2020年12月22日

健康投資管理会計ガイドラインについて〔2〕-健康投資管理会計ガイドラインの第1章から第3章

小林 直人

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1――はじめに

前項「健康投資管理会計ガイドラインについて〔1〕」では経済産業省のホームページをもとに、健康投資管理会計ガイドライン(以下、「ガイドライン」。)の位置づけと狙い、概要と構成、ガイドラインの「はじめに」の内容について紹介した。

本稿では、前項に続き、「1.健康投資管理会計とは」(第1章)から「3.健康経営戦略について」(第3章)までの内容について経済産業省のホームページをもとに紹介する。

なお、第4章以降の内容については次稿以降において紹介する予定である。
 

2――健康投資管理会計ガイドラインの内容

2――健康投資管理会計ガイドラインの内容

ここからは、ガイドラインの「1.健康投資管理会計とは」(第1章)、「2.健康投資管理会計の基本事項」(第2章)、「3.健康経営戦略について」(第3章)の内容を見てみよう。

1|健康投資管理会計ガイドライン「1.健康投資管理会計とは」(第1章)
(1)健康投資管理会計の定義
企業等が持続可能な発展を目指し、従業員等の健康の保持・増進へ投資する活動を効率的かつ効果的に推進していくことを目的とし、活動を行う費用とその活動によって得られる効果を認識し、可能な限り客観的に測定、伝達する仕組みを健康投資管理会計とする。

健康投資は原則として、従業員等に向けて健康の保持・増進に資する取組であり、かつ企 業等の持続的な成長基盤の構築に係る企業戦略に資する取組を指すものである。

(2)健康投資管理会計の役割
健康投資管理会計は、健康経営®1に取り組む企業等が内部における経営判断や外部における投資基準への活用等、適切な評価方法のもとで効果分析を行う際に利用されるものであり、内部機能と外部機能がある。

内部機能は、企業等が経営課題の解決や経営目標の達成等を目的とした従業員等の健康の保持・増進等の費用の管理や健康投資の効果の分析等を行うことで、適切な経営判断やPDCAサイクルを回すことを可能とする機能を指す。経営者や関係部門等が効果的な投資判断に活用することが期待される。

外部機能は、非財務情報である従業員等の健康の保持・増進施策について、健康投資や健康投資効果、その積み重ねとして生まれる健康資源、あるいはこれらを集計した情報を基にPDCAサイクルを回した結果等を外部に対して適切に開示する機能を指すものである。企業等の外部への発信先として、従業員等、取引先、顧客、投資家、地域社会等に対して、従業員等の健康の保持・増進に対する活動を適切に行っていることを説明する役割を果たし、例えば、資本市場において企業等と投資家等の対話に活用されることが期待される。
 
1 「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
(3)健康投資管理会計の構成要素
健康投資管理会計は、「健康投資」、「健康投資効果」、「健康資源」、「企業価値」、「社会的価値」の5つの構成要素によって形成される。これらの5つの構成要素は企業等の経営課題・目指すべき姿との結びつきを示す「健康経営戦略」によって一元的に管理される。

健康投資および健康投資効果は、単位期間あたりの取組の管理に活用される一方で、健康資源や企業価値、社会的価値は中長期的な取組として管理される。

これらの要素については、ガイドラインでは図表1で図示される関係で表すことができるとしている。
図表1:PDCAサイクルによる健康経営の取組を健康投資管理会計を用いてあらわした概念図
健康投資については、従業員等の健康の保持・増進を目的として投下された費用等を健康投資と呼び、費用の項目としては、単に外部に支出する金額だけでなく、働く環境や健康意識の向上に向けた企業等の内部での様々な取組も含む。

健康投資効果は、健康投資を行った結果として短期的に発現するものである。各社の戦略に基づいた最終的な効果を「健康関連の最終的な目標指標」と定義して測定し、評価することは当然重要であるが、その中間指標として発現する健康投資施策の取組状況に関する指標や従業員等の意識変容・行動変容に関する指標も設定して測定し、評価することが望ましい。この評価によって、投資で狙った健康関連の最終的な目標に到達しないような場合に、その詳細な原因分析を行い、改善を行うことが可能となる。

健康資源については、健康投資の結果および健康投資効果が蓄積して中長期的に形成される企業等の内部の健康の保持・増進に資する財務的・非財務的な資源を健康資源と呼ぶ。健康資源は、他の健康投資や将来の健康投資に直接的または間接的に活用され、投資対効果を改善する役割を果たす。健康資源は、従業員等を取り巻く有形・無形の外的環境を指す環境健康資源と、従業員等個人や組織そのものの健康状態等を指す人的健康資源に分けられる。

企業価値は、健康投資効果や健康資源の形成が要因の一部となって向上するものであり、売上高や利益率等の経営的・財務的な指標のほか、情報開示を活用した対話によって労働市場や資本市場等から受ける評価を含んでいる。中長期的な取組の結果として成果が期待されるが、健康経営以外の要因も大きく関わり、健康投資が与える影響が明確に検証できない場合があるため、健康経営の波及効果に位置付けられる。

社会的価値について、企業等が健康経営を行うことによって、地域や社会全体に肯定的な影響を与え、社会における様々な課題の解決につながっていることを示すものである。例えば、地域や日本全体の健康寿命の延伸や社会保障費の適正化等を指す。企業価値同様、社会的価値の発現には健康経営以外の要因も大きくかかわるため、健康経営の波及効果として位置付けられる。
(4)健康投資管理会計の要件
健康投資管理会計の要件として、つぎの要素を重視する。目的適合性、信頼性、明瞭性、比較可能性である(図表2参照)。

ガイドラインではそれぞれの要素に解説が加えられており、例えば、(2)信頼性のうち、ア 正当性については、「外部からの監査や確認等を受けることによって記述内容の正確性を担保することも考えられる。」といった解説が付されている2
図表2:健康投資管理会計の要件(要素)
 
2 経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」8 頁(2020年6月12日)(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkoutoushi_kanrikaikei_guideline.pdf, 2020年7月27日最終閲覧)。
2|健康投資管理会計ガイドライン「2.健康投資管理会計の基本事項」(第2章)
(1) 健康投資管理会計において基本となる重要事項
健康投資管理会計を作成する企業等においては、継続的に比較可能な形で作成することが重要であるため、対象となる管理会計の会計期間、集計範囲、算定基準・内容を明確にし、原則として毎年度大幅に変更してはならない。

ただし、効果指標の大幅な入れ替え等、健康投資管理会計に関する重大な変更の必要性が生じた場合、その変更に関する根拠と対応方針を明確にして説明することが必要である。また、必要に応じて変更した手法に基づいて過去年の管理会計も算出しなおすことが求められる。
 
(2) 対象となる期間と集計範囲
対象となる期間は、原則として財務会計情報と整合するように企業等の事業年度と一致させることが必要である。

対象となる範囲は、原則として財務決算と同様の範囲とする。また、連結決算を作成している場合は、健康投資管理会計上も連結決算の範囲で作成することが望ましい。ただし、実務上、企業等の集団全体を対象にすることが困難な場合には、まずはグループ会社や事業所ごとにおいて実施し、徐々に対象を拡大することも可能である。
 
3健康投資管理会計ガイドライン「3.健康経営戦略について」(第3章) 
(1) 健康経営戦略策定の目的・必要性
健康経営を実施するにあたり、経営課題やその経営課題解決につながる健康課題から健康の保持・増進に関する取組へ落とし込み、課題から取組までの結びつきの意識を持ってストーリーとして経営者や従業員、外部のステークホルダーに対して語れるようにし、かつ実際に理解してもらうことが非常に重要である。健康投資管理会計を活用することで、健康経営によって解決したい経営課題やその 経営課題解決につながる健康課題、それを実現するための健康投資、健康投資効果、健康資源の因果関係が整理され、企業等の内部でのPDCAサイクルの管理や外部への情報開示を体系的に行うことが可能になる。

健康経営戦略を作成するにあたっては、経営者の理解の下で企業等の経営課題やその経営課題解決につながる健康課題を整理することが第一段階になる。特に、経営上の課題の中で健康経営によって解決したい課題が何であるかをしっかりと整理する必要がある。

経営課題と健康課題の関係性について、解説が付されている。解説では、健康経営とは従業員等の健康管理を経営的視点で考え、戦略的に実践することであり、健康経営では経営課題と従業員等の健康課題を別々に独立した管理とするのではなく、統合的に管理することがポイントとされている。そのうえで、各社の健康経営戦略の作成においては、従業員等の健康課題を経営課題の解決につながる下位の課題として位置付ける場合や従業員等の健康課題を経営課題そのものとして同列に位置付ける場合があると考えられるとし、いずれの場合も経営課題と従業員等の健康課題をつなげて考え、統合的に管理することが健康経営として必要かつ重要であることが強調されている3
 
3 経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」12頁(2020 年 6 月 12日)(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkoutoushi_kanrikaikei_guideline.pdf, 2020 年7月 27日最終閲覧)。
(2) 留意点
留意点として、健康経営戦略を策定するにあたっては、経営層が主体的に関与し、経営課題やその経営課題解決につながる健康課題と健康投資効果の指標、さらには健康投資がストーリーに沿って決定されていることが望ましい。また、策定した健康経営戦略は従業員等に対しても説明を行い、課題と取組のつながりを理解してもらうことで健康経営の施策の効果が高まることが期待できる。
 

3――おわりに

3――おわりに

本稿ではガイドラインの第3章までを紹介した。第4章「4.健康投資の考え方」以降は稿を改めて紹介する予定である。
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小林 直人

研究・専門分野

(2020年12月22日「基礎研レター」)

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