とし、「EIOPAからの助言が、制度のより良い均衡を生み出すために詳細に検討及び開発されたソルベンシーIIに対するいくつかの提案された改善を反映していないことを懸念している。最終的に、これは、保険会社の保険契約者への提供と投資能力、特に、相互及び協同組合の保険会社にとって重要な焦点である長期的な投資、が制限されることを意味する可能性がある。」と述べた。

さらに、AMICEは、協会を代表しているより小規模の相互会社が特に関心の高い領域である「比例制」に関して、「比例原則が助言の範囲内でまだ完全に取り組まれていないことを懸念している。比例性は規制インフラストラクチャの重要な側面であり、規制要件を適用する際の保険会社の性質、規模及び複雑さを反映する必要がある。」とし、「比例性に対する明確で構造化されたアプローチがまだ見られないことを特に懸念している。比例を適用する際の欠点は、特に中小企業セクターにとって非常に有害であり、より広い影響があり、最終的には消費者の競争と選択を減らすことになる、と信じている。」と述べた。

2020年12月17日
Solvency II Review 2020:
欧州委員会へのEIOPAの助言は、ソルベンシーIIの進化をさらに前進させる可能性がある
欧州の相互保険及び協同組合保険セクターの声である欧州相互保険会社及び保険協同組合協会(AMICE)は、本日発表されたソルベンシーIIレビューに関する欧州委員会へのEIOPAの助言が、保険リスクに対するますます保守的なアプローチを表しており、これは最終的に保険契約者に悪影響を及ぼすことに失望している。

ソルベンシーIIは、2016年の完全な開始以来、堅牢なツールであることが証明されている。このレビューは、最終的には金融の安定性を確保し、保険契約者に利益をもたらすことを目的として、規制インフラストラクチャの特定の側面を改善する機会である。

AMICEは、EIOPAからの助言が、制度のより良い均衡を生み出すために詳細に検討及び開発されたソルベンシーIIに対するいくつかの提案された改善を反映していないことを懸念している。最終的に、これは、保険会社の保険契約者への提供と投資能力、特に、相互及び協同組合の保険会社にとって重要な焦点である長期的な投資、が制限されることを意味する可能性がある。

さらに、AMICEは、比例原則が助言の範囲内でまだ完全に取り組まれていないことを懸念している。比例性は規制インフラストラクチャの重要な側面であり、規制要件を適用する際の保険会社の性質、規模、及び複雑さを反映する必要がある。

AMICEのSarah Goddard事務局長は、次のようにコメントしている。

「EIOPAから欧州委員会への助言を評価しているが、まだ取り組む必要があると思われる重要な分野がいくつかある。保険セクター内でのCOVID-19パンデミックの経験は、業界の耐性力があることを示してきたため、ソルベンシー負担の増加が保険契約者に利益をもたらすということは直感に反する。 実際、これらの要件は最終的に商品の選択を制限し、コストを増加させると私たちは信じている。」

「私たちは、比例性に対する明確で構造化されたアプローチがまだ見られないことを特に懸念している。比例を適用する際の欠点は、特に中小企業セクターにとって非常に有害であり、より広い影響があり、最終的には消費者の競争と選択を減らすことになる、と信じている。」

 
7 EUの全ての保険会社の半分以上は、相互及び協同組合の保険会社で、32%以上の市場シェアを占めている。彼らは4億2000万人以上の会員/保険契約者をカバーし、44万人近くを雇用している。
 

5―欧州議会議員からの意見

5―欧州議会議員からの意見

ここでは、欧州緑グループ・欧州自由連盟(The Greens/European Free Alliance (Greens/EFA))の参加政党であるドイツの同盟90/緑の党(Alliance 90/The Greens)の欧州議会議員で、金融経済政策スポークスマンであるあるSven Giegold氏による意見8 の内容を報告する。

Sven Giegold氏は、今回のEIOPAのレポートについて、「金利と国債に関する現実の否定が続いている」と述べて、今回の提案の以下のような点を強烈に批判等している。

(1) リスクフリーの長期金利の設定が非現実的である。
(2) ソブリン債務がリスクフリーであることは幻想である。
(3) 保険負債のリスクマージンの大幅な削減の妥当性は疑問である。
(4) 長期株式投資に対する現在の特別取扱いを取り消すべきである。
(5) 危機時の保険会社による分配に関して監督権限の拡大を要求することを歓迎する。

2020年12月17日 | DIESER ARTIKELISTAUCHVERFÜGBARAUF:DEUTSCH
保険規則に関するEIOPAレポート:金利と国債に関する現実の否定が続いている
EIOPAは本日、ソルベンシーIIと呼ばれる欧州の保険規則の今後の見直しに関する意見を発表した。欧州委員会は2021年夏に現在の制度の改正を提案することを計画しており、現在のフレームワークの広範な評価をEIOPAに求めていた。この規則は、保険業界の安定と保険契約者へのサービスに重大な影響を及ぼす。

報告書は、特に現在の低金利環境において、金利リスクについてより深く検討することを求めている。EIOPAはまた、監督上の計算のために長期金利を決定するための新しい方法論を提案している。さらに、レポートは、いわゆるボラティリティ調整の改善を推奨し、保険負債のリスクマージンの新しい計算方法を提案している。最後に、長期株式投資の基準を変更する必要がある。合計で、EIOPAは1,500ページ以上で推奨事項と分析を提示しており、さらに多くのトピックをカバーしている。

今日の意見は、持続可能性と環境リスクに関連する質問をカバーしていない。EIOPAは、9月にこれらのトピックに関する別の意見を既に発表していた。

Greens/EFAグループの金融経済政策スポークスマンであるMEP Sven Giegold氏は次のようにコメントしている。

「保険規制における最大のタブーは、依然として長期金利である。現在の規則では、保険会社はしばしば計算に誇張されたレートを使用することが許可されている。想定される長期金利3.75%は難解であるように思われるが、同時にオーストリアは100年の期間にわたってわずか0.88%で数十億の債務を引き受けることができる。金利の現在の補外ルールにより、保険会社は、市場金利が実際には既に長い間ゼロであった場合に、正の金利を想定することができる。したがって、本日のレポートでは、EIOPAは、長期的な市場レートをより考慮した代替方法を提案している。ただし、これはよりリアリズムに向けた小さな一歩にすぎない。保険規制における金利婉曲表現を根本的に終わらせる時が来た。国家が市場よりも真の金利をよく知っていると信じている限り、多くの保険会社のビジネスモデルには疑問が残る。この現実の否定は終わらせなければならない。」

「保険規制における2番目の大きなタブーは、国債のゼロ加重である。現在の規則では、ソブリン債務はリスクがないと見なされている。しかし、歴史的な経験は、これが幻想であることを示している。ここでも、国家は市場よりもよく知っていると考えている。残念ながら、このトピックは今日のレポートでは言及されていない。」

「EIOPAが保険負債のリスクマージンの大幅な削減を提案しているのではないかと心配している。EIOPAは、これにより保険会社のリスクマージンが15%軽減されると見積もっている。現在の計算方法には弱点があるのか​​もしれない。ただし、提案された桁数の削減は妥当ではない。より正当な理由がなければ、これは保険業界へのクリスマスプレゼントのように見える。」

「EIOPAは、長期の株式投資に関する現在の規則について懸念を抱く判断を下している。2019年の改正以降、保険会社はそのような投資のリスクを大幅に下げることが許されている。EIOPAの分析は、これが適切ではないことを示している。同時に、将来的にも適用範囲が拡大する予定である。したがって、欧州委員会は特別扱いを取り消す必要がある。目標が支援に値する場合でも、規制を補助金に悪用してはならない。」

「EIOPAが危機時の保険会社による分配に関して監督権限の拡大を要求することを歓迎する。パンデミックの間、監督当局は配当を広く禁止し、自社株買いを行う法的権限を欠いていることが明らかになった。いくつかの大手保険会社は、莫大な経済の不確実性にもかかわらず、ここ数ヶ月で株主に多額の配当を支払っている。したがって、国家は保険契約者と納税者の利益を保護するために行動するためのより多くの能力を必要としている。」

6―まとめ

6―まとめ

以上、今回のレポートでは、ソルベンシーIIの2020年のレビューに関するEIOPAの意見書の全体概要と、それに対するInsurance Europe及びAMICEの意見表明の内容、さらには保険業界とは異なるスタンスからの批判的な意見を有する欧州議会議員の意見を報告した。

今回のEIOPAの意見書の内容は、当初の検討状況からすると、一定程度保険業界等の意見を踏まえたものとなっているようである。それでも、今回のInsurance Europe等の反応を見ていると、今回のEIOPAの意見書についても、これまでと同様に、引き続き保険業界と監督当局等との考え方にいくつかの差異が見られるようである。

昨今の長期間にわたる低金利環境の継続や不安定な金融市場、さらにはCOVID-19の感染拡大等の環境下で、これらの関係者のスタンスの差異等を踏まえて、欧州委員会等が今後どのような判断を行っていくのかが注目されることになる。

なお、次回のレポートでは、EIOPAの意見書における19のトピックにわたる助言の主な内容を報告し、その後のレポートで、助言内容の主要項目について、その影響評価の結果等を含めた詳しい内容を報告していくこととする。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年12月28日「保険・年金フォーカス」)

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